2010年06月25日

たかが言葉、されど言葉

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一週間くらい前に、日本産科婦人科学会が「子宮がん」という用語を廃止するよう要請しているというニュースを目にしました。子宮体がんと子宮頸がんの区別をはっきりさせる為だそうです。確かに、死亡診断書に「子宮がん」という曖昧な表記をするのはどうかと思います。また、PAP検査を「子宮がん検診」と呼んでしまうと、体がんと頸がんの両方のスクリーニングなのかと誤解する人も出そうです。

よく考えてみたら私もカナダに来るまで、子宮の癌に体がんと頸がんがあるということを理解していなかったような気がします。英語では子宮体がんはEndometrial Cancer(子宮内膜がん)、子宮頸がんはCervical Cancerと似ても似つかぬ単語なので、鈍い私にも違いが明確になりました。日本でも2つの癌の違いを無視していた訳ではなく、昔は子宮の癌というとほとんど頸がんだったため、子宮頸がんを子宮がんと呼んでも問題が起きなかったらしいです。一方、英語圏では子宮頸がんは常にCervical Cancerで、Uterine Cancer(子宮がん)という非公式な言葉が使われる場合は子宮内膜がんの方を指します。

用語が変わったと言えば、私が日本で暮らしていた頃ナースは看護婦でした。いつの間にか看護婦が看護士という呼び方に変わったようだ、とネット上の表記から気づきました。こういうのをgender neutral(どちらの性とも特定しない)って言うんですよね。男性が看護職につくこともあるという現実を反映しているだけでなく、多分politically correctなんだと思います。英語のnurseは一見gender neutralのようですが、小説など読んでいると男性のナースが時折male nurseと表記されていることはあっても、female nurseという表現には行き当たったことがありません。「ナースは女性とは限らないが普通は女性である」、という認識が一般的なのかもしれませんね。

話は少し変わりますが、日本語の癌に関する記述に出てくる用語の中に、あまり好きになれない言葉が幾つかあります。その筆頭が「憎悪」です。癌が進行、増大することを指す医学用語のようです。医学用語として定まっているのに好きも嫌いもないですが、どうしても抵抗があります。相当する英語の言葉はprogression(進行)で、「憎悪」のようなおどろおどろしさはありません。どうしてprogression(進行)がhatred(憎悪)になってしまったのか首を傾げています。ネガティブな響きの言葉の方が癌にしっくりくるからでしょうか?(まさかね。)他の進行性疾患と分けたいからでしょうか?理由は何であれ、嫌な言葉なので自分で使うのは気が進みません。


    (追記)
    コメントで「憎悪→×、増悪→○」と指摘していただき、もう一度調べてみたところ
    どうやら漢字の誤用で「憎悪」と表記された日本語文を複数ネット上で見かけた
    ことから誤解が生じていたようです。「増悪」は「病状が悪化すること」で、癌に
    限らず病気一般に使われる言葉だと知りました。そう言われてみるとmake sense
    します。日本語では病気は悪化するもの、英語では病気は進行するもの、という
    違いなんですね。勉強になりました。

    「増悪」は「憎悪」よりは少しましなものの、悪が増殖しているようなイメージで
    やはり怖そうな言葉だな〜という感じがするので私はパスします。


それから「末期がん」という言葉も、どうも馴染めません。何だか陰気で悲壮感に満ちた響きだからです。英語にもterminal cancerという言葉はあり、緩和ケアのみでほとんど寝たきりといった終末期の状態を指すことが多いようです。延命治療を受けているうちはまだterminalではないという印象があります。進行がん(advanced cancer)や再発がん(recurrent cancer)はincurable(不治)かもしれないけれど、incurableイコールterminal(終末)ではないのです。もっとも日本人には、「末期がんに奇跡を起こそう」と最後の最後まで治る努力を続ける超人的な粘り強さがあります。欧米人の場合、自分がterminalであると自覚した時点で死を受け入れているように見えます。諦めると言ったら言葉が悪いですが、要は気持ちを転換して安らかに旅立てるよう心の準備を始めるわけで、それは別の意味で強い精神力を要することだと思います。まあその辺りのニュアンスの違いは、異なる文化における生死感の違いなのでしょうね。

最後にもう一つ、「闘病」という言葉。目にする度に違和感を覚えます。この発想は英語圏でも同様で、battling cancer(癌と闘う)は決まり文句のようです。ご丁寧に頭にcourageouslyをつけて「勇敢に癌と闘う」と表現することもよくあります。勇敢もへったくれもないですよね。癌になった人はたまたま癌になっちゃって、嫌だけどだからといって人生を投げ出すわけにもいかないから、治療を受けながら出来るだけ楽しい日々を過ごそうとしているだけなんじゃないでしょうか。私はそんな風に受け取っています。まあ、人によってはもっと気合が入っているのかもしれませんが。そういえば以前掲示板で自分のことをovarian cancer warriorと呼んでいる人がいたなぁ。愛の戦士ならぬ卵巣がんの戦士か… う〜ん、もういっそのこと「癌の治療」→「癌の攻略」、「腫瘍内科医」→「化学戦参謀」と用語変更したらどうだろう、なんてくだらない事を考えて憂さを晴らしています。

ところで4月のCT検査で見つかったダグラス窩の小粒ですが、2週間ほど前にまたCTを撮ったところ…やはり消えてはいませんでした。3ミリほど成長して1センチくらいになりましたが、相変わらず一人ぼっちで大人しくしている様子です。ドクターに「これ、癌なんでしょ?」と聞くと、「そうね〜、少し大きくなったしね〜」と言いながらも今ひとつ確信がなさそう。で、小粒を除くと怪しい兆候は写っておらず、腹水も無いのでもうしばらく観察を続けることになりました。次のCTは10月の半ばなので、治療のプレッシャーもなく短いカナダの夏を満喫できることになりました。とりあえず良かった〜!
posted by leo at 13:45| Comment(8) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月18日

あなたの先生は何点?

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ASCO(米臨床腫瘍学会)の年次集会というと、抗がん剤研究の話ばかりしている印象があります。実際、開発中の薬の治験や既存薬に関する更なる研究報告などが多数を占めているようですが、演目をよく見ると治療技術以外のトピックも少し混ざっています。例えば今年の卵巣がんカテゴリーでは、「卵巣がん患者が医師に期待するものは何か」というアンケート調査の結果が発表されました。

調査に参加されたのはドイツの卵巣がん患者さん608名。内76%は再発した方だそうです。

まず、「治療オプションに関して最も適切な情報元は?」という問いに対しては「担当医」と答えた人が全体の88%でした。ネットよりも本よりも自分のドクターの言うことの方が頼りになる、と感じる人が圧倒的に多いようですね。

また医師との面談や診察について10点満点で評価すると:
   説明等があらゆる点を網羅している→8
   個々の患者に対する理解度→8
   患者からの質問に対する返答→9
   医師としての能力→10
   医師と患者が共同で決断を下す→9
   親族を含めた治療方針決定→8
だそうです。さすがドイツのお医者様は有能ですね。10点満点で平均点が10点ということは、調査に参加した人全員が10点つけたってことですよね。(医師としての能力の項目)西洋人はイエスとノーがはっきりしているとは言え少し驚きました。日本人の感覚では、かなり満足していても9点とかつけてしまいそうです。ドイツにはヤブ医者って存在しないのでしょうか。すごいなぁ。

また最後の項目(親族を含めた治療方針決定)に関してですが、欧米では何でも直接本人に話すのが普通なので、家族だけ別室に呼ばれてコショコショというのは基本的にありません。(患者が小さい子供の場合は除きます。)私のかかりつけの病院では、患者本人が家族を連れて来た場合は、家族も診察室へ同行するのを許されているようです。(でも何人もゾロゾロというのは見かけません。)

改善の余地がある点については:
   もっと説明に時間をとってほしい→46%
   脱毛をなくしてほしい→35%
   治療の効果を上げてほしい→31%
う〜ん、こうした患者の意見は国境、言語を越えてユニバーサルなんですね。アンケート回答者に再発患者が多いことを考えると、「治療の効果を上げてほしい」は切実だと思います。その割には31%って…7割の人は治療が効いているのか、それとも効かなくても仕方ないと思っているのか、どうなんでしょう。ちょっと考え込んでしまいます。

「治療が成功したかどうか何を基準に判断するか」という質問には:
   現在の体調→55%
   CA125値→45%
   医師の意見→38%
この回答も再発患者の現実をよく反映してますね。腫瘍マーカーの値以上に、自分が今元気かどうかが重要という結果。納得です。痛いところ、苦しいところがない。ご飯が美味しい。日常生活に支障が無い。というのが3本柱のような気がします。

最後にセカンドオピニオンについては、70%の人がセカンドオピニオンを希望すると答えましたが、実際にセカンドオピニオンを貰える場所を知っている人は20%だけでした。この点については首を傾げる人もいるかもしれませんね。日本やアメリカはセカンドオピニオンを貰いやすいのだと思います。多分ドイツでは国か州が医療システム全般を管理していて、患者が医師や病院を比較、選択するような状況ではないのでは… カナダも同様なので想像がつきます。専門医には紹介状がなければ会えないし、他の病院に患者が直接電話してセカンドオピニオンの予約を取るなんてとても無理です。(そういう風にシステムが出来ていないのです。)どこの国も一長一短ということなのでしょう。

私は個人的にこの調査が気に入っています。なんだか和めるじゃないですか。結果を天下のASCO年次総会で発表したというのもいいですね。この薬で○ヶ月癌の進行を止めた、あの薬で○ヶ月延命した、という研究も勿論大事です。でもそういう殺伐とした思考ばかりでは臨床現場は温かみに欠けてしまいます。臨床医師は試験管の中の癌細胞ではなく生きた人間を扱っている以上、患者が人として納得し、満足できる治療を施す努力をしていただきたいと感じます。その為に円滑な人間関係、固い信頼関係は不可欠です。この調査を実施したドイツの医師チームは、癌治療の人間的側面に注目し、それが新薬の開発と同じくらい重要なのだということを示してくれたような気がします。

調査結論としては、「この研究は、卵巣がん患者が治療オプションと臨床上の処置について細部まで話し合うことを非常に必要としている、という点を明らかにしている」とあります。 医師の世界ではコモンセンスもエビデンスがないと取り合ってもらえないのかしら、と思わず苦笑してしまいました。
posted by leo at 18:21| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月10日

アバスチン3部作完結編

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粘着しているようで気恥ずかしいのですが、ここ数日あちこちのメディアで話題になっていたアバスチンについてもう1度書きます。

シカゴで開かれたASCO(米臨床腫瘍学会)の年次総会で、アバスチンを卵巣がんファーストラインのカーボプラチン+タキソールに加えた治験(GOG0218)の結果発表がありました。フェーズIIIで1873名の方が参加されました。

6回の化学治療の後、アバスチンで地固めをした場合(3週に1回x最高16回)、延長される無進行生存期間(PFS)は4〜6ヶ月だそうです。

具体的には
グループ1:カーボプラチン+タキソール(6回)→10.3ヶ月(PFS中央値)
グループ2:カーボプラチン+タキソール+アバスチン(6回)→11.2ヶ月
グループ3:カーボプラチン+タキソール+アバスチン(6回)の後アバスチンで維持(16回)→14.1ヶ月
という結果でした。

また、癌進行の有無を判断する際にCA125値の上昇を含めずCTの画像のみで判断した場合は、グループ1のPFSが12ヶ月、グループ3が18ヶ月だったと報道されました。

再発までの期間がやけに短いと感じる人もいるかもしれませんが、この治験は参加者を手術で腫瘍を取りきれなかったステージIIIとステージIVの方に絞っているので、見える癌を全部切除した後で再発防止に受ける化学療法とは状況が違います。それに中央値が14.1ヶ月ということは、50%の人はそれ以上の期間(例えば1年半とか2年とか)、病気が進行することなく治療の心配なしで日常生活をエンジョイできたということを意味します。

ただしPFSが長くなったからといって生存期間(OS)自体が延びたとは限りません。OSは変わらなかったという噂もあるのですが、それについてのデータはまだ揃っていないそうです。

アバスチン由来と見られる副作用は、高血圧(グレード3以上)がグループ2で5.4%、グループ3で10.0%、腸穿孔がグループ2で2.6%、グループ3で2.3%でした。腸穿孔の起こる確率は懸念されていたほど高くありませんでした。手術の直後で腹腔内の腫瘍の量が少なかったからなのか、あるいはファーストラインなので何度もキモを繰り返してきた再発組より腸壁の状態が良かったのか、その辺の事情は解明されていません。

この結果について色々な意見が出ています。

治験の主任研究者、Dr. Robert Burger(Fox Chase Cancer Center, Philadelphia)は当然のことながら自信満々。「アバスチンは卵巣がんに対して有効性が証明された始めての分子標的/血管新生阻害薬。アバスチンを加えたレジュメンおよび維持療法は、標準的な治療オプションの一つとなるべきだ。」と述べています。

イギリスのUniversity Hospital Coventryの顧問腫瘍内科医であるPoole教授は「私が顧問をしている16年間で、最も臨床上意義のある卵巣がん治療の前進だ。」と大歓迎。

患者サポート団体Target Ovarian Cancerの代表Annwen Jonesさんも「普通の生活が長く続けられ、家族と過ごしたり自分のやりたい事をできる期間が長くなるということですね。」と嬉しそうです。

イギリスでは、アバスチンの卵巣がん治療に対する使用許可(ライセンス)は今年中に下りる見込みだそうですが、実際に国内のヘルスケアシステム(NHS)で日常的に使われるようになるためには、National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)という機関の審査に通らなければいけないのです。NICEは費用対効果に非常にシビアで、過去にタキソールに対してすら黄信号を出したほどなので、そう簡単にOKを出すかどうかは疑問です。

Cancer Council AustraliaのCEOであるIan Olver教授は「卵巣がんの新しい治療法は切に必要とされている。アバスチンをキモセラピーに加えることで病気が進行するまでの期間を延長することができる。」と認めながらも、「アバスチンが広く使用されるよう奨励するのは時期尚早。」と慎重な姿勢を見せています。理由は稀に起こる重篤な副作用(腸穿孔)と費用。「PFSが4ヶ月延びるだけで生存期間に違いがでないなら、多額の費用を正当化することは難しい。」と正直に語っています。

カナダ癌研の研究者の一人、Dr. Elizabeth Eisenhauerはもっとネガティブな意見です。(ハァ〜とため息…)「とてもよく実施され長所が多く短所の少ない治験であるのは事実だが、疑問点も沢山ある。キモのレジュメンに加えただけで地固めをしなかった患者群に効果が現れなかったのは何故なのか?」「PFSの延長が生存期間の延長につながるとは限らないし、患者にとって本当に意味のある結果なのかどうかわからない。」「臨床に適用するには早すぎる。」とかなり手厳しいです。

色々理屈をこねていますが、要するにネックは費用のようです。Dr. Eisenhauerによるとアバスチンは1年に1人あたり7万2千ドルかかるそうです。各国で製薬会社と交渉して多少ディスカウントしてもらうにしても、非常に高くつく維持療法であることに間違いありません。

ちなみにヒマ人の私は自分でも計算して見ました。治験で使用したアバスチンのドーズは体重1kgあたり15mgだそうです。ということは40kgなら600mg要です。日本の某個人輸入サイトによるとアバスチン100mgが6個入りで41万5千円なり。それを3週間に1度ずつ、16回使用すると年間に664万円です。Dr. Eisenhauerの試算と私の素人見積もりの差は、基にした体重の差かしら?

一方の売る側、RocheのCOOであるPascal Soriot氏は大喜びで「維持療法は大ヒットになる!」とアメリカの経済誌に豪語していました。確かに6回で終わってしまう普通のキモよりお金になるでしょうね。

せっかく格調高くASCOでの研究結果発表について書こうと思ったのに、また世知辛い話になってしまいました。費用の点をつつかれる理由は、高額の薬だからというだけでなく、アバスチンをファーストラインに加えるメリットが、現時点では「無進行期間の延長」だけで「生存期間の延長」ではないからのようです。ジェムザールの時も、治験の結果で無進行期間は延長したものの生存期間の延長が確認されなかったためFDAの審査でもめました。アメリカ以外の国(カナダ、イギリスなど)では一応承認はされたものの、未だにエビデンス不足扱いであまり使用されていません。

賛否両論のアバスチンですが、PFS4ヶ月延長というのは癌の治療薬としてはやはり成功例だと思います。白金感受性のある再発患者に、タキソールとカーボプラチンの両方を投与する場合とカーボプラチン単剤で使用する場合の違いが、PFSで3ヶ月、OSで5ヶ月です。たったそれだけの違いでも、ほとんどの医師は併用のレジュメンを勧めます。がん治療の現実とはそういうものなのです。

私自身がアバスチンを使ってみたいか?使いたいですね。確かに腸穿孔のリスクはありますが基本的にはマイルドなお薬です。従来の抗がん剤のように免疫をズタズタにしないし、一年間点滴に通っても苦にならなそう。(保険でカバーされればですよ。)タキソールやドキシルといった副作用の強い殺細胞の薬をスキップしてアバスチンだけ使いたいくらい。でもそうやって患者に選ばせてはくれないんですよね〜。

情報ソース:ASCOのAbstractMedscapeTimesAustralianNew York TimesWall Street JournalForbes
posted by leo at 16:27| Comment(4) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月05日

トロピカルな悩み

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She is hot.
英語でよく使われる表現です。恋愛対象としてとても魅力的なことを指します。セクシーと似ています。

更年期の症状で悩まされている女性にとっては、何か皮肉な響きがあります。

癌のリスクは年齢に伴い上昇しますが、上皮性卵巣がんも患者の過半数は60代以上。閉経後に癌になるケースが多いそうです。運悪く閉経前に卵巣がんになってしまった場合は、手術による卵巣切除をきっかけに更年期がいきなり始まります。似た状況は子宮がんや乳がんでも起こります。

日本語では卵巣欠落症と呼ぶのが正しいのかな?英語では更年期はmenopause、卵巣切除で始まった更年期はsurgical menopause、抗ホルモン療法などの薬物治療で起こった更年期はchemo-induced menopauseと言います。人工的に突然始まった更年期は、徐々に起こる普通の更年期よりも強い症状を伴うことが多いそうです。

私自身は普通の人より10年くらい早く自然に閉経(自慢にもなりませんが…汗)、更年期突入後に発病したため、手術や化学療法の影響は全くありませんでした。しかもカナダという国は1年の内8ヶ月は肌寒い、少し寒い、寒い、とても寒い、寒くて死にそう、という「寒い」のバリエーションなので、多少身体が火照っても気にならないどころか、むしろ都合が良いくらいなのです。そんなわけで更年期への対処の仕方については正直あまり知識もありません。何が効くのか人によって違うことと思いますが、様々な症状の中で一番代表的なホットフラッシュを中心に、北米で比較的よく用いられる緩和法のみ幾つかピックアップしてみました。(漢方については日本在住の人の方がよくご存知でしょうから、今回は含みません。)

ホルモン補填療法(HRT)
更年期の症状を抑える上で最もパワフルなのはホルモン補填療法です。それは間違いないようです。しかし残念ながら不安材料があるのも事実です。ホルモン補填療法には、エストロジェンのみ補填する方法とエストロジェンとプロジェステロン(プロジェスティン)の両方を補填する方法があります。エストロジェンのみだと子宮がんのリスクが上がると言われており(卵巣がんのリスクが若干上がるという説も…)、子宮筋腫などで子宮を切除してしまった人以外は、エストロジェンとプロジェステロンの両方を補填することの方が多かったそうです。(注:過去形)

長い間、欧米の女性は閉経後にホルモン補填療法を受けるのが普通でした。ホットフラッシュなど更年期の症状を抑えるためだけではなく、骨粗しょう症や心臓病の予防効果もあると考えられていたからです。ところが2002年、アメリカのNational Institutes of Healthの一部であるWomen's Health Initiativeの行った大きな調査で、エストロジェン+プロジェステロンのホルモン補填療法は乳がん、心臓病、脳卒中などのリスクを上げるというショッキングな結果が出ました。それ以降、ホルモン補填療法を受ける人の数は激減。これに伴い乳がんになる人の数も減少したそうです。(減ったといっても8人に1人は乳がんになってますが…)

そんな悲しい歴史のあるホルモン補填療法ですが、現在もケースバイケースでしっかり用いられています。ただ、以前の様に何年もダラダラと大量に使い続けるのではなく、症状の重い期間のみ症状緩和に必要な最小限の量を投薬する、という慎重な態度に変わったのです。当たり前のことに思えますが、薬漬けの西洋社会では大問題になるまで使いすぎの弊害に気づかなかったのでしょうね。卵巣切除による更年期の場合、子宮も一緒に摘出していますのでエストロジェンのみのホルモン補填となります。エストロジェンのみの場合は、乳がんや心臓病のリスクは上がらないそうですからご安心を。また、ホルモン補填が骨粗しょう症の予防に役立つのも確かなようです。

抗うつ剤
ホットフラッシュに抗うつ剤?と驚かれる方もいるかもしれませんが、SSRI(セレトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セレトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬)といったうつ病のお薬は、微量の投与でホットフラッシュを抑える力があるそうです。中でもVenlafaxine(Effexor)は効果が高いらしく服用している人も多いと聞きました。この薬は、特に抗ホルモン療法中の乳がんの患者さんで、激しいホットフラッシュに悩まされているのだがエストロジェンを補填するわけにいかない場合などに勧められます。卵巣がんの患者さんの中でも、どうしてもホルモン補填が嫌でVenlafaxineを選ぶ人は大勢いるようです。

さらに、Gabapentin (Neurontin)という抗てんかん薬もホットフラッシュに効果があるようです。元来の目的が抗うつ、抗てんかんと聞くと抵抗がある人もいるでしょうし、こうした薬に副作用や依存症といったリスクはつきものです。しかし医師の処方に従って微量を必要な期間だけ服用するのであれば、それほど恐れる必要もないような気がします。マイナス面はあっても、それでQOLが大きく向上するのであれば試す価値があるという考え方です。まあ判断は人それぞれですよね。過去のトライアルによるとVenlafaxineは60%、Gabapentinは49%、それぞれホットフラッシュの強さを軽減したそうです。

ブラックコホシュ(black cohosh)
更年期の症状を抑えると言われるハーブ類は西洋にも東洋にも色々ありますが、欧米で一番人気があるのはブラックコホシュです。もともとは北米のインディアンの人たちの間で民間療法として使われていた薬草だそうです。ホルモン補填や抗うつ剤と比べると効果は落ちますが、Remifeminというブランドのブラックコホシュは臨床試験でホットフラッシュの減少が一応確認されています。(Remifemin以外の製品の効果については不明です。)ブラックコホシュは肝障害を起こすのではと危惧する見方もありますが、症例が少ないのと因果関係が明確でないことから、一般にはあまり問題視されていないようです。それよりも重要なのはサプリだからといって、化学療法や抗ホルモン療法の最中に勝手に服用しないこと。必ず医師と相談の上決めるべきです。シスプラチンの効果を妨げるという説もあるので治療が済むまで待った方がいいかもしれません。

夢の新薬?
Femarelleというのは比較的新しいお薬です。(というか、薬として承認されているわけではないからサプリになるのかな?)大豆に由来していますが単なるイソフラボンとは一味違う、薬理学的研究に基づいて開発されたエストロジェン受容体調整剤(Selective Estrogen Receptor Modulator)なのだそうです。サプリとは思えない立派な一般名でしょ。ホットフラッシュを抑え骨密度の低下を防ぐ一方、子宮内壁を厚くすることも乳がんを増大させることもない、という触れ込みです。本当にそうだとしたら画期的〜。イスラエル生まれのFemarelle、ヨーロッパでは既に使用されています。製薬会社の資料によると試した女性の76%に症状緩和が見られたとか。アメリカでダブルブラインドのきっちりコントロールされたトライアルを行う予定になっているので、どんな結果が出るか楽しみです。

薬やサプリ以外だと鍼や催眠術(冗談じゃなくて)は結構効果があるらしいです。あとは運動。(熱を持って熱を制す?)エアコンと扇風機の家電療法でしのいでいる人も多そうです。が、更年期症状の強さは個人差がありますので他の人が我慢してるから自分も、と無理をしないことが一番大切だと思います。
posted by leo at 17:48| Comment(3) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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