2010年08月27日

望ましい死

*今回の投稿は終末期に関する内容です。暗い話題は避けたい方はパスして下さい。どちらかと言うと、患者の家族の方や看護に携わる方に読んでいただきたい内容です。

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東大のグループが行った「望ましい死を迎えるために必要なことは何か」という意識調査の結果が発表されたのは昨年の2月のことでした。アンケートに参加した癌患者の8割は「最後まで闘病したい」と答えたそうです。それを聞いた時、正直言って驚きました。日本人独特の心理なのかとも思いました。欧米では終末医療、緩和ケアが進み、患者や家族に対して非常にわかりやすい情報が提供されているため、一般的に理解が深いという印象を受けていたからです。

しかしそれはどうやら間違いだったようです。そう気づかされるような記事をNew Yorkerで読みました。死期が迫っていながら緩和医療を受け入れられない、或いは移行するタイミングを逃してしまう患者や家族が、アメリカにも数多く存在する事実とその問題点を指摘する内容でした。程度の違いはあれカナダやヨーロッパでも起こり得る状況だと思います。記事は「Letting go – What should medicine do when it can’t save your life?」と題されていました。Let goという表現はGive upに似ていますが微妙にニュアンスが違います。思いを断ち切るというか、思いから解き放たれるというか…そんな感じの意味合いがあります。

進行癌に限った話ではありませんが、現代の医学で完全治癒を望めない病気を抱えている人は沢山います。医師から説明を受け、やがてはその病のために死ぬらしいと頭で理解しても、心のどこかでは否定するのが自然な反応だと思います。しかも具体的にあとどの位生きられるかは誰にもわかりません。統計はあくまでも統計でしかなく、統計で示された期間よりはるかに長く生き続ける人もいるのです。自分もそうなると信じて頑張ろう。希望を捨ててはいけない。といった前向きな考え方は治療に臨む上でプラスになるとされています。

問題は医学の進歩により「治療を止めるべき時」を見定めるのが難しくなってしまったことです。人生の道程は目に見えません。あと100メートルの赤い立て札がどこに立っているのか見えないのです。不治の病とわかっていながらも、最後の道程をどう進むべきか、患者も家族も、担当医さえもよくわからないままに突っ走ってしまうことが少なくない、と「Letting Go」の筆者は述べています。

医師は治療の効果や回復の見込み、余命について患者ほど楽観的ではありません。「出来るだけ長く病気を抑え込みましょう!」と頼もしく語る医師とやる気満々の患者。しかし医師が内心2〜3年を目標にしている一方で、患者や家族は5年、10年とより大きな期待を胸に抱いていることが往々にしてあり、そのギャップについてはあまり触れられないのが臨床での現実のようです。医師も人間ですから、治療が効かなくなった場合どうするかについて話し合うより次の治療プランを提案する方が気が楽だ、と感じたとしても無理もありません。更にこの記事によると、アメリカでは終末期の癌患者に対して、効果が極めて薄いことを承知で化学療法を継続する腫瘍内科医が40%以上もいるそうです。なまじ薬の数が多いので「使える薬がなくなりました」という言い訳はできないのでしょう。患者が積極治療を欲しているなら、その望みをかなえるのが顧客サービスという理屈です。

これ以上治療を続けても意味が無いということを患者自身は理解していても、家族が納得しないケースもあります。苦労して患者や家族を説得するよりも他の抗がん剤を見繕ってあげる方が余程簡単だ、と取材に答えた医師もいました。別の医師は、患者の3分の2は家族を満足させるためなら気の進まない治療でも受けるとコメントしていました。愛する人をガッカリさせたくない、と思うのは国境、文化を越えた共通の心理なのです。ボロボロになりながら延命効果の望めない積極治療を続ける人達。腹を立てるべきなのか涙を流すべきなのか。やりきれない気持ちになる話でした。

「Letting Go」の筆者Atul Gawande氏は外科医で、終末医療に関しては痛み止めを多用するというくらいの知識しかなかったそうです。もちろん実際は大きく違い、痛みを和らげるのはホスピスの果たす役割のほんの一部にすぎません。普通の医療とホスピスの違いは優先順位にある、とホスピス・ナースのSarah Creedさんは語ります。延命が最優先される一般の医療に於いては、治療により現在のQOLが犠牲なるのは仕方がないと考えられます。ホスピスでは現在のQOLが優先されます。今、苦痛から解放され、意識もはっきりして、家族と共に過ごす時間を楽しめることが目的なのです。鎮痛、解熱、制吐、精神安定、幻覚止め、痰止め他、総力を結集して可能な限り心地よい日常生活の実現に努めるのです。残された時間が長くなるのか短くなるのか。それ自体は重要とされていませんが、ホスピスを選んだことで、結果的に延命治療を受け続けている人と同じ、或いはそれ以上長く生きることができた人も大勢いる、という研究結果もあります。

不治の患者の治療を担当する医師は、患者の意思を明確にしようと試みます。化学治療を続けたいのかどうか。万が一の際蘇生処置を受けたいのかどうか。ホスピスに移りたいのかどうか。会話の大部分は選択肢です。緩和ケア専門のSusan Block医師によると、こうした態度が間違いの元だそうです。不治の病と診断された人は不安で押しつぶされそうな状態であり、まずは不安を軽減することが必要なのです。その為には患者の話をじっくり聞く。その人にとって何が一番重要なのか。治療のオプションが少なくなってきたらどうしたいのか。全てが得られない場合、何をあきらめ何を取りたいのか。そういったことを十分把握することにより、患者が本当に必要とする情報やアドバイスを与え、患者の真意に沿った治療を施すことが可能になる、とBlock医師は述べています。医師にとっても患者にとっても気の重い、避けて通りたい終末期の話題。しかしそれを避け続けることで最後につけを払わされるのは患者の側です。面談で主導権を握っているのは医師であることからも、医師は医学知識だけでなく、難しい問題をやんわり且つ的確に話し合える高いコミュニケーション能力が必要とされる時代なのだと感じます。

人間は100年前でも200年前でも死ぬことを恐れていた筈です。でもその頃は「死」というものが現在ほど特別な存在ではなかっただろうと思います。医学の進歩が「死」を複雑で受け入れ難いものに変え、人に「死に方」を忘れさせてしまたのかもしれません。長く生きる為に全力を尽くすことは崇高です。しかしその努力が不毛になった時、その事実に気づかなかったり、それを否定し続けたりするのは悲しいことです。最終的には個人の心の問題ですが、残された時間が少なくなりすぎない内に患者が「Let go」できるかどうかは、医師との信頼関係、ひいては医療システム全体のあり方にもよると思います。多少落ち込む内容でしたが色々と考えさせてくれる記事でした。

New Yorkerの記事本文
記事中引用された研究@(ホスピスを選んだ人の方が長く生存する)
記事中引用された研究A(終末期について事前に医師と話し合った患者の方が望ましい死を迎える)
posted by leo at 16:41| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月19日

癌になりたい人

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癌になりたい人など多分この世にいないと思います。しかし自分は癌であると偽りお金を騙し取ろうとする輩はどこの国にもいるようです。そういう不届き者がカナダにも現れ、先週ずいぶんとマスコミを騒がせていました。

詐欺罪で起訴されたのはオンタリオ州バーリントン市に住む23歳の女性、Ashley Kirilowです。Kirilowは髪と眉毛を剃り落とし見かけを癌患者風に変え、”Change” for a Cureという架空のチャリティ団体を立ち上げました。彼女の作り話を信じた地元の人達は、イベントを幾つも催して募金集めに協力したそうです。お金は”Change” for a Cureを通じて癌治療法の研究資金として寄付される筈でしたが、実際にはKirilowが使ってしまいました。騙されたのは周囲の人だけではありません。KirilowはFacebookとMySpace(どちらもSNS)でも、複数の癌を患い不治の身であるという虚偽のプロフィールを掲げて支援を募っていたのです。つるつる頭にスカーフを巻いた姿や抗がん剤点滴風の針の刺さった手の写真まで載せ、悲劇のヒロインを演じました。

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まったく呆れ果てた女性ですが、もともと虚言癖など言動に問題が多かったらしく、家族は「係わり合いになりたくない」と保釈金支払いを拒否したそうです。騙された友人・知人の大部分は怒りをあらわにしていましたが、中には「癌ではないが心を病んでいるのは事実。手を差し伸べてあげるべき。」と寛大な意見を述べる人もいました。

同じような事件はアメリカでも起きています。テネシー州の元市職員Keele Maynorは進行、転移した不治の乳がんであると嘘をつき、同僚をはじめ地元住民から多額の支援金を騙し取りました。Maynorは髪を剃ったり杖をついたりして、なんと5年も偽装を続け、支援者の中には彼女の家賃や光熱費を払ってあげる人までいたという話です。ブログもやっていて、末期がん患者の胸のうちを切々と綴ってウソの上塗りに努めました。Maynorは法廷で罪を認め、人から同情されたり気遣われたりしたくて病気のふりをしたと述べたそうです。3人の子持ちであることから親族や友人は情状酌量を求めていましたが、7月末に実刑42ヶ月という厳しい判決が下りました。

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これらの事件には共通の要素があるように思います。

まず、癌を装うのは他の病気(例えば心臓病)を装うのより簡単だということです。癌イコール脱毛というイメージが社会全体に深く浸透しており、ステレオタイプ化しているからです。特に、癌と縁のない幸せな人達は、抗がん剤には沢山の種類があり、全ての薬が脱毛を引き起こすわけではないことを知りません。さらに、アメリカやカナダでは治療で脱毛してもカツラをかぶらない女性が大勢いる、という背景もあります。ノーウィッグ派の中には帽子やスカーフを着用する人と、それすら着けずに堂々と外出する人と両方いるようです。フェミニズムの流れなのかもしれませんが、癌になったことも治療で髪を失ったことも恥ずかしいことではない、よって隠す必要も無いという発想だと思います。そして皮肉なことに、こうしたオープンな態度が癌のふりを容易くしてしまったよう感じます。

また、ニセ癌患者はお金だけが目当てなのではなく、他人の気を引くことにも執着しているという特徴があります。いわゆる寂しい人、かまってちゃんなのです。同情されたい、優しくして欲しい。そのためについた嘘が雪だるま状に大きくなるのを止める勇気が無い。まさに弱さの塊です。本当に癌になった人というのは逆だと思います。癌になったのはショックだし治療もしんどいけれど、出来るだけ長く社会参加を続けたい。必要以上に特別扱いされたくない。励ましは嬉しいけれど、可哀想だとは思ってもらいたくない。そんな気持ちで生きている人が多いのではないでしょうか。だいたい癌という手強い病気の相手をするのには精神的にタフでないとやっていけません。

それから、これは同じ女性としてとても残念なのですが、癌詐欺を行うのは女性が多いという印象を受けます。外見的に真似しやすいのと(男性だと剃髪だけでは誤魔化せない)、周囲への依存心の強さ(助けてもらうことに抵抗がない)によるのかもしれません。

癌を装う死ぬ死ぬ詐欺というのは日本でも起こったと聞きました。ただ日本の場合はネット上の匿名行為のようなので、法的に処罰するのは一層困難かと思います。アメリカやカナダでは実名で、職場や友人、地域社会など身近な人から騙していくという傾向があります。ネットは、自分の作り話に酔いしれたり、より多くの人の同情を誘う場として併用されている状況です。

癌になった者として、ニセ癌患者の存在は腹立たしいと言うより不可解そのものです。そんなに癌になりたいのなら私の癌を差し上げますよ、というのが正直な気持ちです。無論、倫理的な問題は明らかです。健常者が身体障害者の真似をすることが許されないように、生死にかかわる病を装うのは恥ずべき行いです。お金を騙し取られた人にしてみれば、善意を踏みにじられたのですから怒って当然。当事者の被害以外では、詐欺事件がまっとうなチャリティ活動に及ぼす悪影響が気がかりです。欧米では、チャリティ経由の寄付金は癌研究の大きな資金源となっています。税金や製薬会社からのお金のみでこんなに沢山の臨床試験が可能になっているわけではありません。リレーフォーライフやピンクリボンなど癌がらみのチャリティイベントは無数にあり、それらの主目的は将来癌の犠牲になる人を減らすこと−即ち癌研究のための資金集めなのです。助け合いの精神が社会全体を良くするための原動力となる、という共通の理解の上に成り立っているシステムを崩さぬためにも、癌患者のふりをするのはやめていただきたい思います。
posted by leo at 18:46| Comment(4) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月13日

赤い仕事人

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Pegylated Liposomal Doxorubicin(ドキシル)は、主役を演じる実力があるのに代役や脇役しか回ってこない、不運なお薬という印象があります。見た目が赤くてインパクトがあるだけでなく、本体のドキソルービシンは、かつてシスプラチン、サイクロフォスファマイドと共に卵巣がん治療のファーストラインを勤めた輝かしい過去があります。さらに遡ると、先祖はイタリアの古城出身という名門の流れを汲んでいるのです。(正確には、そのお城周辺の泥から見つかった細菌ですけど…)バンクーバーやオレゴンの山中に茂っていた雑木ごときに後れを取り、悔しい思いをしているかもしれません。

さて、程度の違いはあれ卵巣がんの治療薬はどれもそうなのかもしれませんが、PLDの場合は特に白金感受性の有る人に対して効き目を発揮する傾向が強いようです。この特徴は、前回の投稿でふれたTopotecanと比較する治験の結果でも明らかでした。勿論、傾向があるというのは、あくまで「そういうことが多い」という意味でしかなく、白金感受性が無い人(初めから無かった、途中で耐性がつき失った)に全然効かないという訳ではありません。それを心に留めて以下をお読みいただけたらと思います。

PLDが白金感受性の有る人に効く薬なら、当の白金系抗がん剤と相性が良いのではないか、という推測は極めて論理的です。それを実際にに検証する試みも多数行われています。代表的な研究を幾つか箇条書きにしてみました。

再発治療におけるカーボプラチン+PLD(フェーズ2)

参加者:過去1〜2回の化学療法(主に白金+タキサン、1回の化学療法=6回の点滴)を受け、その後6ヶ月以上経ってから再発(再々発)した白金感受性の有る人(104名)。

結果:奏効率63%、完全奏効38%、無進行期間中央値9.4ヶ月、生存期間中央値32ヶ月。

小規模の臨床試験なので統計的誤差があるとしても、再発治療としては立派な数字のように見えます。

再発治療におけるカーボプラチン+PLD vs カーボプラチン+パクリタキセル(フェーズ3)

参加者:フェーズ2と同じく白金感受性有りの人のみ。カーボプラチン+PLD組(467名)、カーボプラチン+パクリタキセル組(509名)。

結果:無進行期間中央値 カーボ+PLD→11.3ヶ月 カーボ+タキ→9.4ヶ月
全生存期間は集計待ち。

癌の治療薬は最終的にOS(生存期間)で判断されることが多いので、現時点で勝ち負けはついていません。しかし治験を担当した研究者の方は「カーボ+PLDはカーボ+タキよりPFS(無進行期間)が長い。パクリタキセルの末梢神経障害(治療終了後も後遺症として残ることがある)もないし、より優れた治療法だ!」と自信たっぷりの様子です。

ファーストラインとしてのカーボプラチン+PLD vs カーボプラチン+パクリタキセル

参加者:初めて化学療法を受けるステージIC〜IVの卵巣がん患者(内ステージIII60%、IV21%)。カーボ+PLD組(410名)、カーボ+タキ組(410名)。

結果:奏効率 カーボ+PLD→57% カーボ+タキ→59%
無進行期間 カーボ+PLD→19.0ヶ月 カーボ+タキ→16.8ヶ月
全生存期間 カーボ+PLD→61.6ヶ月 カーボ+タキ→53.2ヶ月

え〜!タキソールよりドキシルの方が効くじゃないの〜!と早とちりしないで下さいね。統計的に有意な差はないそうです。生存期間は随分違うように見えますが、治験が行われたのが2003〜2007年で、後半に参加した人の生存期間はまだ現在進行形。データが揃ったら数字が変わる可能性があります。とは言え、カーボプラチン+パクリタキセルの併用療法が他を大きく引き離しているというのは誇張で、本当のところはハナ差ぐらいなのかもしれません。にもかかわらず、PLDは基本的に再発もしくは難治性の治療にしか用いられていないのが現状です。しかも白金感受性有りの人が再発した場合、まずはカーボプラチン+パクリタキセルの再投与を試みるのがスタンダードなので、白金感受性が底を付きかけた頃にならないとPLDの出番が回ってこないこともあるでしょう。本領を発揮できる機会を十分に与えてもらえず、いささか気の毒な感じがします。

ところで上記の臨床試験が行われた場所は、再発フェーズ2→フランス、再発フェーズ3→ヨーロッパ+カナダ+オーストラリア、ファーストライン→イタリア(さすがDoxorubicinの祖国!)でした。アメリカ以外の西洋諸国が団結してアメリカの薬(タキソール)を蹴落とそうとしている…というのは私の妄想ですが、ヨーロッパのドクターの方がアメリカのドクターに比べ、パクリタキセルに対する見方が少し厳しいのかな、という気はします。ヨーロッパの人の方がQOL(見た目を含め)に対するこだわりが強いのかもしれません。

それからドキシルのことをPLDと表記しているのは、商品名がアメリカと日本ではDoxil、ヨーロッパやカナダではCaelyxと異なり紛らわしいからです。Caelyxはジェネリックなのかと思いましたが、そうではなく販売権を持っている会社が国によって違うかららしいです。2つ名前があるなんてややこしい話です。

(長くなったので副作用については追記にしてあります。)

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posted by leo at 12:08| Comment(0) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月05日

地味な脇役

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Topotecanという抗がん剤は、奏効率、効き目、副作用など万事において地味な薬だという気がします。華やかなスポットライトを浴びることもなく、自らの限られた役目を地道に果たしている影の薄い脇役のような印象があります。

TopotecanはトポイソメラーゼI阻害薬という種類の抗がん剤です。トポイソメラーゼはDNAに巻きついている2本鎖を切断したり再結合したりする酵素→その働きが阻害されるとDNA複製に支障をきたす→よって癌細胞が死滅する(理論上)というメカニズムらしいです。欧米では卵巣がん、小細胞肺がん、子宮頸がんの治療に用いられています。

Topotecanが卵巣がん治療薬の仲間入りする決め手となったのは、タキソールと一騎打ちで効果を比較した治験でした。対象は再発卵巣がん患者(トポ112名、タキ114名)で、主な結果は以下の通りです。

奏効率 トポ21%:タキ14%
無進行期間中央値 トポ18.9週:タキ14.7週
全生存期間中央値 トポ63週:タキ53週
微妙にTopotecanが優勢に見えますが統計的に有意な差ではありません。サンプル数が小さいこともあり、両者の効き目に差はないという見方をされています。打率はせいぜい2割で、当たっても4〜5ヶ月癌の動きを止めるのがやっと…というささやかな結果ではありましたが、権威のあるタキソールと互角の働きをみせた実績を認められました。

Topotecanは骨髄抑制の強い薬として知られています。そのことは上記の治験でも確認されました。(数字は有害事象が起こった患者の割合)

好中球減少症(グレード4) トポ80%:タキ21%
貧血(グレード3/4) トポ41%:タキ6%
血小板減少症(グレード4) トポ27%:タキ3%

骨髄抑制以外では、やはり吐き気(64%)や嘔吐(45%)がありますが白金系の薬ほど重症ではありません。下痢(32%)になったとしても軽め(グレード1/2)が多く、脱毛は49%なので約半数は髪が抜けないようですね。

骨髄抑制は命に係わる深刻な問題ですが、自覚症状が出ないことも多く、辛いという実感があまり伴わない副作用のような気がします。シスプラチンの嘔吐、タキソールの末端神経障害、ドキシルの皮膚障害などと比較すると、穏やかな薬という感想を述べる患者さんも多いです。

せっかくなので別の治験の結果も簡単に紹介しておきます。TopotecanとPLD(ドキシル)を比較した臨床試験です。対象者はやはり再発卵巣がん患者で、Topotecan組が235名、PLD組が239名でした。

奏効率 トポ17%:ドキ19.7%
全生存期間中央値 トポ56.7週:ドキ60週
とタキソールの時と同様、2つの薬の効き目は似たり寄ったりの結果でした。

しかし参加者を白金感受性のある人(白金+タキサンのファーストライン治療から再発までの期間が6ヶ月以上)だけに絞ると
無進行期間中央値 トポ23.3週:ドキ28.9週
全生存期間中央値 トポ71.1週:ドキ108週
とPLDの方が優勢で、特に生存期間については統計的に有意な差が出ました。(この勝利データを基に、ドキシルの米国でのステイタスは緊急承認から正式承認に格上げされ、セカンドラインの筆頭的存在になりました。)

ちなみに白金感受性のない人(難治性含む)の間では
無進行期間中央値 トポ13.6週:ドキ9.1週
全生存期間中央値 トポ41.3週:ドキ35.6週
とTopotecanの方がやや成績が良かったようです。(トポティはあくまでも控えめなのです。)

Topotecanは日本の卵巣がん患者さんが承認を待ちわびている薬の一つだと聞きます。しかしエビデンスの数字から判断するに、この薬が使えないから治らないとか、命が大幅に短くなるとかいう事はないように感じます。少なくとも待っている間あせったり、悲観したりする方が余程身体に障ると思います。特に日本の場合は、同じトポイソメラーゼI阻害薬であるIrinotecanが既に使用されているという背景があります。Irinotecanは、欧米では大腸がんの治療以外にはあまり用いられていないのですが、日本国内では卵巣がん、乳がんなど幅広く活躍しているようですね。日本で開発された薬であれば治験結果も臨床経験も豊富でしょうし、自然な流れかと思います。今後Topotecanを卵巣がん治療薬に加えるのであれば、Irinotecanとcross resistantにならないのか素人ながら気になります。クロスレジスタンスは、癌を殺すメカニズムが同じ薬は、片方が効かなければもう片方も効かない(ことが多い)という現象です。もっともcross resistantだったとしても、患者がTopotecanかIrinotecanか好きな方を選べるようになるのなら十分意義があるでしょう。地味なトポティ君、日本デビューを果たす日が来るのかな?
posted by leo at 15:31| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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