2010年10月29日

従兄弟の明暗

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臨床試験についてとても考えさせられる記事を新聞で読みました。と言っても日本の新聞ではなくニューヨークタイムスです。その内容を紹介させていただきますすが、その前に治験/臨床試験全般についてウンチクを少々…(うざい!と思う方は飛ばして読んで下さい。)

ほとんどの癌患者さんや家族の方は正しい知識をお持ちでしょうが、社会一般では、治験/臨床試験は治療法の安全性を調べるのが目的であると考えている方も沢山いらっしゃるようです。これは間違ってはいませんが不正確だと思います。安全性の確認やどんな副作用が出るのかを調べるだけでなく、新しい薬/治療法が癌に対して本当に効き目があるのか否かを調べるのが治験/臨床試験の目的です。さらには現在使われている薬/治療法よりも優れていること、或いは現在使われている薬/治療法に付け足すことで治療効果が上がることも証明されなければ承認されません。ゆえに治験/臨床試験にはフェーズI、II、IIIと三段階あり(時にはIVまである)、癌の種類別にいちいち細かく分けて調査するのです。効果が科学的、統計的に証明されるまでは、いかに有望な治療法でも「investigative」(調査中)、「experimental」(試験中)にすぎず、既存の治療法よりリスクが伴う(効かないというリスクも含め)ことを、参加者全てに明らかにするのが治験/臨床試験のあるべき姿だと思います。治験/臨床試験中の有害事象だけに焦点を当てて騒ぎ立てる外野も困りものですが、想定外の有害事象が起こる可能性があるのが嫌な人は治験/臨床試験には向かないという気もします。

わかりきったことを説教めかしてグダグダ書くのはこの辺にして本題に移りましょう。ニューヨークタイムス紙の記事はフェーズIII治験にまつわる悲劇を取り上げています。フェーズIIIは、新しい治療法を受けるグループと標準的な治療法を受けるグループの二つ(または三つ巴)に分かれて効果を競い合う新薬開発のクライマックス。認可を検討する過程で欠かせないステップのように見えますが、それが患者に仇をなすこともあるという話です。

カリフォルニア州に住む若者2人。Thomas McLaughlinさん(24歳)とBrandon Ryanさん(22歳)は従兄弟同士です。2人とも体力が自慢のアウトドア派。そして2人とも若くしてメラノーマになりました。

McLaughlinさんがメラノーマの診断を下されたのは昨年9月のことでした。一応手術を受けたものの、既に遠隔転移しておりステージIV。手術後数週間で身体のあちこちに硬いしこりが現われ、肝臓にも腫瘍があり… と、非常に厳しい状況でしたがそれを好転させる出来事が12月に起こりました。McLaughlinさんの癌にはBRAFと呼ばれる遺伝子変異のあることが検査で判明し、BRAFを標的にした新薬PLX4032の治験に参加することを勧められたのです。他に有効な治療法がない上、健康保険を持っていなかったMcLaughlinさんにとって、製薬会社から無料で薬を提供してもらえる治験は正に渡りに船。しかもPLX4032はフェーズIのトライアルで劇的な効果を見せた超有望薬です。どれほど成績が良かったかと言いますと、BRAF遺伝子変異を持つ進行メラノーマの患者さん48名中37名(77%)に奏効、内3名は完全奏効。少人数のデータですが驚きの奏効率だと思います。期待にたがわず、PLX4032(錠剤)を服用すると程なくMcLaughlinさんの癌は縮小しました。

Ryanさんは、McLaughlinさんの約一月後にメラノーマであることがわかりました。ステージはIII。進行していましたが局所転移だったため、リンパ節の郭清手術と放射線というのが治療プランでした。無事治療を終え職場に復帰し、McLaughlinさんからPLX4032の話を聞いた際も(McLaughlinさん曰く「super pill」)、さして羨む様子のないRyanさんでした。ところがMcLaughlinさんが回復していく一方でRyanさんの体調は悪くなるばかり。Ryanさんは再発、肺に遠隔転移していたのです。そして今年5月、検査の結果Ryanさんの癌からもBRAF遺伝子変異が見つかり、RyanさんはPLX4032のフェーズIII治験に参加することになりました。(McLaughlinさんとは別の治験でした。)

上に書いた通り、フェーズIIIは新薬と既存薬との比較試験です。運命の女神は微笑まず、Ryanさんは無作為割り当てで既存薬(dacarbazine)に当たってしまいました。メラノーマは抗がん剤が非常に効きにくい病気です。ダカルバジンは標準的な治療で最もよく使われる薬ですが、奏効率は低く効果も少ないことが多いそうです。(注:比較試験は通常、医師にも患者にもどちらの薬を使っているかわからない形で行われますが、この治験はPLX4032が錠剤、ダカルバジンが点滴のためブラインドではありませんでした。)

UCLAのDr. Chmielowski はMcLaughlinさんとRyanさん両方の治験の担当医です。Ryanさんに治験の割り当てを告げるDr. Chmielowskiの顔は苦渋に満ちていました。Ryanさんと家族にとっては命の綱となり得る薬が使えない。Dr. Chmielowskiにとってはその薬を使わせてあげられない。関係者全員にとって辛い現実でした。Ryanさんがダカルバジンに当たってしまったのは誰のせいでもありませんが、医学の進歩のためにくじ運の悪い患者はより大きな効果を見込まれる薬を使えない、というのはやりきれない… はっきり言って残酷です。しかし一度治験への参加が決まり、治療法が割り当てられたら変えてもらうことはできません。偉い人に頼んでもダメ。よその病院に行ってもダメ。そこまで厳格に実施しなければ治験データの精度は保たれないのです。

McLaughlinさんは、Ryanさんに自分の治験と参加枠を取り替えることを申し出ましたが、それはRyanさん自身が断りました。ダカルバジンは残念ながら奏効せずRyanさんは6月半ばに亡くなられました。McLaughlinさんの方は、PLX4032開始後9ヶ月以上も良好な経過を保ち、4月には仕事(建築現場での力仕事)も再開しました。

McLaughlinさんとRyanさんのケースは極端な例です。普通は治験で新薬の効果が証明されたと言っても、無進行期間が3ヶ月延びたとか全生存期間が6週間延びたとか、その程度の差でしかありません。また仮にRyanさんがPLX4032を服用したとして、McLaughlinさんと同様に効き目が出たかどうかは不明です。しかし、一部の分子標的薬は特定の遺伝子変異を持つ人にしか効かないものの、その人達には従来の抗がん剤よりはるかに優れた効果を示すことが既に知られています。そうした薬の場合、スタンダードの比較試験は倫理的な問題を孕みかねません。目の前で患者が死んでいくのを手をこまねいて見ているのは医師の良心に反します。臨床医が「患者の延命」と「医学の発達への貢献」の板ばさみになるような状態は改善されるべきでしょう。FDA(米国食品医薬品局)の癌治療薬部門のディレクターであるDr. Richard Pazdurは、インタビューで「(PLX4032のような)新しいタイプの薬に対しては個別に審査し、規則に柔軟性を持たせたり公開討論したりする必要があるかもしれない」と語ったそうです。

尚、PLX4032はBRAF(V600E) キナーゼ阻害薬で、Plexxikonという会社が開発しロシェが製造元となります。他ののコード名(RO5185426、RG7204)で呼ばれることもあります。これとは別にGSK2118436と呼ばれるBRAF阻害薬もあり、グラクソスミスが治験中です。 BRAF遺伝子変異はメラノーマに頻繁に見られる遺伝子変異ですが、他の癌にもたまに起こるそうです。現時点ではメラノーマ中心に研究が進められており、上に引用した奏効率は全て進行性メラノーマに使用した場合です。
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2010年10月23日

ミラノ通信

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もう2週間前になりますが、10月8〜12日に美しいミラノの街で欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が開かれました。6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)に比べると若干目立たない印象ですが、そこはヨーロッパ。安易にアメリカに追従せず、西洋医学発祥の地としての意地と誇り(?)を感じさせます。

とは言え内容的にはASCOと被るものも少なくないようです。特に卵巣がんは、乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん等と比較すると研究の数も控えめですし、新しい有望な治療法などそう簡単には出てきません。そんなわけでESMOの主役もやはりアバスチンでした。しかし発表された治験はASCOとは別件です。

ESMOで発表されたICON7(治験の名前)は、ASCOで発表されたGOG0218(これも呼び名)と同様に、カーボプラチン+タキソールの標準的な初期治療を受けたグループとアバスチンを付け加えたグループ(カーボ+タキ+アバで6回、その後アバで維持療法)を比較しています。が、相違点も幾つかあります。

1.アバスチンの用量:GOG0218が15mg/kgだったのに対し ICON7は7.5mg/kgでした。

2.参加者のステージ:GOG0218がステージIII、IV限定だったのに対し、ICON7はステージIII、IVだけでなくIIB、IICも可。さらにステージIやIIAでも組織型が明細胞もしくは悪性度がグレードIIIであれば参加を許されました。

3.維持/地固め治療の回数:GOG0218が最長16回だったのに対し ICON7は12回で終了しました。

言い換えると、薬の量が半分でも効くか?早期の癌にも恩恵があるか?維持療法は短くてもいいのか?
という事みたいですね。

さて結果は…
無進行期間(PFS)がカーボ+タキのみ→17.3ヶ月、カーボ+タキ+アバ→19ヶ月…だそうです。た…た…たったの2ヶ月。全生存期間(OS)ならともかく、PFSの延長が2ヶ月弱というのはちょっと効果が慎ましすぎるように感じます。ちなみにGOG0218の結果を復習すると、カーボ+タキのみのPFS→10.3ヶ月、カーボ+タキ+アバ→14.1ヶ月。PFSの延長は4ヶ月弱でした。

用量を半分にしたから効き目が半分だったという見方もできますが、参加者の構成(ICON7には初期ステージの人も混ざっていた)が影響していたことも有り得ます。と言うのは、参加者の中で癌の進行度の高い人(手術後取りきれなかった癌が1cm以上のステージIIIとステージIV)だけに絞ると、カーボ+タキのみ→10.5ヶ月、カーボ+タキ+アバ→15.9ヶ月と改善の幅が多少広がります。(但しブレイクダウンして頭数が小さくなっているので統計的には誤差が大きいです。)

ICON7のホームページに行くと実に分かりやすいプレゼンテーション用資料がダウンロードできます。グラフが沢山使ってあるので英語が苦手な人も一見の価値があります。その資料のサブグループ分析(14ページ)を見ると、アバスチンを加える恩恵が顕著に表れているのはステージIII、IVの人のようです。また、病気が進行していない人の割合を比較した折れ線グラフ(11、12ページ)でわかる通り、アバスチンを加えた組が加えなかった組を最も引き離しているのは治療終了後1年くらいで、その後徐々に差が縮まり、2年後にはアバスチン無しの組の方が無進行の人の割合が高くなっています。

アバスチンの効果が一応は示されたものの期待されていた程ではなく、主任研究者のDr.Tim Perrenは、「2つの治験(GOG0218とICON7)の結果が、患者と医師との面談の際に(治療方針を決める上で)影響を及ぼすことは間違いない」としながらも、「しかしより重要なのは将来の臨床試験への影響である」と付け加えています。さらに「一番大きな疑問はアバスチンがPFSだけでなくOSも延長するかどうかだ」ともおっしゃっています。それがわかるのは2012年。それまで何とか元気でいたいものです。

まぁ素人の一般患者である私の印象としては、アバスチンが全生存期間を延長すると証明されない限り、「みんな一緒」のファーストラインに加わる可能性は薄くなった気がします。しかし、ステージIII、IVの初期治療強化や再発治療のオプションの一つとして魅力的なのは変わりません。どの薬と組み合わせて誰にどのタイミングで使用すると最も効果的なのか、今後も引き続き様々な治験を実施することで徐々に解明されていくことと思います。

さて、アバスチンに関してはもう一つ興味深い研究発表がありました。(リンク先のESMO資料の6ページめです。)これはアバスチンがオフレーベルで、既に卵巣がん治療に用いられているアメリカでの臨床データを分析したものです。オフレーベルというのは、他の癌の治療用に認可されている薬を未承認の用途に使うこと。またここで言う臨床データとは、トライアルではなく普通の治療例です。

アバスチンは維持/地固めの他、腹水がパンパンに溜まってしまった人の症状緩和目的でも使用されるそうです。腹水を減らすのに効果大という肯定的な意見と、しかし薬を止めた途端に反動で腹水が急増すると警戒する声と両方あり、その真偽をニューヨークのスローンケタリング癌センターの患者さん106名のデータから検証しようという試みです。

106名の内、48名はアバスチン開始前に画像で腹水が確認されており、腹水を抜く処置を何度も受けている人も14名含まれていました。これら腹水有りの人達の内、31名(65%)はアバスチンを投与することで腹水が減りました。アバスチンを止めた後の記録があるのは76名、内58名(76%)の腹水は増加しませんでしたが、18名(24%)は投薬終了後に腹水が急激に溜まってしまったそうです。効き目はあるがリスクもあるという感じですね。この106名の患者さんは皆、病気が非常に進んでおり、平均で過去に6種類の化学療法レジメンを経験なさっています。それだけ切羽詰った状況であれば多少危ない橋でも渡ろうという気になるでしょう。最後の手段の一つとして見れば打率も決して悪くありません。その病状から寛解するというのは現実的でないとしても、何ヶ月か苦しい症状から解放されて好きなことができるのであれば意義は大きいのではないかと思います。

アバスチンの事は何度も読んだり書いたりしているので、本当にそろそろ打ち止めにしたいです。でも他の新薬は、治験でほとんど効果が出なかったり開発の初期段階だったりして、認可に一番近いのはアバスチンってことになっちゃうんですよね。それもどうなることやら…
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2010年10月16日

ジョギングより散歩がベター

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前回、卵巣がんのリスク要因である出産経験や経口避妊薬使用の有無などについて書きました。その際、例としてオランダの疫学調査結果を引用させていただいたのですが、その研究の名称は「The Netherlands Cohort Study on Diet and Cancer」で、食生活や運動など生活習慣全般が癌の罹患率に与える影響について調べるのが目的でした。一般的に食生活や運動は癌のリスク要因として真っ先に頭に浮かぶ事柄のような気がします。しかし癌との因果関係を科学的に実証するのが難しい因子であることも知られています。また癌と一口に言っても、部位、種類によって何がリスクとなり、どの程度深く係わっているのかは異なるので、十把ひとからげにしては考えるのは危険です。

ということで、ここからは卵巣がん限定で上記のオランダの調査を中心に、食事や運動との関係についての研究を幾つか紹介させていただきます。尚、癌の疫学調査というのは薬の臨床試験などとは全く性質が異なり、複数の似たような調査を比べると結果が相反することも少なくありません。ですから私が例に挙げる調査結果イコール普遍的事実と取らず、参考データとして捉えてていただければと思います。(注:リスクとは卵巣がんに罹患するリスクのことであり再発との関係は不明です。)

まずは運動から始めましょう。オランダの調査では「職業以外の身体的活動(non-occupational physical activity)」について質問しており、通勤、買い物、犬の散歩、散歩、自転車、庭仕事など日常生活範囲内で身体を動かすことを指しています。身体的活動が一日に30分以下の人と比べると、30〜60分、60〜90分、90分以上の人は、それぞれリスクが22%、14%、28%減という結果でした。都市部に住んでいると、公共交通機関の発達と交通渋滞の相乗効果から車に頼らず生活することも可能なのですが、郊外や地方ではどこへ行くにも車を使い、駐車場と目的地の建物の間しか歩かない人も多いようです。(アメリカやカナダは特にその傾向が強いように思います。)そういう状況であれば、歩いたり自転車に乗ったりする機会を意識的に増やした方がいいのかもしれませんね。余暇に徒歩や自転車で散策するのも身体に良さそうです。週に1〜2時間の散策で34%、2時間以上で35%のリスク減と出ました。

しかし、身体を動かせば動かすほどいいという訳ではありません。スポーツに参加したりジムでトレーニングしても卵巣がんのリスクに良い影響は出ないようです。それどころか、統計的に有意な差ではありませんが、週に1時間以上スポーツをする人はしない人よりリスクが高くなる傾向があります。激しい運動をすると卵巣がんのリスクが高くなる、というのは素人の頭では不思議に思えますが、別の疫学調査でも同様の結果が出ています。米国アイオワ州で約42,000人の女性(55〜69歳)を対象に実施された調査では、軽い運動(散歩、ゴルフ、ボーリングなど)と激しい運動(ジョギング、テニス、水泳、エアロビクスなど)に分けて質問したところ、やはり激しい運動をする人の間でリスクが高めであることがわかりました。

さて、食生活については運動以上に関係が複雑なのか過去の疫学調査の結果もまちまちです。誇張やデマも飛び交いやすい分野で、何を信じて良いのやら…とため息をつきたくなることもありますが、とりあえず特に関心の高い乳製品について見てみましょう。結論から言いますと、オランダの調査では乳製品の摂取と卵巣がん罹患率の間に相関関係はありませんでした。牛乳、ヨーグルト、チーズとカテゴリー別に、摂取量低、やや低、やや高、高と4段階に分けて罹患率を比較したものの、差異はなし。ラクトース(乳糖)の摂取量でも差異はなし。唯一違いが認められたのは乳脂肪。1日に31g以上乳脂肪を取っている人はリスクが1.53倍という結果でした。

公平を期すため別の研究結果も紹介しておきます。スウェーデンで約61,000人(38〜76歳)を対象に行われた疫学調査では、一日に4サービング以上の乳製品を取っている人のグループは2サービング以下のグループと比べてリスクが1.6倍増。漿液性卵巣がんに絞ると2.0倍だったそうです。サービングとは1回に食べたり飲んだりする基準量で、牛乳なら250ml、ヨーグルトなら175g、チーズなら50gくらいです。乳製品のカテゴリー別では牛乳が最も影響大のようで、1日に2サービング以上飲む人は、ほとんど飲まない人(週に1サービング以下)より1.3倍(漿液性は2.0倍)罹患率がアップしていました。

オランダとスウェーデン。どちらも北欧。民族的にも近い2つの国から食い違う調査結果が出てしまう。それほど食生活のリスクは判定しにくいのです。データの精度が低くなる理由の一つとして、卵巣がんになる人の絶対数が少ないことが挙げられます。欧米諸国の中でも北欧は卵巣がんの罹患率が比較的高いそうです。それでも卵巣がんになったのは、オランダ:約62,000中282名(11年間)、スウェーデン:約61,000人中266名(13年間)。統計のサンプル数としてはギリギリの頭数です。それ以外の理由としては、スウェーデンの牛乳の方がオランダの牛乳より濃くて乳脂肪も乳糖も沢山入っているだろうとか、スウェーデンの乳牛の方がオランダの乳牛より添加物の多い配合飼料を食べているだろうとか、妄想とジョークの域を出ないことしか思いつきません。

食生活や運動と癌の関係は単純明解からは程遠く、原因とは言えないまでも無関係とは言い難く、欧米の政府機関、癌研、病院などではバランスの取れた食事と適度な運動を奨励しています。直接癌と関係なかったとしても、他の病気(心臓病、糖尿病など)に対する予防効果があることは医学的に明らかなので、やっておいて損はないという意味だと解釈しています。その程度?とガッカリなさらないで下さいね。因果関係をどこまで信じるかは結局のところその人次第。私自身はどちらかと言うと生活習慣を変えることに消極的なのですが、歩いて通勤したり(交通費をケチっているという部分もありますが…)、毎日ブロッコリーを食べたり緑茶を飲んだりしているのは、心のどこかで「もしかしたら」と思っているからなのでしょう。
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2010年10月09日

少子化と卵巣がん

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人はどうして癌になるのでしょうか。

癌は、肺気腫(アスベスト)や子宮頸がん(HPVウィルス)などごく一部を除くと原因がはっきりわかりません。原因とは別にリスク要因というのがあって、生活習慣、生活環境、遺伝、体型など様々ですが、これは要因に当てはまると統計的に癌になる確率が高いらしい…発がんに関係しているかもしれない…といった可能性レベルの話です。かなり確実と見なされているリスク要因でも100%からは程遠く、その顕著な例は肺がんだと思います。喫煙が肺がんのリスクを倍増するのは間違いありませんが、運よく肺がんにならない喫煙者は大勢います。その一方で、自分も家族もノン・スモーカーなのに肺がんになってしまうお気の毒な方もいらっしゃいます。恐らく人の健康と言うのは色々な要素の組み合わせ、積み重なりで保たれているのでしょう。しかも一つの因子がある種の癌のリスクを上げ、別の種類の癌のリスクを下げることもあり、常に1+1=2とはならないのが身体の不思議さです。

さて卵巣がんのリスク要因として、年齢、家系や遺伝(BRCA1/BRCA2遺伝子変異)以外で有力視されているのが、出産歴、初潮から閉経までの年数、経口避妊薬、避妊手術(卵管結紮術)、子宮摘出など、女性ホルモン及び生殖機能に係わる事柄です。こうしたリスクが癌の罹患率に影響を及ぼす度合いについては、主に疫学調査を通じて研究されています。

実例の一つとしてオランダの疫学調査結果を紹介します。この調査は1986年から2002年にかけてオランダで実施され、総計で6万人以上の女性(55〜69歳)が参加しました。その内、調査期間中に卵巣がんになった375名と、コーホートの2331名(癌になった人のグループと年齢、身長、体重、家族内の卵巣がん歴、などの構成がほぼ等しくなるよう無作為抽出した、癌にならなかった人のグループ)を比較しました。

まず出産については、全く出産経験のない女性に比べ、子供を一人でも産んだことのある女性は卵巣がんになるリスクが29%低いという結果でした。子沢山になればなるほどリスクは下がり、子供の数が3〜4人だと34%減、5人以上だと47%減。10人以上産んだらリスクがゼロになる(!)のはさすがに無理としても、南米、アフリカ、東南アジアなど子供の数の多い地域は、欧米と比べて卵巣がんの罹患率が低いのは事実です。

どうやら卵巣というのは、排卵するのが主な任務でありながら、休みもなく毎月せっせと働かされるとストレスがたまってご機嫌斜めになるようです。妊娠期間は排卵しなくてもいいわけですから、卵巣にとっては骨休みとなる筈なのに、私はその休暇を一度もあげずに申し訳ないことをしたと思います。

妊娠しなくても排卵を止める方法はあります。経口避妊薬を服用することです。そのせいかピルを使用したことのある人は、無い人より卵巣がんになるリスクが29%も低いそうです。特に5年以上飲み続けた人は53%もリスクが減少するという結果でした。服用の時期としては20代、30代の方が40代以降よりメリットが大きいようです。経口避妊薬を使用すると子宮内膜がんにも罹りにくくなると聞きました。しかし残念ながら乳がんのリスクは少し増してしまいます。あちらを立てればこちらが立たず。難しい選択ですが、私が10年、15年前にこうした事情を理解していたら、ピルの服用に対してもっと前向きに考えていたでしょう。(人工的に排卵しないようにするなんて絶対体に悪い!と当時は思い込んでいました。)

また、手術による避妊法(卵管結紮術)も卵巣がんのリスクを下げるそうです。卵管を縛っても排卵がなくなるわけではありません。生理も来ます。では何故リスクが減少するのかというと、排卵しにくくなるとか、女性ホルモンの量が減るとか、子宮から発がん性物質が入り込まなくなるとか、仮説は幾つか立てられているものの詳しいメカニズムは不明です。避妊手術前の診察で、ごく初期の卵巣がんが発見されることも時折起こるため、スクリーニングのような役割があるとも言えます。オランダの調査は避妊手術に関する質問を含んでいませんでしたが、卵管結紮術を受けた人は卵巣がんで亡くなる確率が36%低くなる、という別の調査結果が過去に発表されています。

手術がらみでもう一つ。子宮筋腫などの理由で子宮を切除した人は、子宮がんだけでなく卵巣がんのリスクも低くなります。オランダの調査では50%減と出ました。卵巣も取ってしまえば更にリスクが減るのでしょうが、閉経前の女性が卵巣を失くすと、突然激しい更年期障害に見舞われて大変なのは皆さんよくご存知の通りです。ですから予防目的で健康な卵巣を切除するのは、BRCA遺伝子変異のある方とか、進行性乳がんでホルモン受容体がネガティブな方とか、やむにやまれぬ事情がある場合に限られています。子宮については切除しても後遺症が少ないので、出産の予定がないのであれば良性の疾患でも子宮とサヨナラした方がいいのかもしれません。お腹に傷が残るし、手術は身体に負担をかけるので切らずに治したいと思う方も多いでしょうが、使わない臓器が体内に居座っていると病気のリスクを上げるだけ、という見方もできます。生理痛などに悩まされることもなくなりスッキリしますよ。

最近カナダで、良性疾患で子宮切除手術を行う場合、一緒に卵管も切除すると(卵巣は残す)卵巣がんのリスク軽減により効果的、という声が上がっています。これは奨液性卵巣がんの約30%は卵巣本体ではなく卵管から始まっている、とする仮説に基づいています。卵管を失くしても身体に支障をきたすことはありませんが、子宮のみ切除するのに比べると手術が多少複雑になるため、現時点では子宮だけ取るのが一般的なやり方らしいです。他に理由が無いのに卵管だけ切除するのはどうかと思いますが、子宮を切るついでに卵管も、というのであれば患者側の抵抗感は少ないような気がします。

20歳で結婚して22歳で初出産。それから2年おきに子供を4〜5人産み全員母乳で育てる。という風にしたら、卵巣がん、子宮体がん、乳がんのどれにも罹りにくくなるのでしょうね… しかし社会の仕組みも人のライフスタイルも変わった今、そういう生き方をするのは難しいです。結婚しない。結婚しても子供は作らない。子供を作るとしても時期を遅らす。欧米も日本も少子化の傾向はすすむ一方です。ここ半世紀に起こった急激な変化が、女性の身体にどんな影響を与えているのか。女性特有の癌の増加にどう係わっているのか。考えると少し悲しくなります。もっとも他にもリスク要因はありますし、リスクはあくまでもリスク。当てはまらない人の方が多いのでしょうが… 癌になるのを恐れるあまり100年前の状態に戻ろうとするのではなく、前進する形で何か改善策があるといいですね。20代で出産、育児をするための経済的な援助(無利子の出産ローンとか)、教育費の低減、および子育てを終えた30〜40代が社会進出しやすくなるよう雇用体制の見直し等、社会全体で取り組んでほしい問題だと思います。
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2010年10月02日

ティールリボンあれこれ

過去形になってしまいましたが、9月はアメリカ、カナダで「卵巣がん認識月間(Ovarian Cancer Awareness Month)」でした。と言っても10月のピンクリボンとは比べ物にならないほど小規模で、正直なところ卵巣がんになった私ですら忘れていました。しかし地味ながらも有志の方々が各地で様々なイベントを催して下さり、大変ありがたく思っています。

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一番多いのはマラソン、ウォーカソンの類です。写真はOvarian Cancer Canada主催の「Walk of Hope」。カナダでは何故かバグパイプのおじさんが必ず行進の先頭に立ちます。

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摩天楼を誇るシカゴでは、National Ovarian Cancer Coalitionが「Light the Town Teal」を企画し、ウィリスタワー(旧名シアーズ)、トランプタワー他、20の 高層オフィスビルからティールのライトが夜空を照らしました。

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ティールリボンつきの可愛いカップケーキ「Teal Velvet」を作ってくれたのはワシントンDCのベーカリーGeorgetown Cupcake。9月限定販売で、売り上げは100%Ovarian Cancer National Allianceに寄付されました。

Ovarian Cancer CanadaNational Ovarian Cancer CoalitionOvarian Cancer National Allianceは、どれも卵巣がんのサポート団体で、社会全体における卵巣がんの認識を向上し早期発見を訴えたり、卵巣がん研究予算の増加を国や関係機関に要請したり、研究資金の寄付を募ったりするのが主な活動内容です。)

Ovarian Cancer National Allianceの創立者の一人であるSusan Lowell Butlerさんは、ご自身も卵巣がんを患っています。9月のティールリボン期間に合わせ、NCI(米国立がん研究所)がButlerさんのインタビューをYouTubeで公開しました。



(埋め込み画像が見れない方はこちらを試して下さい→リンク

Butlerさんが卵巣がんステージIIICと乳がんステージII、という同時多発の癌攻撃に見舞われたのは52歳の時のことでした。近親者には卵巣がんになった人も乳がんになった人もおらず、青天の霹靂だったそうです。

まず卵巣がんの切除手術を受け、術後のキモセラピーは標準治療ではなく臨床試験に参加しました。治験で試されていたのはシスプラチン+サイクロフォスファマイド+パクリタキセルという組み合わせを、通常より高い用量で投与するレジメンでした。激しい骨髄抑制が予想される治療のため、AHPCS(autologous hematopoietic progenitor-cell support)という造血促進剤が初めから併用されました。当然のことながら副作用は非常に強く、49名の参加者のうち多臓器不全で亡くなったかたが一人、重症が一人という正に命を賭けた臨床試験でした。Butlerさんは6サイクルをどうにか乗り切り2度目の開腹手術。目に見える癌は残っていなかったにもかかわらず、更にダメ押しでもう2サイクル(計8サイクルの高用量化学療法)。その後、乳がん治療のために乳房全摘出手術と放射線療法を受け、仕上げにタモキシフェンを5年間服用しました。文字通り壮絶な治療生活だったと思います。

Butlerさんが二重の癌診断を下されたのは1995年のことです。そして治療終了後は完全寛解となり13年間もキャンサーフリーでした。2年前、大腸内視鏡検査で再発した卵巣がんが発見され、以来再発治療を受けています。

Butlerさんは、ご自身の体験を通じて卵巣がん治療の昔と今について次のように語っています。

1.臨床試験の重要性
特に予後が厳しい病状であれば、思い切って治験に参加することで長期生存のチャンスを掴む可能性があります。Butlerさんは、13年間の寛解は実験的に行われた高用量レジメンのおかげだと感じていらっしゃるようです。(ちなみにこの3種抗がん剤レジメンは、有害事象のリスクが高すぎたせいか、治験の枠外では用いられることもなく自然消滅状態です。)

2.QOLの向上
進行、転移、再発した癌が不治なのは(稀に例外があるにしても)、残念ながら昔も今も変わりません。しかし現在はよく効く制吐剤が開発され、化学治療中のQOLが保たれるようになってきました。従業員12名を抱える事業主であるButlerさんは、再発治療を受けながらフルタイムで仕事を続けています。病気と共生していく上で治療の副作用緩和は重要事項です。その点においては確実に進歩しています。欧米ではシスプラチンでさえ外来で点滴しており、白血病など一部の病気を除けば、日帰りキモセラピーは当たり前の状況です。キャリアと両立させている人も珍しくありません。

3.分子標的剤への期待
他の癌では既に標準治療の一部として活躍している分子標的剤ですが、卵巣がん治療に於いても研究がやっと本格化してきました。それに伴い将来は治療が個別化していくことも期待されています。テーラーメイドと言うのは誇張だと思いますが、例えばHER2陽性乳がんのハーセプチンとか、EGFR遺伝子変異のある非小細胞肺がんのタルセバとか、その程度の個別化でも全くの十把一からげ状態より望ましいのは間違いありません。誰に効くかが絞り込めれば費用の面でも無駄な出費を抑えることができ、保険制度も助かるでしょう。自分の腫瘍にピッタリの分子標的剤を見つけること、それがButlerさんの一番の希望です。

何だか纏まりがつかなくなりましたが、「癌との闘い」というのは個人と社会の両方のレベルに存在するのだと思います。患者一人一人は、手術を受けたり抗がん剤を試したり、QOLと延命を量りにかけて悩んだり… 自分のことだけで精一杯という人も多いはずです。社会全体としての、将来癌の犠牲になる人を減らすための取り組みに目を向ける余裕がない人もいるかもしれません。しかし癌になっても社会の一員であることに変わりは無く、やはり次世代の為に出来る事をするのは生きる張り合いとなります。癌の認識運動というのは、運悪く病気になった人とそうでない人の架け橋のようなものなのかもしれません。


(追記)
Susan Lowell Butlerさんは2010年12月18日、15年の闘いを終え旅立たれました。ご冥福をお祈りいたします。
posted by leo at 16:52| Comment(6) | 卵巣がんニュース | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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