2011年02月27日

Bで終わる薬

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北米での治験のリストを見ると、…ニブとか…リブとか…マブとか末尾がBの薬のオンパレードです。これらはみな分子標的薬のようです。一攫千金を狙う製薬会社と新薬に興味しんしんの研究者。よくわからないけど希望を託してトライする患者。私は競馬が好きなので、製薬会社が馬主、医師が調教師、薬が馬で患者がジョッキーなどとくだらない想像をして楽しんでいます。フェーズIIIの治験はさしずめGIレースです。ただこのレースのお馬さん達は、途中で立ち止まって動かなくなったり、爆走してジョッキーを振り落としたり、善戦しても古馬にかなわなかったりすることが多く残念です。

ともあれ、治験をしている薬がどんな代物なのか多少情報を仕入れておいて害にはなりません。もし治験に参加する機会があったとしても、全く未知の薬だと不安倍増ですからね。

まずは、アバスチン(Bevacizumab)に続いてフェーズIIIの治験に漕ぎついたCediranibについてです。Cediranibは血管内皮細胞成長因子(VEGF)の受容体を阻害する薬だそうです。VEGFの発現は卵巣がんにしばしば見られ、発現過剰だと予後を厳しくすると言われています。働きとしてはVEGF受容体の阻害を通じて癌の血管新生を抑えるらしいので、アバスチンと少し似てる…かな?

フェーズIIの治験結果は2008年にASCO(米臨床腫瘍学会)で発表されています。対象は再発卵巣がん患者60名、内26名は白金感受性あり、34名は白金感受性なしでした。Cediranib単剤での治療の結果、奏効率は白金感受性ありのグループで41%、なしのグループで29%。成績が良さそうに聞こえますが、ここで言う奏効率は癌の成長を一時的に止めたことを意味するようで、癌の縮小が見られたのは参加者中数名だったようです。無進行期間は4.1ヶ月、全生存期間は11.9ヶ月でした。この数字自体は従来の殺細胞系の抗がん剤と比べて劣りますが、少なくとも恩恵(らしきもの)があったということで、王道のカーボ+タキソールにCediranibを加えたフェーズIIIの治験が実施されています。

フェーズIIIの治験は通称ICON6(諜報機関みたい)。ファーストラインで治療後6ヶ月以上経って再発した白金感受性有りの人、2000名が参加しています。
- カーボ+タキ+プラセボ(6サイクル)
- カーボ+タキ+Cediranib(6サイクル)
- カーボ+タキ+Cediranib(6サイクル)+Cediranibのみで維持療法(60週)
の3組に分かれて効果を比較という割とよくある治験デザインです。

Cediranibは経口で毎日服用する薬です。その点は点滴よりいいなぁと思います。しかし副作用が結構あるみたいで世の中甘くありません。フェーズIIの治験結果によると、よくある副作用は疲労(85%)、下痢(80%)、高血圧(72%)、食欲減少(57%)で、疲労と高血圧はグレードIII以上の重い症状が出た人も2〜3割いました。高血圧については服用後3日以内に急激に血圧上昇が見られるケースが多いので、特に高齢でもともと血圧が高い人は要注意です。

Cediranibは卵巣がん以外にも大腸がん、非小細胞肺がん、脳腫瘍などで治験をしたのですが結果はいまひとつでした。悲しいかな副作用の割りに恩恵が少なめだった模様です。だからと言って、卵巣がんでも失敗すると決めつけるわけにはいかず、こればっかりは試してみないとわかりません。Cediranib号、本命というより穴馬って感じかしら。でも頑張ってほしいです。
posted by leo at 19:45| Comment(0) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月16日

非現実的な楽観主義

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治験に参加している癌患者は非現実的な楽観主義(Unrealistic Optimism)に陥っていることが多い、という調査結果が発表されました。ずいぶん野暮な研究をする人もいるものです。

調査対象はフェーズIまたはIIの新薬/試験薬の治験参加者72名で、肺がん、乳がん、白血病などの患者さんが含まれます。リスクの高いフェーズIやIIの治験参加ですから、既存の治療法が効かなかった人が一縷の望みに賭けて、という状況ではないかと推察されます。標準治療で完治/寛解が十分期待される病状なら、そんな治験に参加しないのが普通です。

治験には当然の事ながらインフォームド・コンセントの上で参加します。治験のリスクや恩恵を説明され理解して参加に同意しているのです。にもかかわらず、アンケートの結果によると:

- 60%の参加者は、試験薬が自分に効くだろうと非現実的なほど楽観視している。
- 39%の参加者は、試験薬の有害事象が自分には起こらないだろうと非現実的なほど楽観視している。

のだそうです。現実離れした期待は、治験の内容をよく理解している人の間でも見られました。

調査を行ったのは医学倫理、精神医学、心理学、行動心理学などの学者さん達です。癌患者の非現実的な楽観主義を、いわゆる前向きな姿勢の域を超えた現実逃避の心理的バイアスと分析しています。そして心理的バイアスが判断力を鈍らせインフォームド・コンセントを不十分にしているのでは、と疑問を投げかけています。

こう言っては何ですが、この学者さん達は全然わかってないですよね。治験だけでなく一部の標準治療だって、奏効率は低く副作用は重いことなんて珍しくありません。それが客観的な事実だとしても、その事実にこだわるっていたら進行/転移/再発した癌患者はやってられません。「成功する確率が10%もあるから絶望する必要なんてないわよね〜」と笑っていられる人がどれだけいるでしょうか。効くか効かないかわからない。どんな副作用が起きるかわからない。という状況と知りながら、きっと効く、副作用だって何とかなる、と思って治療に臨むのが普通でしょう。例え非現実的だろうと、その方が精神衛生上いいのです。

その反面、確かに癌治療に対して非現実的な期待を持っている人も存在します。患者自身より周りの人間にそういうタイプが多い気がします。私の友人、知人に「奇跡の薬など存在しない」と何回説明したかわかりません。新しい薬や治療法が報道されると、それを小耳にはさんで深い部分までは考えもせずに「凄い薬があるんだってね〜」と無邪気に喜んでいる人をよく見かけます。どうすれば癌を予防できるか、どうすれば癌を早期発見できるかについても、テレビや雑誌で紹介された内容を額面どおりに受け取りすぎて、実際はそう単純ではないことをわかっていない人が結構多いです。

治験の話に戻りますが、例えば治験のインフォームド・コンセントを取る際に、口頭でリスクについてはサラッと流し、恩恵(の可能性)を中心に説明する医師もいるのではないでしょうか。でもそれは必ずしも患者を騙そうとしているのではなくて、患者を力づけようという善意から…と私は考えたいです。恐らくそういうアプローチの方が患者受けも良いという気がします。非現実的な楽観主義は、癌という厳しい現実に押しつぶされない為に人の心が生んだ防衛メカニズムなのかもしれません。


(引用元はLAタイムス学術誌のアブストラクトです。)
posted by leo at 17:05| Comment(0) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月10日

麻薬と薬

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癌が進行するにつれ痛みの管理は深刻な問題になっていくようです。いつものんびり構えていて、まぁ癌も身体の一部だからね〜などと寝ぼけたことを言っている私も、この点について考えるとしょぼ〜んとしてしまいます。まっ今から悩んでも仕方ないんですが。

疼痛緩和の代表的なお薬はオピオイド系の鎮痛薬です。麻薬の取締りが厳しい日本では「医療用麻薬」などと呼ばれ、使用を躊躇する人もいるかもしれません。しかし、医師の監督下で癌の痛み止めとして使うオピオイドで麻薬中毒になることはありません。痛みは我慢せず積極的に緩和処置を受けることをお勧めします。欧米では癌だけでなく、関節炎や線維筋痛症、腰痛などにオピオイド系の鎮痛薬が処方されることも少なくないそうです。ただ、このカテゴリーでは時おり薬物乱用のケースも見られるため、各国で医師向けのガイドラインを作成し、オピオイド薬が必要な患者の絞込みやオピオイド処方後の経過観察の強化など、薬が正しく使われるよう慎重な取扱いを呼びかけています。

で、ここから先は癌とは関係なくなってしまうのですが、オピオイド薬を単に麻薬として使うオピオイド中毒者も残念ながら増加の一歩を辿っています。もちろん欧米での話です。仮病を使ったり、処方箋を改ざんしたり、闇ルートで売人から買ったり…あの手この手でオピオイドを入手しているようです。もっと恐ろしいのは、オピオイド欲しさに薬局に強盗に入る若者がアメリカで続出していることです。(国柄の違うカナダはではさすがに強盗事件は起きていません。)

アメリカの薬局強盗は過去3年間に1800件以上発生しました。州別に比較すると、件数が多いワースト5はフロリダ、インディアナ、カリフォルニア、オハイオ、ワシントン。昨年1年間に最も件数が増加したのはメイン、オクラホマ、オレゴンでした。強盗の目当てはオキシコンチン。銃、鉈、ナイフ、電気ドリルなどの武器を手に襲撃してくるのですから薬局だってたまったものではありません。オキシコンチンの取り扱いを一切止めてしまった薬局もあり、近所の薬局で痛み止めを買えなくなってしまった癌患者はいい迷惑です。

オキシコンチンを販売している製薬会社(Purdue Pharma)は、薬屋さんを対象に強盗防止策や強盗にあった際の心得の講習を開いています。不運にも強盗にあってしまったら逆らわずに言うとおりにするのが一番。防止策としては:

- より高度な防犯カメラを設置する。
- 強盗が飛び乗れないようにカウンターを高くする。
- ショーウィンドウを防弾ガラスにする。
- 客がブザーを押さないとドアが開かないようにする。
- 店内ではフードやサングラスを着用しないよう客に求める。
- 保管庫にタイマー付きロックを取り付け、一度に少量しか出せないようにする。
などが挙げられます。

麻薬としてのオキシコンチンの相場は1ドルで1mg。80mg入りの錠剤なら1錠が80ドル。いいお値段です。そのため強盗に入るのは中毒者本人だけでなく、一儲けしようと目論む売人も含まれるそうです。オピオイド薬は、鎮痛効果は高いですが眠気や便秘といった副作用を伴うので、服用せずにすむなら服用したくない…と考えるのが普通なんですけどね〜。痛みのない人が飲んだ場合にどんな薬効が現れるのか想像もつきません。

最後に「医療用麻薬」の話に戻りますが、実はカナダでは医療目的に大麻を使用することが許されています。「医療用大麻」です。癌、エイズの他、多発性硬化症、脊椎損傷、癲癇などの症状を緩和するのが目的で、これらの疾患を持ち大麻の使用を希望する人は国に申請書を出して許可を貰います。許可が下りたら、自分で大麻を栽培するか(笑)、国から大麻を購入するか(爆笑)のチョイスがあります。国からの大麻購入費用は州の健康保険の適応外ですが、種を買って自分で栽培する場合は、栽培にかかる費用が税金控除の医療費枠に含まれます。カナダって変な国でしょ。
posted by leo at 14:09| Comment(2) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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