2011年03月27日

CTスキャン考

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大地震に伴う原発事故については、在カナダ日本人の間からも不安の声が上がっています。住み慣れた我が家を離れて不自由な避難生活を送っている周辺住民の方々、危険と知りつつ復旧作業にあたる現場作業員の方々、せっかく育てた農産物を処分しなければならない農家の方々… さぞ苦労されているでしょう。一日も早く問題解決に向かうよう祈っています。

放射能の危険性について語る際に、しばしば引き合いに出されるのが医療現場での被爆です。放射線は癌の治療に用いられるばかりでなく、様々な検査にも使用されています。特にCTスキャンは普通のレントゲン等と比較して浴びる放射線の量が多いので、恩恵とリスクをよく考えた上で撮るかどうかを決めるべきと言われています。

アメリカのRadiologyInfo.org(患者向けの放射線情報サイト)によると、被爆量は以下の通りです。単位はミリシーベルトで、括弧内は自然に浴びる放射線量との比較と発がんリスク増加度です。

歯医者さんで撮るレントゲン:0.005 mSv (自然放射線1日分、発がんリスク増加→ほとんど無し)
胸部レントゲン:0.1 mSv (10日分、リスク→最小限)
マンモグラフィー:0.4 mSv (7週間分、リスク→とても低い)
頭部CT:2 mSv (8ヶ月分、リスク→とても低い)
胸部CT:7 mSv (2年分、リスク→低い)
腹部CT:15 mSv (5年分、リスク→低い)

そして、私たちがよく撮る造影剤なしでピピピっと1回、造影剤を入れてピピピっともう1回する腹部CTスキャンでは、被爆量も倍となり30 mSv (10年分、リスク→中くらい)です。

随分多いのねと思う方もいらっしゃるでしょう。でも喫煙に比べたらささやかな発がんリスク増加だそうです。また医療被曝の結果がんになって死ぬ確率は、高速道路の自動車事故で死ぬ確率と比べても低いと聞いたことがあります。

つまるところ、CTスキャンが本当に診断に必要であれば恩恵の方がリスクより大きく、多少被爆してもCTを撮る価値があるのだと思います。問題はあまり必要ないのに(レントゲンやエコーで十分なのに)CTスキャンを撮ってしまう「CT乱用傾向」が一部の医療現場で見られる点にあります。昨年発表されたアメリカの癌研究所(NCI)の試算によると、2007年の1年間にアメリカ国内で行われたCT検査が、将来29,000件のがん罹患に繋がるであろうという結果が出ています。一人ひとりのリスク増加度は少なくても、国民全体を合わせるとけっこうな数になるわけです。

また、強い腹痛のため救急医療科で診察を受けCTスキャンを撮った患者1168名へのアンケート調査では:
- CT検査や組織検査が含まれることで診断への信頼感が大幅増(20%→90%)
- 普通のレントゲンと比較してCTの被爆量が多いことに気付いていない(70%)
- 参加者の多くは医療現場での被爆と発がんリスクとの関係について知らない
という結果でした。

確かに体の不調を訴えているのにレントゲンを撮っただけで帰されたら面白くない人は多いでしょう。医師の側からすれば患者を満足させたいという気持ちがあるのかもしれません。それに検査しないで万が一にも重病の発見が遅れたら訴えられる可能性だってあります。一番困るのは、保険でカバーされてるからとりあえず撮っちゃおうと安易に検査を行うことで、これは健康保険が個人単位(国の財政を圧迫しない)のアメリカで多そうです。

さて、癌の患者がCT検査をするのは、10年先の発がんリスクより今ある癌をどうにかすることの方が先決なので、当然必要な処置だと言えます。完全寛解している人が定期的にCTを撮った方が良いのかどうかについては意見が分かれます。患者によっては心配性で、異常がないことをしょっちゅう確かめないと気が気でない人もいるでしょう。寛解中のCT撮影頻度については、マーカーが上昇するなり怪しい症状が出るなりするまで待った方がいいのか、何もなくても1年に1度くらいは撮った方がいいのか、いやいや癌は成長が早いんだから6ヶ月に1度は撮った方がいいのか… 医師によって様々な見方があるでしょう。患者としては、自分の価値観に合った方針を担当医とよく相談して決めていくしかないような気がします。

ちなみに私は癌と診断されてから今までに撮ったCTスキャン(頭部、胸部、腹部)の合計で292 mSvくらいは被爆しているようです。また来月撮らなくっちゃ〜。 

posted by leo at 20:35| Comment(2) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月17日

忘れられぬ朝

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カナダで暮らすようになって、ニュースで「earthquake」という言葉を耳にする度に、どこで起きたの?日本?といつも緊張します。日本でないとわかると正直ホッとします。(被害にあわれた国の方には申し訳ありませんが。)日本で地震があったというニュースを聞いた時は、まずインターネットで日本のサイトを開き被害がなかったかどうか確かめます。カナダやアメリカでは地震の大きさをマグニチュードのみで判断し、震度という測定方法は知られておらず、震源地の深さや震源地からの距離といった詳細にもあまり注意を払っていないような感じがするからです。

3月11日の朝6時(日本の夜8時にあたる)、目が覚めていつものようにラジオのニュースをつけました。日本で巨大地震発生の報に眠気がふっとびました。すぐにPCを起動し日本のニュースサイトで情報確認。私の家族は群馬県に住んでおり、親戚も埼玉、神奈川と震源地からは離れています。この距離なら大丈夫だろうと思いながらも一応電話をしてみました。が、電話は繋がりませんでした。

その日は一日中職場で日本の動画サイトが配信しているNHKのニュースを音声を消して見ていました。気仙沼の火事の映像を見て息を呑みました。夜通し余震が続いており、誘発された地震が長野あたりでも何度か起きた様子なので、帰宅後(日本で12日の午前中にあたる)再び実家に電話すると、3回目くらいでやっと繋がり母の元気な声を聞くことができました。

日本にいた頃(今から20〜30年前の話です)、東海地震や首都圏直下型地震は何時起きてもおかしくないなどと言われ、私が生きている間に必ず起きるだろうと自分でも考えていました。その後1995年に阪神・淡路大震災が起き、今度は東北地方太平洋沖です。どんなに科学が進んでも地球の奥底での動きについて正確に把握することは難しいのでしょう。

冬は寒いものの地震の心配の無いカナダ東岸に移り住み、癌になり、別に今すぐどうこうなる訳ではありませんが、これから先20年も30年も生きるかどうかについては大きなクエスチョンマークが付いてしまいました。日本で大災害が起きたという悲しい知らせを聞くのは、もうこれで最後なのかなぁという思いがふと胸をよぎりました。

人の命とは儚いものですね。沢山の沢山の健康な人の命が一瞬にして失われた事実をどう受け止めていいものか…言葉ではうまく言い表せません。

犠牲になった方のご冥福をお祈りするとともに、これ以上被害が広がらないこと、被災地に一日も早く平和が戻ることを願ってやみません。
posted by leo at 19:46| Comment(2) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月11日

そっと底上げ

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Bで終わる薬の第2弾はFarletuzumabです。もともとこの薬の開発をしたのはMorphotekというアメリカの会社ですが、Morphotekがエーザイに買収されたので一応日本の薬ということになるのかもしれません。(日本の大手製薬会社が海外で新薬開発をしている中堅企業を買収することが増えてきました。)

Farletuzumabはヒト化モノクローナルなんたらかんたらという、例によって難しい能書きの分子標的薬です。要は葉酸受容体αなるものの抗体だそうです。葉酸受容体αは、正常な細胞には少ないが大部分の上皮性卵巣がんにおいて過剰発現が見られる代物です。Farletuzumabが葉酸受容体αと結合すると細胞増殖が抑制されたり細胞死が促進されたりする、とマウスを使った実験で確認されています。

Farletuzumabのフェーズ2治験結果は昨年のASCO(米臨床腫瘍学会)の総会で発表されました。ファーストラインのカーボ+タキソールの治療終了後6ヶ月以上経って再発した「白金感受性有り」の患者さん54名が参加しました。54名のうち症状のでている方26名はカーボ+タキソール+Farletuzumabの治療を、症状なし(CA125値の上昇のみ?)の患者さん28名はFarletuzumab単剤の治療を受けました。後者のうち21名は単剤治療に引き続き抗がん剤との併用治療を受けました。(単剤では効かなかったのかな?)併用投与6回が済んだ患者さんはさらにFarletuzumab単剤で地固めをしました。

併用投与を受けた参加者のうち治療効果の測定ができたのは44名。その89%(39名)は治療終了後CA125が正常値の範囲内に下がったそうです。また21%(9名)の参加者は、Farletuzumabを含む療法後の2度目の寛解期間が1度目の寛解期間と同じか、1度目よりも長いという結果も出ています。これは偶然でないとすれば画期的なのかもしれません。再発癌の場合、2度目の寛解は1度目より、3度目の寛解は2度目より…と癌が大人しくなる期間は回を重ねるほど短くなっていくことが多いからです。2度目、3度目の寛解まで行き着かない人だっているのです。

もう一つ、Farletuzumabを加えたことで効果が高かったと見られているのは6ヶ月以上12ヶ月未満に再発した患者群(12名)です。12ヶ月未満に再発だと一応「白金感受性有り」の部類には入るものの、1年以上経って再発したケースよりは厳しい状況となりがちです。にもかかわらず全員に何らかの効き目(癌の縮小もしくは進行停止)が見られました。

てなわけで、有望視されたFarletuzumabは現在フェーズ3の治験中です。参加者は白金感受性のある再発卵巣がん患者900名。
カーボプラチン+タキソール+Farletuzumab(1.25mg/kg)
カーボプラチン+タキソール+Farletuzumab(2.5mg/kg)
カーボプラチン+タキソール+プラセボ
の3組に分かれて効果の違いを比較しています。6回の治療後はFarletuzumab(またはプラセボ)のみで維持療法を続行。(癌が進行するまでず〜っと続くらしいです。)投与方法は週1回の点滴です。

さて、Farletuzumabの長所のひとつは副作用が軽いことだと言われています。(無いとは言いません。)もちろん予期せぬ重篤な副作用が何時なんどき浮上するかもしれませんが、少なくともフェーズI、II治験では重い有害事象は報告されませんでした。グレード1〜2の比較的マイルドな疲労感、発熱が主な副作用のようです。そのためカーボ+タキソールに付け加えても、2種併用の場合と比べ副作用が重くなるという心配はありません。(希望的観測にすぎませんが。)

Farletuzumabという薬を最初に耳にした時、何かパワーに欠けるな〜という印象を受けました。しかし治験の結果をよく読むと、その控えめで穏やかなキャラに好感が持てるような気もしてきました。血管新生をいじくらないから高血圧とかの心配もないし、ひょっとしたらアバスチンよりいいかも…と少し浮気心を出している今日この頃です。

(まあお値段にもよりますけどね。エーザイさん、安くしといてね♪)
posted by leo at 15:47| Comment(0) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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