2011年04月26日

誰が治療するのか

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癌になった人にとって誰に治療をお願いするかは重要な問題です。個々のお医者様の腕や人柄、評判も気になりますが、何を専門、得意とする先生が担当医になるかによってその後の治療生活に影響がでるのではないか…と感じる患者も少なくないでしょう。

アメリカやカナダでは:
Gynecologic Oncologist(婦人科腫瘍医)
Gynecologist(婦人科医)
Surgeon(外科医)
Medical Oncologist(内科腫瘍医)
といった異なる専門分野のドクターが卵巣がんの治療に係わります。

Gynecologic Oncologistは婦人科悪性腫瘍が専門で、婦人科であれば手術からキモセラピーまで一貫した治療を与える資格と経験を身につけています。つまり外科処置を施すことができて且つ抗がん剤の知識もあるドクターです。
Gynecologist(婦人科医)は婦人科が専門で、良性腫瘍であれば普通この方達のお世話になります。良性の見込みでGynecologistに手術をしていただき、組織検査の結果悪性とわかるケースも少なくないようです。
Surgeon(外科医)は手術の専門家。婦人科に限らずどこの部位であっても手術なら任せておけというドクターです。
Medical Oncologist(内科腫瘍医)はキモセラピーの専門家。抗がん剤についての知識は誰よりも深く、どんな癌にでも化学療法を施すことができます。
言い換えると上の二つは特定の部位を専門とし、下の二つは特定の治療法を専門としているようです。

アメリカで1992年から1999年までの間に上皮性卵巣がんの手術を受けた3067名の患者データを研究した結果によると:
執刀医の内訳は
Gynecologic Oncologist 33%
Gynecologist 45%
Surgeon 22%
だそうです。そしてGynecologic Oncologistが手術した場合
@ステージを見極めるために綿密に検索する
A初期であってもリンパ節郭清を行う
B進行している癌は腫瘍減量術が施される
傾向が大きいという結果でした。(あくまでも統計です。個人差がありますから、Gynecologic Oncologistと同じくらいきめ細かい手術を行うSurgeonだっていることをお忘れなく。)

術後の経過もGynecologic Oncologistの方がSurgeonよりも若干良く、術後30日以内に亡くなる方の率は2.1% vs 4.0%、術後60日以内に亡くなる方の率は5.4% vs 12.3%でした。Gynecologic Oncologistに手術していただくと閉塞や合併症をおこす可能性がほんの少しだけ低くなるようです。生存期間については、執刀医のバックグラウンドよりも癌の進行度の方が影響大と言われています。しかし、明らかに悪性とわかる進行した症例を扱うことの多いGynecologic Oncologistと初期の症例を多く含むGynecologistの間で、患者の生存期間に大きな差はありませんでした(中央値32.5ヶ月 vs 35.6ヶ月)。ちなみにSurgeonが手術したケースの生存期間中央値は24.3ヶ月でした。Surgeonは救急外来で手術することも多いというファクターを加味しても、初期手術から婦人科癌の専門家にお願いするメリットはあるように思えます。むろん住んでいる地域や癌発見までの経緯によって制限がありますから、どこまで患者の側でコントロールできるかは難しいところです。

さて術後、或いは再発した場合の化学療法は誰にお願いすべきなのでしょうか?GynecologistやSurgeonが手術した場合は、その後Medical Oncologistにバトンタッチするのが普通です。Gynecologic Oncologistが手術した場合は、そのまま化学治療もGynecologic Oncologistが指揮をとるかMedical Oncologistに引き継ぐかまちまちのようです。化学治療をGynecologic Oncologistの下で受けるのと Medical Oncologistの下で受けるのとで、治療成績やQOLに違いがでるのかどうか気になるところです。

Gynecologic Oncologistは基本的には外科医で、抗がん剤の効果や有害事象についての知識は婦人科がんに用いられる化学療法の範囲内に限られています。対するMedical Oncologistは化学療法のみを専門とするキモのプロであり、他の癌に用いられる抗がん剤についても熟知しており、それを婦人科がんの治療に応用できる強みはあります。(未承認薬をオフレーベルで使えるアメリカにおいては特にそうだと思います。)故に化学療法はMedical Oncologistに任せた方が患者が長生きできるのではという見方があります。

ところが、アメリカで1991年から2001年までの間に卵巣がんと診断された人のデータを基に、Gynecologic Oncologist からキモを受けた患者群344名とMedical Oncologistからキモを受けた患者群344名を比較した調査では意外な結果が出ました。5年生存率はGynecologic Oncologist組が35%、Medical Oncologist組が34%とほぼ同じ。化学療法を受けた期間はGynecologic Oncologist組がトータルで12.1週間、Medical Oncologist組が16.5週間。当然のことながら腫瘍内科医の方が抗がん剤投与により積極的な傾向が見られました。これに伴い、患者が抗がん剤の副作用に悩まされた期間もGynecologic Oncologist組がトータルで8.9週間、Medical Oncologist組が16.2週間、と後者の方が長期間でした。こうした治療ボリュームの違いは術後のファーストラインと再発治療の両方で見られたそうです。

複雑な問題をあえて単純化して「Medical Oncologistにかかると沢山化学療法を受けるはめになるが、生存期間が長くなるわけではない」(苦しみ損)とサクッと言い切ることもできます。ただこれも統計、傾向のお話。たった1つの研究結果から全てを決め付けるのは非常に危険でもあります。この調査を行った研究者は、Medical Oncologistはキモの専門家として抗がん剤の有効性をより深く信じているのではないかと分析しています。一方、婦人科の癌を最初から最後まで全部診るGynecologic Oncologistは、癌の進行を食い止めるよう努力しながらも、どこで患者のQOLを優先させるべきなかの判断がうまいのではないかとも推察しています。

皆さんの担当医は何を専門にされていますか?私は救急外来での手術(1回目の手術)はGynecologist、それ以降(2回目の手術とキモ)はGynecologic Oncologistのドクターにお世話になっています。最初からGynecologic Oncologistだったら良かったのになぁと思うことはありますが、ERで即手術が必要な状況だったから仕方ないです。私のドクターはGynecologic Oncologistだからなのかもしれませんが、必要な化学療法は行うけど無理はさせない方針です。がっつり抗がん剤をやりたい患者さんには物足りないかもしれませんが、QOL重視の私には合ったドクターだと一応満足しています。
posted by leo at 15:32| Comment(0) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月11日

トリセルって何?

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日本では今も震災の傷跡が生々しく、原発問題や頻発する余震(にあたるのかな?)で不安な毎日を過ごされている方も多いかと思います。心よりお見舞い申し上げます。私の方はブログを放置気味ですが一応元気でやっております。カナダにもようやく春の兆しが見え始めましたが桜が咲くのは例年5月の初旬です。4月でも雪が降ることがあるので油断できません。

さて本題です。

トリセルという名前の薬を聞いたことがありますか?Toriselは商品名で、一般名はTemsirolimusです。2007年にアメリカのFDA(食品医薬品局)が、腎細胞がん(腎がん)の治療用に承認した薬です。見つかった時に既に進行しており、予後が厳しいと見なされた腎がんの患者さんを対象にした治験では、TemsirolimusのOS(全生存期間)が10.9ヶ月、既存治療薬のインターフェロンαのOSが7.3ヶ月と統計的に有意な差をつけて薬効を示しました。

腎細胞には幾つか組織型がありますが一番多いのは明細胞だそうです。そんなことから明細胞の卵巣がんにも効果があるのではないかと期待されています。と言ってもまだ研究データ不足で確かなことは不明です。それどころか、腎がん以外の何の癌に効くのかさえ未だ特定できておらず、卵巣がんを含めた複数の固形癌をひとまとめにした治験が行われていたりするほどです。私の病院では、卵巣がん、子宮内膜がん、肝臓がんなどの患者さんを対象に、トリセル+アバスチン併用の治験が進行中です。

昨年のASCO(米臨床腫瘍学会)の総会で、日本の医師グループが明細胞の卵巣がん患者にTemsirolimusを投与した結果を発表しました。しかし対象となったのはたったの6名。残念ながら数が少なすぎて、エビデンスのレベルとしては代替療法などと大差ないような気がします。ともあれ6名のうち3名は部分奏効。2名は腫瘍の成長が一時ストップ。残る1名は効果なしでした。PFS(無進行期間)の中央値は6ヶ月。興味深いのは、薬の効果が高かった人ほど副作用が軽めだったということです。

TemsirolimusはmTORキナーゼの細胞内シグナル伝達を阻害します。と書いてみましたが詳しい仕組みは文系の私には難解すぎます。このシグナルがないと細胞が成長、増殖しにくくなるんです…よね?とうっすら理解できる程度です。いわゆる分子標的薬とは異なる範疇となり、免疫抑制など副作用も決して少なくはないようです。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州の癌センター資料によると、主な副作用は以下の通りです。

貧血(赤血球減少)45〜94%(幅があるのは治験によって差があったため)
血小板減少 14〜40%
体力衰弱 51%
吐き気 37%
食欲不振 32%
口内炎 20〜41%
発疹 47%
免疫低下による感染 20〜27%
ポッタシウム減少 21%
中性脂肪増加 27〜83%
コレステロール増加 24〜87%
血糖値の上昇 16〜89%
クレアチニン値の上昇 3〜57%

その他、下痢や発熱、肝機能障害、呼吸困難なども報告されています。またアレルギー反応を起こす人が多いので、事前に抗ヒスタミン剤を投与することが勧められています。

見た感じ、お馴染みの殺細胞系の抗がん剤といい勝負の副作用ですね。この薬の方が代謝異常は多いみたい。でも代謝異常は薬で抑えればいいのだから、髪が抜けるよりいいのかしら???海外の掲示板など読む限りでは、「3年もお世話になってます」と言う人から「全然効きませんでした」と言う人まで様々です。まぁそんなもんでしょうね。

治験の枠外でトリセルが卵巣がん治療の選択枝の一つに加わるのかどうか…それがわかるのはまだ大分先のことだと思います。それが待てない人は治験の有無を調べたり、日本の場合は個人輸入もできるのかな?いずれにせよリスクも大きいことを考慮の上決めて下さいね。
posted by leo at 20:57| Comment(4) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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