2011年06月30日

頑張った甲斐も無く(penmachineその3)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。さぼっていたために間があいてしまいましたが今回は第3部です。フラッと立ち寄っていただき話が見えない方は1部2部からお願いいたします。)

思ったより癌が進行していたことにショックを受けながらも、少なくともステージ4ではないんだと自分を慰めるDerekさん。直腸下部にできた小さな癌は経肛門的内視鏡下小手術(TEM)で切除済みですが、S字結腸の腫瘍は手付かずです。

治療方針は、まず抗がん剤と放射線で残った腫瘍を小さくしてからメインの開腹手術を行う方向で決定しました。Derekさん(当時37歳)のように若い患者の場合は、治療が成功すれば長い人生が残っており、逆に言えば癌が再発可能な期間も長い。よって治療は極めて積極的に行うべき、というのが医師からの説明でした。抗がん剤は標準的なレジメンに加えて治験も3件参加することになり、Derekさん自身もやる気満々だったようです。術前のキモは、まずアバスチンを単剤で2週間、続けてアバスチン+Oxaliplatin(どちらも週1点滴)+Capecitabine(経口)の組み合わせで投与。これに平行して週5日の放射線治療を5週間続けます。Capecitabineは放射線を受ける数時間前に服用するよう指示されました。

化学治療を開始する前の心境は、治療効果への期待と早く治療を終わらせて普通の生活に戻りたいという希望が混ざり合っていたようです。

抗体(アバスチン)を2週間、キモと放射線を5週間、PET/CT検査に組織検査、5〜7週間休んで開腹手術、1ヶ月の回復期間のあと術後化学療法を4ヶ月。治験に入ろうが入るまいが治療が全て終わるのは年末だ。
(2007年3月22日投稿「All guns blazing」より)

この薬(アバスチン)と4月に始まる他の薬が(癌を)連打してくれるだろう。放射線で更に攻撃して、それから手術だ。バンバンバ〜ン!いい調子だ。
(2007年3月29日投稿「Daffodils and IVs」より)

極めて前向きに治療に取り組むDerekさんですが、不安な気持ちを吐露されることもありました。

バンクーバーにも春が来た。草木は伸び、今日は17℃、明日は22℃まで気温が上がるらしい。あと何回春を見ることができるのだろう。避けて通れない考えだ。医師は僕の治療をcurative(治癒を目指した治療)と呼んでいる。化学療法、放射線、治験中の新薬、手術が僕の身体から全ての癌細胞を取り除くということだ。

確かにそうあって欲しいと思う。医師団と僕はあらゆる手を尽くして癌を破壊し、取り除き、全滅させようとしている。でもそれが起きない可能性だって決して小さくはない。癌細胞が僕の体内に居残り増殖して、更なる治療を必要とするようになる。そして治療が効かなくなる可能性もある。現時点で僕が5年以内に死んでしまう確率はかなり高い。数ヶ月前には考えてもみなかったことだ。

今は自分が死ぬ気はしない。でも無視することもできない。だから春が来て花が咲き始めたりすると、もう少しよく見ていよう、写真も取っておこう、なんて思ったりする。

(2007年4月5日投稿「How many springs?」より)

さて、抗がん剤と放射線の平行治療による副作用の重さは想像に難くありません。Derekさんが最も苦労されたのは、お通じ絡みの副作用でした。

下痢、便秘、腹痛。便は硬すぎるか水みたいになるかどちらか。多すぎる、少なすぎる、早すぎる、遅すぎる、全く出ないか手に負えないほど出るか。ガスが溜まって詰まってしまうか、ゆるゆるでコントロールできなくなるか。
(2007年5月13日投稿「Adventures in toileting」より)

そんな辛い思いをされたにもかかわらず、CT検査の結果、直腸の癌は縮小どころか大きくなっていることがわかったのです。さらに肺にも転移が見つかり、診断はステージ4に変わってしまいました。

今や僕の目標は、2010年にバンクーバーで開催される冬季オリンピックを見ることになった… 疲れる一日だった。泣いたり、笑ったり、友達と一杯飲んだり、妻や子供や両親をハグしたり… でも僕は闘い続ける。これから起こるであろうことを認め、受け入れるのと否定することの間にはっきりした境界線はない。僕は生まれつき楽天的な奴だが、全てうまく行くかの如く装うことはできない。既にうまく行っていないのだから。
(2007年6月26日投稿「Dead man walking?」より)

期待された術前の化学療法と放射線療法の効果を得られぬまま、粛々と開腹手術へ向かうことになったDerekさんでした。

(次回に続く)
posted by leo at 05:33| Comment(2) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月11日

駆け足のASCO

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先週末(6月3〜7日)にシカゴでASCO(米臨床腫瘍学会)年次総会が開かれました。そこでDerek K. Millerさんのブログについての記事をお休みして、今年のASCOで発表された期待の星(?)を幾つか紹介します。と言っても、実際にシカゴに行ったわけでもなく、仕事の合間にアブストラクトを斜め読みした一患者にすぎない人間の配信ですので、それなりの情報精度とご理解いただけると助かります。当方素人のため医学的な意味がよくわかっていないこともあるかもしれませんが、出来る限り原文には忠実にしますのでご容赦下さい。

さて、昨年の総会で主役だったbevacizumab(アバスチン)ですが今年も人気ナンバー1の座を守っております。

カーボプラチン+タキソール+アバスチン(フェーズIII、ファーストライン、アバスチンの維持療法付き)

この新レジメンはGOG0218とICON7という2つの大きな治験で好成績を出しましたが、昨年の時点ではPFS(無進行期間)の比較までしか出ていませんでした。ちなみにアバスチンを加えたPFSはGOG0218では4ヶ月、アバスチンの用量が半分のICON7では2ヶ月弱の延長という結果でした。今年はICON7の方からOS(全生存期間)の比較の中間発表がありました。集計済みなのは377名。治療終了後の約28ヶ月間にお亡くなりになった方の数は、カーボ+タキのみの組で200人、アバスチンを加えた組では177人。後者において亡くなった人が少ない傾向が出ているものの統計的に有意な差ではありません。予後の厳しい方(手術で癌を切除しきれなかったステージIIIとステージIV)だけに絞って分析すると、アバスチン無しが109名、アバスチン有りが79名と、やはりアバスチンを加えたグループの方が亡くなられた人が少なく、こちらは統計的に有意な差だとか。最終結果が待たれるところです。

アバスチンを他の抗がん剤と組み合わせた治験の結果も多数発表されています。

カーボプラチン+ジェムザール+アバスチン(フェーズIII、再発、白金感受性有り、アバスチンの維持療法付き)

この治験(OCEANS)はアバスチンとプラセボで比較しました。
PFS中央値→カーボ+ジェム+プラ:8.4ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:12.4ヶ月
OS中央値→カーボ+ジェム+プラ:29.9ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:35.5ヶ月
奏効率→カーボ+ジェム+プラ:57.4%、カーボ+ジェム+アバ:78.5%
参加人数は両グループとも242名。
アバスチンを加えたグループでは高血圧、タンパク尿といった副作用が増加しましたが、腸穿孔を起こした方はゼロでした。

@カーボプラチン+PLD(ドキシル)+アバスチン(フェーズII、再発、白金感受性有り)
APLD+アバスチン(再発、白金感受性無し)


@ではカーボ+PLDは4週に1回、アバスチンは2週に1回投与されました。PFSが14.1ヶ月、奏効率78.3%という結果が出ています。Aは日本で行われた臨床試験です。PLD+アバの週1回投与により75%の参加者が奏効もしくは腫瘍が大きくなるのが止まったという恩恵を受けました。こちらのPFSは8ヶ月でした。どちらも規模が小さく(前者の参加者数54人、後者38人)、比較対象なしの試験デザインでしたが今後が期待されます。

アバスチンその他

アバスチンとsorafenib(ネクサバール)やアバスチンとtemsirolimus(トリセル)の併用も研究中のようです。現時点では実験的な組み合わせではありますが成績は悪くないようです。アバ+ネクサでは参加した25名中、腫瘍が縮小または増大が一時停止した人22名。アバ+トリでは25名中14名が治療開始から6ヶ月後も無進行の状態を保っているいるため、参加者をさらに募って研究を続行することが決まりました。

PARP阻害剤

アバスチン以外で有望視されているのはPARP阻害剤です。PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)は癌細胞のDNA修復に必要な酵素だそうで、それを阻害することで癌を細胞死に導くのが狙いらしいです。

olaparib(フェーズII、再発治療後の維持療法、白金感受性有り、漿液性のみ)

PARP阻害剤のひとつolaparibは遺伝性の卵巣がんに効果があることで知られていましたが、間口を広げた治験の結果、BRCA1やBRCA2遺伝子変異の無い人にも恩恵をもたらすことが確認されました。再発治療により部分もしくは完全寛解中の漿液性卵巣がんの方が対象。維持療法としてolaparibを服用したところolaparib組のPFS:8.4ヶ月、プラセボ組:4.8ヶ月とPFSの延長が見られました。主な副作用は吐き気(68%)、疲労(49%)、嘔吐(32%)でしたが、大部分は軽度の症状だったそうです。


カーボプラチン+ジェムザール+iniparib(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

別のPARP阻害剤iniparibの治験も始まりました。白金感受性ありのグループでは最初に参加した17名中12名に奏効。白金感受性なしのグループでは最初に参加した19名中6名に奏効。どちらのグループも見込み有りとしてフェーズIIへ突入する模様です。このiniparibという薬は、トリプルネガティブで転移した乳がんのファーストライン治療薬として過去に治験を進めていました。フェーズIIまでは好成績で大きな期待を集めたもののフェーズIIIでこけてしまったという経緯があります。しかしアバスチンのように、乳がんよりも卵巣がんに効果を発揮する可能性は大いにあります。そうであって欲しいと思います。

新生血管阻害薬

aflibercept+ドセタキセル(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

アバスチンと同じ新生血管阻害薬で注目されているのがafliberceptです。標的はVEGF(血管内皮増殖因子)とPLGF(胎盤増殖因子)で、どちらも癌の血管新生に必要な因子だそうです。ドセタキセルとの併用で再発治療に用いたところ、白金感受性のある参加者13名中10名、白金感受性のない参加者33名中15名に奏効。両グループ合わせてPFSの中央値が6.2ヶ月、OSが24.3ヶ月でした。主な副作用は好中球減少(72%)、疲労(50%)、呼吸困難(22%)で重い症状も含まれます。高血圧は11%の人に起こりましたが軽度でした。

その他

PLD(ドキシル)+EC145(フェーズII、再発、白金感受性無し)

EC145(新薬なので名前がまだ無い!)は、上皮性卵巣がんの多くに発現が見られる葉酸受容体を狙い撃ちします。治験ではPLDとEC145の併用 vs PLDのみで比較し、参加者は149名でした。PFSはPLD+EC145:21.7週(5.1ヶ月)、PLDのみ:11.7週(2.7ヶ月)という結果がでています。PFSが短めなのは白金感受性の無い方、失ってしまった方、難治性の方が対象だからだと思います。興味深いことに、薬とセットでEC20という分子造影剤も開発中だそうです。EC20を用いた検査で葉酸受容体の発現が認められた人のみでPFSを比べると、PLD+EC145:24週(5.6ヶ月)、PLDのみ:6.6週(1.5ヶ月)でした。癌の治療薬は、「どのくらい効くか」だけでなく「誰に効くのか」を調べるのも重要です。そういう意味ではセットで開発というのはツボかもしれません。

以上、駆け足のASCO2011でした〜!
posted by leo at 15:34| Comment(19) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月05日

坂道を転がるように(penmachineその2)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。今回は第2部です。)

Derekさんはファミリードクターから癌であることを告げられました。ファミリードクターは強いて言うなら日本の内科に近い印象を受けますが、内科だけではなくちょっとした外傷や皮膚の疾患、目や耳の不調などでも最初はファミリードクターに診ていただくのがカナダやアメリカの医療システムです。実際にファミリードクターとどんな会話があったのかはわかりませんが、Derekさんは自分の癌は初期であると受け取られたようです。

僕は多分ステージゼロではないかと思う。だとしたら必要なのは内視鏡による手術だけかもしれない。それで癌を切除してもらったら治るのではないか…
(2007年1月8日投稿「Please excuse the salty language」より)

しかしそう簡単には行かないことが徐々にわかってきました。大腸内視鏡検査にCT検査、内視鏡超音波検査が次々と追加され、腫瘍の切除には開腹手術が必要であると判明したのです。

(追加の検査や開腹手術のことを)誰も前もって教えてくれなかったのがイラつく…治療は継続中。僕はまだ楽観的に捉えているが、ベストのシナリオで事が運ぶのをもはや期待しないようになってきた。
(2007年1月24日投稿「Still in the woods」より)

内視鏡検査によるとDerekさんの腫瘍は大きさが3〜4cm。切除手術は大掛かりになるので2ヶ月は休職が必要というのが医師の話でした。

今のところ状況は非常に悪くもないが良くもない…転移しているようには見えないが、腫瘍を切除して組織やリンパ節を検査してみないと確かなことはわからないらしい。腸のほかの部分には何もないし肝臓も大丈夫だ…術後に化学療法や放射線治療をするのか、再手術が必要になるかどうかは未定だ。春中旬までにはほぼ正常に戻って今年の夏を謳歌できることを期待、希望している…精神的に押しつぶされそうだが、それが僕の治療計画だ。というわけで、今日1月31日を僕の癌治療のゼロ日目と呼ぼう。
(2007年1月31日投稿「I’ll be calling this Day Zero」より)

ところが治療はなかなか始まりません。直腸にできた良性らしき小さな瘤をまず切除し、それを検査してからメインの開腹手術をする予定までは決まったものの、最初の手術の前に再度S字結腸鏡検査を受けるよう言われました。Derekさんは苛立ちを感じ始めます。

もう検査には疲れてきた。同じ検査を3回も4回も繰り返すと余計に疲れる。去年の11月下旬から面談やら検査やら何度もやってきて、その間も癌は大きくなっていって、なのに誰も直接癌に手を下していない。僕は癌を取って欲しいんだ。
(2007年2月6日投稿「I’m confused」より)

そして癌であることの重圧が耐え難い日もあったようです。

午前1時なのにまだ起きている。眠れない…今日は怒りっぽくイライラしていた。その後、子供達の前で泣いてしまった。娘達は泣きたい時には泣いてもいいことを分かっていて、泣いてもいいんだよと言ってくれたけれど、父親が癌になって泣く姿なんて見せるべきではなかった。でも僕は怖い。若くして死ぬのが怖い。僕は怖い。
(2007年2月7日投稿「Miracle cures, and being afraind」より

2007年2月20日、ようやく1回目の手術が行われました。経肛門的内視鏡下小手術(TEM)という手術による小瘤の切除です。この程度の手術は欧米では日帰りで行われます。Derekさんは朝8時に手術室に入り9時半には麻酔から覚め、午後3時半には無事帰宅しました。この小粒については恐らく良性であろうというのが医師の見立てでした。Derekさんもそのつもりで手術を受けたのですが…

2〜3週間前に切除した小さな瘤は結局癌だった。おまけに一緒に切除したリンパ節からも癌が見つかった。執刀医のDr. Brownは組織検査の結果にショックを受けたと言っていた…癌は直腸の下部と上部の2箇所でリンパ節にも転移している。とするとステージ3ということだろう。ステージ0、1、2であって欲しかったのに。(でも少なくともステージ4ではない。)
(2007年3月5日「Let’s reset that timeline again」より)

日に日に深刻度を増す病状にもかかわらず、Derekさんが前向きに考えようと努力されている様子が伝わってきます。

(次回に続く)
posted by leo at 14:12| Comment(0) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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