2009年03月09日

病気が象徴するものA

スーザン・ソンタグ(Susan Sontag)のイルネス・アズ・メタファー(Illness as Metaphor)という本で、とても奥の深い癌の考察がされているので、もう少し紹介しておこうと思います。

日本語でもある程度そうなのかもしれませんが、英語では特に、癌という病気を語るときに戦闘的な言葉が使用されます。
例をあげると:
がん細胞は侵略的(invasive)
原発の部位から体内に広がって他の臓器を植民地化(colonize)
身体の防御(defense)システムは癌に対して苦戦
強敵と戦うための治療は
−過激な(radical)手術(地上戦)
−放射線による爆撃(bombard)(空中戦)
−抗がん剤で癌を殺す(kill)(化学兵器)

こうした言葉が無意識に選択されている裏には、癌という病気が単なる病気ではなく、社会の敵(enemy)、悪(evil)の象徴として捉えられていることがある、とソンタグは考えています。

また癌のイメージには何かSF風なところもあります。
例:
癌は知能をもたぬ(non-intelligent)心を持たぬ(mindless)原始的な(primitive)侵入者
この異邦(alien)細胞の増殖で蝕まれた患者の身体は、もはや自分自身ではない(non-self)
他の何か(Other)へと変貌していく…
映画でいうと:
ボディ・スナッチャー(Invasion of Body Snatchers)
宇宙からの不明物体(The Blob)
遊星からの物体X(The Thing)

body snatchers.jpg

こうなってくると、もはや癌は宇宙からの侵略者。お腹に寄生するエイリアンです。
(このイメージが当たってるように思うのは私だけでしょうか。)

戦闘用語やSF的イメージの氾濫は、癌という病気に、医学的にまだ解明されていない部分が多いことに起因しているようです。原因がはっきりわからず、現在の治療法では完全に治しきれないケースがあるからこそ、「奇跡の治癒」を売り物にする業者が現れたり、環境汚染のせいだ、文明病だと言って、それで全て説明しようとする人が後を立たないのです。

(言うまでもなく癌は古代から存在していました。昔は、癌になる前に他の病気や怪我で死ぬ人が多かったから目立たなかっただけです。)



posted by leo at 17:56| Comment(2) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Leoさん、いつもコメントありがとうございます。前回書き忘れてしまったのですが、Leoさんのコメントに励まされました。確かに今は、何年か後の生存率の数字に惑わされるのではなく、治療を万全の体制で受ける時ですよね。
本題ですが、結核は昔から美化されていたんでしょうか。私が考えるに、結核が怖い病気と思われていた時代は、今のがんのように受け止められていたのでは?という気がします。医学の進歩とともに、それほど怖くない病気という認識となり、美化されはじめたのではないでしょうか。もっと医療が進めば、がんに対する描写も変わってくるのかも。
Posted by Mana at 2009年03月10日 01:24
上記の本によると、結核の美化はロマン主義の影響で始まったらしいです。
元気一杯でピチピチしてるより、青白くて痩せてて体が弱そうな方が
魅力的という感覚も、その頃(19世紀)できたのだそうです。
オペラ椿姫のヒロインは結核なんですよ。

癌とエイズはいまだにネガティブな印象がつきものですが
少なくとも北米では少しずつイメージが改善されてるような気もします。
癌になったのは悲しいけど、恥ずかしいことではないし
自分を責めたり、あまり不運を嘆いたりしないで、出来るだけ普通に生きていたいです。
Posted by leo at 2009年03月10日 15:32
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