2009年05月06日

医者のキモチA

『How Doctors Think』という本の中で、特に興味深かった、というかある意味で怖くなったのは
”The Eye of the Beholder”という章です。見る者によって見えるものが違うという話です。

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日本でもそうなのかもしれませんが、カナダでCT、MRIなどの検査を受けると必ず検査結果のレポートがついてきます。検査自体をするのは放射線技師の人、結果を分析してレポートを書くのは放射線医です。こうした仕事をしている放射線医の方と実際に顔を合わせる機会はめったにありませんが、この人達の観察力、洞察力が患者の将来に及ぼす影響は多大です。そしてこの人達とて間違うことはあるのです…それも結構な確率で。

まず初めに強調しておきたいのは、検査結果にエラーがあるというのは放射線医にヤブが多いからというのではなく、分析しなければならない情報の多さと時間の少なさに大きく関係しています。昔はレントゲンを3-4枚とってそれを分析すれば済んでいたのが、現在用いられているCTやMRIでは1回の検査で何百の画像があがってくるのです。1枚1枚丹念に見ていたら、1日に何人の患者の検査ができるでしょうか?次から次へと何百もの画像をすばやく見て、それでも微妙な違い、わずかな異常を発見しなければならないのです。

検査の誤差やエラーを測定するテストや研究も、あちこちで行われているようです。エラーには、同じ画像を何人もの医者が見て異なる診断をする場合と、一人の医者が同じ画像を時間をへだてて複数回見て(同じ画像とは知らされずに)違う診断をする場合があるそうです。

ミシガン州立大学で行ったテストでは、100人以上の放射線医を対象に60枚の胸部レントゲンを見せ、その内の1枚は鎖骨の無い患者の画像でした。参加者に、レントゲンは定期健診の為という前情報を与えると、なんと58%が鎖骨が無いことに気づきませんでした。レントゲンは癌の検査だと前情報を変えると、異常に気づく人の数が増えましたが、それでも17%は鎖骨の無い1枚の画像を見逃してしまったそうです。

もっと怖いのは、このテストで確度の高いトップ20の放射線医(95%は正確に診断した)とボトム20(75%しか正確に診断しなかった)を比べると、ボトム20の人の方が自分の診断に自信を持っていることがわかりました。

さらに画像を見る医師の気質によっても傾向が分かれました。思い切りの良いタイプの人は偽陽性(正常なのに異常と診断する)のエラーを犯し、慎重なタイプは偽陰性(異常なのに正常と診断する)のエラーが多かったそうです。この結果は私にとってちょっと意外だったのですが、要するに後者は、病気であると断定するのに慎重になってしまうということなのでしょう。

また参加者内で共通項として浮かび上がったのは、医師が一つの画像をあまり長く見すぎると(38秒以上)そこに無いものが見えてきてしまう、ということです。じっくり見れば良いというものではないのですね。言われてみるとなんとなくわかりますが、考えてもみませんでした。

別のテストで、110人の放射線医に148人のマンモグラフィーのスクリーニングをさせたところ、乳がんの有無が正しく診断された確率は、医師によって個人差があり、73から97%だったそうです。マンモグラフィーの診断は特に難しい面があります。癌を見逃したら大変なことになります。早期であれば根治可能なのに、発見できずに転移してしまったら予後が悪くなってしまいます。その反面、健康な女性に癌かもしれないと告げたら、再検査や組織検査がすむまで、もしかしたらその後もずっと、その人は「もし癌だったら…」という不安に苛まれることになるのです。マンモグラフィーがらみの誤診の訴訟もアメリカではよくあること。癌を見逃して訴えられたことのある放射線医は、その後、良性のように見えても組織検査をさせることが多くなるそうです。

どうしたら検査エラーを少なくできるのでしょうか?長年画像の診断をしてきた放射線医は、見た瞬間正常かどうかの直感が働くそうです。もちろん直感だけには頼らず、系統的なチェックリストに沿って精度を高める努力もされています。分析する画像数が多くなりすぎぬよう、十分な数の医師を保っておくことも大切です。無作為にケースを選んで、同僚同志で診断を比べたりすることも頻繁に行われているようです。

また検査を依頼する様々な専門医と放射線医とのコミュニケーションの仕方も違いを生みます。検査する患者の病歴をまるで伝えないのは、放射線医の手を後ろで縛るようなものですが、あまりにも検査目的を絞りすぎると、他の重要な疾患を見逃す要因になります。また、検査を依頼する側は常にはっきりした答えを期待しがちなのですが、実際には検査をしても白黒つけがたいこともあるのです。

患者の側はどう対応すれば良いのでしょうか?この本では、まず検査の精度には限度があり、エラーやバイアスが入ることもある、という現実をよく頭に入れて、必要とあらばセカンドオピニオンを求めるようすすめています。

ミシガン州立大学のテストを含め画像診断に関する生データ、論文は下記の文献で読めるそうです。
Journal of the American College of Radiology
Volume 3, Issue 6, Special Issue: Image Perception (June 2006)
ウエブサイトはこれです。
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posted by leo at 15:33| Comment(4) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
誤診というのはよくあることだと思います。
自分の病気を発見してもらえるか否かは、何だか運のようにさえ感じます。
TVの番組でもあるように、あちらこちらたらい回しにされて、それでも見つからない、
何人もの医者にあたって、ようやく見つかる。
初期の病気の症状は、あまりにも似通っているのでそれは仕方のないこと。
今はハイテク機械を駆使して、いろいろな病気の早期発見が可能になっているらしいけれど、
人為ミスでその技術が台無しになるのもばからしいことですね。
たぶん自分が病気になってなかったら、こんなことどうでも良いことだったのかも知れないけれど、
今はCTスキャンの結果さえ、なんかあまりあてにできないでいます。
Posted by yoshiko at 2009年05月08日 13:40
そそ なるほど と思いながら読みました。

最近思うのはお医者さんのレベルを患者は知らないし、ましては性格も知らない。

一生懸命努力するタイプだったら、自然とレベルも向上するのでしょうね。
Posted by でいご at 2009年05月08日 14:56
yoshikoさん、
画像を撮る技術ばかりすすんで、何百枚も画像があっても
それを見て診断するのは人間ですからね。
視力にも集中力にも限りがあるのでしょう。
いつかコンピューターが診断する時代が来るのでしょうか?
それも何だか怖い気がします。
Posted by leo at 2009年05月10日 17:54
でいごさん、
医者だから100%正しいとは限らないんですよね。
当然なんだけど考えるとショッキングです。
間違うことも結構あると思いますよ。患者に黙ってるだけで…
でも医者に偏差値つけて、それを公開したら偏差値の高い人に
ばかり患者が集中して、抽選で当たった人だけその医者に見て
もらえるとか、大変なことになりそうですよね。
Posted by leo at 2009年05月10日 18:07
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