2009年11月23日

ホフク前進

乳がんスクリーニングのガイドライン見直しによる波紋が広がったままのアメリカで、今度はPAPテスト(子宮頸がん)のガイドラインも改定されました。

改定前のガイドラインでは、PAPは初めての性体験から3年以内で遅くとも21歳からテストを受けることを勧めていましたが、新しいガイドラインではテストは21歳からとしています。北米では十代で性的にアクティブになるのは珍しくないのですが(日本でも今はそうなのでしょうか?)、その若い彼女達が今回スクリーニングの対象から外されたわけです。女子高校生の何割くらいが今まで真面目にPAPテストを受けていたのか疑問ですが、統計データを細かく分析した結果、10代女性のPAPは益より害の方が多いという見方に変わったようです。具体的には、10代で子宮頸がんになる確率は100万人に1〜2人という低さな上、組織の異常があっても自然に治癒する場合が多く、切除することによって子宮頸部が傷つき、後に早産したり帝王切開が必要になったりするリスクを高めるという問題があるそうです。

また、30歳以上の女性で3回連続して異常なしの結果がでた場合は、それ以降テストは毎年ではなく、3年に1度で良いことになりました。PAPの新しいガイドラインは、先の乳がんガイドラインと同様に、過度のスクリーニングや不必要な治療を減らすことを目指しているように思えます。ただ発表のタイミングが悪すぎます。PAPガイドラインの関係者は偶然だと強調していますが、政治的意図が本当にないのか首をひねってしまいます。今まで要だと言われてきた事を次々に要らないと言われて、不安に感じる女性も少なくないと思います。

rosy picture.jpg

ところでニクソン元大統領を覚えていますか?そうです、あのウォーターゲイト事件のニクソンさんです。
アメリカで一国を挙げて癌に対する戦いを始めたのは、そのニクソンさんでした。1971年1月にState of the Union address(一般教書演説)の中で「原子力を作り月に到達したのと同じだけの集結した努力をもって、この忌まわしい病気に打ち勝つ時が来た!」と勇ましく宣戦布告。同年10月にはNational Cancer Actという法律まで出来ました。以来、アメリカは世界一多額の研究資金を癌の研究に投入してきたのです。

それから40年近くの年月が流れましたが癌治療は果たして飛躍的に進歩したでしょうか?どうもそうではないらしい、というのがニューヨークタイムスの『40年の戦い』(Fourty Years' War)シリーズ第1回目の記事でした。タイトルは『癌の治癒へ向けつかみ所のない前進』です。確かに前進はありました。早期発見が進み、新しい薬が登場し、治療の副作用もより効果的にコントロールできるようになりました。死亡率がかなり減った癌もあります。例えば、乳がん:10万人あたり31.45人(1975年)→23.45人(2006年)、前立腺がん:30.97人→23.56人、大腸がん:28.09人→17.10人などが挙げられます。しかし死亡率にほとんど差異のない癌があるのは事実です。すい臓がんや悪性脳腫瘍は死亡率が横ばい。肺がんは男性は減ったものの女性が増えたため、トータルでは死亡率が上がってしまいました。卵巣がんはタキソールの発見にもかかわらず、9.84人(1975年)から8.54人(2006年)ともうしわけ程度にしか減少しませんでした。

一方、世間一般ではメディアキャンペーンなどの影響で「癌は正しい生活習慣で予防できる、スクリーニングで早期発見できる、最新の薬で治癒またはコントロールできる」という、やや現実離れした薔薇色のイメージを持つ人が増えました。実は私もそうでした。正直な話、癌で沢山の人が亡くなったのは30年くらい前のことで、今はよっぽどのことでもない限りキッチリ治るのかと思ってました。(無知って恐ろしいですね。)

記事の中で現実はそう甘くないという実例として、ベジタリアンで運動もして、太っていなくて、家族に乳がん歴もないのに乳がんになってしまった女性が紹介されています。彼女は手術、放射線、化学治療とフルコース頑張って受けたのに残念ながら再発してしまったそうです。そういうこともあるのです。お気の毒としか言いようがありません。そうかと思えば、癌が身体中に広く転移した状態で発見され、最新設備の整った有名な癌専門病院で、最新の薬をもってしても治癒することはないと言われ、愕然とする患者や家族も後をたたないようです。

医学用語自体が一般社会の誤解をまねく一因となっていることもあります。抗がん剤を比較する際によく使われる言葉に"significant"(意味のある、重要な)というのがあります。新薬Aは既存薬Bより生存を延ばすというような文脈で使われた場合、患者や家族は"significant" = "substantial"(多大な)と解釈しがちです。しかし医者は「統計的に有意な」という意味で使っているにすぎず、実際の生存期間の違いは数週間〜数ヶ月だったりするのです。

医者も難しい立場です。患者にウソをつくわけにはいかないけれど、あまり正直に「月に1万ドルかかり、平均で1〜2ヶ月の延命効果のある薬しかありません」などと言うのはさすがに無神経だからです。物事に率直なアメリカ人でさえそのように感じるのですから、日本人の医者が何をどう伝えるか、伝えないかについて、どれだけ頭を悩ましているか想像に難くありません。

癌との40年の戦い。当初期待されたほどの成果が上がらないのはなぜでしょうか?癌という敵が強すぎるからでしょうか?闘い方に問題があるのでしょうか?答えは両方ともイエスだ、というのが専門家の言葉です。後者の問題は癌の予防薬の不人気やスクリーニングのし過ぎだけではありません。NYタイムスの記事によると、薬の開発や研究過程にも改善すべき点はあるようです。それについてはまた明日にします。


ニクソン元大統領の言葉はこちらからの引用です。
また癌の死亡率はアメリカの統計でこちらを参照しました。
posted by leo at 18:49| Comment(8) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
夕べのNHKスペシャル「立花隆がんの謎に挑む」で
ちょうどニクソン大統領の“がん戦争”のスピーチと、
そのときの研究の様子・成果なども放映していました。
とはいえ結局、立花さんの現時点での結論も、
「がんの解明には、あと100年ぐらいかかる」というような感じ・・・
あまり明るい内容はありませんでしたが、
興味深かったのが、がんは生命の成り立ちに深く関わっている
ことなどの、根源的な話でした。

病気は、いろいろ考えさせてもくれますね・・
Posted by にゃごり at 2009年11月24日 14:10
にゃごりさん、
立花隆さんも「あと100年ぐらい」という印象を持たれてるんですか。
さすがに冷静ですね。(立花さんご自身も癌なんですよね…?)
思うに、現実を正しく理解し受け止めるというのは、悲観的になる
のではなくて、本当の意味でポジティブなんじゃないでしょうか。
理解した上で、今あるものの中から自分に一番合ったものを選んで
自分らしく悔いがないように生きればいいんですからね。
癌を完全にやっつける夢の薬が無理なら、せめて副作用の少ない薬が
欲しいな〜。負担の少ない治療をしながら癌と何年も共存できるのなら
他の病気(高血圧など)ともあまり変わらないし、早くそのレベルまで
達してくれるといいなぁと思います。
Posted by leo at 2009年11月24日 16:55
こんにちは。はじめまして。
私は今アメリカのあるプログラムで働いているものですが、こちらで病気になってしまい、その薬が日本ではまだ使えないので、そのプログラム終了後(来年7月)に、今度はトロントで働くことになりました。
無事job offerをもらうことができたのですが、問題は医療費です。その薬は認められて入るものの、非常に高額で普通に無保険で支払うと月額2000ドルを超えます。給料は年間5万ドル程度なので、大変な赤字になってしまいます。
そこで現在、OHIPへの上乗せ保険や薬保険のようなものを探しているのですが、いままでのところ誰に聞いてもどこに聞いても、薬は自費で払っててそんな保険知らない、といわれてしまいます。

アドバイスをいただけませんでしょうか。宜しくお願い申し上げます。

Posted by twat at 2009年11月26日 06:18
PAPテストが3年に一度でいいとは思うのですが、
私の場合、たまたま行ったPAPで、卵巣がんが見つかったので、3年というのは少し長すぎる気もします。
たぶん卵巣の腫れを見つけてもらったというより、それ以上に大きな子宮筋腫があったために、
ついでに見つかったのですが、シリアスだったのは、卵巣の方でした。
細胞検査をする予定を変更して、取って正解でした。
ちなみに、卵巣は3.5cmでした。
何事も検査は大事ですが、運もありますよねえ。
Posted by yoshiko at 2009年11月27日 04:57
twatさん、はじめまして。
prescription drugについてですが、会社に雇用されている人の場合
compensationにgroup benefitsが含まれていることが多いです。
普通その団体健康保険が薬代をカバーします。(何割カバーされるか、
上限があるのかなどはポリシーによります。)
サインなさった雇用契約書をもう一度チェックしてみて下さい。
団体健康保険がついていない場合は、プライベートのextended
health care保険、または州のdrug programがあります。
プライベートのポリシーはManulife、Great West Life、Blue Cross、
Greenshieldなど幾つかの保険会社が扱っています。
ただプライベートは既往症があると加入を断られることもあると聞きました。
オンタリオ州のdrug programについては下記リンクをお試し下さい。
http://www.health.gov.on.ca/en/public/programs/drugs/funded_drug/fund_trillium.aspx

お大事に。

Posted by leo at 2009年11月27日 18:38
yoshikoさん、
PAPは子宮頸部の検査ですから、子宮体部の筋腫を見つけて貰えたら
それだけでもラッキーですよ。
定期健診の間隔を延ばすなら、その分自己管理についての情報を
もっと広める必要はありそうですね。不正出血、おりものの変化
(子宮体がん)、腹部の膨張感(卵巣がん)などの症状があったら
定期健診の時期でなくてもすぐ検査すべき、とかそういうことを。
PAPがきっかけで卵巣がんまで早期発見できたというのは
yoshikoさんが強運の持ち主なだけでなく、きっと普段の行いが
良かったからですよ。

ハッピーサンクスギビング!
今日は沢山買い物して下さいね。
Posted by leo at 2009年11月27日 19:02
leoさん

ありがとうございました。短期の大学のポジションで、benefitは無いんです。オンタリオ州のプログラムを調べてみたほうがよさそうですね。行く前に確証が得られないのが少し不安ですが、少し勉強して調べてみます。ありがとうございました。
Posted by twat at 2009年11月30日 10:08
bjvamwlhwhi <a href="http://www.longchamppliable.biz" title="sac テ main longchamp">sac テ main longchamp</a>
Posted by sac テ main longchamp at 2013年05月30日 06:34
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