2010年03月10日

ドクターヤマモト

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前にも一度書いたような気がしますが、私はInspireという卵巣がんのオンラインコミュニティに参加しています。アメリカのOvarian Cancer National Allianceという団体が立ち上げたコミュニティですが、カナダやヨーロッパから参加している人も沢山います。というか、英語環境で構わなければ世界のどこに住んでいても登録できます。患者同士の情報/意見交換の場として役に立つサイトです。

さてこのInspireの掲示板に「Dr. Yamamoto and GcMAF」というトピックがあり、Dr. Yamamotoというからには日本人なんだろうな〜、どこの山本先生だろう、と興味をひかれちょっと調べてみました。

Dr. YamamotoのフルネームはNobuto Yamamotoさんで、実在する日本人の医師です。ただ50年くらい前からずっとアメリカ在住なので日本ではあまり知られていないと思います。(日本語でググってもでてきません。)専門はウィルス学、微生物学、遺伝子学、免疫学などで、ペンシルバニア州のテンプル大学とハーネマン大学で何十年も働き、退職後は個人で免疫療法研究所を開いて研究を続けていらっしゃるようです。Dr. Yamamotoが特に力を注いで研究してきたのがGcMAF(ジーシーマフ)。ビタミンD3結合タンパク(Gcタンパク)に由来するマクロファージ活性化因子(Macrophage Activating Factor)です。

人間の体内にはもともとGcタンパクというマクロファージ活性化因子の前駆物質があります。ところが癌はNagalaseという酵素を分泌してGcタンパクを駄目にしてしまい、それが癌患者の免疫抑制と一因となっているようなのです。そして、GcMAFを投与すればマクロファージの抗腫瘍力は大幅に増加し癌の治癒につながる、というのがDr. Yamamotoの学説です。研究は試験管、マウスの他、少数の癌患者(大腸がん乳がん前立腺がん)に対しても行われました。結果は:
大腸がん(転移あり)→100ngのGcMAFを32〜50週投与→7年後も対象者全員再発なし
乳がん(転移あり)→100ngのGcMAFを16〜22週投与→4年後も対象者全員再発なし
前立腺がん(転移有無不明)→100ngのGcMAFを14〜25週投与→7年後も対象者全員再発なし
とインプレッシブです。しかし、メインストリームの癌研究としてはあまり認められておらず、標準治療には程遠く、補完/代替医療の範疇に入るらしいです。確かに免疫療法自体が未だ実験段階で、しかも自己リンパ球や樹状細胞を用いた療法ともGcMAFは異なっています。

日本では保険の適応外で様々な(エビデンスに乏しいものも含め)免疫療法が行われているのでしょうか?パブリックヘルスケアのカナダでは標準治療以外は皆無と言っていいのですが、個人の健康保険に依存しているアメリカでさえ、メインストリームから外れる治療というのは少ないように見受けられます。補完医療(鍼など)はあくまでも補完。標準治療の副作用軽減のために用いられているにすぎません。よほどの変わり者でもない限り厳格な食事療法(マクロバイオティックなど)を試すこともありません。(普通のベジタリアンは結構いますし、肥満防止を含め健康的な食生活の指導はありますが。)

そういう状況下でも、有効な代替療法を内心期待している人はいます。そういう人達の間でDr. YamamotoのGcMAFは「副作用がなく全ての癌に効く夢の薬」という噂が流れたようです。

その噂は海を越えてイギリスでも流れたらしく、それに対してメインストリームのドクターが書いたやんわりと釘をさす記事も読みました。要するにGcMAFを夢の癌治療薬と見なすには科学的証拠が弱すぎるということです。例えば、大腸がん、乳がん、前立腺がんの患者を対象に行われたトライアルは小さすぎる(対象者は各16名)。対象者は平行して標準治療も受けているので、再発しないのが標準治療によるのかGcMAFによるのか判断できない。対象者の癌のステージや組織型についての情報が欠けている。GcMAF投与後の効果測定としてはNagalaseの値を計っただけで、腫瘍マーカー値も血液中のサイトカインレベルも記録されていない。GcMAFの投与グループと非投与グループとの比較がない。等、いずれももっともな批判ばかりです。

私も「夢の特効薬」というのは誇張だと思います。その反面GcMAFに効果がないと決め付けるのもどうかと感じます。Dr. Yamamotoの肩を持つわけではないのですが、トライアルが不十分だという点についてはDr. Yamamotoのせいではないような気がします。NCIなどで行っているクリニカルトライアルにはフェーズ1、2、3とあって、フェーズ1だと対象は20名以下のことはよくあり、それで良い結果がでたら、もっと大掛かりなフェーズ2(研究薬の投与組vs非投与組)、フェーズ3(研究薬vs既存薬)と駒が進みます。Dr. Yamamotoのトライアルは(おそらく)日本で行われており、その後フェーズ2、3とアメリカで続けたくとも資金援助が得られなかったのかもしれません。製薬会社のバックアップもないようですし。主流から離れたところで働く研究者は不利を蒙るというようなことがないのか… ちょっと考えてしまいました。

また、GcMAFの投与には副作用が伴わないそうなので、効き目があろうがなかろうがダメもとで試してみたいという人もいるかもしれません。丸山ワクチンだって「あれはただの水」と蔑む医者もいる中、投与を継続して何年も健康を保っている患者もいるではないですか。

といってもこのGcMAF、そう簡単に手には入らないようです。標準治療の枠外だというだけでなく、GcMAFは現在パテントの申請中でDr. Yamamoto 以外の医者から投与してもらうことは多分無理。しかもDr. Yamamotoはご高齢(80歳以上)のせいか(?)、メールを出しても連絡がつきにくいとか。直接フィラデルフィアの研究所の門をたたくしかないのかもしれません。過去に発表された論文の幾つかは長崎大学との共同研究とされているので、長崎大学に問い合わせたら何かわかる可能性もありますが。費用はどのくらいかかるのか?ノーアイデアです。
posted by leo at 16:15| Comment(9) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は化学療法終了して3ヶ月後くらいに保険適用外ですが免疫療法を受けました。
周囲の勧めもありハイリスク患者だったので、その時は何かせずにいられませんでした。
気持ちを安定させるのに必要な治療だったのかもしれません。

先日母娘3人でハワイに行ってきました。
母の世話は少し大変でしたが姉妹ともにリフレッシュできました。
これも免疫力アップの方法の一つかなと思います。
Posted by がっちゃん at 2010年03月10日 18:53
がっちゃんさん、
ハワイの休日、大いに楽しんでこられたようで何よりです。
精神的に充足しただけでなく、ハワイの太陽で体内のビタミンDも
倍増。きっと免疫力アップにつながったと思いますよ。
おっしゃる通り、患者の不安感軽減というのも補完療法の大事な
役目のひとつですよね。そういう意味では、あまりエビデンスが
どうのこうのと考えすぎない方がいいような気もします。
身体とお財布の害にならない範囲なら何でもありなのかもしれませんね。
Posted by leo at 2010年03月11日 14:01
DR.Yamamotoの記事はたくさんありますね。
癌だけでなくHIVにも。
これからゆっくり読んでみようと思います。
がっちゃんハワイ楽しかったですか、先週は風がすごく吹いていて大変でしたね。
長いフライトで足腫れませんでしたか?
私も日本に一度帰りたいのですが、足が腫れないか心配なんです。
Posted by yoshiko at 2010年03月14日 05:15
leoさん

そうですね、害や負担にならないことで自分がしたい療法は取り入れてもいいですよね。
免疫療法は少しフトコロは痛みましたが、先生や看護師さんと出会えたこともよかったです。
いろいろと勉強にもなりました。

yoshikoさん

ハワイ、風強かったですが初めてレンタカーを運転したりして楽しかったです。
足については私もリンパ郭清をしているので不安はありますが、
圧が強めのストッキングをはいたり足を動かしたりしてしのいでます。
また頑張ってハワイ行きたいと思ってますのでいつかお会いできるかな〜?
Posted by がっちゃん at 2010年03月14日 22:15
がっちゃん
もちろんです。
ハナウマ湾の近くに住んでいます。
つぎは、泊まりに来て下さいね。
Posted by yoshiko at 2010年03月15日 08:55
皆さん、ここは掲示板でも、お友達同士の連絡サイトでもないので
個人的なコメントは少し自重して下さいね。
Posted by 管理人 at 2010年03月15日 15:41
Dr. Nobuto Yamamoto(山本信人)先生は、PhDでAACRの名誉会員で、大変有名な基礎医学者の先生です。残念ながら臨床医ではないのでGcMAFの直接治療は臨床医がなさっておられるようです。私も先生をよく存じております。GcMAFの研究に大変興味をもっている大学教員(PhD)です。卵巣がん、頑張って下さい。GcMAFについてのacademicなご質問なら、お答えできる範囲で対応したいと思います。では、また。
Posted by hitoshi hori at 2010年06月12日 20:56
horiさん、
山本先生と一緒に研究された方からコメントを頂戴して
感激するやら恐縮するやら言葉に困ってしまいます。
PubMedのabstractでお名前を見かけた気がします。
素人なので細かいメカニズムは理解の域を超えていますが
GcMAFによる免疫活性は癌だけでなくエイズなど色々な
病気の治療を前進させるポテンシャルがあると感じます。
最近読んだ本に、現在脚光をあびている血管新生阻害薬の
アイデアは何十年も前に生まれ、当時は製薬会社や臨床医
からあまり注目されなかったものの、その後ずっと研究を
続けてようやく花開いたという話がのっていました。
夢の薬というのは、ある日突然生まれるのではなく
長期間の努力の積み重ねなのだと思いました。
horiさんが今後ますます科学/医学の進歩に貢献されます
よう祈っています。頑張って下さいね!
Posted by leo at 2010年06月13日 16:40
leoさん、暖かい激励のお言葉、恐縮です。GcMAFでも最終的ゴールは臨床応用と思って進めております。GcMAFの前駆物質であるGc proteinに主に6種類のサブタイプ(1f1f, 1s1s, 2-2, 1f1s, 1f-2, 1s-2)があり複雑です。山本信人先生は1f1fのGc proteinからのGcMAFを用いておられるようです。現在のところ患者さんの自家血漿から調製することを考えております。では、御礼にて。
Posted by hitoshi hori at 2010年06月15日 05:32
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