2011年02月16日

非現実的な楽観主義

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治験に参加している癌患者は非現実的な楽観主義(Unrealistic Optimism)に陥っていることが多い、という調査結果が発表されました。ずいぶん野暮な研究をする人もいるものです。

調査対象はフェーズIまたはIIの新薬/試験薬の治験参加者72名で、肺がん、乳がん、白血病などの患者さんが含まれます。リスクの高いフェーズIやIIの治験参加ですから、既存の治療法が効かなかった人が一縷の望みに賭けて、という状況ではないかと推察されます。標準治療で完治/寛解が十分期待される病状なら、そんな治験に参加しないのが普通です。

治験には当然の事ながらインフォームド・コンセントの上で参加します。治験のリスクや恩恵を説明され理解して参加に同意しているのです。にもかかわらず、アンケートの結果によると:

- 60%の参加者は、試験薬が自分に効くだろうと非現実的なほど楽観視している。
- 39%の参加者は、試験薬の有害事象が自分には起こらないだろうと非現実的なほど楽観視している。

のだそうです。現実離れした期待は、治験の内容をよく理解している人の間でも見られました。

調査を行ったのは医学倫理、精神医学、心理学、行動心理学などの学者さん達です。癌患者の非現実的な楽観主義を、いわゆる前向きな姿勢の域を超えた現実逃避の心理的バイアスと分析しています。そして心理的バイアスが判断力を鈍らせインフォームド・コンセントを不十分にしているのでは、と疑問を投げかけています。

こう言っては何ですが、この学者さん達は全然わかってないですよね。治験だけでなく一部の標準治療だって、奏効率は低く副作用は重いことなんて珍しくありません。それが客観的な事実だとしても、その事実にこだわるっていたら進行/転移/再発した癌患者はやってられません。「成功する確率が10%もあるから絶望する必要なんてないわよね〜」と笑っていられる人がどれだけいるでしょうか。効くか効かないかわからない。どんな副作用が起きるかわからない。という状況と知りながら、きっと効く、副作用だって何とかなる、と思って治療に臨むのが普通でしょう。例え非現実的だろうと、その方が精神衛生上いいのです。

その反面、確かに癌治療に対して非現実的な期待を持っている人も存在します。患者自身より周りの人間にそういうタイプが多い気がします。私の友人、知人に「奇跡の薬など存在しない」と何回説明したかわかりません。新しい薬や治療法が報道されると、それを小耳にはさんで深い部分までは考えもせずに「凄い薬があるんだってね〜」と無邪気に喜んでいる人をよく見かけます。どうすれば癌を予防できるか、どうすれば癌を早期発見できるかについても、テレビや雑誌で紹介された内容を額面どおりに受け取りすぎて、実際はそう単純ではないことをわかっていない人が結構多いです。

治験の話に戻りますが、例えば治験のインフォームド・コンセントを取る際に、口頭でリスクについてはサラッと流し、恩恵(の可能性)を中心に説明する医師もいるのではないでしょうか。でもそれは必ずしも患者を騙そうとしているのではなくて、患者を力づけようという善意から…と私は考えたいです。恐らくそういうアプローチの方が患者受けも良いという気がします。非現実的な楽観主義は、癌という厳しい現実に押しつぶされない為に人の心が生んだ防衛メカニズムなのかもしれません。


(引用元はLAタイムス学術誌のアブストラクトです。)
posted by leo at 17:05| Comment(0) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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