2011年06月11日

駆け足のASCO

road runner.jpg

先週末(6月3〜7日)にシカゴでASCO(米臨床腫瘍学会)年次総会が開かれました。そこでDerek K. Millerさんのブログについての記事をお休みして、今年のASCOで発表された期待の星(?)を幾つか紹介します。と言っても、実際にシカゴに行ったわけでもなく、仕事の合間にアブストラクトを斜め読みした一患者にすぎない人間の配信ですので、それなりの情報精度とご理解いただけると助かります。当方素人のため医学的な意味がよくわかっていないこともあるかもしれませんが、出来る限り原文には忠実にしますのでご容赦下さい。

さて、昨年の総会で主役だったbevacizumab(アバスチン)ですが今年も人気ナンバー1の座を守っております。

カーボプラチン+タキソール+アバスチン(フェーズIII、ファーストライン、アバスチンの維持療法付き)

この新レジメンはGOG0218とICON7という2つの大きな治験で好成績を出しましたが、昨年の時点ではPFS(無進行期間)の比較までしか出ていませんでした。ちなみにアバスチンを加えたPFSはGOG0218では4ヶ月、アバスチンの用量が半分のICON7では2ヶ月弱の延長という結果でした。今年はICON7の方からOS(全生存期間)の比較の中間発表がありました。集計済みなのは377名。治療終了後の約28ヶ月間にお亡くなりになった方の数は、カーボ+タキのみの組で200人、アバスチンを加えた組では177人。後者において亡くなった人が少ない傾向が出ているものの統計的に有意な差ではありません。予後の厳しい方(手術で癌を切除しきれなかったステージIIIとステージIV)だけに絞って分析すると、アバスチン無しが109名、アバスチン有りが79名と、やはりアバスチンを加えたグループの方が亡くなられた人が少なく、こちらは統計的に有意な差だとか。最終結果が待たれるところです。

アバスチンを他の抗がん剤と組み合わせた治験の結果も多数発表されています。

カーボプラチン+ジェムザール+アバスチン(フェーズIII、再発、白金感受性有り、アバスチンの維持療法付き)

この治験(OCEANS)はアバスチンとプラセボで比較しました。
PFS中央値→カーボ+ジェム+プラ:8.4ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:12.4ヶ月
OS中央値→カーボ+ジェム+プラ:29.9ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:35.5ヶ月
奏効率→カーボ+ジェム+プラ:57.4%、カーボ+ジェム+アバ:78.5%
参加人数は両グループとも242名。
アバスチンを加えたグループでは高血圧、タンパク尿といった副作用が増加しましたが、腸穿孔を起こした方はゼロでした。

@カーボプラチン+PLD(ドキシル)+アバスチン(フェーズII、再発、白金感受性有り)
APLD+アバスチン(再発、白金感受性無し)


@ではカーボ+PLDは4週に1回、アバスチンは2週に1回投与されました。PFSが14.1ヶ月、奏効率78.3%という結果が出ています。Aは日本で行われた臨床試験です。PLD+アバの週1回投与により75%の参加者が奏効もしくは腫瘍が大きくなるのが止まったという恩恵を受けました。こちらのPFSは8ヶ月でした。どちらも規模が小さく(前者の参加者数54人、後者38人)、比較対象なしの試験デザインでしたが今後が期待されます。

アバスチンその他

アバスチンとsorafenib(ネクサバール)やアバスチンとtemsirolimus(トリセル)の併用も研究中のようです。現時点では実験的な組み合わせではありますが成績は悪くないようです。アバ+ネクサでは参加した25名中、腫瘍が縮小または増大が一時停止した人22名。アバ+トリでは25名中14名が治療開始から6ヶ月後も無進行の状態を保っているいるため、参加者をさらに募って研究を続行することが決まりました。

PARP阻害剤

アバスチン以外で有望視されているのはPARP阻害剤です。PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)は癌細胞のDNA修復に必要な酵素だそうで、それを阻害することで癌を細胞死に導くのが狙いらしいです。

olaparib(フェーズII、再発治療後の維持療法、白金感受性有り、漿液性のみ)

PARP阻害剤のひとつolaparibは遺伝性の卵巣がんに効果があることで知られていましたが、間口を広げた治験の結果、BRCA1やBRCA2遺伝子変異の無い人にも恩恵をもたらすことが確認されました。再発治療により部分もしくは完全寛解中の漿液性卵巣がんの方が対象。維持療法としてolaparibを服用したところolaparib組のPFS:8.4ヶ月、プラセボ組:4.8ヶ月とPFSの延長が見られました。主な副作用は吐き気(68%)、疲労(49%)、嘔吐(32%)でしたが、大部分は軽度の症状だったそうです。


カーボプラチン+ジェムザール+iniparib(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

別のPARP阻害剤iniparibの治験も始まりました。白金感受性ありのグループでは最初に参加した17名中12名に奏効。白金感受性なしのグループでは最初に参加した19名中6名に奏効。どちらのグループも見込み有りとしてフェーズIIへ突入する模様です。このiniparibという薬は、トリプルネガティブで転移した乳がんのファーストライン治療薬として過去に治験を進めていました。フェーズIIまでは好成績で大きな期待を集めたもののフェーズIIIでこけてしまったという経緯があります。しかしアバスチンのように、乳がんよりも卵巣がんに効果を発揮する可能性は大いにあります。そうであって欲しいと思います。

新生血管阻害薬

aflibercept+ドセタキセル(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

アバスチンと同じ新生血管阻害薬で注目されているのがafliberceptです。標的はVEGF(血管内皮増殖因子)とPLGF(胎盤増殖因子)で、どちらも癌の血管新生に必要な因子だそうです。ドセタキセルとの併用で再発治療に用いたところ、白金感受性のある参加者13名中10名、白金感受性のない参加者33名中15名に奏効。両グループ合わせてPFSの中央値が6.2ヶ月、OSが24.3ヶ月でした。主な副作用は好中球減少(72%)、疲労(50%)、呼吸困難(22%)で重い症状も含まれます。高血圧は11%の人に起こりましたが軽度でした。

その他

PLD(ドキシル)+EC145(フェーズII、再発、白金感受性無し)

EC145(新薬なので名前がまだ無い!)は、上皮性卵巣がんの多くに発現が見られる葉酸受容体を狙い撃ちします。治験ではPLDとEC145の併用 vs PLDのみで比較し、参加者は149名でした。PFSはPLD+EC145:21.7週(5.1ヶ月)、PLDのみ:11.7週(2.7ヶ月)という結果がでています。PFSが短めなのは白金感受性の無い方、失ってしまった方、難治性の方が対象だからだと思います。興味深いことに、薬とセットでEC20という分子造影剤も開発中だそうです。EC20を用いた検査で葉酸受容体の発現が認められた人のみでPFSを比べると、PLD+EC145:24週(5.6ヶ月)、PLDのみ:6.6週(1.5ヶ月)でした。癌の治療薬は、「どのくらい効くか」だけでなく「誰に効くのか」を調べるのも重要です。そういう意味ではセットで開発というのはツボかもしれません。

以上、駆け足のASCO2011でした〜!
posted by leo at 15:34| Comment(19) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ASCO2011が開かれた事は知っていました。
その中でやはり知りたいのは
卵巣がんの情報です。
有難うございました。
じっくり読ませていただきます。
Posted by 海愛 at 2011年06月11日 18:34
海愛さん
ASCOの年次総会は毎年6月の最初の週末をはさんで開かれる
ようですね。大きなイベントなので連動して癌治療薬関連の
ニュースや新聞記事が増える時期でもあります。
アバスチンは何の抗がん剤とでも合うみたいですね。
もう少し値段が安ければ、各国でも販売許可だけでなく
公立保険の対象として検討するんでしょうけどね。
カナダ政府はお金ないから治験に入って使うしかないですよ。(笑)
Posted by leo at 2011年06月14日 15:13
初めまして、Hiroと申します。
ACSOの情報大変ありがとうございます。私を含めて日本の多くの卵巣がん患者がこのサイトにほんとに助けられているとおもいます。大変だとおもいますが、これからも情報の発信していただければ、と願っております。
一つ質問させていただいてよろしいでしょうか?
抗がん剤の事は詳しく書いてありますが、
免疫療法、樹上細胞療法が日本では話題になっていますが、こちらには殆ど書いてございませんが、ASCOでは何も発表がなかつたのでしょうか?北米では樹上細胞療法は人気が無いのでしょうか?
時間の有る時で結構ですので教えていただけれは幸いです

Posted by Hiro at 2011年06月17日 15:21
Hiroさん
コメントどうもありがとうございます。放置気味のブログのため
返事が遅れてしまい申し訳ありません。m(_ _)m

免疫療法については、アメリカでもポツポツと研究されているようですが
一般的に効果が低めなので今ひとつ盛り上がらないのかもしれません。

今年のASCOで、免疫絡みで話題になったのは進行メラノーマの
治療薬Ipilimumab(商品名Yervoy)と進行前立腺がんの治療薬
Sipuleucel-T (商品名Provenge)ぐらいだったかと思います。

YervoyはT細胞の歯止めをはずして癌を猛攻撃させる薬のようです。

Provengeはワクチンで、患者さんから採血して集めた抗原を
強化して作り、前立腺がん細胞だけを狙い撃ちするらしいです。
一種のテイラーメイドなので、ものすごい高価格で、それが問題に
なっています。それと、今のところ効果が証明されているのは
前立腺がんだけのようです。

樹状細胞を用いた免疫療法は、それだけだとやはり弱いので
併用して効果を高める「何か」を探している状況と聞きました。

また何か耳にしたら記事にしますね。
これからもよろしくお願いします。
Posted by leo at 2011年06月30日 11:47
leoさん御返事大変有難うございました。大変参考になりました。やはり私の予想通りでした。日本では本屋には、免疫療法の本と”抗がん剤は効かない”という本が並んでいます。免疫療法をしているクリニックがたくさんありインターネットの宣伝もたくさん見られます。なんかルーカラティブなビジネスという感じがしています。私の方はclear cellなんでちょっと大変です。そちらでも、clear cellに対する療法とかは決まってないんでしょうね?
Posted by Hiro at 2011年07月01日 19:11
@前立腺がんのガンワクチン
   メラノーマ(悪性黒色腫)の免疫療法
ARemovabレモマブ
   悪性胸水、腹膜を生じるガンに有効
BOncophage(Vitespen)
   腎臓がん、メラノーマに対するペプチドワクチン
     Bはがん細胞が必要→事実上現時点では、日本国内では不可能)

Reoさん横レスでごめんなさい。、私が知りえた情報です。
現時点で延命効果が立証された免疫療法だそうです。
@はビックリするほど高価!だとか。

ARemovabレモマブ
個体が持つTリンパ球を活性化させてがん細胞を攻撃する機序を持ち、
卵巣がん、膵臓がん、胃がん、大腸がん、胆管がん、小腸がんなどの腺がんに有効らしいですし
欧州?で 国際的にエビデンスが認められた数少ない免疫療法だとか・・・実際に卵巣がんで腹水に苦しんだ方がやり、腹水が
大幅に減り、QOLが上がったと聞きました。併用はアブラキサン少量と聞きましたが。所詮延命、PFSはあってもOSに寄与
しないかも知れませんが、生きている時間の
QOLは大事ですからね。

樹状細胞の高価はコストパフォーマンスから
考えても、飛びつくような症例は無いのが
現状のようです。

又良い情報があれば、お知らせ下さい。



Posted by 海愛 at 2011年07月02日 11:24
Hiroさん

日本の免疫療法も、代替医療の枠で(言葉はきついですが)
野放し状態にしておくより、きちんと臨床試験をして
効果の程をはっきりさせるべきなのでしょうね。
日本の研究者の方の中には免疫療法に真摯に取り組んで
いらっしゃる方もいる筈です。
玉石混合にならない仕組みができるといいのですが。

明細胞の卵巣がんに特化した治療法というのはアメリカにも
ないようです。明細胞だけでなく、粘液性や低グレードの
しょう液性も、標準的な治療が効きにくいので、もっと
合った治療法の研究が待たれる状態です。と言っても
やはり予後を一番左右するのは、組織型ではなくステージです。


Posted by leo at 2011年07月02日 17:48
海愛さん

丁寧な書き込みありがとうございます。

Catumaxomab(商品名Removab)は、免疫療法というより
分子標的薬に近い位置づけをされているようです。
卵巣がんに於いては、かなり末期の方を対象に治験が
行われています。腹腔に直接投与することで、腹水を抜く頻度が
2週に1度から4週に1度に延びた…とか、その程度の効果の
ようです。発熱、吐き気、嘔吐といった副作用があるので
緩和ケアとどちらがいいのか微妙な所です。
Posted by leo at 2011年07月02日 17:58
そう、そう・・・mab,bで終わるから
分子標的薬?と、ドクターに聞いたら
それに近い!と。
やはりそれなりに副作用があるんですね。
彼女は腹腔投与ではなく、静脈から入れましたが。

末期でも楽に生きれたら・・でしょうかね。

ご丁寧な説明有難うございます。
Posted by 海愛 at 2011年07月02日 21:44
海愛さん、leo さん、
有難うございます。大変参考になりました。
私は、一人暮らしで小さなマンションを持っていますのでそれを売って、アバスチンを試そう思っています。その後は親戚の家にお世話になるつもりです。
話しが前後しますが、CA125を抗原とする免疫療法の治験があるみたいなんですけど、それにも少し興味が有ります。単にリンパ球を活性するより効きそうで。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by Hiro at 2011年07月03日 10:45
海愛さん、leo さん、
有難うございます。大変参考になりました。
私は、一人暮らしで小さなマンションを持っていますのでそれを売って、アバスチンを試そう思っています。その後は親戚の家にお世話になるつもりです。
話しが前後しますが、CA125を抗原とする免疫療法の治験があるみたいなんですけど、それにも少し興味が有ります。ビジネスではないし、単にリンパ球を活性するより効きそうで。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by Hiro at 2011年07月03日 10:46
すみません、確認につもりが、二度投稿してしまいした。
Posted by Hiro at 2011年07月03日 22:18
Reoさん、度々の横レスごめんなさい。

Hiroさん、アバスチン投与をお考えなんですね。
僭越と思いながら、つい心配で・・・お節介ごめんなさい

私は漿液性嚢胞腺癌。再発、再再発を経ましたが、3期でも
生き延びてます。CAP,TCを投与、まだ効果が期待される?
抗癌剤もありましたが、今回は血液毒性やQOLを
考え、他院でアバスチンを受けました。
単剤投与ではありませんでしたが、アバスチンを併剤してからは
その効果は、まさに「奏功」でした。

ただ卵巣がんのアバスチンは保険外。
漿液性で白金感受性あり、ただし白金系薬剤使用は1剤だけ・・・を
条件に治験をしている大学病院もありますが、なかなか受けられないのが
実情のようです。
アバスチンは自由診療。文字通りその値段設定は、医師の自由です。と言うか、良心?かなぁ・・・
医療はボランティアではありませんが、その値段設定が法外!なところも
あり、怪しげな?サプリ(私がそれを認めないだけかも・・)と抱き合わせの医師もいます。

私がアバスチンを投与した値段の3倍のクリニックもあります。
3倍ですよ!!儲けすぎ!


今は輸入代行業者も増え、どの薬がどれくらいの価格で売られているか、だいたいわかります。薬価が
それよりずっと高い医師や輸入業者は避けたほうがいいでしょうね。
治療は1回で終わる訳ではありませんし、高くてもアバスチンの中身は同じですからね
Posted by 海愛 at 2011年07月04日 00:05
hiroさん
アバスチンは新しい卵巣がんの薬の中では最も頼りになる
と思われる薬です。効果が上がるよう心より願っております。

CA125を抗原とする薬とはOregovomabのことではないかしら?
Oregovomabは数年前にアメリカで治験をして、残念ながら
薬効を証明できませんでした。しかし今もヨーロッパで
更なる治験をしていると聞きました。
いずれにせよアメリカでも未承認だと思います。
Posted by leo at 2011年07月04日 14:57
海愛さん
実際に日本でアバスチンを使われた方にしかわからない
貴重な情報をどうもありがとうございます。
これからも、どうぞご自愛下さい。
Posted by leo at 2011年07月04日 14:59
leo さん
情報大変ありがとうございます。
まだ詳しく話は聞いていないので、分かりませんが、Oregovomabかもしれませんね。もう少し調べてみます。
Posted by Hiro at 2011年07月04日 18:02
leoさま、

朝に書き込みしました、私のメールアドレスの入ったメール、今後のスパムメール等を防ぐためお手数ですが、削除していてだければ幸いです。
Posted by hiro at 2011年07月04日 19:36
hiroさん、
メールアドレスの入ったコメントは削除させていただきました。
Posted by leo at 2011年07月06日 13:04
leoさん
お手数おかけしました。
やはり効果の期待できる免疫療法はこれからですね。
それでは又よろしくお願いいたします。
Posted by hiro at 2011年07月07日 09:22
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