2011年07月19日

癌と共に生きる決意(penmachineその5)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。今回は第5部です。)

2007年10月から2008年5月まで8ヶ月(16回)に渡るFOLFIRI+アバスチン。にも係わらず縮小の兆しが見えぬ肺転移の癌。厳しい状況が続く中、暫しの休薬期間にほっと一息つくDerekさんでした。

2008年7月。新たな治験への参加が決まり治療が再開しました。今度の治験はIrinotecanとPanitumumab(商品名Vectibix)の併用療法です。イリノテカンは日本の癌患者さんには馴染みのある薬かと思います。Panitumumabはアービタックス(Cetuximab)と似た分子標的薬で、アービタックスと同じく上皮成長因子受容体(EGFR)の働きを阻害します。代表的な副作用は発疹など皮膚の障害です。Derekさんにも湿疹とニキビのような吹き出物が投薬後数日で現れ、顔が真っ赤に腫れあがりヒリヒリ痛む有様でした。幸い症状は2〜3日で沈静しはじめ、2回目の点滴後は副作用の出方もマイルドになって、肩や胸、背中を湿疹に覆われながらも顔は比較的無事だったようです。

しかし残念ながらIrinotecanとPanitumumabの組み合わせは効果を発揮しませんでした。9月に撮ったCT画像で腫瘍の増大が認められ、治療は急遽打ち切りになってしまいました。次の化学療法をどうするのか。治療方針の決定を待つ間に、Derekさんはストーマ(イレオストミー)を取り除く手術を受けました。ストーマは2007年7月の直腸切除手術の際に臨時増設されたもので、手術の傷が癒えた大腸の配管工事をやり直してもらった次第です。

治療生活が長引くにつれ様々な思いがDerekさんの心をよぎります。

ここ数日、カメラの三脚を家中探し回っている… 1メートル位で大きな緑のナイロン袋に入っている。簡単に失くすようなものではないのに… 何かをしようと思った直後に忘れてしまうことも珍しくない。ゴミを外に出すとか図書館へ本を返却するとか… 年のせいにすることもできるかもしれないが僕はまだ38歳だ。妻はこの状態を「キモブレイン(化学療法に伴う認知障害)」と呼び、抗がん剤の投与を受けた患者の間では良く知られた障害なのだと教えてくれた。
(2008年6月12日投稿「Chemo brain」より)

最後に癌の症状を感じてから1年以上経っていることに気づいた。2007年の手術で直腸の腫瘍は切除されて肺に転移した小さな癌だけとなった。

明らかに良くない状態だ。その癌が大きくなっているのだからなおさらだ。でも症状は全くない。自転車に乗ったり登山をしたりして肺を酷使しても問題ない。以前より身体が弱くなって常に疲労感がつきまとっているが、そうした不快感は手術や抗がん剤、その他いろいろな薬の副作用からきている。

今日も一日中ベッドに横たわったまま過ごした。グッタリして吐き気がして。でもそれは癌のせいではなく薬のせいだ。必要なこと、無しにはすまないことなのだろうが奇妙な感じがする。

(2008年8月14日「The cure and the disease」より)

数日前に妻と話し合った… 妻は癌になってから僕の心中にあることを見抜いていた。僕は医師が勧めるどんな治療法でも試して癌と闘ってきた。そのためにどんなに具合が悪くなっても、それらの武器のどれかが癌を退治して人生を前に進める日が来ると望み続けてきた。僕の人生は病と闘うために一時停止状態なのだと考えていた。普通の生活を再開する前に通り抜けねばならない段階であるかのように扱ってきたのだ。

ところが現実はそうではなかった。次の治療プランはフェーズIの治験だ。新薬の初期の臨床試験で、その薬が癌に効くかどうか調べるというより、血液検査の結果や副作用など患者がどう反応するかを調べる治験だ。言い換えると、標準的な治療法の種がつきて実験的な治療法に手を出そうとしているということだ。成功するチャンスは小さく、それでも副作用だけはあるだろう。

妻は僕の目を「癌と共にどう生きていくのか」という問題に向けさせてくれた。何故ならそれがこれからの僕の人生なのだから。どれだけ続くかわからない。何ヶ月か…確実に。何年か…多分。全ての兆候から察するに、僕は残る人生の間ずっと癌である。恐らくいつの日か癌で死ぬのだろう。

にもかかわらず9月に最後のキモを止めて以来、体調は絶好調だ。だから今まで苦しかった原因の大部分は病気のせいではなく治療のせいだったのだ。癌と闘うために必要な苦しみだと思ってきたけれど、今こそ重要な決断をする時だろう。

…昨日治験の話を聞いた際、無意識のうちに自分は参加するだろうと考えていた。だが乏しくなったメニューから医師が出してくるものを何でも受け入れるというのは惰性のようなものだ。僕は人生で行きたい所もやりたい事もある。夫であり父親でありたい…

勝てない戦を戦って人生を無駄にすべきではないのかもしれない。一時停止はもうやめて生きたいように生きよう。

(2008年10月28日「To fight, or to live」より)

治る見込みのない癌を宿した患者の多くが思い悩む問題です。癌と共に生きる覚悟をしても感情的にそう易々とは割り切れません。Derekさんの心の中では葛藤が続きました。

(次回に続く)
posted by leo at 06:46| Comment(2) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
Leoさん

米国テキサスに住むケイです。Leoさんもご存知かもしれませんが、最近、ワシントンDCで行われたOVCA conferenceの資料です。私は参加しなかったのですが。
http://www.ovariancancer.org/conference/2011-materials/

以前にLeoさんがこのブログで紹介していたNEDも演奏して、一人はプレゼンもしたとか。ご参考まで。
Posted by ケイ at 2011年07月22日 07:57
ケイさん、お久しぶりです。お元気そうでなによりです。

inspireに登録しているのでコンファレンスのことは知っていました。
資料のリンクどうもありがとうございます。

日本在住の皆さんへ
このコンファレンスはOvarian Cancer National Alliance
というアメリカの患者サポート団体の年次総会のことです。

卵巣がん治療を専門とする医師の方などを講師にむかえて
講習会のようなことをしました。ASCOやESMOが医師のコンファレンス
なのに対して、OCNAは患者対象です。栄養(野菜をちゃんと食べる)や
運動(日常生活で身体を動かす)といった患者にとって身近な
話題をはじめ、治験の説明、アメリカでの新薬承認の流れ、
抗がん剤感受性試験など幅広いトピックが扱われました。
Posted by leo at 2011年07月22日 15:00
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