2011年08月04日

新薬の活躍、標準薬の貫禄(penmachineその7)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。今回は第7部です。)

Derekさんが一か八かのフェーズI治験で試すことになったCediranib(商品名Recentin)は、大腸がんに対してある程度の効き目を示した薬のようです。しかし、その後実施されたフェーズIIIの治験(進行・転移した大腸がん対象、FOLFOX+アバスチンとFOLFOX+Cediranibの直接比較)ではアバスチンに破れ、製薬会社のアストラゼネカは米国でのファーストライン用の承認申請を断念してしまいました。

いわゆるエビデンスの微妙な点は統計に頼らざるを得ないところなのかもしれません。新しい薬は、統計的に有意な差をつけて既存の治療薬に勝っていると示さなければ承認にこぎつけません。中には薬効より有害事象のリスクの方が高い薬もあるでしょうが、そこそこ効くのだが全体的に既存薬には一歩及ばなかったという場合、人によってはその薬の恩恵をかなり得る可能性もないとは言い切れません。

ファーストラインでこそありませんでしたが、Cediranib はDerekさんの癌の動きを1年近く最小限に留めることに成功しました。まさにグッドジョブでした。飲み薬なので点滴に通う必要はありません。分子標的薬なので殺細胞系の抗がん剤と比べれば副作用もマイルドです。(むろん若干ですが。)

Cediranib の副作用は普通の抗がん剤の副作用とは異なる… 腸に来る。いつ来るか予測するのが難しい… 家族はこの症状を「う○こ祭り」と呼ぶようになった。始まると1〜2時間トイレを占領。或いはトイレから戻って来るなり再び直行の繰り返し。時々「ジュラシックな内臓」になって、僕のお腹はスピルバーグの恐竜が唸るような音を立てる。それだけガスが溜まると結構痛かったりする。
(2009年1月31日投稿「Cancer update」より)

CT検査の結果、癌は安定しているとわかった。2回連続だ。この薬(Cediranib)でしばらく持つかもしれない。

にしてもどうにかならないのかね。副作用。1時間半トイレにいてやっとベッドに戻ってきたところだ。生きる為に払わなくてはならない代償なんだろうな。

(2009年6月9日投稿「Keep on keeping’ on」より)

という具合に、決して快調ではないにしろ検査の結果に胸を撫でおろしながら、家族と過ごす時間の幸せをかみしめて暮らすDerekさんでした。そしてそれは2009年11月下旬、新たな腫瘍が肺に見つかるまで続きました。9月のCT画像には写っておらず11月に突如現れた数個のニューフェイスは、既に2〜3センチの急成長を遂げるほど勢いづいていました。転移の拡大が見られたことでCediranibはお役御免となり、標準的な抗がん剤を使ったより積極的な治療に戻ることが決まりました。

急成長する癌なんて僕の体内にあって欲しい筈がない。でも全く驚きだと言うわけでもない。癌というのはこういうものなのだ。治療が功を奏する。良くなったり悪くなったりする。治療が効かなくなることもある。いつだって戦いだ。負けるかもしれない。

妻も子供も両親も友達も、みんな悲しい思いをしている。僕の頭の中では色々なことが渦巻いている。また未知の未来に足を踏み入れる時が来たのだ。
(2009年11月27日投稿「Oh fuck」より)

頭で理解していたとはいえDerekさんのショックはさぞ大きかったでしょう。次のキモはFOLFOX(5FU+ロイコボリン+オキサリプラチン)。どれも以前使った薬ですが5FUを増量しての再投与です。当然副作用も倍増しますが、ベテラン癌患者となったDerekさんにとって吐き気や疲労感は想定内だったようです。ただ思ってもみなかった副作用も起きました。

- 皮膚が寒気に対して非常に敏感になった。完全に防寒準備をして出かけても戻ってくると指先や鼻が凍傷寸前になっている。
- 冷たい飲み物が飲めなくなった。冷たいオレンジジュースを飲むと粒々が入ってなくても入っているように感じて口や喉が痛い。
- 指の関節が乾いて黒ずんでいる。爪にも茶色い線が浮いている。
- 傷の治りが異常に遅い。
- 治療の合間でも吐き気に襲われる。突然嘔吐してしまうのでコントロールできない。
- 足の裏が超敏感になって水ぶくれでもできているのかと感じる程。寝る時も靴下を履いて寝なくてはならない。

(2010年1月8日投稿「A funny thing happened to me on the way to chemo ward」より)

一方、良い知らせもありました。長年の実績がある標準治療のレジメンというのはやはり最も効果的なのか、はたまた5FUを高用量にしたのが決め手となったのかはわかりません。が、アグレッシブな治療によりDerekさんの肺の腫瘍は少し小さくなったのです。今まで色々な薬を試してきて癌の増大を抑制するのが精一杯だったのに、ここにきて初めて縮小。非常に客観的に現状分析する能力をお持ちのDerekさんの心中では、期待しすぎてはいけないという気持ちと、もしかしたらという気持ちがかわるがわる頭をもたげました。つくづく病気は残酷です。

2ヶ月前のCT検査で、癌患者歴3年めにして初めて腫瘍の縮小が確認された。でも「僕はまだ癌なんだ。僕の胸には癌が広がっていて、それが少し減っただけなんだ」と自分を戒めていた。1回の検査では何とも言えない。でも2回続いたら傾向と言えるかもしれない。最新のCTで癌が更に小さくなっていることがわかった…

これは寛解ではない。治癒でもない。元気になったわけでもない… 多分もうしばらく生きていられるだろうということを意味しているにすぎない。生き続けることが僕の現実的な希望なんだ。
(2010年4月22日投稿「Tumours still shrinking」より)

残念ながら縮小傾向は長くは続かず、2010年7月のCTで癌はまた大きくなっていました。

気落ちしたが打ちひしがれたというほどではない… ドクターは今のキモはもう効いていないと見ている。抗生物質が耐性菌に効かなくなるように抗がん剤も長く使っているとだんだん効果がなくなるのだ… ガクッとするニュースだが過去数年間に何度も経験してきたことだ。どの薬を何回使ったのか思い出せないくらいだ。僕にとっては深刻な危機というより落ち込む出来事という感じだ。家族の方が辛いだろう。

薬の変更にはいい点もある。僕の身体がFOLFOXから回復するまで次の治療を待つようドクターが勧めてくれたことだ。9月の初めまで6週間の休薬期間。副作用で寝込むことなく夏を楽しめる… 1日1日を必死で生きてる身にとって、世界一美しい街(バンクーバー)で過ごす6週間の夏休みと体調の改善は予期せぬボーナスだ。
(2010年7月29日投稿「Tumours growing again」より)

Derekさんは休薬後もう一度FORFILIによる治療を受けました。

そしてそれがDerekさんにとって最後の化学療法となりました。

(次回に続く)
posted by leo at 14:36| Comment(0) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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