2011年09月10日

逝く人の言葉(penmachineその10)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいてきました。これが最終回です。)

ついに来た。僕はもうこの世にいない。これがブログの最後の投稿だ。癌に痛めつけられてきた僕の身体。その機能が止まる時が来たら、このメッセージを公開するよう事前に家族と友人に託しておいた… 僕を実生活で知っている人はもう知らせを受けたかもしれないが、この投稿を確認と思ってほしい。僕は1969年6月30日にカナダのバンクーバーで生まれ、2011年5月3日にバーナビーで命を閉じた。41歳。ステージIV転移性大腸がんの合併症による。僕も家族も覚悟していた…

僕はこの世界より良い場所へ行ったわけでも悪い場所に行ったわけでもない。僕はどこにも行っていない。何故ならDerekはもう存在しないのだから。身体的機能および脳神経の活動が止まると同時に、僕は生物から骸へと驚くべき変貌を遂げた。花や野ネズミが霜のおりた特別に寒い晩を越せなかったのに似ている…

だから僕は死の瞬間や死んだ後どうなるか(何も起きない)について恐れたことはない。だが死んでいく過程についてはずっと怖かった。衰弱、疲労、痛み、だんだん自分自身でなくなること。幸運にも僕の知的能力は最後まで病気の影響をまぬがれた…

子供の頃、引き算を習うとすぐに記念すべき西暦2000年に何歳になるか計算した。答えは31歳で随分おじさんになるんだなと感じた。実際に31歳までには結婚して2人の娘を持ち、テクニカルライターとしてコンピューター業界で働いていたから結構おじさんだった。

でもその後も沢山のことが起きた。ブログはまだ始めていなかった。バンドやポッドキャストもまだだった。グーグルは出来たばかりで、アップルは苦戦中で、マイクロソフトは既に巨大で、フェイスブックやツイッターはまだ存在しなかった… ニューヨークにはまだワールドトレードセンターがあって、カナダにはクレティエン首相が、アメリカにはクリントン大統領が、イギリスにはブレア首相がいた… 2000年はいとこが赤ちゃんを産む4年も前だった。もう1人のいとこは何年も後に夫となる男性とめぐり合ったばかりだった… 僕も妻も長期間入院したことはなかった。子供達はまだおむつをしていた… 犬はまだ飼っていなかった。

そして僕は癌ではなかった。癌になるとは、それも10年以内に癌になり、癌で死ぬだろうなどとは思ってもみなかった。

何故こんなことを書くのかって?何時の時点で人生が終わるとしても、自分が死んだ後に見たり聞いたりできないことがあるのは悲しい。だからと言ってその時点までの人生を後悔するわけではないと気づいたからだ。僕は2000年に31歳で死んでいたかもしれない。それでも妻や娘や仕事や趣味に満足して幸せだったろう。たとえその後に起こった多くの出来事を知る術がなかったとしても。

僕のいない世界でこれからも色々なことが起きる。世界がどうなるのか?2012年には?2060年には?どんな新しい発見があるのか?国家や人々はどう変わるのか?通信や交通手段はどうなるのか?誰を尊敬し誰を軽蔑するのか?妻のAirは何をしているのか?娘のMarinaとLaurenは?どんな勉強をしてどんな仕事に就くのか?娘たちも子供を産むのか?孫は?僕の理解を超えるようなことも娘たちの人生に起こるのか?答えはわからない。まだ命があり、この文を書いている僕にとってその場にいられないのが辛い。それを見届けられないからではなく、そばにいて妻や娘たちを助けてあげられないのが悲しいのだ。

人生がどうなるかは誰にもわからない。計画を立てたり、やりたいことをして楽しんだりはできる。しかし自分が思った通りに万事進むとは限らない。思った通りになる時もあるが、そうならない時の方が多い… 僕の病気と死を通じて娘たちにそれを学んでほしい…

世界は、いや、この宇宙全体は美しい、驚きに満ちた素晴らしい場所だ。いつも新しい発見がある。僕は過去を振り返って悔やんだりしない。家族にもそうであってほしい… Lauren、Marina、お前達が大人になって自分の人生を歩む頃、僕がどんなにお前達を愛していたか、良い父親であろうと努力していたかわかるだろう… Airdrie、君は一番の親友で最良のパートナーだった。お互いがいなかったらどうなっていたかわからないが、僕の人生がこんなに満たされることはなかったと思う。心から愛していました。I loved you, I loved you, I loved you.

(2011年5月4日投稿「The last post」より)

逝く人の言葉は常に純粋で心に響きます。

日本では4月にキャンディーズのスーちゃんが乳がんで亡くなられた際、病床で録音した最後のメッセージが公開され、多くの人の胸を打ったと聞きました。

ここカナダでは3週間ほど前に、連邦議会で第一野党の現職党首として活躍されていたJack Laytonさんが癌で急逝され国葬が営まれたばかりです。Laytonさんは死ぬ直前に「Letter to Canadians」という国民への遺書を残されました。その中で同胞のがん患者に対しては次の様に述べています。

癌に打ち勝ち、生きるための長い旅路を辿っている方々へ。私自身の旅が思ったように進まなかったことでどうか気を落とさないで下さい。絶対に希望を失ってはいけません。癌の治療はかつてなかったほど向上しています。良いほうに考え、信念を失わず、将来のことを考え続けて下さい。あとは、どんな場合も愛する人と過ごす時間を大切にして欲しいというのが私のアドバイスです。

そしてこう締めくくられました。

“My friends, love is better than anger. Hope is better than fear. Optimism is better than despair. So let us be loving, hopeful and optimistic. And we’ll change the world.”

怒りより愛すること。恐れることより希望。絶望するより良いほうに考えること。その3つを皆が心がけたら確かに世の中はもっと住みやすくなるのかもしれませんね。
posted by leo at 17:45| Comment(4) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
癌治療は向上していると言われていますが、進行癌にはこんなに医学が進歩して、
新薬が沢山出ているにもかかわらず、どうしてって思ってしまいます。
やはり新薬よりも、早期発見しかないのでしょうか。
乳癌検診で石灰化が見つかり、すぐ細胞の検査にまわされてしまいました。
細胞の採取の量に驚いていたら、乳癌手術とは比べ物にならないと言われてしまいました。
でもこれこそが、乳癌減少に繋がっているんだと実感しました。
(日本だったら、数ヵ月様子を見ましょうでしょうね。)
leoさん、最近の体調はいかがですか。
まだキモセラピーを続けていらっしゃるのでしょうか。どうかお体お大事に。
Posted by yoshiko at 2011年09月16日 05:50
デレックさんのブログ、連載終了ですね。
ひそかに拝読しておりました。
leoさんの訳も、本当に良くて…(^_^)
良いものを読ませていただいて、ありがとうございました。

愛と感謝、これに尽きますね。
じ〜んとしています。。。

leoさん、その後お具合いかがでしょうか?
わたしも、どうも怪しい→再発のようだ→進み方が緩慢、
と言いながら治療を伸ばし伸ばして約1年ほど、
しぶとく粘ってきましたが(^^;; そろそろ覚悟を
決めて治療再開した方が良さそうです。

希望をもって、毎日をせいいっぱい生きましょうね!!
どんよりしていると、せっかく与えられた命、今日1日が
もったいないですもの☆
Posted by にゃごり at 2011年09月16日 10:40
yoshikoさん、お久しぶりです。
そうですね〜。やはり癌は早期発見しか手がないみたいですね〜。
医学の進歩とか新薬が沢山でてるとかって他の病気の話なんじゃ
ないかな〜と思う今日この頃。癌も乳がんとか前立腺がんとか
は新しい薬も登場してますけどね。卵巣がんはさっぱりですね〜。
でもその新しい薬をもってしても再発、転移した癌は治らないらしい
ですから、あってもなくても一緒ですかね〜。
私は元気ですよ。相変わらず仕事も続けてま〜す。
yoshikoさん、乳がんの検査、大変でしたね。
お体に気をつけて。
Posted by leo at 2011年09月19日 18:58
にゃごりさん、お久しぶりです。
Derekさんのブログ、なんか私の言いたいことをみんな
代弁してくれるみたいで何度も読みました。
非常に冷静に状況を分析しながら現実と向き合っておられた
本当に素敵な方だったと思います。

にゃごりさんも治療再開?私なんか自分でも怖くなるくらい
待ってから始めましたよ。キモとキモは間隔があけばあくほど
効きやすくなるから待った方が得ですよ。日本は治療再開が
早いという印象があるのですが、にゃごりさんのドクターは
待ってくれたんですね。やるべきことはやって、後は毎日を
楽しんで生きましょう!
Posted by leo at 2011年09月19日 19:19
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