2011年06月11日

駆け足のASCO

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先週末(6月3〜7日)にシカゴでASCO(米臨床腫瘍学会)年次総会が開かれました。そこでDerek K. Millerさんのブログについての記事をお休みして、今年のASCOで発表された期待の星(?)を幾つか紹介します。と言っても、実際にシカゴに行ったわけでもなく、仕事の合間にアブストラクトを斜め読みした一患者にすぎない人間の配信ですので、それなりの情報精度とご理解いただけると助かります。当方素人のため医学的な意味がよくわかっていないこともあるかもしれませんが、出来る限り原文には忠実にしますのでご容赦下さい。

さて、昨年の総会で主役だったbevacizumab(アバスチン)ですが今年も人気ナンバー1の座を守っております。

カーボプラチン+タキソール+アバスチン(フェーズIII、ファーストライン、アバスチンの維持療法付き)

この新レジメンはGOG0218とICON7という2つの大きな治験で好成績を出しましたが、昨年の時点ではPFS(無進行期間)の比較までしか出ていませんでした。ちなみにアバスチンを加えたPFSはGOG0218では4ヶ月、アバスチンの用量が半分のICON7では2ヶ月弱の延長という結果でした。今年はICON7の方からOS(全生存期間)の比較の中間発表がありました。集計済みなのは377名。治療終了後の約28ヶ月間にお亡くなりになった方の数は、カーボ+タキのみの組で200人、アバスチンを加えた組では177人。後者において亡くなった人が少ない傾向が出ているものの統計的に有意な差ではありません。予後の厳しい方(手術で癌を切除しきれなかったステージIIIとステージIV)だけに絞って分析すると、アバスチン無しが109名、アバスチン有りが79名と、やはりアバスチンを加えたグループの方が亡くなられた人が少なく、こちらは統計的に有意な差だとか。最終結果が待たれるところです。

アバスチンを他の抗がん剤と組み合わせた治験の結果も多数発表されています。

カーボプラチン+ジェムザール+アバスチン(フェーズIII、再発、白金感受性有り、アバスチンの維持療法付き)

この治験(OCEANS)はアバスチンとプラセボで比較しました。
PFS中央値→カーボ+ジェム+プラ:8.4ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:12.4ヶ月
OS中央値→カーボ+ジェム+プラ:29.9ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:35.5ヶ月
奏効率→カーボ+ジェム+プラ:57.4%、カーボ+ジェム+アバ:78.5%
参加人数は両グループとも242名。
アバスチンを加えたグループでは高血圧、タンパク尿といった副作用が増加しましたが、腸穿孔を起こした方はゼロでした。

@カーボプラチン+PLD(ドキシル)+アバスチン(フェーズII、再発、白金感受性有り)
APLD+アバスチン(再発、白金感受性無し)


@ではカーボ+PLDは4週に1回、アバスチンは2週に1回投与されました。PFSが14.1ヶ月、奏効率78.3%という結果が出ています。Aは日本で行われた臨床試験です。PLD+アバの週1回投与により75%の参加者が奏効もしくは腫瘍が大きくなるのが止まったという恩恵を受けました。こちらのPFSは8ヶ月でした。どちらも規模が小さく(前者の参加者数54人、後者38人)、比較対象なしの試験デザインでしたが今後が期待されます。

アバスチンその他

アバスチンとsorafenib(ネクサバール)やアバスチンとtemsirolimus(トリセル)の併用も研究中のようです。現時点では実験的な組み合わせではありますが成績は悪くないようです。アバ+ネクサでは参加した25名中、腫瘍が縮小または増大が一時停止した人22名。アバ+トリでは25名中14名が治療開始から6ヶ月後も無進行の状態を保っているいるため、参加者をさらに募って研究を続行することが決まりました。

PARP阻害剤

アバスチン以外で有望視されているのはPARP阻害剤です。PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)は癌細胞のDNA修復に必要な酵素だそうで、それを阻害することで癌を細胞死に導くのが狙いらしいです。

olaparib(フェーズII、再発治療後の維持療法、白金感受性有り、漿液性のみ)

PARP阻害剤のひとつolaparibは遺伝性の卵巣がんに効果があることで知られていましたが、間口を広げた治験の結果、BRCA1やBRCA2遺伝子変異の無い人にも恩恵をもたらすことが確認されました。再発治療により部分もしくは完全寛解中の漿液性卵巣がんの方が対象。維持療法としてolaparibを服用したところolaparib組のPFS:8.4ヶ月、プラセボ組:4.8ヶ月とPFSの延長が見られました。主な副作用は吐き気(68%)、疲労(49%)、嘔吐(32%)でしたが、大部分は軽度の症状だったそうです。


カーボプラチン+ジェムザール+iniparib(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

別のPARP阻害剤iniparibの治験も始まりました。白金感受性ありのグループでは最初に参加した17名中12名に奏効。白金感受性なしのグループでは最初に参加した19名中6名に奏効。どちらのグループも見込み有りとしてフェーズIIへ突入する模様です。このiniparibという薬は、トリプルネガティブで転移した乳がんのファーストライン治療薬として過去に治験を進めていました。フェーズIIまでは好成績で大きな期待を集めたもののフェーズIIIでこけてしまったという経緯があります。しかしアバスチンのように、乳がんよりも卵巣がんに効果を発揮する可能性は大いにあります。そうであって欲しいと思います。

新生血管阻害薬

aflibercept+ドセタキセル(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

アバスチンと同じ新生血管阻害薬で注目されているのがafliberceptです。標的はVEGF(血管内皮増殖因子)とPLGF(胎盤増殖因子)で、どちらも癌の血管新生に必要な因子だそうです。ドセタキセルとの併用で再発治療に用いたところ、白金感受性のある参加者13名中10名、白金感受性のない参加者33名中15名に奏効。両グループ合わせてPFSの中央値が6.2ヶ月、OSが24.3ヶ月でした。主な副作用は好中球減少(72%)、疲労(50%)、呼吸困難(22%)で重い症状も含まれます。高血圧は11%の人に起こりましたが軽度でした。

その他

PLD(ドキシル)+EC145(フェーズII、再発、白金感受性無し)

EC145(新薬なので名前がまだ無い!)は、上皮性卵巣がんの多くに発現が見られる葉酸受容体を狙い撃ちします。治験ではPLDとEC145の併用 vs PLDのみで比較し、参加者は149名でした。PFSはPLD+EC145:21.7週(5.1ヶ月)、PLDのみ:11.7週(2.7ヶ月)という結果がでています。PFSが短めなのは白金感受性の無い方、失ってしまった方、難治性の方が対象だからだと思います。興味深いことに、薬とセットでEC20という分子造影剤も開発中だそうです。EC20を用いた検査で葉酸受容体の発現が認められた人のみでPFSを比べると、PLD+EC145:24週(5.6ヶ月)、PLDのみ:6.6週(1.5ヶ月)でした。癌の治療薬は、「どのくらい効くか」だけでなく「誰に効くのか」を調べるのも重要です。そういう意味ではセットで開発というのはツボかもしれません。

以上、駆け足のASCO2011でした〜!
posted by leo at 15:34| Comment(19) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月11日

トリセルって何?

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日本では今も震災の傷跡が生々しく、原発問題や頻発する余震(にあたるのかな?)で不安な毎日を過ごされている方も多いかと思います。心よりお見舞い申し上げます。私の方はブログを放置気味ですが一応元気でやっております。カナダにもようやく春の兆しが見え始めましたが桜が咲くのは例年5月の初旬です。4月でも雪が降ることがあるので油断できません。

さて本題です。

トリセルという名前の薬を聞いたことがありますか?Toriselは商品名で、一般名はTemsirolimusです。2007年にアメリカのFDA(食品医薬品局)が、腎細胞がん(腎がん)の治療用に承認した薬です。見つかった時に既に進行しており、予後が厳しいと見なされた腎がんの患者さんを対象にした治験では、TemsirolimusのOS(全生存期間)が10.9ヶ月、既存治療薬のインターフェロンαのOSが7.3ヶ月と統計的に有意な差をつけて薬効を示しました。

腎細胞には幾つか組織型がありますが一番多いのは明細胞だそうです。そんなことから明細胞の卵巣がんにも効果があるのではないかと期待されています。と言ってもまだ研究データ不足で確かなことは不明です。それどころか、腎がん以外の何の癌に効くのかさえ未だ特定できておらず、卵巣がんを含めた複数の固形癌をひとまとめにした治験が行われていたりするほどです。私の病院では、卵巣がん、子宮内膜がん、肝臓がんなどの患者さんを対象に、トリセル+アバスチン併用の治験が進行中です。

昨年のASCO(米臨床腫瘍学会)の総会で、日本の医師グループが明細胞の卵巣がん患者にTemsirolimusを投与した結果を発表しました。しかし対象となったのはたったの6名。残念ながら数が少なすぎて、エビデンスのレベルとしては代替療法などと大差ないような気がします。ともあれ6名のうち3名は部分奏効。2名は腫瘍の成長が一時ストップ。残る1名は効果なしでした。PFS(無進行期間)の中央値は6ヶ月。興味深いのは、薬の効果が高かった人ほど副作用が軽めだったということです。

TemsirolimusはmTORキナーゼの細胞内シグナル伝達を阻害します。と書いてみましたが詳しい仕組みは文系の私には難解すぎます。このシグナルがないと細胞が成長、増殖しにくくなるんです…よね?とうっすら理解できる程度です。いわゆる分子標的薬とは異なる範疇となり、免疫抑制など副作用も決して少なくはないようです。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州の癌センター資料によると、主な副作用は以下の通りです。

貧血(赤血球減少)45〜94%(幅があるのは治験によって差があったため)
血小板減少 14〜40%
体力衰弱 51%
吐き気 37%
食欲不振 32%
口内炎 20〜41%
発疹 47%
免疫低下による感染 20〜27%
ポッタシウム減少 21%
中性脂肪増加 27〜83%
コレステロール増加 24〜87%
血糖値の上昇 16〜89%
クレアチニン値の上昇 3〜57%

その他、下痢や発熱、肝機能障害、呼吸困難なども報告されています。またアレルギー反応を起こす人が多いので、事前に抗ヒスタミン剤を投与することが勧められています。

見た感じ、お馴染みの殺細胞系の抗がん剤といい勝負の副作用ですね。この薬の方が代謝異常は多いみたい。でも代謝異常は薬で抑えればいいのだから、髪が抜けるよりいいのかしら???海外の掲示板など読む限りでは、「3年もお世話になってます」と言う人から「全然効きませんでした」と言う人まで様々です。まぁそんなもんでしょうね。

治験の枠外でトリセルが卵巣がん治療の選択枝の一つに加わるのかどうか…それがわかるのはまだ大分先のことだと思います。それが待てない人は治験の有無を調べたり、日本の場合は個人輸入もできるのかな?いずれにせよリスクも大きいことを考慮の上決めて下さいね。
posted by leo at 20:57| Comment(4) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月11日

そっと底上げ

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Bで終わる薬の第2弾はFarletuzumabです。もともとこの薬の開発をしたのはMorphotekというアメリカの会社ですが、Morphotekがエーザイに買収されたので一応日本の薬ということになるのかもしれません。(日本の大手製薬会社が海外で新薬開発をしている中堅企業を買収することが増えてきました。)

Farletuzumabはヒト化モノクローナルなんたらかんたらという、例によって難しい能書きの分子標的薬です。要は葉酸受容体αなるものの抗体だそうです。葉酸受容体αは、正常な細胞には少ないが大部分の上皮性卵巣がんにおいて過剰発現が見られる代物です。Farletuzumabが葉酸受容体αと結合すると細胞増殖が抑制されたり細胞死が促進されたりする、とマウスを使った実験で確認されています。

Farletuzumabのフェーズ2治験結果は昨年のASCO(米臨床腫瘍学会)の総会で発表されました。ファーストラインのカーボ+タキソールの治療終了後6ヶ月以上経って再発した「白金感受性有り」の患者さん54名が参加しました。54名のうち症状のでている方26名はカーボ+タキソール+Farletuzumabの治療を、症状なし(CA125値の上昇のみ?)の患者さん28名はFarletuzumab単剤の治療を受けました。後者のうち21名は単剤治療に引き続き抗がん剤との併用治療を受けました。(単剤では効かなかったのかな?)併用投与6回が済んだ患者さんはさらにFarletuzumab単剤で地固めをしました。

併用投与を受けた参加者のうち治療効果の測定ができたのは44名。その89%(39名)は治療終了後CA125が正常値の範囲内に下がったそうです。また21%(9名)の参加者は、Farletuzumabを含む療法後の2度目の寛解期間が1度目の寛解期間と同じか、1度目よりも長いという結果も出ています。これは偶然でないとすれば画期的なのかもしれません。再発癌の場合、2度目の寛解は1度目より、3度目の寛解は2度目より…と癌が大人しくなる期間は回を重ねるほど短くなっていくことが多いからです。2度目、3度目の寛解まで行き着かない人だっているのです。

もう一つ、Farletuzumabを加えたことで効果が高かったと見られているのは6ヶ月以上12ヶ月未満に再発した患者群(12名)です。12ヶ月未満に再発だと一応「白金感受性有り」の部類には入るものの、1年以上経って再発したケースよりは厳しい状況となりがちです。にもかかわらず全員に何らかの効き目(癌の縮小もしくは進行停止)が見られました。

てなわけで、有望視されたFarletuzumabは現在フェーズ3の治験中です。参加者は白金感受性のある再発卵巣がん患者900名。
カーボプラチン+タキソール+Farletuzumab(1.25mg/kg)
カーボプラチン+タキソール+Farletuzumab(2.5mg/kg)
カーボプラチン+タキソール+プラセボ
の3組に分かれて効果の違いを比較しています。6回の治療後はFarletuzumab(またはプラセボ)のみで維持療法を続行。(癌が進行するまでず〜っと続くらしいです。)投与方法は週1回の点滴です。

さて、Farletuzumabの長所のひとつは副作用が軽いことだと言われています。(無いとは言いません。)もちろん予期せぬ重篤な副作用が何時なんどき浮上するかもしれませんが、少なくともフェーズI、II治験では重い有害事象は報告されませんでした。グレード1〜2の比較的マイルドな疲労感、発熱が主な副作用のようです。そのためカーボ+タキソールに付け加えても、2種併用の場合と比べ副作用が重くなるという心配はありません。(希望的観測にすぎませんが。)

Farletuzumabという薬を最初に耳にした時、何かパワーに欠けるな〜という印象を受けました。しかし治験の結果をよく読むと、その控えめで穏やかなキャラに好感が持てるような気もしてきました。血管新生をいじくらないから高血圧とかの心配もないし、ひょっとしたらアバスチンよりいいかも…と少し浮気心を出している今日この頃です。

(まあお値段にもよりますけどね。エーザイさん、安くしといてね♪)
posted by leo at 15:47| Comment(0) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月27日

Bで終わる薬

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北米での治験のリストを見ると、…ニブとか…リブとか…マブとか末尾がBの薬のオンパレードです。これらはみな分子標的薬のようです。一攫千金を狙う製薬会社と新薬に興味しんしんの研究者。よくわからないけど希望を託してトライする患者。私は競馬が好きなので、製薬会社が馬主、医師が調教師、薬が馬で患者がジョッキーなどとくだらない想像をして楽しんでいます。フェーズIIIの治験はさしずめGIレースです。ただこのレースのお馬さん達は、途中で立ち止まって動かなくなったり、爆走してジョッキーを振り落としたり、善戦しても古馬にかなわなかったりすることが多く残念です。

ともあれ、治験をしている薬がどんな代物なのか多少情報を仕入れておいて害にはなりません。もし治験に参加する機会があったとしても、全く未知の薬だと不安倍増ですからね。

まずは、アバスチン(Bevacizumab)に続いてフェーズIIIの治験に漕ぎついたCediranibについてです。Cediranibは血管内皮細胞成長因子(VEGF)の受容体を阻害する薬だそうです。VEGFの発現は卵巣がんにしばしば見られ、発現過剰だと予後を厳しくすると言われています。働きとしてはVEGF受容体の阻害を通じて癌の血管新生を抑えるらしいので、アバスチンと少し似てる…かな?

フェーズIIの治験結果は2008年にASCO(米臨床腫瘍学会)で発表されています。対象は再発卵巣がん患者60名、内26名は白金感受性あり、34名は白金感受性なしでした。Cediranib単剤での治療の結果、奏効率は白金感受性ありのグループで41%、なしのグループで29%。成績が良さそうに聞こえますが、ここで言う奏効率は癌の成長を一時的に止めたことを意味するようで、癌の縮小が見られたのは参加者中数名だったようです。無進行期間は4.1ヶ月、全生存期間は11.9ヶ月でした。この数字自体は従来の殺細胞系の抗がん剤と比べて劣りますが、少なくとも恩恵(らしきもの)があったということで、王道のカーボ+タキソールにCediranibを加えたフェーズIIIの治験が実施されています。

フェーズIIIの治験は通称ICON6(諜報機関みたい)。ファーストラインで治療後6ヶ月以上経って再発した白金感受性有りの人、2000名が参加しています。
- カーボ+タキ+プラセボ(6サイクル)
- カーボ+タキ+Cediranib(6サイクル)
- カーボ+タキ+Cediranib(6サイクル)+Cediranibのみで維持療法(60週)
の3組に分かれて効果を比較という割とよくある治験デザインです。

Cediranibは経口で毎日服用する薬です。その点は点滴よりいいなぁと思います。しかし副作用が結構あるみたいで世の中甘くありません。フェーズIIの治験結果によると、よくある副作用は疲労(85%)、下痢(80%)、高血圧(72%)、食欲減少(57%)で、疲労と高血圧はグレードIII以上の重い症状が出た人も2〜3割いました。高血圧については服用後3日以内に急激に血圧上昇が見られるケースが多いので、特に高齢でもともと血圧が高い人は要注意です。

Cediranibは卵巣がん以外にも大腸がん、非小細胞肺がん、脳腫瘍などで治験をしたのですが結果はいまひとつでした。悲しいかな副作用の割りに恩恵が少なめだった模様です。だからと言って、卵巣がんでも失敗すると決めつけるわけにはいかず、こればっかりは試してみないとわかりません。Cediranib号、本命というより穴馬って感じかしら。でも頑張ってほしいです。
posted by leo at 19:45| Comment(0) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月24日

未知との遭遇

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新薬の治験の目的は治療効果と副作用の両方を調べることです。副作用が軽くても効き目が乏しければ使う意味がありません。逆に薬効が証明されてもあまり重篤な副作用が出るようなら危険性が高すぎます。薬の恩恵とリスクを量りにかけて恩恵の方が大きければ承認されます。どの程度の副作用なら許容範囲に入るのかは治療しようとする病気によって異なるようです。例えば風邪薬だったら副作用はごく僅か、たま〜に起こる程度でなければ問題になると思います。癌の治療薬の場合は他の種類の薬とは比較にならないくらい副作用が大きくても容認されます。何もしなければやがて癌で死んでしまう。それを例え一時的でも食い止めるためにはリスクを受け入れてチャンスに賭ける必要があるのでしょう。

抗がん剤の主な副作用は治験をフェーズ1、2、3と重ねるうちに概ね把握することが可能です。しかし全ての副作用が治験で報告されるとは限りません。稀にしか起こらないが命に係わるような副作用が薬の承認後に浮上することも有り得ます。カナダのトロント大学を中心としたグループが、分子標的薬の重篤な有害事象が「後日」判明する頻度について調査した結果が、先ごろ米臨床腫瘍学会の機関誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されました。

研究対象は12種類の分子標的薬。最新の薬品説明書によると合計76の重篤な副作用が記載されていました。これは生命に危険を及ぼす可能性のある副作用38を含みます。さて、この76の重い副作用の内、薬の承認の決め手となった治験のレポートに報告されていなかったものが30。認可が下りた直後の一番最初の説明書に含まれていなかったの37もありました。

何故こういうことが起こるのでしょうか。理由は製薬会社の策略でも政府の怠慢でもなさそうです。まず癌治療薬の治験はフェーズ3でも比較的規模が小さいこと。乳がんや大腸がんなど欧米で多い癌なら参加者が1000人以上の治験も少なくありませんが、罹患率の低い癌でそれをやるのは無理です。例えば再発卵巣がんで白金感受性を失った人だけを対象に試験薬Aと既存薬Bを比べようとして、それぞれの組に1000人ずつ参加者を集めようとしたら一体何年かかるでしょうか。資金も嵩みますが、信頼できるデータを集めるための条件を満たし、かつ自ら参加を希望する人を多数集めるのは容易ではありません。しかも一方では出来るだけ早急に白黒を判明させて、効果があるようならスピーディに承認して欲しいという患者からの切実な願いもあります。100人のうち50人に現れるような副作用なら治験の規模が小さめでも絶対見逃されませんが、1000人に1人に現れるような副作用だったら見つからないことだってあります。また普通に臨床で用いられるようになれば、治験参加者よりも幅広い病歴、治療歴、全身状況の患者さんが投与を受けます。このことも予期せぬ有害事象の背景と考えられています。

アメリカのFDA(食品医薬品局)では薬の有害反応を報告するシステムがあります。医師からの報告を含みますが、医師以外の人でも匿名で報告できるため、報告された事例の全てに信憑性があるわけではないようです。ともあれ、こうした公のデータ及び製薬会社自体がフォローアップで行う副作用の調査などを通じて、承認時には知られていなかった副作用がポツリポツリと(&コッソリと)薬の説明書に付け加えられていくのが現状です。

問題は(@アメリカ&カナダ)、医師が治療方針を決める際、大抵は治験結果を参考にしており最新の薬品説明書までいちいちチェックしていないこと。(忙しいですしね…)確かにドクターは奏効率や全生存期間、無進行期間などを考慮してどの薬を使うか決定するのが仕事で、もちろん副作用の知識もあるのでしょうが、副作用についての説明はナースさんの役割だったりします。そして縦社会の病院でナースさんはドクターの指示通りに業務を遂行するのが勤め。病院で配布する「化学療法のしおり」的なものの内容は熟知していても、薬品説明書を毎回読んでいるとは思えません。(日本の看護師さんは勤勉だから読んでいるかもしれませんが…)

従来の殺細胞系の抗がん剤は残念ながら不快な副作用が付きものです。が、臨床での歴史が長いのでどんな副作用が出るのか、どうやって対処するのかについても研究済みです。分子標的薬は全体的に副作用が軽めですが、新しいだけに未知の副作用が現れる可能性があるようです。非常に稀な…しかし重篤な。それをあまり警戒しすぎても前に進めませんが、承認されているから絶対安全だと考えるのも甘いような気がします。自衛策としては、製薬会社のホームページを通じて最新の薬品説明書、有害事象の事例などを予習しておき、気がかりな項目については医師に食い下がって質問する…くらいですかね〜。本当に癌の治療にはガッツが必要ですね〜。

(元にさせていただいたのはロイターの記事JCOオンライン版です。)
posted by leo at 19:04| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月30日

外野の意見

病気らしい病気をしたことのない人生から一転して、口にしただけで周囲がドン引きする病気持ちになって2年半以上経ちましたが、今年も無事に楽しいクリスマスを過ごすことができました。お腹も痛まず食欲も有りお通じも快調。ありがたいことです。しかし私より数倍進行した癌でありながら3年、4年と元気な方も沢山いらっしゃるので、この程度は普通なのかもしれません。よく考えてみると、5年生存率などの統計には歳を取られてから癌になった人も多く含まれているので、比較的若くて体力のある人はその分数字に上乗せしていいような気もします。少なくともその位脳天気な方が毎日をエンジョイできるのではないでしょうか。

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ところで9月24日の「アバスチンと乳がん」という投稿の中で、アメリカに於けるアバスチンの乳がんへの適応認可に係わる問題を取り上げました。皆様ご存知と思いますが、FDA(米国食品医薬品局)は12月16日に認可の取り消しを発表しました。う〜ん、やっぱり中間選挙が終わるまで待ってたのかな〜と勘ぐっている私です。この決定の影響を直接受け、言いたい事が山積みなのはアメリカの乳がん患者さんとその家族だと思います。が、今日は当事者の意見ではなく、ニューヨークタイムス紙に寄せられたコメントを通じて一般社会の反応を紹介させていただきます。何しろ一度癌になると、癌になったことのないラッキーな人達の感覚を忘れがちですからね。

ニューヨークタイムスの記事自体はアバスチン認可取り消しの背景を実に淡々と伝えています。全生存期間の延長が治験で示されなかったこと。患者の間ではFDAの決定に対して賛否両論があること。未承認でもオフレーベル(適応外)で乳がんへの使用を継続できるが、保険会社が支払いに応じるかはわからないこと。オバマ大統領のヘルスケア改革に反対する保守右派が、この件を政治的に利用しようとしていること。製薬会社(ロシュ/ジェネンテック)は、認可取り消しで5〜10億ドルの減収が見込まれ既に人員整理に着手していること。(早っ!)等、様々な側面から客観的に論じています。

興味深いのは、時期を同じくしてヨーロッパのEMA(EU内での薬の販売認可を審査する機関)が、アバスチンの転移性乳がんに対する使用はパクリタキセルとの併用に限り可という決定をしたことです。同じ治験データに基づいています。つまりFDAは「無進行期間(PFS)は3ヶ月延びたが全生存期間(OS)は変わらずQOLも向上しなかった→NG」と判断したのに対し、EMAは「OSを縮めたりQOLを低下することなくPFSを3ヶ月延ばした→OK」と解釈したようなのです。物の見方というのは医学の分野でもこんなに正反対になるのですね。尚、EMAは欧州での販売認可を下すだけで、保険の適応になるかどうかは各国が独自に検討します。従って承認イコール保険でカバーではありません。

以下、上記の新聞記事(オンライン版)に対するアメリカ人のコメントです。

BD(サンディエゴ):ヨーロッパは承認して癌患者は使いたがっている…FDAは何故流れに逆らうのか?患者、医師、保険会社に決めさせよう。

yoandel(ボストン):誤解があるようだが…保険の適応か否かを決めるのは個々の保険会社でFDAではない。オフレーベル薬でもカバーする保険は沢山あるし、FDAが承認したから保険を適応しなければならない訳でもない。

Erin(ワシントンD.C.):アバスチンが迅速承認されたのは確か癌の進行を5ヶ月以上遅らせたという治験データがあったから。認可が取り消されたのは無進行期間の延長は1〜3ヶ月という結果がでたから。まるで3ヶ月は意味が無いけど5ヶ月なら価値があると言わんばかり。FDAは、効き目が全く無かったり身体に大きな害のある薬を取り締まることを仕事にすべき。政府や医師は、患者が知識を増して自ら選択できるよう手助けして欲しい。

Dan A.(ヴァージニア):たった数ヶ月の延命(しかも副作用あり)のための費用を社会が負担するのは正当化できないように思う。最後の手段として何かしたいのなら代替療法で免疫強化を狙ったり食事療法でもしたらどうだろうか。

Xyz(カリフォルニア):FDAの決定を支持している人は冷徹すぎる。末期の癌患者にどの薬は試せてどの薬は試せないなんて誰が言えるのか?思いやりに欠けていてぎょっとする。それに選択の自由はどうなるのか。末期の癌患者ならことさら必要な筈。

MusaMayer(ニューヨーク):感情に流されている人は、進行癌の治療薬に規制が無くなったらどんなことが起きるか考えていない。製薬会社が費用のかさむフェーズ3の治験をするのはFDAが薬効と安全性の証明を義務付けているからこそ。でなければ、小規模なフェーズ1の治験で数人に効いただけで販売に踏み切る。そうなったら医師と患者が治療方針を決めようにも基にするエビデンスがなくなってしまう。

そして読者からの賛同票を最も集めたのは次のコメントです。アバスチンに対してと言うより、進行癌の治療の在り方全体に疑問を投げかける内容です。

Clotdoc(アトランタ):認可されている抗がん剤の多くは治験でほんの僅かの効果しか示していない。生存期間を3ヶ月延長できればFDAの承認が下る。予後の難しい癌の化学療法は、通常無駄に終わることが予測されていながら患者に希望を与えるために行われている。こうした努力が医療費高騰の一因となっているようだ。

厳しい指摘ですよね。皆が皆そうではありませんが、やはり西洋ではドライで合理的な考え方をする人の割合が高いような気がします。ちなみに上記のコメントに対しては、熱意を込めて反論されている方もいました。

vonbek9(カリフォルニア):末期の病にとって3ヶ月の延命は一生のようなものだ。確かに無駄と嘲笑されるような療法も沢山ある。しかし医師と患者にとって一番の武器は理性と知識に基づいた希望ではないだろうか。成功する確率が低くても患者が絶望より希望を選んでいけないという事はない。

oncology(ミズーリ):3ヶ月の生存期間延長というのは全員が3ヶ月長く生きたことを意味しているのではない。ほとんど延命効果がなかった人もいれば、3ヶ月よりずっと長く生き延びた人もいるということなのだ。

色々な意見がありますね。病気になっても社会のお荷物にはなりたくありません。その一方、こっちは好き好んで癌になったわけではないのに厄介者であるかのように言われるとさすがにムッとします。本題のアバスチンについては、特に乳がんの場合、大部分の患者さんには効き目がいまいちらしく残念です。しかし少数ながら大ヒットして進行が何年も止まるケースもあるので、どういう人に効果が上がるのかを特定できれば米国での再承認もあり得るそうです。

それでは良い年をお迎え下さい。
posted by leo at 19:09| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月13日

コインの裏側

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2週間ほど前、従兄弟同士でメラノーマになった男性の話を書きました。一人は開発途中の新薬で日常生活に復帰できるほど回復し、もう一人は臨床比較試験で標準治療薬に当たってしまい新薬が使えず亡くなってしまうという悲劇についてでした。これはどちらかと言うと特殊なケースのように思います。何故かと言うと、他の癌と比較しても、進行/転移したメラノーマは普通の抗がん剤が非常に効きにくい上、件の新薬は特定の遺伝子変異を持った人だけに劇的な効果をもたらすタイプの薬だからです。

ともあれ治験/臨床試験の厳しい枠組みが、有望な新薬へのアクセスを時に難しくするというのは何か割り切れない感じがします。その一方で、臨床試験が済んでいない治療法(即ち薬効や安全性が不確か)を試験の枠外でバンバン使用することにも問題があるようです。

米デューク大学の研究者が先ごろ発表した調査によると、2006〜2008年の2年間に英語圏で行われたフェーズIIIの治験/臨床試験の内、63%は全く新しい実験薬ではなく既に他の癌の治療に使われている薬でした。加えて11%が治験中に他の癌の治療薬として承認されていました。わかりやすい例を挙げるなら、何年も前から大腸がんの標準治療の一部であるアバスチンを、卵巣がんに使用して効果を見るといった治験を指します。癌の種類や進行度、併用する薬が変われば薬の恩恵の度合いや有害事象も異なってくる可能性があり、当然チェックを要する訳です。

で、ここから先は主にアメリカでの状況になりますが、以前も何回か書いたように、薬を「off label」で使うという慣習が癌の治療現場でも広範囲で見られます。薬のラベルに記されている用途以外に使う、言い換えるとFDA(米国食品医薬品局)が承認していない用途に使ってしまうことです。アバスチンは卵巣がんに対しては実は未承認なのにもかかわらず、かなり前からoff labelで(治験の枠外)使用されており、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインにも既に含まれています。ジェムザールも承認が下る前からoff labelで卵巣がん患者に投与されていました。一説によるとアメリカの腫瘍内科医の80%以上はoff label薬を化学療法に取り入れることがあるそうです。民間の保険会社が主導権を握るアメリカ独特の健康保険制度においては、腫瘍内科医と個々の保険会社との交渉次第でoff labelの薬でも保険が適応されたりするのです。(自分の保険でカバーしてもらえない場合はあきらめ、保険を持っていない人は問題外です。)民間の保険会社は支払いが多くなったら保険料を引き上げて帳尻を合わせられるので、国や州の保険よりフレキシブルな対応ができるのでしょう。

と聞くと正直うらやましい感じもします。しかし上記のデューク大学の研究はoff labelの抗がん剤治療に対して警鐘を鳴らしているのです。調査によるとフェーズIIIの治験でも全生存期間の延長が見られたのは27%のみ。奏効率の上昇や無進行期間の延長といった何らかの臨床的な改善が見られたのは47%。つまり約半数は現行の治療法の方に劣っていたか、せいぜい同等の効果でしかなかったということを意味します。さらに66%の治験では、新しい薬を含むレジメンの方が、既存のレジメンよりもグレード3以上の副作用の出る割合が高いという結果でした。まあ大部分の治験/臨床試験は標準治療の強化を狙っていて、現行の組み合わせに新薬を付け加えたり、現行の薬の用量を増加したりしてトライアルにかけるので、副作用が多少強まるのは想定内なのかもしれません。悩みの種は、結果的に効果はあまり変わらず副作用だけ大きくなる失敗例も少なからず存在する、という悲しい現実でしょう。

off label薬を使う臨床医のほとんどは、それが患者にとってプラスになると信じて行っていると考えられます。患者も最新の治療法を受けられることを喜んでいるようです。だったらいいじゃないの…という気もしますが、客観的な統計上の数字が示すように、効果や安全性が証明されていない治療法は標準治療よりリスクが高め。治験/臨床試験の枠外だと、そのマイナス面を患者がどれだけ理解しているかわかりません。しかも治験と平行して同じ薬がoff labelで使用可能だと治験の参加者が集めにくくなり、いつまでたっても効果や安全性が証明されません。治験に入ってしまうと既存薬やプラセボに当たるかもしれないので、off labelで使えるならその方がいいと患者は思いますからね。

1990年代に、乳がんの新しい治療法として高用量の抗がん剤と幹細胞移植を組み合わせた療法が有望視されたことがあったそうです。米国では患者からの要望に応え、臨床試験が済まないうちに普通の治療のオプションに加えられました。一種のoff label治療です。おかげで臨床試験の方は遅れに遅れましたが、10年経ってついに臨床試験の結果が出ました。蓋を開けてみると、標準的な用量の化学療法と効果に違いがみられないことが判明し、一夜にしてすたれてしまったそうです。その10年間、試験の枠外でも多くの女性が「新療法」を受けて無駄に骨髄をボロボロにしました。off labelの危険性を如実に表すエピソードです。

ダナ・ファーバー癌研究所で医学倫理を専門とするDr. Steven Joffeは、off labelの抗がん剤を使用するか否かは最終的に臨床医と患者の間で決めること、と述べています。新しい薬が患者を救うために本当に必要であれば、それをoff labelで投与することは医師として間違ってはいないものの、現状では安易にoff label薬に走りすぎる傾向があり、真の必要度以上に乱用されていると釘を刺しています。

新しい薬、新しい治療法。特に癌が進行、再発した人にとっては魅力的です。効果への期待。副作用への不安。そして治験/臨床試験の重要性を頭で理解しながらも、それを飛び越して自由に試してみたいという気持ち。感情に流されるのは危険だが、規則でがんじがらめになるも不都合。この問題は医師にとっても患者にとっても本当に複雑だと思います。

(内容はロイターの記事を元にしてあります。)
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2010年10月29日

従兄弟の明暗

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臨床試験についてとても考えさせられる記事を新聞で読みました。と言っても日本の新聞ではなくニューヨークタイムスです。その内容を紹介させていただきますすが、その前に治験/臨床試験全般についてウンチクを少々…(うざい!と思う方は飛ばして読んで下さい。)

ほとんどの癌患者さんや家族の方は正しい知識をお持ちでしょうが、社会一般では、治験/臨床試験は治療法の安全性を調べるのが目的であると考えている方も沢山いらっしゃるようです。これは間違ってはいませんが不正確だと思います。安全性の確認やどんな副作用が出るのかを調べるだけでなく、新しい薬/治療法が癌に対して本当に効き目があるのか否かを調べるのが治験/臨床試験の目的です。さらには現在使われている薬/治療法よりも優れていること、或いは現在使われている薬/治療法に付け足すことで治療効果が上がることも証明されなければ承認されません。ゆえに治験/臨床試験にはフェーズI、II、IIIと三段階あり(時にはIVまである)、癌の種類別にいちいち細かく分けて調査するのです。効果が科学的、統計的に証明されるまでは、いかに有望な治療法でも「investigative」(調査中)、「experimental」(試験中)にすぎず、既存の治療法よりリスクが伴う(効かないというリスクも含め)ことを、参加者全てに明らかにするのが治験/臨床試験のあるべき姿だと思います。治験/臨床試験中の有害事象だけに焦点を当てて騒ぎ立てる外野も困りものですが、想定外の有害事象が起こる可能性があるのが嫌な人は治験/臨床試験には向かないという気もします。

わかりきったことを説教めかしてグダグダ書くのはこの辺にして本題に移りましょう。ニューヨークタイムス紙の記事はフェーズIII治験にまつわる悲劇を取り上げています。フェーズIIIは、新しい治療法を受けるグループと標準的な治療法を受けるグループの二つ(または三つ巴)に分かれて効果を競い合う新薬開発のクライマックス。認可を検討する過程で欠かせないステップのように見えますが、それが患者に仇をなすこともあるという話です。

カリフォルニア州に住む若者2人。Thomas McLaughlinさん(24歳)とBrandon Ryanさん(22歳)は従兄弟同士です。2人とも体力が自慢のアウトドア派。そして2人とも若くしてメラノーマになりました。

McLaughlinさんがメラノーマの診断を下されたのは昨年9月のことでした。一応手術を受けたものの、既に遠隔転移しておりステージIV。手術後数週間で身体のあちこちに硬いしこりが現われ、肝臓にも腫瘍があり… と、非常に厳しい状況でしたがそれを好転させる出来事が12月に起こりました。McLaughlinさんの癌にはBRAFと呼ばれる遺伝子変異のあることが検査で判明し、BRAFを標的にした新薬PLX4032の治験に参加することを勧められたのです。他に有効な治療法がない上、健康保険を持っていなかったMcLaughlinさんにとって、製薬会社から無料で薬を提供してもらえる治験は正に渡りに船。しかもPLX4032はフェーズIのトライアルで劇的な効果を見せた超有望薬です。どれほど成績が良かったかと言いますと、BRAF遺伝子変異を持つ進行メラノーマの患者さん48名中37名(77%)に奏効、内3名は完全奏効。少人数のデータですが驚きの奏効率だと思います。期待にたがわず、PLX4032(錠剤)を服用すると程なくMcLaughlinさんの癌は縮小しました。

Ryanさんは、McLaughlinさんの約一月後にメラノーマであることがわかりました。ステージはIII。進行していましたが局所転移だったため、リンパ節の郭清手術と放射線というのが治療プランでした。無事治療を終え職場に復帰し、McLaughlinさんからPLX4032の話を聞いた際も(McLaughlinさん曰く「super pill」)、さして羨む様子のないRyanさんでした。ところがMcLaughlinさんが回復していく一方でRyanさんの体調は悪くなるばかり。Ryanさんは再発、肺に遠隔転移していたのです。そして今年5月、検査の結果Ryanさんの癌からもBRAF遺伝子変異が見つかり、RyanさんはPLX4032のフェーズIII治験に参加することになりました。(McLaughlinさんとは別の治験でした。)

上に書いた通り、フェーズIIIは新薬と既存薬との比較試験です。運命の女神は微笑まず、Ryanさんは無作為割り当てで既存薬(dacarbazine)に当たってしまいました。メラノーマは抗がん剤が非常に効きにくい病気です。ダカルバジンは標準的な治療で最もよく使われる薬ですが、奏効率は低く効果も少ないことが多いそうです。(注:比較試験は通常、医師にも患者にもどちらの薬を使っているかわからない形で行われますが、この治験はPLX4032が錠剤、ダカルバジンが点滴のためブラインドではありませんでした。)

UCLAのDr. Chmielowski はMcLaughlinさんとRyanさん両方の治験の担当医です。Ryanさんに治験の割り当てを告げるDr. Chmielowskiの顔は苦渋に満ちていました。Ryanさんと家族にとっては命の綱となり得る薬が使えない。Dr. Chmielowskiにとってはその薬を使わせてあげられない。関係者全員にとって辛い現実でした。Ryanさんがダカルバジンに当たってしまったのは誰のせいでもありませんが、医学の進歩のためにくじ運の悪い患者はより大きな効果を見込まれる薬を使えない、というのはやりきれない… はっきり言って残酷です。しかし一度治験への参加が決まり、治療法が割り当てられたら変えてもらうことはできません。偉い人に頼んでもダメ。よその病院に行ってもダメ。そこまで厳格に実施しなければ治験データの精度は保たれないのです。

McLaughlinさんは、Ryanさんに自分の治験と参加枠を取り替えることを申し出ましたが、それはRyanさん自身が断りました。ダカルバジンは残念ながら奏効せずRyanさんは6月半ばに亡くなられました。McLaughlinさんの方は、PLX4032開始後9ヶ月以上も良好な経過を保ち、4月には仕事(建築現場での力仕事)も再開しました。

McLaughlinさんとRyanさんのケースは極端な例です。普通は治験で新薬の効果が証明されたと言っても、無進行期間が3ヶ月延びたとか全生存期間が6週間延びたとか、その程度の差でしかありません。また仮にRyanさんがPLX4032を服用したとして、McLaughlinさんと同様に効き目が出たかどうかは不明です。しかし、一部の分子標的薬は特定の遺伝子変異を持つ人にしか効かないものの、その人達には従来の抗がん剤よりはるかに優れた効果を示すことが既に知られています。そうした薬の場合、スタンダードの比較試験は倫理的な問題を孕みかねません。目の前で患者が死んでいくのを手をこまねいて見ているのは医師の良心に反します。臨床医が「患者の延命」と「医学の発達への貢献」の板ばさみになるような状態は改善されるべきでしょう。FDA(米国食品医薬品局)の癌治療薬部門のディレクターであるDr. Richard Pazdurは、インタビューで「(PLX4032のような)新しいタイプの薬に対しては個別に審査し、規則に柔軟性を持たせたり公開討論したりする必要があるかもしれない」と語ったそうです。

尚、PLX4032はBRAF(V600E) キナーゼ阻害薬で、Plexxikonという会社が開発しロシェが製造元となります。他ののコード名(RO5185426、RG7204)で呼ばれることもあります。これとは別にGSK2118436と呼ばれるBRAF阻害薬もあり、グラクソスミスが治験中です。 BRAF遺伝子変異はメラノーマに頻繁に見られる遺伝子変異ですが、他の癌にもたまに起こるそうです。現時点ではメラノーマ中心に研究が進められており、上に引用した奏効率は全て進行性メラノーマに使用した場合です。
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2010年10月23日

ミラノ通信

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もう2週間前になりますが、10月8〜12日に美しいミラノの街で欧州臨床腫瘍学会(ESMO)が開かれました。6月の米国臨床腫瘍学会(ASCO)に比べると若干目立たない印象ですが、そこはヨーロッパ。安易にアメリカに追従せず、西洋医学発祥の地としての意地と誇り(?)を感じさせます。

とは言え内容的にはASCOと被るものも少なくないようです。特に卵巣がんは、乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん等と比較すると研究の数も控えめですし、新しい有望な治療法などそう簡単には出てきません。そんなわけでESMOの主役もやはりアバスチンでした。しかし発表された治験はASCOとは別件です。

ESMOで発表されたICON7(治験の名前)は、ASCOで発表されたGOG0218(これも呼び名)と同様に、カーボプラチン+タキソールの標準的な初期治療を受けたグループとアバスチンを付け加えたグループ(カーボ+タキ+アバで6回、その後アバで維持療法)を比較しています。が、相違点も幾つかあります。

1.アバスチンの用量:GOG0218が15mg/kgだったのに対し ICON7は7.5mg/kgでした。

2.参加者のステージ:GOG0218がステージIII、IV限定だったのに対し、ICON7はステージIII、IVだけでなくIIB、IICも可。さらにステージIやIIAでも組織型が明細胞もしくは悪性度がグレードIIIであれば参加を許されました。

3.維持/地固め治療の回数:GOG0218が最長16回だったのに対し ICON7は12回で終了しました。

言い換えると、薬の量が半分でも効くか?早期の癌にも恩恵があるか?維持療法は短くてもいいのか?
という事みたいですね。

さて結果は…
無進行期間(PFS)がカーボ+タキのみ→17.3ヶ月、カーボ+タキ+アバ→19ヶ月…だそうです。た…た…たったの2ヶ月。全生存期間(OS)ならともかく、PFSの延長が2ヶ月弱というのはちょっと効果が慎ましすぎるように感じます。ちなみにGOG0218の結果を復習すると、カーボ+タキのみのPFS→10.3ヶ月、カーボ+タキ+アバ→14.1ヶ月。PFSの延長は4ヶ月弱でした。

用量を半分にしたから効き目が半分だったという見方もできますが、参加者の構成(ICON7には初期ステージの人も混ざっていた)が影響していたことも有り得ます。と言うのは、参加者の中で癌の進行度の高い人(手術後取りきれなかった癌が1cm以上のステージIIIとステージIV)だけに絞ると、カーボ+タキのみ→10.5ヶ月、カーボ+タキ+アバ→15.9ヶ月と改善の幅が多少広がります。(但しブレイクダウンして頭数が小さくなっているので統計的には誤差が大きいです。)

ICON7のホームページに行くと実に分かりやすいプレゼンテーション用資料がダウンロードできます。グラフが沢山使ってあるので英語が苦手な人も一見の価値があります。その資料のサブグループ分析(14ページ)を見ると、アバスチンを加える恩恵が顕著に表れているのはステージIII、IVの人のようです。また、病気が進行していない人の割合を比較した折れ線グラフ(11、12ページ)でわかる通り、アバスチンを加えた組が加えなかった組を最も引き離しているのは治療終了後1年くらいで、その後徐々に差が縮まり、2年後にはアバスチン無しの組の方が無進行の人の割合が高くなっています。

アバスチンの効果が一応は示されたものの期待されていた程ではなく、主任研究者のDr.Tim Perrenは、「2つの治験(GOG0218とICON7)の結果が、患者と医師との面談の際に(治療方針を決める上で)影響を及ぼすことは間違いない」としながらも、「しかしより重要なのは将来の臨床試験への影響である」と付け加えています。さらに「一番大きな疑問はアバスチンがPFSだけでなくOSも延長するかどうかだ」ともおっしゃっています。それがわかるのは2012年。それまで何とか元気でいたいものです。

まぁ素人の一般患者である私の印象としては、アバスチンが全生存期間を延長すると証明されない限り、「みんな一緒」のファーストラインに加わる可能性は薄くなった気がします。しかし、ステージIII、IVの初期治療強化や再発治療のオプションの一つとして魅力的なのは変わりません。どの薬と組み合わせて誰にどのタイミングで使用すると最も効果的なのか、今後も引き続き様々な治験を実施することで徐々に解明されていくことと思います。

さて、アバスチンに関してはもう一つ興味深い研究発表がありました。(リンク先のESMO資料の6ページめです。)これはアバスチンがオフレーベルで、既に卵巣がん治療に用いられているアメリカでの臨床データを分析したものです。オフレーベルというのは、他の癌の治療用に認可されている薬を未承認の用途に使うこと。またここで言う臨床データとは、トライアルではなく普通の治療例です。

アバスチンは維持/地固めの他、腹水がパンパンに溜まってしまった人の症状緩和目的でも使用されるそうです。腹水を減らすのに効果大という肯定的な意見と、しかし薬を止めた途端に反動で腹水が急増すると警戒する声と両方あり、その真偽をニューヨークのスローンケタリング癌センターの患者さん106名のデータから検証しようという試みです。

106名の内、48名はアバスチン開始前に画像で腹水が確認されており、腹水を抜く処置を何度も受けている人も14名含まれていました。これら腹水有りの人達の内、31名(65%)はアバスチンを投与することで腹水が減りました。アバスチンを止めた後の記録があるのは76名、内58名(76%)の腹水は増加しませんでしたが、18名(24%)は投薬終了後に腹水が急激に溜まってしまったそうです。効き目はあるがリスクもあるという感じですね。この106名の患者さんは皆、病気が非常に進んでおり、平均で過去に6種類の化学療法レジメンを経験なさっています。それだけ切羽詰った状況であれば多少危ない橋でも渡ろうという気になるでしょう。最後の手段の一つとして見れば打率も決して悪くありません。その病状から寛解するというのは現実的でないとしても、何ヶ月か苦しい症状から解放されて好きなことができるのであれば意義は大きいのではないかと思います。

アバスチンの事は何度も読んだり書いたりしているので、本当にそろそろ打ち止めにしたいです。でも他の新薬は、治験でほとんど効果が出なかったり開発の初期段階だったりして、認可に一番近いのはアバスチンってことになっちゃうんですよね。それもどうなることやら…
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2010年09月24日

アバスチンと乳がん

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秋分の日を過ぎめっきり日が短くなり気温も下がりました。短かったカナダの夏を懐かしく思い出しながら秋本番へとまっしぐらの日々です。夏の間はがんの研究も夏休み…なのかどうかは知りませんが、新しい薬や治療法のニュースを久しく耳にしていないような気がします。唯一興味をそそられたのは、乳がん治療におけるアバスチンの旗色が悪くなり、米国FDA(食品医薬品局)から使用認可を取り消されるかもしれない、という何ともパッとしない話題くらいでした。

アバスチンと言えば卵巣がん患者にとっても今後が気になる薬ですが、乳がんに対する有効性問題が、卵巣がんへの適応の是非を判断する際に直接影響を及ぼすとは思えません。がんは200種類以上あると言われ(数はうろ覚えですが)、治療法も効く薬も微妙に異なります。従って、隣のAさん(違う癌)が使っている薬だから私も使いたいという理屈は通らないようです。それぞれの種類の癌について効果があるかどうか、効果があるのは進行している場合なのか、初期治療なのか、再発用なのか等、細かくシチュエーションを分けて臨床試験を実施し、その結果で個別に認可が下りたり下りなかったりします。逆に言えば、Aさんの癌に効かない薬でも自分の癌に効くことが統計的に証明されれば、いずれは使えるようになります。

乳がんの話に戻り、どうしてアバスチンの使用が黄色信号になったかと言うと、要するに「効き目が今ひとつ」だからのようです。

米国でアバスチンの乳がんへの使用が迅速承認されたのは2008年2月のことです。HER2陰性で進行、局所転移した乳がん治療のファーストラインとしてパクリタキセルと併用することにより、PFS(無進行期間)を著しく延長するという治験結果に基づく決定でした。E2100と呼ばれるこの治験には約700名の方が参加され、PFSはタキ単剤:5.8ヶ月、タキ+アバ併用:11.3ヶ月。奏効率は単剤:22.2%、併用:49.8% 、とアバスチン(10mg/kg)を加えることで効果がほぼ倍増。アバスチンの力を知らしめるような見事な数字でした。しかし治験結果にOS(全生存期間)のデータは含まれておらず、FDAは製薬会社に対して薬効を証明する追加資料を後日提出することを要請し、迅速承認の条件としました。

アバスチンの乳がんへの有効性は、更に2つの治験(どちらもHER2陰性、進行乳がん対象)に於いて検証されました。一つ目はAVADOと呼ばれるトライアルで、ドセタキセル単剤とアバスチンとの併用とで効果を比較しました。併用グループはアバスチン低量(7.5mg/kg)と高量(15mg/kg)の2つ作り、三つ巴で競わせました。結果は、PFSがドセタキセル単剤(+プラセボ):8ヶ月、アバスチン低との併用:8.7ヶ月、アバスチン高との併用:8.8ヶ月でした。それぞれの奏効率は44%、55%、63%、とE2100の結果と食い違ってはいないものの、リードの幅がかなり縮まってしまったのは素人目にも明らかです。もう一つはRIBBON-1と呼ばれ、タキサン系以外の抗がん剤と組み合わせて相性を見るトライアルでした。@ゼローダのみ(+プラセボ)、Aゼローダ+アバスチン、Bタキサン系もしくはアントラサイクリン系(CA、FECなど)の抗がん剤のみ(+プラセボ)、Cタキ/アントラ+アバスチンとグループ分けされました。ゼローダについては、アバスチンを加えることでPFSが6.2ヶ月から9.8ヶ月にアップ。タキ/アントラはPFSが8.3ヶ月が10.7ヶ月にアップ。奏効率は、どの抗がん剤でもアバスチンを併用したグループの方がプラセボのグループより12〜13%くらい高いという結果でした。

PFSと奏効率だけ見れば、程度の違いはあれ3つの治験共アバスチンの効果を示しています。ところが決定打となる筈の生存期間は、いずれの治験でも有意な差が出ませんでした。また、3つも似たような治験をやったのに、参加者のQOLに関する詳しいデータが欠けています。アバスチンには殺細胞系の抗がん剤のように過半数の患者が不快に感じるような副作用はありませんが、稀に重篤な副作用が起こることが知られています。つまり、PFSや奏効率は上がったものの、延命効果に乏しく、QOLが改善したという証拠も無く、有害事象のリスクは増加したわけです。しかもPFSの延長は2008年の迅速承認時のデータほど大幅ではなく、臨床上本当に意味があるのかどうか解釈が微妙な状況となってしまいました。FDAの諮問委員会は、これらの情報を考慮した上で決を取り、12対1でアバスチンの乳がんへの使用認可の取り消しを推奨したのです。

この件に関しては患者の側も医師の側も意見が分かれています。諮問委員会に患者代表として参加したNatalie Compagni Portisさんは、患者に希望を与えることは重要だが「確証のない希望を差し出すのは無責任」と発言されたそうです。一方FDAにはアバスチンの認可継続を求める6500人の署名が送られました。米国の乳がんサポート団体の中でも、Susan G. Komen For the Cureはアバスチンの認可取り消しに反対、National Breast Cancer Coalitionは賛成(迅速承認されたのが間違いだったという見方)という立場を取っています。臨床現場でアバスチンを乳がん治療に積極使用している腫瘍内科医は、当然ながら選択肢を減らしたくないという意見が多いようです。少数であってもアバスチンが威力を発揮して、何年も癌の動きを封じ込めている症例が存在すると主張しています。しかし他の種類の癌、例えば肺がんなどを治療している腫瘍内科医からは、肺がんの治療薬は生存期間の延長が証明されない限り認可されない実情と比較し、薬の承認基準が癌の種類によって異なるのは如何なものかと疑問を投げかける声が上がっています。

認可取り消しか否かの結論は9月17日に下される予定でしたが、3ヶ月延長され12月17日がデッドラインとなりました。この3ヶ月について、製薬会社側の説明によると、AVADO、RIBBON-1の結果を基に、パクリタキセル以外の抗がん剤との併用にも適応されるよう追加申請を提出してあるので、その審査期間ということです。しかし諮問機関の推奨はとっくに出ているのにFDAが何故決定を先送りしているのか、本当の理由について様々な憶測が飛んでいます。実は米国では11月に中間選挙があるので、今アバスチンの乳がんへの認可を取り消したら、オバマ大統領のヘルスケア改革に反対する保守派によるオバマ叩きの材料になりかねません。8人に1人の女性が乳がんになるアメリカで、乳がん有権者を選挙前に刺激するようなことは避けたい、という意図があってもおかしくないと思います。

さて、乳がんのアバスチン論争は卵巣がんには直接関係ないと書きましたが、間接的には気になる問題もあります。その筆頭は「PFS(無進行期間)は延ばすがOS(全生存期間)の延長には貢献しない」という、アバスチンの七不思議が卵巣がんにも当てはまる可能性が十分あることです。この弱点に関しては、現在アバスチンを使っている卵巣がん患者の間でも口コミのレベルで広がっています。アバスチン後の癌はアバスチン前より凶暴性を増し猛威を振るう。アバスチンを止めると堰を切ったように血管が新生され癌が強大化する。など仮説の域を出ませんが、不安感を抱く人もチラホラ現れました。大腸がんや非小細胞肺がんの治療に於いてはPFSもOSも延長されているのに、何故同じことが乳がん(や卵巣がん)に起きないのか、研究者も首をかしげているそうです。癌の種類が変わると薬効が異なるとはこの事なのでしょうか。

さらに、もしFDAが生存期間が延長されないことを理由にアバスチンの乳がんへの使用認可を取り消したら、将来他の薬の承認審査が厳しくなることも有り得ます。2006年にジェムザールが卵巣がんに対して承認された際は、PFSの延長だけが根拠だったため(OSは変わらず)諮問委員会から大反対された経緯があります。次はそう甘くないかもしれません。もっとも僅かな効き目のために高額な薬を次々と承認するのも考え物ですが… 使える薬が増えるほど長く生きられるという定説が、単なる神話なのか、真実なのか、よくわからなくなってきました。

情報ソース:NCI Cancer Bulletin(7月27日付)Medscape Medical News(7月21日付)Medscape Medical News(9月18日付)
個々の治験については本文中にリンクが付いています。
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2010年08月13日

赤い仕事人

castel del monte.jpg

Pegylated Liposomal Doxorubicin(ドキシル)は、主役を演じる実力があるのに代役や脇役しか回ってこない、不運なお薬という印象があります。見た目が赤くてインパクトがあるだけでなく、本体のドキソルービシンは、かつてシスプラチン、サイクロフォスファマイドと共に卵巣がん治療のファーストラインを勤めた輝かしい過去があります。さらに遡ると、先祖はイタリアの古城出身という名門の流れを汲んでいるのです。(正確には、そのお城周辺の泥から見つかった細菌ですけど…)バンクーバーやオレゴンの山中に茂っていた雑木ごときに後れを取り、悔しい思いをしているかもしれません。

さて、程度の違いはあれ卵巣がんの治療薬はどれもそうなのかもしれませんが、PLDの場合は特に白金感受性の有る人に対して効き目を発揮する傾向が強いようです。この特徴は、前回の投稿でふれたTopotecanと比較する治験の結果でも明らかでした。勿論、傾向があるというのは、あくまで「そういうことが多い」という意味でしかなく、白金感受性が無い人(初めから無かった、途中で耐性がつき失った)に全然効かないという訳ではありません。それを心に留めて以下をお読みいただけたらと思います。

PLDが白金感受性の有る人に効く薬なら、当の白金系抗がん剤と相性が良いのではないか、という推測は極めて論理的です。それを実際にに検証する試みも多数行われています。代表的な研究を幾つか箇条書きにしてみました。

再発治療におけるカーボプラチン+PLD(フェーズ2)

参加者:過去1〜2回の化学療法(主に白金+タキサン、1回の化学療法=6回の点滴)を受け、その後6ヶ月以上経ってから再発(再々発)した白金感受性の有る人(104名)。

結果:奏効率63%、完全奏効38%、無進行期間中央値9.4ヶ月、生存期間中央値32ヶ月。

小規模の臨床試験なので統計的誤差があるとしても、再発治療としては立派な数字のように見えます。

再発治療におけるカーボプラチン+PLD vs カーボプラチン+パクリタキセル(フェーズ3)

参加者:フェーズ2と同じく白金感受性有りの人のみ。カーボプラチン+PLD組(467名)、カーボプラチン+パクリタキセル組(509名)。

結果:無進行期間中央値 カーボ+PLD→11.3ヶ月 カーボ+タキ→9.4ヶ月
全生存期間は集計待ち。

癌の治療薬は最終的にOS(生存期間)で判断されることが多いので、現時点で勝ち負けはついていません。しかし治験を担当した研究者の方は「カーボ+PLDはカーボ+タキよりPFS(無進行期間)が長い。パクリタキセルの末梢神経障害(治療終了後も後遺症として残ることがある)もないし、より優れた治療法だ!」と自信たっぷりの様子です。

ファーストラインとしてのカーボプラチン+PLD vs カーボプラチン+パクリタキセル

参加者:初めて化学療法を受けるステージIC〜IVの卵巣がん患者(内ステージIII60%、IV21%)。カーボ+PLD組(410名)、カーボ+タキ組(410名)。

結果:奏効率 カーボ+PLD→57% カーボ+タキ→59%
無進行期間 カーボ+PLD→19.0ヶ月 カーボ+タキ→16.8ヶ月
全生存期間 カーボ+PLD→61.6ヶ月 カーボ+タキ→53.2ヶ月

え〜!タキソールよりドキシルの方が効くじゃないの〜!と早とちりしないで下さいね。統計的に有意な差はないそうです。生存期間は随分違うように見えますが、治験が行われたのが2003〜2007年で、後半に参加した人の生存期間はまだ現在進行形。データが揃ったら数字が変わる可能性があります。とは言え、カーボプラチン+パクリタキセルの併用療法が他を大きく引き離しているというのは誇張で、本当のところはハナ差ぐらいなのかもしれません。にもかかわらず、PLDは基本的に再発もしくは難治性の治療にしか用いられていないのが現状です。しかも白金感受性有りの人が再発した場合、まずはカーボプラチン+パクリタキセルの再投与を試みるのがスタンダードなので、白金感受性が底を付きかけた頃にならないとPLDの出番が回ってこないこともあるでしょう。本領を発揮できる機会を十分に与えてもらえず、いささか気の毒な感じがします。

ところで上記の臨床試験が行われた場所は、再発フェーズ2→フランス、再発フェーズ3→ヨーロッパ+カナダ+オーストラリア、ファーストライン→イタリア(さすがDoxorubicinの祖国!)でした。アメリカ以外の西洋諸国が団結してアメリカの薬(タキソール)を蹴落とそうとしている…というのは私の妄想ですが、ヨーロッパのドクターの方がアメリカのドクターに比べ、パクリタキセルに対する見方が少し厳しいのかな、という気はします。ヨーロッパの人の方がQOL(見た目を含め)に対するこだわりが強いのかもしれません。

それからドキシルのことをPLDと表記しているのは、商品名がアメリカと日本ではDoxil、ヨーロッパやカナダではCaelyxと異なり紛らわしいからです。Caelyxはジェネリックなのかと思いましたが、そうではなく販売権を持っている会社が国によって違うかららしいです。2つ名前があるなんてややこしい話です。

(長くなったので副作用については追記にしてあります。)

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2010年08月05日

地味な脇役

campto.jpg

Topotecanという抗がん剤は、奏効率、効き目、副作用など万事において地味な薬だという気がします。華やかなスポットライトを浴びることもなく、自らの限られた役目を地道に果たしている影の薄い脇役のような印象があります。

TopotecanはトポイソメラーゼI阻害薬という種類の抗がん剤です。トポイソメラーゼはDNAに巻きついている2本鎖を切断したり再結合したりする酵素→その働きが阻害されるとDNA複製に支障をきたす→よって癌細胞が死滅する(理論上)というメカニズムらしいです。欧米では卵巣がん、小細胞肺がん、子宮頸がんの治療に用いられています。

Topotecanが卵巣がん治療薬の仲間入りする決め手となったのは、タキソールと一騎打ちで効果を比較した治験でした。対象は再発卵巣がん患者(トポ112名、タキ114名)で、主な結果は以下の通りです。

奏効率 トポ21%:タキ14%
無進行期間中央値 トポ18.9週:タキ14.7週
全生存期間中央値 トポ63週:タキ53週
微妙にTopotecanが優勢に見えますが統計的に有意な差ではありません。サンプル数が小さいこともあり、両者の効き目に差はないという見方をされています。打率はせいぜい2割で、当たっても4〜5ヶ月癌の動きを止めるのがやっと…というささやかな結果ではありましたが、権威のあるタキソールと互角の働きをみせた実績を認められました。

Topotecanは骨髄抑制の強い薬として知られています。そのことは上記の治験でも確認されました。(数字は有害事象が起こった患者の割合)

好中球減少症(グレード4) トポ80%:タキ21%
貧血(グレード3/4) トポ41%:タキ6%
血小板減少症(グレード4) トポ27%:タキ3%

骨髄抑制以外では、やはり吐き気(64%)や嘔吐(45%)がありますが白金系の薬ほど重症ではありません。下痢(32%)になったとしても軽め(グレード1/2)が多く、脱毛は49%なので約半数は髪が抜けないようですね。

骨髄抑制は命に係わる深刻な問題ですが、自覚症状が出ないことも多く、辛いという実感があまり伴わない副作用のような気がします。シスプラチンの嘔吐、タキソールの末端神経障害、ドキシルの皮膚障害などと比較すると、穏やかな薬という感想を述べる患者さんも多いです。

せっかくなので別の治験の結果も簡単に紹介しておきます。TopotecanとPLD(ドキシル)を比較した臨床試験です。対象者はやはり再発卵巣がん患者で、Topotecan組が235名、PLD組が239名でした。

奏効率 トポ17%:ドキ19.7%
全生存期間中央値 トポ56.7週:ドキ60週
とタキソールの時と同様、2つの薬の効き目は似たり寄ったりの結果でした。

しかし参加者を白金感受性のある人(白金+タキサンのファーストライン治療から再発までの期間が6ヶ月以上)だけに絞ると
無進行期間中央値 トポ23.3週:ドキ28.9週
全生存期間中央値 トポ71.1週:ドキ108週
とPLDの方が優勢で、特に生存期間については統計的に有意な差が出ました。(この勝利データを基に、ドキシルの米国でのステイタスは緊急承認から正式承認に格上げされ、セカンドラインの筆頭的存在になりました。)

ちなみに白金感受性のない人(難治性含む)の間では
無進行期間中央値 トポ13.6週:ドキ9.1週
全生存期間中央値 トポ41.3週:ドキ35.6週
とTopotecanの方がやや成績が良かったようです。(トポティはあくまでも控えめなのです。)

Topotecanは日本の卵巣がん患者さんが承認を待ちわびている薬の一つだと聞きます。しかしエビデンスの数字から判断するに、この薬が使えないから治らないとか、命が大幅に短くなるとかいう事はないように感じます。少なくとも待っている間あせったり、悲観したりする方が余程身体に障ると思います。特に日本の場合は、同じトポイソメラーゼI阻害薬であるIrinotecanが既に使用されているという背景があります。Irinotecanは、欧米では大腸がんの治療以外にはあまり用いられていないのですが、日本国内では卵巣がん、乳がんなど幅広く活躍しているようですね。日本で開発された薬であれば治験結果も臨床経験も豊富でしょうし、自然な流れかと思います。今後Topotecanを卵巣がん治療薬に加えるのであれば、Irinotecanとcross resistantにならないのか素人ながら気になります。クロスレジスタンスは、癌を殺すメカニズムが同じ薬は、片方が効かなければもう片方も効かない(ことが多い)という現象です。もっともcross resistantだったとしても、患者がTopotecanかIrinotecanか好きな方を選べるようになるのなら十分意義があるでしょう。地味なトポティ君、日本デビューを果たす日が来るのかな?
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2010年07月10日

免疫を解き放つ薬

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今週は木曜日までheat wave(熱波)の襲来で茹だるような暑さでした。ニューヨークやフィラデルフィアでは気温が38〜39℃まで上がったそうです。カナダ、オンタリオ州は少しましでしたが連日33℃というのは記録的です。(ちなみに昨年はひと夏を通じて30℃以上は2日だけでした。)ようやく気団が動いて平年並みに戻り、暑いのが苦手の私はほっとしています。

あまりにも暑いと昼間、屋外に出る気もおきませんが、基本的にカナディアンはアウトドアが大好きで、女性でも日焼け、しみ、そばかすなどをあまり気にかけていない人が多いように見えます。日光にあたるとビタミンDを生成できるので、過剰なまでに日焼けを恐れるのはどうかと思いますが、日光浴も度が過ぎるとメラノーマのリスクが上がるので、そちらの方が顔のしみよりよっぽど深刻です。

メラノーマは白人の人に多く、実は職場にもメラノーマになった人がいます。幸い早期に発見されたので再発することもなく元気で仕事をしていらっしゃいます。手術のみで再発予防の化学療法はなかったとおっしゃっていたので羨ましい話だと思いましたが、調べたらキモをしないのはキモが効きにくいタイプの癌だからのようでした。そのため転移したメラノーマは、現代医学の力では治すどころか延命することさえ難しい状態なのだそうです。

そんな進行メラノーマの治療に新薬が登場しました。(前振りが長いってつっこまないでね。)Ipilimumabという名前で、先月のASCO総会で最も話題になった薬の一つだったと記憶しています。発表されたのはフェーズ3の臨床試験で世界13カ国から約670名(ステージIII、IV、手術による切除不可能なメラノーマ)の方が参加され、Ipilimumabとペプチドワクチンの効き目を比較したものです。Ipilimumabは単剤でもワクチンと併用でも、ワクチンだけのグループより生存期間(OS)が約4ヶ月長い(10ヶ月 vs 6.4ヶ月)という結果でした。たかが4ヶ月と思う人もいるかもしれませんが、この4ヶ月は、例えばアバスチンが卵巣がんの無進行期間(PFS)を4ヶ月延ばしたのとは異なり、ささやかではあっても真の延命効果を示す重みのある数字です。しかも他には有効な治療法がない患者群に対してです。治療後1年間生存された方の比率もIpilimumabは46%、ペプチドワクチンは25%と倍近く、「(進行メラノーマ治療の)長く暗いトンネルの出口に光が見えてきた」と評されています。ただ奏効率が低い(10.9%)ので、今後は他の薬と組み合わせて奏効率を上げるのが課題だそうです。

Ipilimumabのニュースを聞いて心に浮かんだことが幾つかあります。

1.薬で免疫強化
Ipilimumabは名前から察せられる通り分子標的薬です。リンパ球の細胞傷害性T細胞の表面にあるCTLA-4という抗原をターゲットにしています。CTLA-4はキラーT細胞のブレーキ役を担っており、これを利くかなくしてキラーT細胞に思う存分暴れてもらうのが狙いです。リンパ球やら樹状細胞やらを培養、強化して体内に戻すアプローチに比べ、何やら手っ取り早そうに思えます。

免疫療法というと補完医療または実験段階の治療法のようなイメージが強いですが、化学療法の枠内でもインターロイキン(IL2)のように昔から使われている薬はあります。誰もが薬で免疫を強化できたらさぞ便利でしょうが現実はそう甘くないです。IL2の効果は限られておりメラノーマや腎細胞がんなどに細々と用いられているだけようです。

普通の殺細胞系抗がん剤が効かない種類の癌は、その埋め合わせで免疫治療の効果が出やすいでしょうか?まあそれは素人考えですが、Ipilimumabの研究がメラノーマを中心に行われているのは事実です。メラノーマ以外で有望視されているのは前立腺がん。手の施しようがないと思われていた前立腺がんが、Ipilimumabとホルモン療法の併用で手術可能なレベルまで縮小したケースが報告されています。肺がんや膵臓がんに対しても治験を行っており今後研究対象が広がるかもしれません。またIpilimumabの成功により、製薬会社の免疫療法に対する興味が高まり、柳の下のどじょうを狙って免疫を活性化する薬の開発に拍車がかかるのではと期待しています。

2.副作用が強い
分子標的薬で、しかも免疫を強くする薬なら身体に優しいのかと思ったら大間違いです。そもそも免疫はウイルスやバクテリアといった外からの侵入者を駆逐するのが主な仕事で、身内の反逆者である癌が放置されているのは自己防衛の裏返しのようなものだと思います。その留め金をIpilimumabが外してしまうので、T細胞は癌細胞だけでなく正常な組織にもダメージを与えてしまうのです。普通の抗がん剤が正常な細胞を傷つけるのとメカニズムは全く違いますが、癌だけ狙い撃ちにするのがいかに難しいかを思い知らされるようです。

一番多い副作用は下痢で、上記のフェーズ3治験では27〜31%の人に症状が表れました。ステロイドの使用でコントロール可能と言っていますが、かなり激しい下痢のようです。有害事象で亡くなられた方は14名(2%)。まあ薬の治験で死者が出るのは珍しくないのですが、他の治験と比べて犠牲者が多いなという印象を受けました。これって許容範囲なんでしょうね… リスクの無い治療法では大きな効果は望めないということなのかもしれません。複雑な心境です。

もし自分が…
    癌が進行、転移していてもう助かる見込みはない。
    他に有効な治療法が無い。
    副作用は強めである。
    奏効率は低めである。
    しかし当たれば3塁打になる。
という状況にあったら新しい薬にチャレンジしたいと思うでしょうか。難しい質問ですが、多分…私はYESだと思います。

3.待っている期間
治験の結果を受け、アメリカのFDAは進行メラノーマ治療におけるIpilimumabの使用認可を迅速に下す見込みです。とはいえ政府の手続きには何ヶ月もかかります。その期間中、Ipilimumabを試すチャンス無しで患者さんが旅立って行くのを放っておくのは人道上問題があります。そこで製薬会社(Bristol-Myers Squibb)がスポンサーとなってCompassionate Use Trialという特別配慮の臨床試験を立ち上げ、その枠内で未承認のIpilimumabを使えるようにしました。臨床試験なので参加者の費用負担はない(?)と想像しますが、だとしたら本当に大盤振る舞いですね。少しは政府が払うのでしょうか?製薬会社にしたらこれも投資の一部なのかもしれませんが、どんな意図があるとしても患者にとっては喜ばしい救済措置だと言えます。

全ての新薬承認過程で同じことを期待するのはさすがに無理でしょう。特例が設けられるには、それなりの倫理的理由、医学的背景があってこそ。それを理解する必要性を強調した上で、状況に応じて対応を変える柔軟性は癌治療全体の向上に欠かせないと考えます。

それにしても、分子標的薬の一般名ってどうしてこう舌を噛みそうな、発音の難しい名前ばかりなんでしょうか。早くキャッチーな商品名をつけてほしいです。
posted by leo at 16:05| Comment(0) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月10日

アバスチン3部作完結編

Chicago.jpg

粘着しているようで気恥ずかしいのですが、ここ数日あちこちのメディアで話題になっていたアバスチンについてもう1度書きます。

シカゴで開かれたASCO(米臨床腫瘍学会)の年次総会で、アバスチンを卵巣がんファーストラインのカーボプラチン+タキソールに加えた治験(GOG0218)の結果発表がありました。フェーズIIIで1873名の方が参加されました。

6回の化学治療の後、アバスチンで地固めをした場合(3週に1回x最高16回)、延長される無進行生存期間(PFS)は4〜6ヶ月だそうです。

具体的には
グループ1:カーボプラチン+タキソール(6回)→10.3ヶ月(PFS中央値)
グループ2:カーボプラチン+タキソール+アバスチン(6回)→11.2ヶ月
グループ3:カーボプラチン+タキソール+アバスチン(6回)の後アバスチンで維持(16回)→14.1ヶ月
という結果でした。

また、癌進行の有無を判断する際にCA125値の上昇を含めずCTの画像のみで判断した場合は、グループ1のPFSが12ヶ月、グループ3が18ヶ月だったと報道されました。

再発までの期間がやけに短いと感じる人もいるかもしれませんが、この治験は参加者を手術で腫瘍を取りきれなかったステージIIIとステージIVの方に絞っているので、見える癌を全部切除した後で再発防止に受ける化学療法とは状況が違います。それに中央値が14.1ヶ月ということは、50%の人はそれ以上の期間(例えば1年半とか2年とか)、病気が進行することなく治療の心配なしで日常生活をエンジョイできたということを意味します。

ただしPFSが長くなったからといって生存期間(OS)自体が延びたとは限りません。OSは変わらなかったという噂もあるのですが、それについてのデータはまだ揃っていないそうです。

アバスチン由来と見られる副作用は、高血圧(グレード3以上)がグループ2で5.4%、グループ3で10.0%、腸穿孔がグループ2で2.6%、グループ3で2.3%でした。腸穿孔の起こる確率は懸念されていたほど高くありませんでした。手術の直後で腹腔内の腫瘍の量が少なかったからなのか、あるいはファーストラインなので何度もキモを繰り返してきた再発組より腸壁の状態が良かったのか、その辺の事情は解明されていません。

この結果について色々な意見が出ています。

治験の主任研究者、Dr. Robert Burger(Fox Chase Cancer Center, Philadelphia)は当然のことながら自信満々。「アバスチンは卵巣がんに対して有効性が証明された始めての分子標的/血管新生阻害薬。アバスチンを加えたレジュメンおよび維持療法は、標準的な治療オプションの一つとなるべきだ。」と述べています。

イギリスのUniversity Hospital Coventryの顧問腫瘍内科医であるPoole教授は「私が顧問をしている16年間で、最も臨床上意義のある卵巣がん治療の前進だ。」と大歓迎。

患者サポート団体Target Ovarian Cancerの代表Annwen Jonesさんも「普通の生活が長く続けられ、家族と過ごしたり自分のやりたい事をできる期間が長くなるということですね。」と嬉しそうです。

イギリスでは、アバスチンの卵巣がん治療に対する使用許可(ライセンス)は今年中に下りる見込みだそうですが、実際に国内のヘルスケアシステム(NHS)で日常的に使われるようになるためには、National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)という機関の審査に通らなければいけないのです。NICEは費用対効果に非常にシビアで、過去にタキソールに対してすら黄信号を出したほどなので、そう簡単にOKを出すかどうかは疑問です。

Cancer Council AustraliaのCEOであるIan Olver教授は「卵巣がんの新しい治療法は切に必要とされている。アバスチンをキモセラピーに加えることで病気が進行するまでの期間を延長することができる。」と認めながらも、「アバスチンが広く使用されるよう奨励するのは時期尚早。」と慎重な姿勢を見せています。理由は稀に起こる重篤な副作用(腸穿孔)と費用。「PFSが4ヶ月延びるだけで生存期間に違いがでないなら、多額の費用を正当化することは難しい。」と正直に語っています。

カナダ癌研の研究者の一人、Dr. Elizabeth Eisenhauerはもっとネガティブな意見です。(ハァ〜とため息…)「とてもよく実施され長所が多く短所の少ない治験であるのは事実だが、疑問点も沢山ある。キモのレジュメンに加えただけで地固めをしなかった患者群に効果が現れなかったのは何故なのか?」「PFSの延長が生存期間の延長につながるとは限らないし、患者にとって本当に意味のある結果なのかどうかわからない。」「臨床に適用するには早すぎる。」とかなり手厳しいです。

色々理屈をこねていますが、要するにネックは費用のようです。Dr. Eisenhauerによるとアバスチンは1年に1人あたり7万2千ドルかかるそうです。各国で製薬会社と交渉して多少ディスカウントしてもらうにしても、非常に高くつく維持療法であることに間違いありません。

ちなみにヒマ人の私は自分でも計算して見ました。治験で使用したアバスチンのドーズは体重1kgあたり15mgだそうです。ということは40kgなら600mg要です。日本の某個人輸入サイトによるとアバスチン100mgが6個入りで41万5千円なり。それを3週間に1度ずつ、16回使用すると年間に664万円です。Dr. Eisenhauerの試算と私の素人見積もりの差は、基にした体重の差かしら?

一方の売る側、RocheのCOOであるPascal Soriot氏は大喜びで「維持療法は大ヒットになる!」とアメリカの経済誌に豪語していました。確かに6回で終わってしまう普通のキモよりお金になるでしょうね。

せっかく格調高くASCOでの研究結果発表について書こうと思ったのに、また世知辛い話になってしまいました。費用の点をつつかれる理由は、高額の薬だからというだけでなく、アバスチンをファーストラインに加えるメリットが、現時点では「無進行期間の延長」だけで「生存期間の延長」ではないからのようです。ジェムザールの時も、治験の結果で無進行期間は延長したものの生存期間の延長が確認されなかったためFDAの審査でもめました。アメリカ以外の国(カナダ、イギリスなど)では一応承認はされたものの、未だにエビデンス不足扱いであまり使用されていません。

賛否両論のアバスチンですが、PFS4ヶ月延長というのは癌の治療薬としてはやはり成功例だと思います。白金感受性のある再発患者に、タキソールとカーボプラチンの両方を投与する場合とカーボプラチン単剤で使用する場合の違いが、PFSで3ヶ月、OSで5ヶ月です。たったそれだけの違いでも、ほとんどの医師は併用のレジュメンを勧めます。がん治療の現実とはそういうものなのです。

私自身がアバスチンを使ってみたいか?使いたいですね。確かに腸穿孔のリスクはありますが基本的にはマイルドなお薬です。従来の抗がん剤のように免疫をズタズタにしないし、一年間点滴に通っても苦にならなそう。(保険でカバーされればですよ。)タキソールやドキシルといった副作用の強い殺細胞の薬をスキップしてアバスチンだけ使いたいくらい。でもそうやって患者に選ばせてはくれないんですよね〜。

情報ソース:ASCOのAbstractMedscapeTimesAustralianNew York TimesWall Street JournalForbes
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2010年05月23日

続アバスチン

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アバスチンの続きです。

アバスチンは比較的新しいお薬で話題に上ることも多く、今時の癌患者および患者の家族の方の間では知名度が高いのではと思います。既にこの薬についてよくご存知の方も大勢いらっしゃるでしょうが、自分の勉強として幾つか資料を読んだばかりなので、忘れないようにここに記しておきます。

血管新生阻害薬(angiogenesis inhibitor)とは何ぞや?

癌が生存していく上で、酸素や栄養を運んでくる血液を確保することは必要条件です。そこで癌は血管新生を促す増殖因子なるものを分泌して、せっせと血管作りに励みながら大きな腫瘍へ成長します。理論上、血管新生阻害薬により血管を作れなくなった癌は縮小すると考えられます。私の脳内イメージでは、従来の抗がん剤(殺細胞性)が癌に爆弾攻撃をするのに対し、血管新生阻害薬は癌を兵糧攻めにするような感じですね。流れ弾が健康な細胞に当たることがなさそうなので、マイルドなお薬という印象はあります。

血管新生阻害薬にもいろいろな種類があり、60年代に胎児奇形の問題を起こしたサリドマイドも血管新生阻害薬の一つです。アバスチン(ベバシズマブ)は、特に血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor 略してVEGF)というタンパクを標的にしています。VEGFは癌が分泌する増殖因子の中で一際パワフルな物質。VEGFをブロックすることにより癌の毛細血管網を破壊するのが狙いだそうです。

アバスチンは卵巣がんと相性がいい?

卵巣がんは腫瘍内の血管の密度が高いほど予後が厳しくなるというデータがあり、血管新生阻害は腫瘍の増大を抑える上で鍵になると考えられています。また、VEGFは卵巣の生理的な機能と深く係わっていることから、抗VEGF薬は卵巣がんに特に効果があるのではと期待されていました。

治験を始めたところ、予想通りアバスチンは卵巣がんと相性がいいことが判明してきました。他の癌(大腸がん、肺がん、乳がん)に対しては単剤ではあまり効かず、殺細胞性の抗がん剤と組み合わせることにより治療効果を強化する働きのあるアバスチンですが、卵巣がんに対しては単剤でも病気の進行を遅らせる力を発揮しました。従来の抗がん剤と組み合わせるのも勿論OKのようです。

アバスチンと再発卵巣がん−延命効果はどれだけ?

過去に行われた治験によると、アバスチンは再発卵巣がんに対して延命効果を示しました。例えばGOG170Dというトライアルでは、再発卵巣がん患者62名を対象にアバスチン単剤を3週間に1度のペースで投与したところ、奏効率21%、無進行期間は中央値で4.7ヶ月、参加者の40%は6ヶ月以上病気の進行が止まり、生存期間は中央値で17ヶ月だったそうです。その他の治験結果をまとめた便利な表を見つけたので転載させていただきます。

注:サムネをクリックすると大きくなりますが、具体的な数字を見ると落ち込む人はスルーして下さい。

Avastin table 1.jpg

データは一番左の行から:
研究者のお名前、参加者数、参加者が今まで受けたレジュメンの数、治験がアバスチン単剤(single)か抗がん剤との併用(combination)か、白金感受性の有無(+/+の場合は感受性が有る人と無い人の両方含む)、完全+部分奏効率(%)、無進行期間中央値(月)、生存期間中央値(月)

ファーストラインではどうか?

先週の投稿内容と重複しますが、アバスチンを白金+タキサンのコンボに加えたファーストライン治療のトライアル結果は、6月のASCOの総会で発表になるらしいです。製薬会社(Roche)の発表によると、アバスチンを地固めとして継続投与した患者群は再発までの期間が長かったそうです。寛解期間が延びたといっても月単位のような気がしますが、効き目の程について早く詳細を知りたいです。再発する人の数が減ったのかどうかも気になるところです。

アバスチンの副作用は?

アバスチンは分子標的薬なので殺細胞系の抗がん剤の様な副作用はないだろう、と期待しがちです。実際、白血球が少なくなったり髪が抜けたりはしないようですが、副作用が全くないわけではありません。アバスチンの副作用で比較的起こりやすいのは高血圧とタンパク尿(腎臓の障害)です。血栓が出来たり出血しやすくなることもあるようです。傷の治りが遅くなるという話もあります。実際にアバスチンで治療された卵巣がん患者さんの体験談によると、声が枯れたり鼻水が出たり…といった軽い症状を訴える人が多く、総じてアバスチンの治療は楽勝という意見です。

いいことずくめ…ではない?

3年くらい前、白金感受性の無い再発卵巣がん患者さん対象にアバスチン単剤の治験があったのですが、副作用が大きいために中止になってしまいました。一番問題になったのは腸穿孔です。通常アバスチンによる腸穿孔のリスクは1〜4%と言われていますが、その治験では44人の参加者の内5人の方(11.4%)に腸穿孔が起き、一人は亡くなられました。

アバスチンの腸穿孔は卵巣がん患者の間で起こりやすいのでしょうか? 卵巣がんは腹腔内で進行、再発することが多いため、腸壁が厚くなっていたり腸閉塞が起きているケースも少なくありません。このことが腸穿孔の発生に関与しているのではと指摘する声もあります。が、はっきりした答えは出ていないようです。中止になったのは上記の治験だけで、他の治験は大規模なフェーズ3の治験も含めて無事終了していることを考えると心配しすぎない方が良いような気がします。病状や治療歴によってはリスクが高くなるかもしれない、ということだけ心に留めておこうと思います。

Wish List

最後にアバスチンについて、この点をもっと解明してほしいというWish Listです。血管新生阻害薬であるアバスチンも従来の抗がん剤同様、効く人と効かない人がいるようです。例えば腫瘍が特定の物質を発現している場合に効きやすい…といった因果関係が存在するのかどうか、その辺りがもっとわかってくるといいですね。加えて重篤な副作用が起きやすい患者も絞り込めるといいなぁ。難しいことだとは思いますが。

期待の新薬だから誰でも試してみたい、という意見もあるでしょうが、何度も言うように非常に高価な薬です。副作用が少ないといっても無害なわけではありません。リスクより恩恵の方が明らかに大きい患者群を特定することが可能であれば、その人たちを中心に使用した方が患者にとっても保険制度にとっても有益なのではないか、と個人的には感じています。

情報ソースとして使わせていただいたのはNCIInspireJCOMedscapeでした。
posted by leo at 15:50| Comment(8) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月16日

アバスチン・ニュース

avastin.jpg

アバスチンが卵巣がんの標準治療に加わる日がいよいよ近づいてきました。少なくとも製薬会社はそう期待しているようです。

1月に書いた「これからの10年」という投稿の中で、カーボプラチン+タキソールの黄金スタンダードにアバスチンを加えたフェーズIIIの治験(GOG218とICON7)についてふれましたが、GOG218の方は6月のASCO(米臨床腫瘍学会)の年次総会で結果発表があるようです。それを待たずしてアバスチンの販売元であるRoche(正確には傘下のBiotech、日本では中外製薬)は2月末にプレスリリースを出しました。

GOG218は、ステージIIIで手術で腫瘍が取りきれなかった人およびステージIVの人を対象にしたファーストラインの治験です。
@カーボプラチン+タキソール+プラセボ6回後プラセボのみ継続、最長トータルで22回
Aカーボプラチン+タキソール+アバスチン6回後プラセボのみ継続、最長トータルで22回
Bカーボプラチン+タキソール+アバスチン6回後アバスチンのみ継続、最長トータルで22回
(全て投与は3週に1回)
の3グループに分かれ、それぞれの治療効果を比較しました。ロシュの発表によると、グループ@とグループAの間には違いが出なかったけれども、グループBの患者群は再発までの期間が他のグループよりも長かったということです。

ただ、無進行期間が具体的にどのくらい延びたかについては明らかにされませんでした。また生存期間については、まだ統計がでていないのではないかと思われます。(終了してまだ年月が浅い治験です。参加された方の多くは今も生きていらっしゃる…と願っています。)

進行した卵巣がんの場合、カーボプラチン+タキソール(静脈投与で3週に1度x6回)の初期治療終了後、再発するまでの中央値は17〜18ヶ月と言われています。17ヶ月が20ヶ月になったのか、25ヶ月になったのか…そのあたりの数字がはっきりわからないと、どの程度喜んでいいかわかりません。が、統計的に有意な差が出ればアバスチンが地固め・維持療法として標準治療に加わることは十分あり得ます。卵巣がんは効果的な地固め療法がないのが悩みの種であることを考えると、やはり朗報なんでしょうね。

アメリカでは既に、治験の枠外でもアバスチンをoff-labelで卵巣がんの治療に用いる病院が多いと聞いています。off-labelというのは薬を未承認の用途に使用することです。個人の健康保険が多いアメリカだからそういう枠に外れたこともできるのかと思いましたが、Medicareという政府がやっている保険でもほとんどの州ではカバーされるらしいです。アメリカ以外の国では未承認の用途に使うのは難しいのが現状です。カナダの州ヘルスプランではまだカバーされません。オーストラリアでも同様で、卵巣がん治療に使用するアバスチンに公立保険の適応を求める患者さんたちがFacebookで署名運動を行っています。

分子標的薬、血管生成阻害薬はアバスチンに限らず高額ですからね〜。かなりの効果が証明されない限り、どこの国でもそう簡単には保険を適応できないのだと思います。アメリカ以外の国では、GOG218だけでなくICON7(主にヨーロッパで行われた治験)の結果も照らし合わせた上でないと決断を下さないような気もします。ちなみにICON7もトライアル自体は終了しているので、現在集計中なんじゃないかな〜。

身も蓋もない言い方ですが、高額な新薬は製薬会社にとっては金の卵です。アバスチンは2009年度Rocheの売り上げNo1のお薬。(以下リツキサン、ハーセプチン、タミフルと続きます。)前述のプレスリリースのタイミングも、実はその数日前にアバスチンが手術不可能な進行胃がんの治療に於いて効果がなかった、という敗北宣言を会社が公にした経過があり、株価が落ちるの防ぐ為にフォローをいれたのかと勘ぐりたくもなります。そこまで意地の悪い見方でなくても、有望な新薬のフェーズ3の治験というのは患者にとって希望の綱であるばかりでなく、立場の全く違う製薬会社にとっても「関が原」みたいなのだろうということは想像に難くありません。

医薬品市場を専門とするアメリカのコンサルティング会社Decision Resourcesは、アバスチンの卵巣がんへの使用承認はアメリカ、ヨーロッパでは2011年、日本では2013年と見ています。(カナダは?)そして卵巣がん市場が加わることでアバスチンの売り上げは3倍増となり、2018年には世界トータルで売り上げ15億ドルに上ると予測しています。(そんなお金どこから出てくるんでしょうね。税金?保険料?個人のお財布?)

なんだか世知辛い話になってしまってすみません。経済的側面がやや先行気味のアバスチン最新情報(?)でした。
posted by leo at 14:39| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月17日

抗がん剤感受性試験ってどうなのよ?

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先進医療のひとつに抗がん剤感受性試験(Chemosensitivity Assay)というのがあります。先進医療に疎いカナダに住んでいる自分にはあまり縁がないと思っていたのですが、北米の卵巣がん患者の間でホットな話題であることから少々気になってきました。

抗がん剤感受性試験は、新しい治療法に積極的なアメリカでさえ未だ「実験段階」と見なされており、ほとんどの健康保険の適応外であるばかりでなく、現場の腫瘍内科医(Oncologist)の間でも否定的な見方をする人が多いそうです。有効性を示すエビデンスに欠ける、試験管内での癌細胞の反応は体内での反応と違う、テスト結果で効かないとされた薬でも別の薬と併用すると効くことがある、精度にむらがある、等の欠点が指摘されています。

アメリカで抗がん剤感受性試験を行っているのは主にプライベートの研究所です。病院や大学の付属機関ではなく個人の企業が所有していると言う意味で、それぞれの研究所が独自の技術で開発した試験法を個別にマーケティングしています。以下の文中ラボの名前は出てきても病院の名前が出てこないのはそのためです。もちろん試験の依頼は通常医師を通じて出されますが、医師が乗り気でない場合に患者が直接問い合わせをすることも少なくないようです。また、抗がん剤感受性試験はほぼ全ての種類の癌に対して行われていますが、効果のほどに関する研究結果は卵巣がんに絞ってあります。以上長い前置きでした。

抗がん剤感受性試験は、先進医療といっても結構昔からあるにはあったらしいです(少なくとも1980年代から)。しかし当時はテストの技術が不完全で精度もかなり低かったと聞きます。その後どのような過程で技術が進歩したのかは知りませんが、ここ10年くらいアメリカで最も広く用いられている試験はOncotechというラボのEDRです。EDRはExtreme Drug Resistanceの略で、癌組織を5日間抗がん剤にさらし、その厳しい環境下でも増殖するかどうかを調べるテストです。増殖し続けたらEDR。その人の癌にその抗がん剤が効かない可能性は99%という試験結果となります。つまりEDRはどの抗がん剤が効かないかを調べ、無駄な化学治療を省くことを目的にしているようです。ただEDRのテスト結果が臨床現場の方針決定にどの程度影響を及ぼしていたのかは疑問です。何しろ実験段階の技術ですから。さらに近年、EDRのテスト結果が患者の生存期間や無進行期間の延長に貢献していない(言いかえると感受性試験をした意味がない)、という複数の研究結果が発表されました。一例として、1995〜2009年にEDRテストを受けた進行卵巣がん患者253人の治療経過の分析があります。抗がん剤をファーストライン(白金、タキサン)とセカンドライン(それ以外)のカテゴリーに分け、どちらのカテゴリーにもEDRの薬が含まれている人を Dual-resistance(薬への二重の耐性)とし他の人と比較しました。するとキモの奏功率、無進行期間、生存期間のいずれにも両者の間に有意の差は見られませんでした。

こうした批判に対し、抗がん剤感受性試験を支持する人達は、EDR以外のもっと新しい技術を使った感受性試験ならば精度が高いと反論しています。癌細胞がどの抗がん剤に対して耐性を持っているか調べるEDRと異なり、最新の感受性試験はどの抗がん剤が癌細胞の死を確実に導くか(Cell Death)を調べることを目的としています。つまり効かない抗がん剤を見つけ出すだけでなく、効く抗がん剤や抗がん剤の組み合わせを特定しようと試みているのです。試験技術の詳細は専門的すぎて私の理解範囲を超えている上、各研究所のホームページでも技術流出を恐れてか(?)検査のメカニズムについては立ち入った説明を避けている感があります。体内での癌細胞の反応に近づけるために、3次元培養のようなことをして癌細胞のかたまりを作ってテストしたり、癌細胞の死を明確に捉えるために特殊な検査法(DiSC Assay、ATP Assay、 MTT Assay)を組み合わせたり、色々工夫はしているようです。ATP Assay(ATPは細胞内の酵素)については有効である可能性を示す(第三者による)研究結果も見かけましたが、ランダムコントロールで比較分析しているわけではないのでエビデンスとしては弱いという印象です。

抗がん剤感受性試験の最新技術を誇る主だった研究所としては

EVA-PCD(感受性試験の名前)のRational Therapeutics (研究所/企業の名前)
CytoRx(普通の抗がん剤向け)とEGFRx(分子標的剤向け)のWeisenthal Cancer Group
ChemoFxのPrecision Therapeutics

などが挙げられます。RationalとWeisenthalはカリフォルニア、Precisionはペンシルバニアにありますが、近郊に住んでいなくても腫瘍組織だけ空輸すれば試験してもらえるそうです。費用は3000〜5000ドルくらいです。(いいお値段ですね…)ちなみに3番目のPrecisionは特に卵巣がん、乳がんの感受性試験に力をいれているらしく、トライアルも卵巣がん、乳がんの患者を対象に積極的に行っています。

先進医療で有効性は不確か。しかも高額の費用を要する。それでも感受性試験に期待をかける患者が多いのは何故でしょうか。

現在の化学治療はエビデンス(統計)に基づいて一番効きそうな薬や薬の組み合わせを試し、それが効けばおめでとう。効かなかったら次に効きそうな薬を試すというtrial and error方式です。効いているかどうかを判断するのに6〜8週間はかかり、効いていない場合は貴重な時間を無駄にすることになります。病気が進行している人にとっては本当に貴重な時間です。しかも効かない薬の副作用で全身状態は悪くなってしまいます。治療にかかった費用の問題もあります。患者の側からしたら「統計なんてどうでもいい、私に効く薬を使って治療してほしい」と感じるのは当然のように思います。

とはいえ、感情に流されて実験段階の技術を盲信するは危険です。卵巣がんの場合現時点では、感受性試験の受けその結果がどうであっても、ファーストラインが統計的に堅い実績のある白金+タキサン以外の薬になることは考えにくいです。セカンドラインの選定には感受性試験の結果が有益な情報となり得るかと思いますが、そのためにはフレッシュな腫瘍サンプルが必要になります。問題は再発しても手術はせず化学治療に直行することが多いという現実です。タイミング良くまた手術することになって、さらにタイミング良く宝くじにでも当たったら、主治医を説得して感受性試験を受けるのもいいかなぁ。でも、それで私の癌に特に効くと判断された薬が州の保険でカバーされない新薬だったらどうしよう。やっぱり先進医療なんて高嶺の花なんだろうか… (ため息)
posted by leo at 14:56| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月08日

石橋を渡りたい患者の心理

早いもので12月も1週間過ぎましたがその割りに過ごしやすい日が続いています。
実は、私の住んでいる市では11月に雪が一度も降らなかったという観測史上記録的な暖かさでした。どうりで革ジャン着て外を歩ける期間が長かったわけです。あまり寒くない方が身体は楽ですが、地球温暖化のことなど考えると、そろそろカナダの冬らしく朝から晩まで氷点下になった方がよいのかとも思います。

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ところで、ずっと取り上げてきたニューヨークタイムス紙の『40年の戦い』(Fourty Years' War)というアメリカ癌研究のシリーズ。さすがにちょっと飽きてきましたが最後に比較的身近に感じられる話題があったので、それを紹介してひとまず終わりにしたいと思います。記事のタイトルは『治験参加者不足が癌との戦いの足を引く』です。抗がん剤開発を遅らせている理由の一端は、治験参加に消極的な患者の側にもあるという耳の痛い内容です。

clinicaltrials.govというサイトをご存知でしょうか?欧米で実施されている治験を検索できる便利なデータベースです。現在参加者を募集している治験が6500以上掲載されていますが、残念ながら中止になってしまうトライアルも少なくありません。例えばアメリカの癌研究所(NCI)が行おうとする治験のうち5件に1件は参加者ゼロ、ほぼ半分は統計的な結果を得るのに最低限度の人数しか集まらないのだそうです。そればかりでなく、実施にこぎつけたトライアルの中には、初めから少数の患者を対象に試験的に行われているものも多く含まれ、こうした小さな治験は国の治療方針の見直しには使えないのです。

新しい治療方法を既存の治療と比較しない限り、より優れた治療法を開発し生存を延ばすことはできない、という論理は誰でも理解できますが、自分が治験に参加するとなると話は別なのです。当然のことながら参加者が集まりやすいのは、現在効果的な治療法がない、あるいは既存の抗がん剤を使いつくしてしまった人を対象としたトライアルです。失うものは少なく、万が一の奇跡に賭け、それがだめでも、せめて医学の進歩に貢献し将来同じ病気になる人の助けとなりたい、自分の命を無駄にしたくない、という差し迫った状況での勇気と同胞愛の表れなのかもしれません。

一方、ある程度の奏功率を見込まれる標準治療のオプションが残っている人は、トライアルに乗り気でないことの方が多いそうです。自分の命がかかっているのだから少しでも安全そうな治療法を選ぶのは無理もないことなのだと思いますが、初期、中期向けの治験が実施されなければ永遠にファーストライン、セカンドラインは現状維持になってしまいます。維持/地固め療法のトライアルも、例えば毎週点滴を受けなくてはならないような薬の場合、再発の可能性がかなり高い人を除くと、時間を取られるのがいやで参加を渋られます。新薬VSプラセボの治験はプラセボに当たるのを嫌って参加率が落ちます。

この辺の話は私にも大いに心当たりがあります。卵巣がんの治験にどんなものがあるか調べると、大多数は難治性や白金感受性なしの人向けです。白金感受性ありの人向けで大がかりに行っているのはアバスチンくらい。よく目にするのは、カーボ+タキソールの標準コンビにアバスチンを加えた明らかに無難なトライアルで、アバスチンは既に知名度が高いこともあり、参加者は十分集まった様子です。私は去年、術後化学療法をするかどうか迷っていた際、腫瘍医チームに「何か目新しい治療法はないんですか?」と質問して、この治験の話をされました。「2つでも嫌なのに3つなんてもっと嫌〜!」と叫んでそれっきりでした。
そして結局カーボプラチン単剤の化学治療を終了した後、何か楽な地固めでもできないかと上記のclinicaltrialsサイトで検索したところ、興味をひくトライアルが2つありました。ひとつは地元の病院で受けられるネクサバールを使った維持療法の治験でしたが、ネクサバールになるかプラセボになるかわからないというのがネックで止めました。もうひとつはNY州バッファローでワクチン療法の治験を見つけ非常に興味があったものの、4週間に一度とはいえ一回の治療に4日かかる(4日とも外来)というのです。バッファローはそう遠くないので交通費だけならいいけれど、毎回ホテル代までかかると考えたらやる気が失せてしまいました。

NYタイムスの記事は、治験の効率を上げるために始まった新しい試みについての明るいニュースで締めくくっていました。この新方式はMDアンダーソンで乳がんの人対象に行われているそうです。従来の治験と違うのは、まず新薬の投与を術後ではなく術前にするということ。術後だと再発までの年数を調べるために時間がかかるけれど、術前ならば腫瘍が小さくなるかどうかで効果がすぐにわかるのが利点です。また事前に腫瘍の遺伝子構成を調べ、複数の新薬の中から一番効きそうな薬を試すようにするとのこと。さらにトライアルを進めるうちに、複数の新薬の中で他より有望な薬がでてきた場合は治験デザインを修正。それ以降の参加者で同じタイプ(遺伝子構成)の腫瘍を持った人にはその有望な薬を優先的にテストする。という具合に新薬の勝ち抜き戦をして一番になった薬のみフェーズ3を実施。フェーズ3ではこの薬が効くタイプの腫瘍の人だけ300人集めて最終結果を出す予定だそうです。なんだか複雑で書いていても混乱しましたが、すごいです〜。さすがはMDアンダーソン。別世界ですね。
posted by leo at 18:58| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月01日

3塁ゴロ的な癌の研究

テレビのニュース番組でアバスチンと大腸がんの話題を取り上げていました。強力で延命効果があると紹介されたアバスチンでしたが、最後にやんわりと「しかし癌を治す(完治する)薬ではありません」と釘をさしていたのが印象に残りました。テレビ局としては患者の希望をそぐのが意図ではなく、ただ誤解を生まぬよう正確な情報を伝えたいという報道姿勢の表れなのだと思います。

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ニューヨークタイムスで連載している『40年の戦い』(Fourty Years' War)というアメリカ癌治療に関するシリーズ記事は、40年近くも国を挙げて癌の研究に打ち込んでいるのに、なぜ予防法や治療法に大きな進歩が見られないのか、その問題について様々なアングルから分析しています。

癌の治療は手術、放射線、化学療法が3本柱です。手術と放射線治療にも改善の余地はあるのかもしれません。が、癌という病気が進行するにつれ転移し全身の病(systemic disease)と化すことと、悩みの種の副作用の点からも、より効果的になることが最も望まれるのは化学療法だと思われます。

傍目から見ると、アメリカの抗がん剤の研究はとても盛んに行われているようにうつります。実際にリサーチの数は世界一なのでしょうが、何が優先的に研究されているのか、というところに問題があるようです。それについて掘り下げたのが『癌研究者に安全策をとらせる補助金制度』という記事です。

癌の研究をするには、政府や他の公的基金、もしくは製薬会社などから資金援助を受けなくてはなりません。製薬会社の場合は自社製品を市場に出すことだけが目的という制約があります。政府や公的基金を頼る場合は補助金の出やすいタイプの研究に偏る傾向がでてきます。癌の研究の中でも、生存率を大きく延ばす可能性を秘める画期的な薬の開発は、試験管やマウスでは成功しても人間相手では全く効かないことも多く、資金をつぎこんでも無駄になる可能性は大です。また、理論を試す第一段階の研究は、その理論が斬新であるほど裏づけとなる事前研究結果の数が少なく、補助金の審査で研究の必要性や意義を証明するのが困難です。一方、現在の癌治療に大きな違いを生むことはなくても、癌の理解に貢献したり、将来の癌治療改善へのワンステップとなり得るような研究は、失敗のリスクが少ないため補助金を受けやすいというのが現状です。言い換えると、国の補助金は手堅く小規模な研究に使われることが多く、まるで国中の研究所にコンスタントに仕事を供給するのが目的になったかのようです。これでは夢の新薬を生む土壌とは言えません。独創的な研究を奨励するために、議会が「チャレンジグラント」という新たな補助金制度を設けたものの、200件の枠に2,1000件の応募があり焼け石に水のようです。

製薬会社の新薬研究については、『癌の薬で一攫千金を狙う産業界』という別の記事がありました。意外なことに、かつて癌の薬というのは大手製薬会社にとってあまり魅力がなかったそうです。癌は種類が多く一つの薬で全ての癌を治療することはできない上、同じ薬を何年も使い続けることも稀だからです。その点、高血圧、コレステロール、関節炎、鬱病などの薬の方が利益を上げやすいのです。しかし最近では、癌の薬が高価だということに引かれてどこの会社も競争で開発に励んでいるようです。

少しひっかかるのは、近年さかんに売り出されている薬の多くが、非常に高価なわりに延命効果はあまり長くないという点です。例えばタルセバ(月3500ドル)が膵臓がん治療に承認された際の根拠は、生存を12日延ばすからだったといいます。アービタックス(月10,000ドル)については、末期大腸がんの方の命を無治療と比べて平均1ヶ月半の延ばすという研究結果だったそうです。どんなに僅かな延命効果でも、それを得るためにお金を払う癌患者は少なくありません。製薬会社がそこにつけこんでいる、といったら言い過ぎかもしれませんが、そういう側面がなきにしもあらずです。生存を大きく延ばすような薬はやはり開発に時間がかかりリスクも高いので、短期間に市場に出せる可能性を持つ薬の方が事業を維持していく上で優先されるようです。例えて言うならホームランは難しいので3塁ゴロで攻めているようなものです。批判に応えるかのように新しいアプローチとして、個々の癌の中でさらに腫瘍のタイプを絞った上でより効果の高い薬の開発に取り組むという動きも出てきました。こちらは球場を小さくしてホームランを狙おうという戦略ですね。

最後に癌のトリビアの泉:

1.ハーセプチンを発見したカリフォルニア大のDr.Slamonは研究の補助金を国から貰えず、レブロンに資金援助してもらったそうです。

2.アメリカで新薬を承認するかどうかを決めるFDA(食品医薬品局)の現局長Dr. Pazdurはベジタリアンで、肉を食べないことが癌の予防に役立つと信じ、運動も毎日欠かさないそうです。(奥様は彼が出張のたびにステーキを食べてるそうです。)
posted by leo at 22:48| Comment(4) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月16日

癌の予防薬

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ニューヨークタイムズという新聞があります。ニューヨークにもアメリカにも住んでいませんが、有名な新聞なので時々サイトに足を運んでいます。時事問題の記事だけでなく、映画評、音楽評、書評なども質が高いように感じます。

さて、この新聞の健康欄に『40年の戦い』(Fourty Years' War)という癌についての記事がシリーズで掲載されています。先週は『癌の予防薬が服用されず』というタイトルでした。このシリーズの興味深いところは、医学の専門家ではなく一般のジャーナリストが癌について書いているので切り口が少し違うことです。外部からの視点でアメリカ癌治療の現状に対して疑問を投げかけている、とでも言ったらよいのかもしれません。

『癌の予防薬』の記事は要約すると次の通りです。

−40年以上も研究を続けているのに癌の死亡率は下がらない。
−効果的な予防策も少ない。現時点で確実に予防に貢献するとわかっているのは:
      禁煙(肺がん他多くの癌)
      ホルモン補填療法の中止(乳がん)
      HPV予防ワクチン接種(子宮頸がん)
の3つくらいしかない。
−生活習慣(低脂肪ダイエット、野菜や果物をたくさん食べる、運動をする等)が癌の予防になるというエビデンスは弱い。大規模なトライアルで効果が確認されたことはない。
−肥満が癌の発生に係わっていると明確に示すエビデンスもない。
−特定のビタミンやミネラルによる癌予防効果は大規模なトライアルで示されたことがない。
−にもかかわらず、癌にならない為にしていることは生活習慣に気を配るだけ、という人が圧倒的に多い。
−その一方、トライアルを通じて明確に癌予防効果があると認められた薬も存在する:
      前立腺がん予防の為のフィナステライド(Finasteride)
      とデゥタステライド(Dutasteride)
      乳がん予防の為のタモキシフェン(Tamoxifen)と
      ラロキシフェン(Raloxifene)
がそれである。
−ところが医者も患者も一般人も、これらの薬を予防薬として服用することに興味がないようである。
−何故たいして効きもしない野菜やビタミンに夢中になって、本当に効果のある薬を無視するのだ!!
(とこの記事の筆者は苛立っているようです。)

前立腺がんの予防化学療法(chemoprevention)の治験PCPT(Prostate Cancer Prevention Trial)は1993年に始まり、55歳以上の男性18800人が参加、2003年に終了しました。そして前立腺がんの発生リスクは、フィナステライドを服用することにより24.8%減少するという結果が出ました。当初、フィナステライド服用者は癌になる率は少ないが、なった場合に悪性度が高くなるという疑いがあり、このことから使用を躊躇する医師も多かったそうです。その後の分析で、悪性度が高くみえたのは組織検査のバイアスで、腫瘍の悪性度はフィナステライドを摂っていてもいなくても同じである、という見方に変わったようです。現在ではアメリカ、カナダ共に泌尿器科医師連盟が前立腺がん予防策としてフィナステライドの服用をすすめていますが、この療法は未だに浸透していない様子です。(同じ成分で配合量の少ないバージョンはハゲ防止のために広く服用されているそうですが。)

乳がんの予防化学療法の治験BCPT(Breast Cancer Prevention Trial)は1992年から98年にかけて実施されました。これは再発予防ではなく、癌でない人向けのトライアルです。参加者13388人は乳がんになるリスクの高い女性ばかり。リスクは年齢、家族の乳がん歴、子供の有無と出産年齢、初潮の年齢などを元に点数制で決められました。半数はタモキシフェンを服用、残る半数はプラセボ。タモキシフェンを服用したグループは45%も癌の発生率が低いという結果でした。かなりの効果と思われましたが、予防目的のタモキシフェンはあまり人気がでませんでした。タモキシフェンが既に癌の治療薬として知られていたので、健康な人は抵抗があるのかもしれない、と考えた研究者達はその後ラロキシフェンで治験を行いました。結果は同様の予防効果を示すものでした。が、ラロキシフェンもあまり広まらずトライアルの関係者は頭をひねっているそうです。

私の知人のひとりで一等親の家族2人を乳がんで亡くし、ご本人も乳がんになることを非常に心配している人がいます。その人は病院で、アロマターゼ阻害薬を使った乳がん予防のトライアル参加をすすめられたそうですが断ってしまいました。そんなに心配ならやってみればいいのにと思いましたが、やはり毎日薬を飲むのは嫌そうです。ホルモン系の薬なら副作用もマイルドだし…と感じるのは私がハードコアの抗がん剤を体験しているからで、病気になったことがない人にとっては怖いのかもしれません。なんとなくわかるような気もします。

NYタイムズの記事の話に戻りますが、この記事の筆者は非常に論理的、合理的な方なのだと思います。ただ、健康的な食事や運動なんてまだらっこしいことはやめて手っ取り早く薬を飲め、というのは極論という気もします。癌研や癌協会が、エビデンスに乏しくてもバランスのとれた食生活や肥満の防止をすすめるのは、仮にそれが癌を減らす直接要因にならないとしても、健康に役立つのは間違いないし、何らかの益はあっても害はないと考えているからではないでしょうか。その反面、薬はどんなにマイルドでも身体本来の生理的バランスに影響を与えるわけですから、服用に慎重を期すのは正しいことだと思います。

癌の予防薬に抵抗があるのは、癌のリスクを減らしても100%癌の発生を防ぐことができないからでしょうか。それとも単に新しいものに疑いの眼差しを向けてしまうのは人間の性だからでしょうか。年をとったら血圧の薬を毎日飲むようになるのは珍しくありません。血圧の薬と一緒にフィナステライドやタモキシフェンを飲むのが当たり前の日が、いつか来るのでしょうか。でも若くても癌になる人はいて、それは不運とあきらめるしかないのでしょうか。いろいろ考えて複雑な気持ちになりました。
posted by leo at 18:32| Comment(8) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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