2011年09月19日

戦うT細胞

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皆さんは免疫療法というとどんなイメージを持っていらっしゃいますか?私は漠然と「抗がん剤や放射線に比べると身体に優しい治療法だけど効果もマイルドなので、再発防止や再発遅延を目的に用いられるのならともかく、猛威を振るっている癌には力及ばず」って感じなのかな〜と勝手に考えていました。

ところが、それとは様相の異なる免疫療法が欧米で注目を集めています。癌を一斉射撃するかわりに流れ弾が健康な細胞に当たっても許してネ、みたいなタイプです。例えばメラノーマの新薬Ipilimumabは、T細胞(リンパ球の一種)の表面に発現するCTLA-4という分子(免疫活性を抑制する作用がある)をブロックすることでT細胞の働きをを大幅に増加させます。進行・転移して手の施しようがないと診断されたメラノーマの患者さんの生存期間を中央値で3.6ヶ月延長。1年後、2年後も生存されている方の割合が倍増するという画期的な治験結果が出ました。しかしT細胞が活性化しすぎて身体の他の部分に与えるダメージが大きく、決して身体に優しい治療法ではありません。治験ではIpilimumabの投与を受けた540名のうち亡くなった方が14名。その内7名は死因が免疫がらみだったと発表されています。座して死を待つより起死回生を狙おう。うまくいかなければ死期が多少早まっても仕方ない。と捨て身でかかるような治療法に見えなくもないです。(もっとも副作用はステロイドの投与である程度コントロールできるそうですが…)

先週ニューヨークタイムス紙に取り上げられた遺伝子工学を用いた免疫療法(←今日の本題)もいささか過激な治療法の部類に入ると思います。その記事のタイトルはずばり「An Immune System Trained to Kill Cancer」(癌を殺すよう訓練された免疫システム)。続きを読んでいただけるようなら次の点を留意して下さいね。

@以下で紹介する治療法はまだ研究途上。実験段階です。
A固形癌への応用も可能だそうですが、成功した症例(まだ非常に少ない)は慢性リンパ性白血病です。

William Ludwigさんはニュージャージー在住の65歳です。慢性リンパ性白血病を患い何年も化学療法で治療してきた後、とうとう薬がどれも効かなくなってしまい体調は日毎に悪くなるばかり。そんな折、ペンシルバニア大学付属がんセンター(Abramson Cancer Center)で始まったフェーズIの臨床試験の話が舞い込みました。実験色の濃いリスクの大きな臨床試験でしたが、少しでも長く生きるチャンスがあるのならと藁をもつかむ思いで参加を決意しました。

臨床試験では遺伝子療法と免疫療法を組み合わせた技術が用いられました。土台となるのはLudwigさん自身のT細胞(Tリンパ球)。できるだけ大量のT細胞を集めるため普通の採血ではなく特殊な機械を通してT細胞とそれ以外を分け、T細胞以外はLudwigさんの体内に戻す方式をとりました。

リンパ性白血病はB細胞(Bリンパ球)の病気です。正常であろうと白血病であろうとB細胞の表面にはCD19と呼ばれるタンパク質があります。そこでCD19が敵の目印として選ばれました。遺伝子操作をしたDNAはT細胞にCARs(chimeric antigen receptorsキメラ抗原受容体)を発現させます。このキメラ君の作用でT細胞はCD19を認識することができるようになるのです。難しい理論を乱暴に解釈すると、遺伝子工学によって改良(?)されたT細胞は「CD19ヲ見ツケ次第コロセ」とプログラムされているのです。

ちなみにDNA導入の際のベクター(運び屋さん)は驚くなかれHIVだそうです。あのAIDSのHIVです。無論AIDSを発症させないように加工された無害なバージョンなのでドン引きする必要はありません。HIVは元来T細胞に侵入するのが得意なのだとか。その能力を人の命を救うために有効利用する訳ですね。人間の知恵はウイルスのしたたかさに勝る!とポジティブに解釈しましょう。

遺伝子操作済みのT細胞をLudwigさんの体内へ戻す下準備として、Ludwigさんは抗がん剤投与で普通のT細胞を消滅させる処置を受けました。そうしないと改良型のT細胞が体内で生き延び繁殖する妨げになりかねないからです。そしていよいよ新しいT細胞がLudwigさんの体内に注入されました。しばらくは何も起きませんでしたが10日後に容態が急変。激しい寒気、高熱、血圧の急降下。Ludwigさんは集中治療室に運ばれ、家族も駆けつけ最悪の事態に備えたそうです。

2週間後。熱は下がり体調も元に戻りました。そればかりかLudwigさんの白血病(癌化したBリンパ球)も消えてなくなりました。血液中にも骨髄にもどこにもありません。遺伝子操作をしたT細胞が全部始末してしまったのです。新しいT細胞はLudwigさんの体内で倍増しCD19(B細胞)の駆逐という使命を見事果たしました。Ludwigさんはもとより治療を施した医師団ですら目を疑うほどの成功でした。重さにして1キロ弱の癌細胞が死んだものと推定されました。

Ludwigさんは正に奇跡の回復を遂げたわけですが、いいことずくめではありません。治療後の発熱は新しいT細胞が癌を殺しまくっている際に産生したサイトカインという物質のせいだそうです。(腎臓癌の治療に用いられるインターロイキン2はサイトカインの一種です。)免疫反応によりサイトカインが沢山作られすぎるとサイトカイン・ストームという状態となり、命にかかわることもあるので注意が必要です。またLudwigさんには起こりませんでしたが、大量の癌細胞が一度にどっと死ぬとtumor lysis syndrome(腫瘍崩壊症候群)を発症することもあるそうです。これは細胞内の電解質等がどっと放出されて腎臓に詰まってしまう状態を指し、重篤な場合は腎不全で亡くなることもあります。

後遺症も残ります。遺伝子操作をしたT細胞はB細胞を全滅させた後、徐々に数を減らして待機状態に入ります。将来癌化したB細胞が増殖の兆しを見せたら再び兵の数を増して攻撃する…少なくとも理論上はその予定です。そのあおりでLudwigさんの体内には健康なB細胞もありません。新しいT細胞と共存できないのです。B細胞はリンパ球の一種ですので全く無いとやはり不都合です。低ガンマグロブリン血症と呼ばれる免疫不全状態になり感染しやすくなってしまいます。そのためLudwigさんは数ヶ月に一度、免疫グロブリンの点滴による補充療法を受け続けています。もっともLudwigさんにとって、白血病と比べれば低ガンマグロブリン血症くらい我慢のうちにも入らないようですが…

この遺伝子+免疫療法をペンシルバニア大で受けたのはLudwigさんを含めて3名。Ludwigさんともう1人の方は完全寛解、残りの1人は部分寛解でした。3人目の方がどうして部分寛解だったのか、その理由は不明です。サイトカインで高熱が出た際に別の病院に運ばれ、そこでステロイドを投与されたのが不利に働いたか。それとも3人目の方の白血病はとりわけ猛者だったか。推測の域を出ません。ドクターは非常に慎重な態度をとっており、Ludwigさんの状態ついても「寛解はしているが完全に治癒したと考えるには時期尚早」という見解を出しています。

似たような試みはアメリカの他の病院でも行われています。残念ながら成功例ばかりではありません。ニューヨークのスローンケタリング病院では、慢性リンパ性白血病の患者さんが遺伝子操作をしたT細胞を注入されてから4日後に亡くなるケースがありました。直接の死因は敗血症らしいですが治療との関連も否定できないそうです。米国癌研究所では同じ原理の治療を受けた大腸がんの患者さんが命を落とされました。大腸がんの臨床試験では、遺伝子操作によりERBB2タンパク(またの名をHER2)を敵と認識するCARs(キメラ抗原受容体)が用いられました。患者さんは新しいT細胞を注入した15分後に呼吸困難に陥り5日後に帰らぬ人となりました。ERBB2は乳がんをはじめ、卵巣がん、大腸がん、胃がんなどで過剰発現が見られることからターゲットに選ばれたのですが、困ったことに健康な細胞の表面にも存在します。亡くなられた患者さんの肺には癌ではないのにERBB2を発現していた箇所があり、T細胞から敵陣と見なされ猛攻撃を受けてしまったのです。それが引き金となってサイトカイン・ストームが起こり多臓器不全に陥ったと分析されました。

ペンシルバニア大の研究主任Dr. Carl Juneは、遺伝子操作をしたT細胞による治療を中皮種、卵巣がん、膵臓がんといった固形癌にも応用したいと話しています。しかし標的としてT細胞に教え込もうとしているタンパクが胸や腹部の健康な膜組織にも存在するため、膠原病に似た有害事象が起こるのではと心配されています。免疫を利用して癌を治療するのはそう容易いことではないのです。

別の意味で心配なのは、ほんの数件でも成功例があるとそれを有効性を示すエビデンスであるかのように引き合いに出し、難しい理論で煙に巻きながら「うちでも似た治療ができますよ。」とか「標準治療で治らないがんでも治る可能性がありますよ。」などと安易に治療を提供しようとするクリニックが現れそうなことです。(カナダは規制が厳しいのであまり見かけませんが。)私は個人的にそういう医療機関は信用しません。新しい治療法を試したい人はきちんとした臨床試験に参加し、全てのリスクを説明してもらった上でインフォームド・コンセントにサインして、一か八かの覚悟で治療を受けるべきだと思います。

くどいようですが、この投稿で紹介した治療技術はまだ実験段階で研究が始まったばかり。いつの日か癌治療を飛躍的に向上させる可能性を秘めた希望の星ではあっても、今すぐ臨床現場で採用されて現在癌と闘っている人の命を救うレベルの話ではないのです。自分にはとても間に合いそうもないなあと考えると一抹の寂しさ、悲しさがあります。とは言え新しい治療法登場のニュースにはやはり心が躍ります。

一方、William Ludwigさんは治療後1年経った今も完全寛解中。かつてなかった程体調の良い日々を送っています。「臨床試験が私の命を救った。」と語るLudwigさん。長年苦しんできた白血病が消えたと告げられた日の衝撃は忘れられません。見守る担当医のアドバイスは「(寛解が)いつまで続くのかは誰にもわかりません。毎日を楽しんで生きてください。」だったそうです。
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2011年04月26日

誰が治療するのか

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癌になった人にとって誰に治療をお願いするかは重要な問題です。個々のお医者様の腕や人柄、評判も気になりますが、何を専門、得意とする先生が担当医になるかによってその後の治療生活に影響がでるのではないか…と感じる患者も少なくないでしょう。

アメリカやカナダでは:
Gynecologic Oncologist(婦人科腫瘍医)
Gynecologist(婦人科医)
Surgeon(外科医)
Medical Oncologist(内科腫瘍医)
といった異なる専門分野のドクターが卵巣がんの治療に係わります。

Gynecologic Oncologistは婦人科悪性腫瘍が専門で、婦人科であれば手術からキモセラピーまで一貫した治療を与える資格と経験を身につけています。つまり外科処置を施すことができて且つ抗がん剤の知識もあるドクターです。
Gynecologist(婦人科医)は婦人科が専門で、良性腫瘍であれば普通この方達のお世話になります。良性の見込みでGynecologistに手術をしていただき、組織検査の結果悪性とわかるケースも少なくないようです。
Surgeon(外科医)は手術の専門家。婦人科に限らずどこの部位であっても手術なら任せておけというドクターです。
Medical Oncologist(内科腫瘍医)はキモセラピーの専門家。抗がん剤についての知識は誰よりも深く、どんな癌にでも化学療法を施すことができます。
言い換えると上の二つは特定の部位を専門とし、下の二つは特定の治療法を専門としているようです。

アメリカで1992年から1999年までの間に上皮性卵巣がんの手術を受けた3067名の患者データを研究した結果によると:
執刀医の内訳は
Gynecologic Oncologist 33%
Gynecologist 45%
Surgeon 22%
だそうです。そしてGynecologic Oncologistが手術した場合
@ステージを見極めるために綿密に検索する
A初期であってもリンパ節郭清を行う
B進行している癌は腫瘍減量術が施される
傾向が大きいという結果でした。(あくまでも統計です。個人差がありますから、Gynecologic Oncologistと同じくらいきめ細かい手術を行うSurgeonだっていることをお忘れなく。)

術後の経過もGynecologic Oncologistの方がSurgeonよりも若干良く、術後30日以内に亡くなる方の率は2.1% vs 4.0%、術後60日以内に亡くなる方の率は5.4% vs 12.3%でした。Gynecologic Oncologistに手術していただくと閉塞や合併症をおこす可能性がほんの少しだけ低くなるようです。生存期間については、執刀医のバックグラウンドよりも癌の進行度の方が影響大と言われています。しかし、明らかに悪性とわかる進行した症例を扱うことの多いGynecologic Oncologistと初期の症例を多く含むGynecologistの間で、患者の生存期間に大きな差はありませんでした(中央値32.5ヶ月 vs 35.6ヶ月)。ちなみにSurgeonが手術したケースの生存期間中央値は24.3ヶ月でした。Surgeonは救急外来で手術することも多いというファクターを加味しても、初期手術から婦人科癌の専門家にお願いするメリットはあるように思えます。むろん住んでいる地域や癌発見までの経緯によって制限がありますから、どこまで患者の側でコントロールできるかは難しいところです。

さて術後、或いは再発した場合の化学療法は誰にお願いすべきなのでしょうか?GynecologistやSurgeonが手術した場合は、その後Medical Oncologistにバトンタッチするのが普通です。Gynecologic Oncologistが手術した場合は、そのまま化学治療もGynecologic Oncologistが指揮をとるかMedical Oncologistに引き継ぐかまちまちのようです。化学治療をGynecologic Oncologistの下で受けるのと Medical Oncologistの下で受けるのとで、治療成績やQOLに違いがでるのかどうか気になるところです。

Gynecologic Oncologistは基本的には外科医で、抗がん剤の効果や有害事象についての知識は婦人科がんに用いられる化学療法の範囲内に限られています。対するMedical Oncologistは化学療法のみを専門とするキモのプロであり、他の癌に用いられる抗がん剤についても熟知しており、それを婦人科がんの治療に応用できる強みはあります。(未承認薬をオフレーベルで使えるアメリカにおいては特にそうだと思います。)故に化学療法はMedical Oncologistに任せた方が患者が長生きできるのではという見方があります。

ところが、アメリカで1991年から2001年までの間に卵巣がんと診断された人のデータを基に、Gynecologic Oncologist からキモを受けた患者群344名とMedical Oncologistからキモを受けた患者群344名を比較した調査では意外な結果が出ました。5年生存率はGynecologic Oncologist組が35%、Medical Oncologist組が34%とほぼ同じ。化学療法を受けた期間はGynecologic Oncologist組がトータルで12.1週間、Medical Oncologist組が16.5週間。当然のことながら腫瘍内科医の方が抗がん剤投与により積極的な傾向が見られました。これに伴い、患者が抗がん剤の副作用に悩まされた期間もGynecologic Oncologist組がトータルで8.9週間、Medical Oncologist組が16.2週間、と後者の方が長期間でした。こうした治療ボリュームの違いは術後のファーストラインと再発治療の両方で見られたそうです。

複雑な問題をあえて単純化して「Medical Oncologistにかかると沢山化学療法を受けるはめになるが、生存期間が長くなるわけではない」(苦しみ損)とサクッと言い切ることもできます。ただこれも統計、傾向のお話。たった1つの研究結果から全てを決め付けるのは非常に危険でもあります。この調査を行った研究者は、Medical Oncologistはキモの専門家として抗がん剤の有効性をより深く信じているのではないかと分析しています。一方、婦人科の癌を最初から最後まで全部診るGynecologic Oncologistは、癌の進行を食い止めるよう努力しながらも、どこで患者のQOLを優先させるべきなかの判断がうまいのではないかとも推察しています。

皆さんの担当医は何を専門にされていますか?私は救急外来での手術(1回目の手術)はGynecologist、それ以降(2回目の手術とキモ)はGynecologic Oncologistのドクターにお世話になっています。最初からGynecologic Oncologistだったら良かったのになぁと思うことはありますが、ERで即手術が必要な状況だったから仕方ないです。私のドクターはGynecologic Oncologistだからなのかもしれませんが、必要な化学療法は行うけど無理はさせない方針です。がっつり抗がん剤をやりたい患者さんには物足りないかもしれませんが、QOL重視の私には合ったドクターだと一応満足しています。
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2011年01月31日

抗がん剤が足りない

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抗がん剤が不足しているそうです。種類が…でなくて供給不足という意味です。アメリカで問題になっているのですが、流通の面でアメリカに依存しているカナダでも同様だと思います。

不足しているのは抗がん剤に限った話ではなく、麻酔薬のプロポフォール、抗凝固薬のヘパリン、鎮痛薬のモルヒネなど臨床で不可欠の薬が多く含まれます。抗がん剤ではシスプラチン、ドキソルビシン、ロイコボリン、エトポシド等が品薄だそうです。不足している薬は押しなべてパテントの切れたジェネリックで、中小の製薬会社が地味に製造・販売しています。しかし製品の質に問題が出たり、もっと利益の上がる製品に切り替えられたりすることが後を絶たず、供給が需要に追いつかない状況が続いています。どれ程深刻な問題かと言うと、米臨床腫瘍学会(ASCO)が麻酔科医協会や薬剤師協会と合同で、昨年11月に『薬不足サミット』を開催したくらいです。仰々しいネーミングが少し笑いを誘いますが、笑い事ではありません。

サミットの目的は、薬不足の問題を法の規制、原材料の調達、市場、流通といった側面から分析し、問題解決に向けた勧告を作成することでした。例を挙げると:

- 製造元が販売を中止する場合は9〜12ヶ月前に国に届出を出すよう義務付ける。
- 特に製造元が唯一の供給ソースである場合は、製造中止だけでなく原材料不足による製造の遅れについても国に届出を出すよう義務付ける。
- 不足を防止するために多少の過剰製造を義務付ける。
- ジェネリック薬の製造を奨励するために税制の優遇処置を検討する。

などの案が出されました。ビジネスの観点から考えると、儲からない製品は作らないという理論は間違っていませんが、こと医薬品となるとそう単純に切り捨てられては困ります。文字通り死活問題ですから。資本主義の自由経済は時として仇になることがあるのですね。

薬不足の影響は臨床現場にも影を落としています。Institute for Safe Medication Practices (ISMP)という団体が、1800名の医療従事者(主に薬剤師さん)対象に行ったアンケート結果を一部紹介します。

- 品不足がいつまで続くのか情報が入ってこない(85%)
- 代わりの薬品が手に入りにくい(80%)
- 患者に有害な結果をもたらすリスクがある(64%)
- 医師の苛立ちが薬剤師やナースに向けられる(55%)←これは可笑しい

さらに、薬不足が端を発して医療ミスが起きそうになったと答えた人が約1/3、実際に医療ミスが起きたと答えた人が約1/4いました。恐ろしいですね。

医療ミスの実例も多数報告されています。抗がん剤にまつわる例を幾つかピックアップしてみました。

- ビンブラスチンが不足していたのでビンクリスチンに変えたら用量を間違えた。
- 点滴用のエトポシドが不足していたので経口エトポシドに変えたら用量を間違えた。
- ロイコボリン不足のためレボロイコボリンで代用し、併せる薬も5−FUからゼローダに変更したら副作用が増加し患者のQOLが落ちた。
- 抗がん剤不足で化学療法の開始が遅れた。寛解の可能性が大きい患者も待たされた。(←薬不足のせいで治る人も治らなくなったという意味。)

用量間違えについては担当者のうっかりミス。注意力不足のような気がしますがそれは日本人の発想。西洋人は「うっかりミスが起きたのは薬不足のせい。だから悪いのは自分じゃなくて薬不足。」などと(屁)理屈をこねるんですよ。もう頭が痛いです。

何にせよ薬不足のあおりで最も不利を蒙るのは患者。早く何とかして欲しいものですが品不足は当分続きそうです。


抗がん剤不足の問題を扱ったその他の記事:@NCI Bulletin、AMedScape
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2011年01月05日

彷徨える癌細胞

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新しい年、新しい技術、と縁起を担いでいるのかどうかは定かでありませんが、ニュータイプの癌の血液検査が話題を呼んでいます。血液中のCirculating Tumor Cell (CTC)を調べる検査だそうです。CTCは直訳すると「循環する腫瘍細胞」、つまり大元の腫瘍から剥がれ落ちて血液に乗り身体中を旅して回る逸れ癌細胞のことです。ふらふら彷徨いながら気が向くと癌の種をまきちらして転移を引き起こしかねないトラブルメーカーと考えられています。

CTC検査は全く新しい技術という訳ではありません。アメリカでは2004年にFDA(食品医薬品局)から承認されています。CTCの研究も以前から行われており、昨年12月にテキサス州サンアントニオで開かれた乳がんシンポジウムでは、CTCの数値と転移性乳がんの予後に関する臨床試験の結果が発表されました。参加者(267名)の2/3は化学療法前のCTCの数値が1以上。44%は5以上でした。2年以内に癌が進行したのは5以上の人→95%、5未満の人→70%だったそうです。さらに抗がん剤を1回やった後のCTC値が5以上の人の内、過半数は2年以内に亡くなられたのに対し、5以下の人の90%以上は2年後も生存されていました。また、早期乳がん患者(2000名)を対象にした別の調査では、3年間の再発率がCTC値が1以上の人→85%、ゼロの人→5%と大きな違いが出ており、血液中のCTCの存在と予後との間には関係がありそうです。

ところで、CTCの数値は採血したサンプル中で見つかった逸れ癌細胞の数を意味します。50〜100億個の血液細胞に紛れ込んだ数個の癌細胞をキャッチする技術なんてちょっと想像がつきません。そして今回騒がれているのは、大手製薬会社ジョンソンエンドジョンソン(正確には系列会社のVeridexとOrtho Biotech)とマサチューセッツ総合病院の研究所が手を結び、既存のCTC検査をより高度にしたプレミアムバージョンの開発に着手したからです。CTCの有無や何個あるかを調べるのに加え、個々のCTCを遺伝子レベルで解析して癌治療のテーラーメイド化を進めようという試み。マサチューセッツ総合病院は既に基になるマイクロチップ技術を持っているそうですが、それを早く手軽に低コストで行えるよう改良するには、製品開発に慣れた企業の参入が不可欠なのかもしれません。開発には少なくとも5年かかる見込みです。実用化されれば、癌の動向を察知する新たな手段となるばかりか、現在は組織検査をしなければ判らない腫瘍の詳しい情報を血液検査から得られ、患者にとって負担が少なくなることを期待されています。印象としては、腫瘍マーカーと感受性試験の一石二鳥を狙っているのかな〜という感じですが、さてどうなることやら。腫瘍マーカーと違い、CTC検査は全ての固形癌に用いることができるという利点が有り製薬会社からしたら投資の価値十分でしょう。

メディアはあたかも夢のテクノロジーであるかの如く報じていましたが、アメリカの癌協会は「この検査が臨床上、癌の治療にどんな影響を与えるのか、まだまだ研究が必要です」と冷めたコメントを出しています。確かに現実問題として考えると、患者の一喜一憂の種を増すだけに終わる可能性だってあるのです。それに例えば検査の結果CTCが沢山見つかってしまったとします。すると予後が思わしくない、というのが単なる医師の見立てではなく科学的な数字として突きつけられる形になります。で、どうしろって言うんでしょうね。「じゃあ後は旅行したり猫と遊んだり好きな事して過ごしま〜す。無駄な治療で残り少ない人生のQOLを下げなくて良かった〜!」などというふざけた反応をするのは私のような変わり者だけで、まともな人は「先生、どうにかして下さい!」と食い下がるんじゃないかしら…?

それとテーラーメードの癌治療って言うのも何だか言葉だけ一人歩きしている感があります。テーラーメードにほんの僅かでも近いのは、乳がんのホルモン療法、ハーセプチン、非小細胞肺がんのタルセバとか… 卵巣がんには関係ないじゃん。私たちは皆一緒に古臭い殺細胞系の抗がん剤を使って、それも白金系が効かなくなったら後はどれを試しても申し訳程度にしか効果が出なくなってしまうのが現実。限られた選択肢しかないのです。アバスチンの先行きもはっきりせず、どういう人に効果が高いかも判っていない。他にも分子標的薬の治験は盛んに行われているけれど、今のところ薬効はボチボチでスター不在。検査技術だけ向上しても、それに釣り合う治療技術がなかったらあまり意味ないような気もするんだけど… な〜んて年明け早々ブツブツ言ってるのはへそ曲がりの証拠ですね。
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2010年12月21日

癌と糖尿病(後編)

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肩を並べるように現代人を蝕む癌と糖尿病。もちろん全く性質の異なる病気ですが、果たして無関係なのでしょうか?それを探るために開かれたコンファレンスのレポートを、素人の私がわかる範囲で紹介しようという無謀な試みの続編です。

(注:以下の文中の糖尿病は2型糖尿病を指します。)

3.癌と糖尿病の生物学的リンク

この点に関してはかなり盛り沢山の研究発表があったようですが…文系の私は3回読み直してもちんぷんかんぷんでした。うっすらと理解できたのは、2つの病気の間に生物学的な結びつきがあるとしたら最も怪しいのはインスリンだということです。比較的軽度の糖尿病と予備軍ではインスリンに対する感受性を失いインスリン抵抗性となるケースが多いそうです。インスリンを分泌しているのに反応がないので変だな〜と思った膵臓は、ますますインスリンを分泌してインスリン過多(高インスリン血症)になります。糖尿病の人が全員そうだというのではありませんが、肥満で糖尿気味という人によく見られる傾向です。

で、インスリンの主な役割というと血糖値のコントロール。「糖尿病→血糖値が高い→癌は糖分が好き」という図式なのかと思いきや、実際はそれ程単純ではないようです。なぜなら癌細胞の代謝は嫌気的解糖が中心、つまりインスリンに依存しない形で糖をエネルギーに変えられるからです。発がんとの関係でより疑いが濃いのはインスリンの細胞分裂への影響です。インスリン及び同じ系列のインスリン様成長因子は、細胞分裂における有糸分裂というプロセスを誘発します。そして、これらインスリン関連受容体の発現が癌に見られることも珍しくないらしいのです。よって正常よりインスリンが多い状態は癌の成長にとって好ましいのかもしれません。

と言っても、この辺りのメカニズムは未だ研究途上で、例えば乳がんの予後をインスリン/インスリン様成長因子受容体の発現有無で比較した研究では、インスリン受容体の有る方が遠隔転移しにくいという結果としやすいという結果と両方出ています。血清中のインスリンレベルと組織のインスリン受容体レベルとは比例するのか?インスリン抵抗性が、インスリンの血糖調節とあまり関係ない臓器(乳房、大腸、前立腺など)にも及ぶのか?他、今後の研究課題は山積みのようですが、インスリン/インスリン様成長因子受容体をターゲットにした薬の開発も進んでいることから、インスリンと癌とは無関係ではないように思えます。

4.癌と糖尿病治療薬との関係

メトホルミン(Metformin)は欧米で糖尿病の治療によく使用されるお薬です。インスリン抵抗性の人に処方され、インスリンやブドウ糖が筋肉などに取り込まれやすくする作用があります。この薬がどういうわけか癌の成長も抑制する…かもしれないと考えられています。試験管では癌細胞の増殖を抑える効果が確認されており、マウスを用いた実験では特に高カロリーのエサを与えられたマウスの間で効き目が顕著でした。このことからメタボでもインスリン過多でもない人には効果が薄いのではないかという意見もあります。幾つかの疫学調査では、糖尿病でメトホルミンを服用している人は、他の薬物治療を受けている人より癌になるリスクや癌で亡くなるリスクが低いという結果が出たそうです。しかし全ての癌ひっくるめのデータなので個々の癌に対する効果の有無については不明です。

さて2型糖尿病も病気が進むにつれ、膵臓のインスリンを分泌する細胞がパンクしてインスリン不足状態になります。従ってインスリン注射が必要になるのですが、インスリン注射にも色々な種類があるそうです。その内の持続型と呼ばれるインスリンアナログ製剤グラルギン(Glargine)が発がんリスクを増加させると懸念する声があります。他のタイプのインスリン注射に比べ、グラルギンを使っていた人は癌になる割合が高いという統計が複数発表されたことによります。この疫学調査結果は賛否両論で、学者さんたちが学術誌を舞台にネチネチやりあったらしいですが結論はでていません。グラルギンとNPHインスリン(中間型ヒトインスリン製剤)の使用者を直接比較した臨床試験では、癌の罹患率に違いは見られませんでした。ただ参加者の中で癌になられた人の数が少なくエビデンスとしては弱いので、分母を大きくした別の臨床試験(グラルギンvsプラセボ)が行われている最中です。

インスリンアナログ製剤はヒトインスリン製剤よりもインスリン様成長因子1(IGF-1)の受容体と結合しやすい→IGF-1は細胞成長と特に深いつながりがある→発がんを促進?と分析されていますが仮説の段階です。その他にも、自然な状態で体内のインスリン量が上下するのと注射で大量のインスリンが流れ込むのでは違いがある点や、持続型インスリンは高濃度のインスリンが長時間体内に留まるようできている点などが係わっている可能性もあります。その反面、インスリン療法を受けている人は2型糖尿病歴の長い人が多く、糖尿病以外の疾患を併発しているケースも少なくありません。またインスリン注射を始める前に何年もインスリン抵抗性で高インスリン血症だったことも有り得ます。これらの条件を考慮すると一足飛びにインスリン療法を危険視するのはフライングのようです。

アメリカの癌協会(American Cancer Society)と糖尿病協会(American Diabetes Association)の共同開催によるコンファレンス。癌と糖尿病の相互関係について、既に研究されたことを整理することで今後の課題を明確にしたのが一番の収穫だったようです。まどろっこしい印象も受けますが正しいアプローチなのだと思います。自分の考え方に合った2〜3つの研究結果や仮説だけ拾い出し、あたかもそれが全てであるかのように主張するのは科学的ではありません。自分や家族が糖尿病でかつ癌になってしまった方のご苦労、、癌になっていないけれど家系的になりやすい方のご心配、お察しします。糖尿病とてしっかり治療しなければ命にかかわる病気。自分なりに知識をつけた上、疑問点や迷っている点は担当医とよく相談して最善の選択をして下さい。
posted by leo at 17:53| Comment(0) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月14日

癌と糖尿病(前編)

昨日の夕方は雨がしとしと降って12月にしては暖かかった(気温2℃くらい)のですが、その後すごい勢いで寒波が到来し今朝は氷点下7℃。今夜は氷点下14℃まで下がるそうです。冬だから仕方ありませんね。それにしてもよ〜く冷えてます。

candy cane.jpg

(これより本題)

癌と糖尿病はどちらも現代人に多い病気です。共通するリスク要因も多く、2つの病気の間に何らかの相関関係があるのではないかと訝る学者さんもいるようです。そこでアメリカの癌協会(American Cancer Society)と糖尿病協会(American Diabetes Association)がジョイントでコンファレンスを開き、この点に関する様々な研究が発表されました。昨年12月のことです。つまるところ、「癌と糖尿病の関係は更なる研究を要する分野である」という肩透かしをくわせる結論に至ったようですが、現時点で判明していることを広範囲に集め、秩序立てて分析が試みられました。

(注:文中の糖尿病は2型糖尿病を指します。)

1.糖尿病と癌の罹患や予後との関係

ご存知の通り癌は部位によってリスク要因も予後も異なり、十把ひとからげにして語るわけにはいきません。ヨーロッパで行われた疫学調査によると、糖尿病で罹患リスクが上がるのは肝臓がん、膵臓がん(どちらも2倍以上)、大腸がん、乳がん、膀胱がん(1.2〜1.5倍くらい)だそうです。糖尿病は血糖を調節するインスリンの量が少なくなったり正常に作用しなくなったりする病気。特にインスリン抵抗性と呼ばれるタイプの糖尿病および予備軍の場合、身体がインスリンへの感受性を失ってしまうため、膵臓が延々とインスリンを分泌し続けインスリン過多の状態(高インスリン血症)になります。分泌源の膵臓だけでなく通過地点の肝臓も大量のインスリンにさらされるので、それが発がんに影響を与えているのではないかという仮説が立てられています。

また癌と糖尿病と両方患っていると、癌だけの人より予後が厳しくなる傾向が幾つかの調査で示されました。まあそれは癌ひとつでも十分手強い相手なのに、既往症があったらさぞ大変だろうと想像はつきます。例えばカナダ、オンタリオ州の疫学調査によると、乳がん+糖尿病の人は乳がんのみの人と比較して5年以内に亡くなる確率が39%高かったそうです。と言っても、この手の研究は調べる度に結果が変わったりするので、自分は両方だからダメだ…と悲観するのは止めた方がいいと思います。

2.癌と糖尿病に共通するリスク要因

生活習慣がらみのリスク要因のみ抜粋しました。

肥満
ここで言う肥満はBMIが25以上の人を指します。女性だったら身長155cmで体重60kg以上とか…本格的な肥満のことです。日本にはあまりいないでしょうが欧米では珍しくありません。肥満と糖尿病との相関関係は明らかです。健康的な食生活や運動も、それ自体が糖尿病を予防すると言うよりも肥満防止や体重減少に繋がるから効果があると言った方が正確でしょう。極端な話、手術で胃を小さくして痩せても良いわけで、実際に肥満手術は糖尿病の効果的な治療法として欧米で用いられてます。手術で激やせした人の78%は糖尿病が治ってしまった!という驚くべき統計もあります。

癌と肥満との関係はそれほど単純ではありません。多少なりとも肥満が関係しているらしいのは乳がん、それも閉経後に乳がんになるリスクです。閉経後は脂肪の中でエストロジェンが生成されると聞いたことがあります。とすると、ふくよかな人ほど女性ホルモンが豊富、ゆえに乳がんになりやすいのかもしれません。ただ糖尿病と比べたらリスクの増し方はささやかで、痩せている人でも癌にはなります。その上、癌になったことが原因で体重が減ることもよくあるため、痩身の癌予防効果を検証するのは困難です。

食生活
食生活と癌のリスクについては、基本的に関係有りと見るのがコンセンサスのようですが、具体的に何がどうなのか、になると医学的に立証されている事柄は決して多くありません。欧米で一般的に勧められているのは、赤いお肉(牛、豚、羊)と加工肉(ハム、ソーセージの類)は控え野菜を沢山食べる、ということくらいです。それもあくまで発がんリスクを減らすためであって、食事療法で癌を治すという発想は正統派の西洋医学の範疇にはありません。一方、糖尿病においては低脂肪、低カロリーの食事療法が代表的な治療法のひとつです。狙いは異なっていますが、癌のリスクを減らすためでも糖尿病のリスクを減らすためでも、結果的には似たような献立になるような気がします。過食や脂っこいものは避け野菜中心の健康的な食生活を心がけるということですよね。問題は、そうすることで糖尿病はかなりの確率で予防、コントロールできるのに、癌はどんなに生活習慣に気をつけてもなる時はなってしまう件。頭が痛いです。

その他、運動に関しては乳がんや大腸がんなどのリスクを低減すると言われていますが、糖尿病ほど著しい防止効果はないようです。糖尿病は1日30分の穏やかな運動(ウォーキング等)を週に5回で約25〜36%の罹患リスク減。これは疫学調査だけでなく臨床試験でも確認されています。ただ肥満の糖尿病患者がせっせと運動をしても痩せなかった場合、それでも効果があるのかどうかについてはクエスチョンマーク付きです。煙草とお酒は糖尿病予防の見地からもほどほどにすべきですが、発がんリスク要因としてはトップクラス。共通しているようで微妙な違いがあります。

肥満で運動不足、こってりしたものや甘いものが大好きで間食も欠かさない。お酒を飲み煙草を吸い、絵に描いたような不健康な生活を送っている。そして糖尿病持ち。な〜んて人がある日癌になったとします。色々なリスク要素が混ざり合っている中、何が特にその人の癌の引き金になったのか知ることは不可能です。もちろん何の癌になったかによっても話が変わってきます。仮に糖尿病との因果関係が疑われたとしても、高血糖、高インスリン血症、インスリン抵抗性など、糖尿病にまつわる様々な代謝異常の内、どの要因が発がんに最も関与しているのか… まだまだ不明なことだらけです。個々の因子別にじっくり疫学調査を行うには長い年月がかかるでしょう。

(以下後編に続きます。)
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2010年12月04日

甘党の曲者

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癌は糖分を好むという話を時々耳にします。と言っても、甘いものを食べるから癌になるとか、食べなければ再発しないとかいうほど人間の身体は単純な作りではないようです。癌細胞と代謝、及びそれに干渉することで新しい治療法を開発しようとする取り組みなどについて、とてもわかりやすい記事がニューヨークタイムスに載っていたので概要を紹介させていただきます。

グルコース(ブドウ糖)は確かに癌の大好物ですが、正常な細胞だってグルコースを栄養源にしていることには変わりません。特に脳はグルコースを沢山消費することで知られています。癌を太らせたくないばかりに摂取カロリーを減らしても、血糖値が正常以下にならないよう身体は一生懸命に調節します。そして癌は血液中のグルコースを美味しく頂いてしまいます。仮に体内のグルコース量が乏しくなっても、癌は正常細胞よりも貪欲なので栄養素にあぶれることはまずないと見て良いでしょう。糖分摂取を制限することで癌を兵糧攻めにしようとしても残念ながら効き目はなさそうです。

そこで癌細胞の代謝に照準を合わせて干渉することで癌の弱体化を図る、というアイデアが生まれました。エネルギー代謝には、酸素が十分ある状態で行われる好気的解糖と酸素がない状態で行われる嫌気的解糖と二通りあります。(この辺化学に弱い私には難しいのであまりつっこまないで下さいね。)普通の細胞は好気的解糖を行う場合が多いですが、激しい運動をしている時などには筋肉中に蓄えられたグルコースを嫌気的解糖してエネルギー源とするらしいです。へそ曲がりの癌細胞は酸素がある状態でも嫌気的解糖を行う傾向があり、癌の代謝の特徴の一つと考えられています。これを発見したのは1931年にノーベル賞を受賞したドイツの生化学者オットー・ワールブルク(Otto Warburg)です。臨床への応用に80年かかっているってちょっと長すぎ!と思わず苦笑しました。

もちろん実際はもっと複雑で、癌細胞の全てが嫌気的解糖をしている訳でも、正常細胞が全く嫌気的解糖をしない訳でもありません。よって癌細胞だけにダメージを与える薬を開発するのは一苦労なのです。例えばPETスキャンの検査薬(FDG)の様な擬似グルコース(但し放射性物質抜き)を治療目的で使おうという試みがあります。2DGと呼ばれるこの人工グルコースは、偽者だけあって代謝されないことから癌のグルコース代謝をブロックすることを期待されています。しかし、そのためには検査に使われるよりもずっと多い量が必要となり、どうやって大量の擬似グルコースを腫瘍に着弾させるかが課題のようです。

また、従来の抗がん剤とグルコースを混ぜた毒入り団子みたいな薬の開発をしている製薬会社もあります。Pyruvate Kinase M2といった癌の糖質代謝に係わる酵素を阻害する薬も研究されています。こうした新しいアプローチは主に一攫千金を狙う小さな製薬会社によって進められていますが、先ごろ大手のアストラゼネカも癌の代謝阻害薬(AZD-3965)の治験を開始すると発表しました。

少し毛色の違う薬としてはDCAがあります。DCA(ジクロロ酢酸)は、飲料水の塩素殺菌の副産物として生成される化学物質です。Pyruvate Dehydrogenase Kinaseと呼ばれる酵素を抑制することで代謝の仕方を、細胞質で行われ乳酸を産生する嫌気的解糖→ミトコンドリアで行われる好気的解糖、と変える働きがあります。後者の方がエネルギー生産効率が高いので癌のテンションが上がるかと思いきや、ミトコンドリアが元気になると癌は勢いをなくしてアポトーシス(細胞死)を起こす…少なくとも理論上はそういう仕組みです(多分)。

DCAは以前から、乳酸過多などミトコンドリアの機能不全によって起こる稀な疾患への治療に使用されており、人体への危険性は少ないそうです。癌細胞に対する効果は、カナダのアルバータ大学のDr. Michelakisによってマウスを使った実験で確認されました。新しい物質ではないのでパテントで大儲けできる見込みはなく、製薬会社の食指は動かないようです。それを逆手に取り、人間の臨床データが乏しいにもかかわらず独自で製造してネット上で売る輩が出現した他、日本でも一部の代替医療系のクリニックで処方されていると聞きました。当のDr. Michelakisは非常に慎重で、きちんと臨床試験をして効き目を確認するべく、公的な医学研究財団や政府の関係機関と掛け合い研究資金集めに勤めている最中です。

癌の代謝をターゲットにした治療薬の研究は始まったばかりで、分子標的薬に続くヒットになるのかどうかまだわかりません。上手くいけば癌治療がまた一歩前進することになるので成功を祈るのみです。
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2010年09月10日

思春期の悩み

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子宮頸がん予防のためのHPVワクチンが登場したのは4年ほど前のことです。ワクチン適用の年齢枠から大きく外れている上、娘や姪もいないので深く考えたことはありませんでした。ただ、母が昔子宮頸がんになったことと自分が卵巣がんになったことから、予防ワクチンは朗報と単純に解釈していました。しかし年頃の女の子を持つ親御さんの心境はもっと複雑のようです。

ご存知の通り、子宮頸がんの原因となっているのはヒトパピローマウイルス(HPV)です。ヒトパピローマウイルスは100種類以上もあり感染は身体の表面で起こります。その内の約40%は粘膜におおわれた部分(口、生殖器、排泄器など)、残りは手足の表面などで感染を起こし、後者は感染しても単なるイボが出来るだけで全く心配する必要はありません。粘膜部分で感染するウイルス群はさらに発ガンに関与するハイリスクと害の無いローリスクに分けられ、ハイリスクのHPVは15種類くらいと言われています。最も代表的なハイリスクHPVが16型と18型で、子宮頸がんの3分の2はこの2つのタイプに起因しているそうです。

現在市販されているHPVワクチンは2種類(GardasilとCervarix)あり、国によってどちらか片方または両方とも認可されています。いずれもHPV16型と18型をターゲットにしており、Gardasilの方は6型と11型という2種類のローリスクHPVにも効き目があります。ワクチンの目的は子宮頸がんになるリスクの大幅な軽減であり、リスクがゼロになると誤解しないことが大切です。ワクチン導入後もPAP検診の必要性は変わりません。

HPVワクチンの是非を考える上で最も重要なのはワクチンの有効性です。ワクチンが16型と18型に対して抗体を作り、それが5年以上持続することはほぼ間違いないようです。しかし未だ不明な点もあります。ワクチン接種から10年後、20年後も効果が持続するのか。それともブースター(弱体化した獲得免疫を増幅するワクチン)が必要になるのか。治験参加者の長期経過観察は今も続いています。もっとも、ブースターが必要とわかれば製薬会社は大喜びで作るでしょうから(苦笑)、現時点でワクチンを接種される方は、将来追加の注射もあり得ると心に留めておくだけで十分のような気がします。判明するまで接種を控えていたら、待っている間に16型、18型に感染してワクチンの効かない身体になりかねません。

より根本的な疑問は、HPVワクチンが本当に子宮頸がんを減らすのかということです。「子宮頸がんの原因の70%はHPV16型と18型である→ワクチンを接種すれば16型と18型に免疫が出来る→子宮頸がんの70%は予防できる」という理論上の図式が現実にどの程度当てはまるのでしょうか。通常、HPV感染から組織の異形成、そして癌へと進行するのには年月を要します。ですから十分な年月が経つまでは、ワクチン接種と子宮頸がん罹患率との関係について正確な情報は得られないようです。ただ全くデータが無いという訳ではありません。例えば、HPVワクチンの臨床試験2件(1つは対象者が16〜24歳、もう1つは15〜26歳)の結果を用いて、異形成の発生率を比較分析した方がいらっしゃいます。その研究によると、3年間のフォローアップでHPVワクチンの接種を受けたグループはプラセボ・グループより、子宮頸がんの前がん病変が17〜20%少かったことがわかりました。病変の減少が期待されたほど大きくなかった理由として、16型、18型以外のハイリスクHPVによる病変の存在、及び治験参加者の年齢層が高く、既に16型、18型に感染している人が多数混ざっていたことが挙げられています。ワクチン接種はHPV16型、18型に感染する前、即ち性体験を持つ前に行うのが最も効果的なのは確かなようです。

そこで何歳の女の子なら初体験前なのかというデリケートな問題が浮上してきます。またHPVワクチンは他のワクチンと比べてお値段が高いので(375ドル)、費用を誰が負担するかと言う世知辛い問題も避けられません。これらの点に関するしては各国、地域で様々な結論に至っており興味深いです。例えば私の住んでいるカナダのオンタリオ州では、グレード8(13歳)の女子が校内のクリニックで接種を受ければ無料。それ以外の年齢(9歳以上26歳以下)の場合は自費となっています。お隣のケベック州では9〜17歳の女子は全て無料で接種を受けることができ、9歳の84%は既に接種済みと報告されています。

他の欧米諸国の状況は以下の通りです。
アメリカ 11〜12歳、保険の適用は個々のポリシーによる
イギリス 12〜13歳、無料校内集団接種 
フランス 14歳、費用の35%を自己負担
ドイツ 12〜17歳、無料
オーストラリア 主に12〜13歳、無料

娘にHPVワクチンを接種させるということは、その子の性の目覚めが近づいているという事実を親に認識させます。物事に開放的な西洋でも親心と言うのは基本的に同じ。寂しくもあり心配でもあり、戸惑いを感じる親御さんもいらっしゃいます。また保守系キリスト教の人達(大勢いる)は、貞節を重んじ性的関係を結ぶのは結婚相手のみ、という現実とは幾分かけ離れた理想を掲げているので、HPVワクチンがティーンエイジャーの奔放さを助長するのでは、と不信感を顕わにしています。

伝統的価値観とは別にワクチンの安全性について心配する声も聞きます。HPVワクチンに限らず医薬品というのは100%安全を保障することはできません。有害事象の発生する度合いや内容が許容範囲内であるか、リスクとメリットを量りにかけてどちらに傾くか等、じっくり考えて判断するしかないと思います。アメリカのCDC(Centers for Disease Control)によると、2010年5月31日までにGardasilの接種を受けたのは2,950万人。16,140件の有害事象が報告されています。これは0.056%に当たります。しかも報告された有害事象の92%は軽症(注射をした箇所の腫れや痛み、眩暈、頭痛、吐き気、発熱)でした。29件の死亡例も確認されましたが、死因を調べたところ既往症(糖尿病、心臓疾患、感染症、麻薬中毒など)のあるケースが大半を占めました。イギリスでもワクチン接種直後に亡くなった女の子がいて一時期大騒ぎになりましたが、死後解剖の結果なんと肺と心臓に大きな悪性腫瘍があったことがわかり一件落着しました。これらの数字を見る限りHPVワクチンの危険性がとりたてて高いという印象は受けません。

人間の心理とはおかしなもので、一度がんと診断されたら大きな副作用があることを承知で治療を受けます。CTひとつ撮るにも、放射線被爆はもとより造影剤へのアレルギー・ショックのリスクも受け入れざるを得ません。「稀な有害事象としてアナフィラキシーが起こることがあり、亡くなった人もいます」という説明をご丁寧に毎回聞かされます。子宮頸がんはPAP検査で早期発見すれば完治することの多い病気です。それでも「異形成の疑いがあります」と告げられた女性がどんなに不安な気持ちになるか、想像に難くありません。円錐切除手術も、開腹手術ほどではないにしろ身体に負担がかかります。そういう辛い経験をする女性の数を多少なりとも減らせることを考えると、HPVワクチンの意義は十分あるように思えるのですが、どうでしょうか。

ところでHPVワクチンを接種すると不妊症になるという説があるようですが、これは間違いなくデマです。デマの根拠はワクチンが微量のポリソルベート80を含んでいるからのようです。ポリソルベート80は化粧品の原料として用いられるだけでなく、乳化剤として食品添加物としても認可されています。ワクチンに含まれているよりずっと多い量が食べ物(アイスクリーム、ソース類、マヨネーズ、ケチャップ、漬物etc)として体内に入ってきて、それでも異常は起きません。不妊の原因となるには、毎日1キロ以上のポリソルベート80を摂取し続けなければならず、どう考えても不可能かと思います。

主なソース:American Cancer Society (HPV Vaccines FAQ)、New England Journal of Medicine (HVC Vaccination - More Answers, More Questions)、Centers for Disease Control and Prevention (Vaccine Safety)
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2010年08月27日

望ましい死

*今回の投稿は終末期に関する内容です。暗い話題は避けたい方はパスして下さい。どちらかと言うと、患者の家族の方や看護に携わる方に読んでいただきたい内容です。

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東大のグループが行った「望ましい死を迎えるために必要なことは何か」という意識調査の結果が発表されたのは昨年の2月のことでした。アンケートに参加した癌患者の8割は「最後まで闘病したい」と答えたそうです。それを聞いた時、正直言って驚きました。日本人独特の心理なのかとも思いました。欧米では終末医療、緩和ケアが進み、患者や家族に対して非常にわかりやすい情報が提供されているため、一般的に理解が深いという印象を受けていたからです。

しかしそれはどうやら間違いだったようです。そう気づかされるような記事をNew Yorkerで読みました。死期が迫っていながら緩和医療を受け入れられない、或いは移行するタイミングを逃してしまう患者や家族が、アメリカにも数多く存在する事実とその問題点を指摘する内容でした。程度の違いはあれカナダやヨーロッパでも起こり得る状況だと思います。記事は「Letting go – What should medicine do when it can’t save your life?」と題されていました。Let goという表現はGive upに似ていますが微妙にニュアンスが違います。思いを断ち切るというか、思いから解き放たれるというか…そんな感じの意味合いがあります。

進行癌に限った話ではありませんが、現代の医学で完全治癒を望めない病気を抱えている人は沢山います。医師から説明を受け、やがてはその病のために死ぬらしいと頭で理解しても、心のどこかでは否定するのが自然な反応だと思います。しかも具体的にあとどの位生きられるかは誰にもわかりません。統計はあくまでも統計でしかなく、統計で示された期間よりはるかに長く生き続ける人もいるのです。自分もそうなると信じて頑張ろう。希望を捨ててはいけない。といった前向きな考え方は治療に臨む上でプラスになるとされています。

問題は医学の進歩により「治療を止めるべき時」を見定めるのが難しくなってしまったことです。人生の道程は目に見えません。あと100メートルの赤い立て札がどこに立っているのか見えないのです。不治の病とわかっていながらも、最後の道程をどう進むべきか、患者も家族も、担当医さえもよくわからないままに突っ走ってしまうことが少なくない、と「Letting Go」の筆者は述べています。

医師は治療の効果や回復の見込み、余命について患者ほど楽観的ではありません。「出来るだけ長く病気を抑え込みましょう!」と頼もしく語る医師とやる気満々の患者。しかし医師が内心2〜3年を目標にしている一方で、患者や家族は5年、10年とより大きな期待を胸に抱いていることが往々にしてあり、そのギャップについてはあまり触れられないのが臨床での現実のようです。医師も人間ですから、治療が効かなくなった場合どうするかについて話し合うより次の治療プランを提案する方が気が楽だ、と感じたとしても無理もありません。更にこの記事によると、アメリカでは終末期の癌患者に対して、効果が極めて薄いことを承知で化学療法を継続する腫瘍内科医が40%以上もいるそうです。なまじ薬の数が多いので「使える薬がなくなりました」という言い訳はできないのでしょう。患者が積極治療を欲しているなら、その望みをかなえるのが顧客サービスという理屈です。

これ以上治療を続けても意味が無いということを患者自身は理解していても、家族が納得しないケースもあります。苦労して患者や家族を説得するよりも他の抗がん剤を見繕ってあげる方が余程簡単だ、と取材に答えた医師もいました。別の医師は、患者の3分の2は家族を満足させるためなら気の進まない治療でも受けるとコメントしていました。愛する人をガッカリさせたくない、と思うのは国境、文化を越えた共通の心理なのです。ボロボロになりながら延命効果の望めない積極治療を続ける人達。腹を立てるべきなのか涙を流すべきなのか。やりきれない気持ちになる話でした。

「Letting Go」の筆者Atul Gawande氏は外科医で、終末医療に関しては痛み止めを多用するというくらいの知識しかなかったそうです。もちろん実際は大きく違い、痛みを和らげるのはホスピスの果たす役割のほんの一部にすぎません。普通の医療とホスピスの違いは優先順位にある、とホスピス・ナースのSarah Creedさんは語ります。延命が最優先される一般の医療に於いては、治療により現在のQOLが犠牲なるのは仕方がないと考えられます。ホスピスでは現在のQOLが優先されます。今、苦痛から解放され、意識もはっきりして、家族と共に過ごす時間を楽しめることが目的なのです。鎮痛、解熱、制吐、精神安定、幻覚止め、痰止め他、総力を結集して可能な限り心地よい日常生活の実現に努めるのです。残された時間が長くなるのか短くなるのか。それ自体は重要とされていませんが、ホスピスを選んだことで、結果的に延命治療を受け続けている人と同じ、或いはそれ以上長く生きることができた人も大勢いる、という研究結果もあります。

不治の患者の治療を担当する医師は、患者の意思を明確にしようと試みます。化学治療を続けたいのかどうか。万が一の際蘇生処置を受けたいのかどうか。ホスピスに移りたいのかどうか。会話の大部分は選択肢です。緩和ケア専門のSusan Block医師によると、こうした態度が間違いの元だそうです。不治の病と診断された人は不安で押しつぶされそうな状態であり、まずは不安を軽減することが必要なのです。その為には患者の話をじっくり聞く。その人にとって何が一番重要なのか。治療のオプションが少なくなってきたらどうしたいのか。全てが得られない場合、何をあきらめ何を取りたいのか。そういったことを十分把握することにより、患者が本当に必要とする情報やアドバイスを与え、患者の真意に沿った治療を施すことが可能になる、とBlock医師は述べています。医師にとっても患者にとっても気の重い、避けて通りたい終末期の話題。しかしそれを避け続けることで最後につけを払わされるのは患者の側です。面談で主導権を握っているのは医師であることからも、医師は医学知識だけでなく、難しい問題をやんわり且つ的確に話し合える高いコミュニケーション能力が必要とされる時代なのだと感じます。

人間は100年前でも200年前でも死ぬことを恐れていた筈です。でもその頃は「死」というものが現在ほど特別な存在ではなかっただろうと思います。医学の進歩が「死」を複雑で受け入れ難いものに変え、人に「死に方」を忘れさせてしまたのかもしれません。長く生きる為に全力を尽くすことは崇高です。しかしその努力が不毛になった時、その事実に気づかなかったり、それを否定し続けたりするのは悲しいことです。最終的には個人の心の問題ですが、残された時間が少なくなりすぎない内に患者が「Let go」できるかどうかは、医師との信頼関係、ひいては医療システム全体のあり方にもよると思います。多少落ち込む内容でしたが色々と考えさせてくれる記事でした。

New Yorkerの記事本文
記事中引用された研究@(ホスピスを選んだ人の方が長く生存する)
記事中引用された研究A(終末期について事前に医師と話し合った患者の方が望ましい死を迎える)
posted by leo at 16:41| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月31日

がんと環境汚染

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前回、乳がんリスクと住まいのカビよけ剤などとの関係について書きましたが、その調査が行われたのはマサチューセッツ州のケープコッドという場所です。ケープコッドは大西洋に細長く突き出た半島で、白い浜辺や港、灯台が点在し夏場は大勢の観光客でにぎわいます。またクランベリーの栽培も盛んです。

そんな美しいケープコッドですが、1993年に州の統計でマサチューセッツの他の地域と比べ乳がんの罹患率が15%ほど高いことがわかりました。掃除用製品や家庭用殺虫剤の調査は、その原因を探るために行われた一連の研究のひとつでした。他にも飲料水の汚染レベル、クランベリー栽培に使用される農薬の影響、家庭内の空気や埃に含まれる化学物質等について調査が実施されました。

お水については、下水処理システムで浄化後もホルモンを乱す化学物質が残存していることや、下水自体が飲料水の水源に若干浸み込んでいる可能性が示されたものの、飲料水の亜硝酸レベル(下水による汚染の程度を示す指標)と乳がん罹患率の間には繋がりが見られませんでした。また、クランベリーの栽培には1970年代中頃までDDTが使用されていましたが、その時代にクランベリー農園の近くに住んでいた女性の間で、乳がんリスクが特に高いという傾向は出ませんでした。家庭内の化学物質については世帯平均で20種類のホルモンかく乱物質が検出されましたが、それらと乳がんとの関係については不明です。つまり色々調べてみたものの犯人を特定することはできなかったのです。

ある地域で特定のがんの罹患率が異常に高い状態はCancer Cluster(集団発生)と呼ばるそうです。ただ、クラスターが真のクラスターなのか(公害等の原因あり)、たまたま数字が大きいだけなのか(偶然)の判断は微妙と言われます。自然な状態でも国中の全ての地域でがんになる人の数が同一になるわけではありません。底に升目を描いた箱の中にお米を一掴みバラバラっと投げ込んだら、升目ごとに落ちた米粒の数が等しくならないようなものです。周囲でがんになる人が妙に多ければ、地域住民は何か理由がある筈だと考えがちな一方、疫病学者は懐疑的な見方をすることが多いのはそのためです。さらに真のクラスターである疑いが濃くても、環境と発がんの因果関係を立証するのは非常に困難です。

ニューヨーク州ロングアイランドは、1980年代後半から90年代にかけて乳がんの死亡率が全米の水準より目立って高い地域でした。その原因を究明する為に国立がん研究所(NCI)が直々に調査に乗り出し、2004年には連邦議会に報告書が提出されました。乳がんと環境汚染との関係を研究する10件以上の調査を含む大プロジェクトでしたが、結果は肩透かしをくらうような内容でした。怪しいと目されていたDDTなどの有機塩素系農薬とPCBがどちらも白と出たのです。(DDTやPCBに発がん性が全くないと言っているのではなく、ロングアイランドの女性が日常晒されている残存DDT/PCBレベルであれば、乳がん罹患率に差を生じないという意味のようです。)調査票、血液や尿検査、さらに手術の際に切除した脂肪組織の組織検査、と色々な角度から綿密に調べたにもかかわらず乳がんとの関係は認められませんでした。唯一の成果はPAH(多環芳香族炭化水素)に黄色信号が出されたことです。PAHはディーゼルエンジン、焼却場、各種燃焼機器、タバコなどの煙に含まれる有毒物質で、多量のPAHが体内に入ることで乳がんのリスクが1.5倍になるそうです。しかし、これだけでロングアイランドの乳がん率を説明するのは無理があり、残念ながら真相解明には程遠い状況です。

環境汚染の影響が疑われるのは乳がんだけではありません。ニュージャージー州のトムズリバーという町では、小児がんになる子供の数が何年も続けて平均を上回りました。白血病、脳腫瘍、神経芽腫など種類にばらつきはありましたが、近隣のがんセンターでナースが首を傾げたほどの罹患率でした。トムズリバーには有害廃棄物の埋立地が2箇所あり国から安全/浄化処理を命じられています。小さな子供を持つ親たちは州の健康課に何度も足を運び、汚染と小児がんとの関係を調査するよう要望しました。初めは「小児がんの率は懸念するほど高くはない。」と取り合ってもらえなかったそうです。しかし住民側はあきらめませんでした。住民グループ代表で、神経芽腫を患う子の母であるLinda Gillickさんは「白血病になった子供の二軒先に腫瘍のできた子供がいる。同じ水を飲んで同じ空気を吸ってるのに、当局はそれと病気とは関係ないと言う。私の常識ではおかしいとしか思えません。」と語りました。努力の甲斐があってようやく調査が実施されましたが、因果関係が示唆されたのは、妊娠中に汚染された水を飲んだ母親を持つ女児の白血病のケースだけでした。他の小児がんについては原因不明のままです。多発しているとは言え小児がんの件数は少ないので、統計的な分析では答えを出しにくかったようです。

癌になる原因は一つではなく、様々な要素が絡み合っていると思います。また、何らかの原因で損傷した遺伝子を修復する力にも個人差があります。こうすれば癌になる、ならないと決めつけらられるほど単純なメカニズムではない筈です。その一方で産業化の進んだ社会において癌の罹患率が上昇しているのも事実のようです。地域内、家庭内での環境汚染が癌細胞の発生にどう関与しているのか、もっと解明されて欲しいと感じます。

最後にうれしいニュースで締めくくりましょう。今年5月に、NCI内のがん諮問パネル(President’s Cancer Panel)が「環境による癌リスクを減らす為に」というレポートを発表しました。「人に害があることが証明されてから対処する現行のアプローチを、予防主体のアプローチに変更すべきである。」「疫学的調査や有害アセスメントは、エビデンスのない分野で強化されなければならない。」といった頼もしい勧告と詳しい現状分析から成るこの報告書は大統領に届けられ、今後予算を組む際の参考にされるそうです。

情報ソース:Cape CodLong IslandToms River1Toms River2Cancer ClusterPresident's Cancer Panel
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2010年07月23日

きれい好きな人の乳がんリスク

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数日前のことです。イギリスのメディアを中心に、家庭内で掃除の時に使用する製品と乳がん罹患率との関係について報道がありました。このニュースはマサチューセッツで行われた疫学的調査の結果に基ずいています。

調査の概要は次の通りです。
対象者は、1988年から95年の間に乳がんになった女性787名と同じ年代の健康な女性721名で、清掃関連の製品と殺虫剤の使用頻度について質問されました。掃除がらみの製品群はオーブンクリーナー、住居用クリーナー、カビ取り剤(漂白剤入り)、消臭・芳香剤(固形)、消臭・芳香スプレーを含み、殺虫剤は人間用の殺虫、虫除けだけでなく、芝生や植物の害虫駆除、ペット用のノミ・ダニ駆除も含みます。そして対象者を使用頻度によって4つのグループに分け(最も使用頻度が高い、2番目、3番目、最も使用頻度が低い、25%ずつ)分析が試みられました。クリーナー類総合と消臭・芳香剤総合で、最も使用頻度の高いグループは最も低いグループと比較して、乳がんになるリスクが2倍という結果でした。特にカビ取りと固形の消臭・芳香剤の使用に於いて、乳がんとの因果関係が顕著に見られたそうです。殺虫剤が乳がん罹患率に及ぼす影響については確認されませんでした。

ここまで流し読みして、風呂場のカビ取り剤とトイレの芳香剤をゴミ箱に投げ捨てようとしている貴方、まあ気を落ち着けて最後まで読んで下さい。

この調査は電話インタビューの形式で実施され、対象者は過去の使用習慣を思い出しながら回答したため、一番の問題点は人の記憶に頼っていることです。言うまでもなく記憶は正確とは限りません。単純に忘れてしまったり思い違いをしていたりすることのほか、自分の信じていることが記憶に色をつけるということも有り得ます。調査を担当した研究者は、そのあたりのバイアスを想定して「乳がんの原因は何だと思うか」という質問も加えました。すると「化学物質・汚染物質に大いに起因している」と答えた人達の間で、清掃関連製品の使用頻度と乳がんの因果関係が強く表れました。つまり乳がんの原因は化学汚染ではないかと疑っている患者やサバイバーは、癌になる以前の清掃製品の使用頻度を、無意識のうちに実際より高く記憶修正している可能性があるということです。

では上記のデータに全く信憑性がないかというと、そう決め付けるわけにもいきません。実際に化学物質を多く含む製品に依存した生活を長く送っていたので、癌になってから「あれが悪かったのかも」と疑っているケースもあるでしょう。自分自身で振り返ってみると、生活習慣というのはそう簡単には変わらないし、子供の頃からずっと引きずっているような事も沢山あると思います。(例:芳香剤をよく使う家庭で育つと大人になってから自分も使うようになる。)また習慣の変化についても人間は割りとよく覚えているものです。(例:結婚した相手が神経質なので風呂場のカビ取り回数が増えた。)

ちなみに乳がんになった人の間では、乳がんは「化学物質・汚染物質に大いに起因している」という回答が60%、「遺伝に大いに起因している」という回答が42%でした。対して、乳がんになったことのない人の間では「化学物質」が57%、「遺伝」が66%だったそうです。健康な人が癌は遺伝、家系と(無邪気に)考えがちな一方で、家系に心当たりがないのに癌になってしまった人は、何か他に原因がある筈だ、と環境なり生活習慣なりに矛先を向ける傾向があるのでしょう。大変興味深いです。

結論として、カビ取り剤や消臭・芳香剤の使用が本当に乳がんのリスクを上げるのかどうか、現時点では定かでありません。他の癌のリスクについても不明です。同様の調査を幾つかやって結果を照らし合わせてみるとか、こうした製品に含まれる物質の発ガン性をマウス相手に研究するとか、白黒つくまでに何年もかかると思います。それまで待てない、ちょっとでも疑わしいものは絶対避けたい、という人は自己責任で避けて下さい。市販の製品を使わなくても、酢(クエン酸)とか重曹とかで結構きれいになるみたいですしね。えっ私ですか?私、実は掃除は昔から大嫌いなので、お掃除系製品の使用もミニマムです。(ちょっとバスタブも黒ずんできました…汗。)室内の消臭スプレーは冬場によく使っているので、インドのお香にでも変えようかしらと迷っています。

参考資料:イギリスの報道調査結果(概要)イギリスNHS(National Health Service)の見解

(追記)
頂戴したコメントによると、「ブラジャーをつけると乳がんリスクが上がる」という内容の記事を日本のマスコミ等が配信したらしいです。

正直ゾッとしました。このブラジャー犯人説は長い間、アメリカやカナダでネット上の「噂」として飛び交っていますが、信憑性に乏しい怪しい情報の一つです。噂の出所は1995年に出版された「Dressed to Kill」という本です。作者のSydney Ross SingerとSoma Grismaijer(夫婦)は医師でも癌の研究者でもなく、しいて言うなら「変な人達」です。ブラジャー着用の他、平らなベッドで寝ることにも反対しています。傾斜しているベッド(頭高足低)で寝ればあらゆる病気が治るとか、汗を沢山かき排泄(大小)を沢山すると前立腺肥大やら更年期障害やらを防止できるとか、もう滅茶苦茶なことを言ってるのです。

ネット上の情報は玉石混合。皆さん気をつけましょう。

(続きを読むに、New York Timesに掲載された「Bras and Cancer」という短い記事の訳をつけておきました。)
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2010年07月16日

がんと失業

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癌になったために解雇されたり、辞めるよう促されたり(実質上の解雇)したらどうしますか?

カナダ、オンタリオ州で、乳がんになったことを雇用主に伝えた後に解雇された女性が人権委員会に訴え、その訴えが認められました。法廷は、失業によって失われた収入および不当に扱われたことによる心痛の償いとして、元雇用主に2万カナダドルの賠償金支払いを命じました。

怪我や病気で働けなくなった従業員の権利や雇用主の義務は、住んでいる国や州の法律によって異なると思います。オンタリオ州では、こういったケースは労働基準法ではなく人権擁護法の適用となり、病気を理由に解雇するのは明らかに違法です。州の人権法が、人種、先祖、出身地、民族、国籍、信条、性別、性向、年齢、犯罪歴、既婚/未婚、同性パートナーの有無、家族状況、そして心身の障害に基づく差別、不利益を固く禁じているからです。心身の障害は傷病、身体障害、精神障害のほか、アルコール中毒や麻薬中毒まで含みます。癌になった人を解雇するなど言語道断、どんな大バカ雇用主がそのような卑劣かつ浅はかな行為をとったのかと呆れました。

大バカ雇用主は従業員10人以下の小さな不動産管理会社でした。そこで働いていたElsa Torrejonさんは2009年1月に乳がんの診断を下され、治療(手術+化学治療)のための病気休暇を願い出ました。人権法の下、雇用主は病気の従業員には休暇を与え(有給か無給かは雇用主が決めてよい)、回復したら職場復帰できるよう役職をキープしておく義務があります。病気休暇中の業務は、他の社員がカバーするなり(短期)、派遣や契約社員に任せるなり(長期)して対処するのが普通です。しかし小企業のオーナーの中には法の規定を知らない、あるいは薄々知っているけど無視する人もおり、雇用条件が人権法や労働法に抵触していることも少なくありません。(従業員を家族のように大事にする小事業主さんも沢山いると思いますが。)Elsaさんの元雇用主は悪い方の見本で、Elsaさんの休暇願いを辞表だと言い張った挙句、事務所の鍵を取り上げて彼女を職場から追い出してしまいました。シングルマザーで子供が2人いるElsaさんは、乳がん告知のショックの中でも仕事を辞めようと思ったことはなく、手術の前日まで働くつもりだったにもかかわらず突然失業してしまいました。収入が絶たれたこと以上に、信頼して病気のことを話した雇い主に冷たい仕打ちを受けた精神的打撃が大きかったそうです。全く酷い話で、ストレスが予後に悪い影響を与えぬよう祈るばかりです。

このニュースに対する世論の反応は:
「雇用主への罰が軽すぎる。」
「賠償金額2万ドルは少なすぎる。」
「この会社に仕事を頼んでいる人はキャンセルすべき。」
「この雇用主のように病気の従業員をクビにするビジネスオーナーは、同じ病気に罹ればいい。」
「唯一の救いは、Elsaさんがこんな馬鹿どもの下でもう働かなくてもいいということだ。」
と、Elsaさんを支持、元雇用主を叩く意見が圧倒的でした。しかし中には、「小企業はギリギリのところで商売をしているのに、こんな賠償金を払わされたらやっていけなくなる…」という意見を出した人もいました。

小さな会社にとっては2万ドルでも大きな出費なのかもしれませんが、今回賠償金を払う羽目になったのは病気の従業員を不当解雇したから。身から出た錆ですよね。

さて、国境の南側、アメリカではもっと複雑な訴訟が起きています。遺伝的に乳がんになりやすい女性が、そのことを理由に解雇されたというのです。

コネチカット州に住むPamela Finkさんは乳がんではありません。が、遺伝子検査の結果BRCA2遺伝子変異を抱えていることがわかりました。BRCA2遺伝子変異がある人の全てが乳がんや卵巣がんになるとは限りません。ただPamelaさんの場合は姉妹2人が既に乳がんになっており、彼女自身も乳がんになるリスクが非常に高いという医師の判断でした。そこでPamelaさんは、昨年10月に予防目的で両乳房切除の手術、今年1月には再建手術を受けました。直属の上司と経営幹部数人には遺伝子検査の結果を伝えてありました。

乳房切除の際は2週間ほど休暇を取り、その休暇明けの頃から社内での風当たりが強くなったようです。1月の能力評価で厳しい点数をつけられ、3月にリストラを理由に解雇されました。腑に落ちないのは、社歴4年のPamelaさんが手術を受ける以前は能力評価で高得点を貰っていたことです。さらに彼女の病気休暇中、雇用主のMXenergyは他の女性を雇い、その人をPamelaさんより高い地位に昇進させるなどしてお膳立てをしていた疑いがあります。少なくともPamelaさんはそう考えて訴えを起こしました。

アメリカでは従来の人権擁護、雇用均等などの法律に加え、昨年11月にGenetic Information Nondiscrimination Actという法律も施行されました。科学技術の進歩に伴い遺伝子検査も手軽になりつつあり、自分の遺伝子を検査してもらう人は増加しています。そうしたハイテク社会を反映し、遺伝子情報を基にした差別を法で禁じたわけです。

Pamelaさんは本当に癌になるリスクが高いという理由で解雇されたのでしょうか?それとも彼女の業務遂行能力が実際に低下した、もしくは彼女以上の能力の持ち主が見つかったためにリストラされたのでしょうか?もし後者が事実であればPamelaさんは一種のクレーマーということになります。訴訟社会のアメリカで訴訟の種がまた一つ増えただけ、という見方もできます。今後どうなるか興味深いです。

尚、人事コンサルティングの専門家は、健康に問題が生じた場合、具体的な病名など詳細は告げない(雇用者)、尋ねない(雇用主)が一番だと言っています。

Elsaさんの記事はこちら、Pamelaさんの記事はこちら、BRCA遺伝子変異についての情報はこちらをご覧下さい。
posted by leo at 17:18| Comment(6) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月18日

あなたの先生は何点?

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ASCO(米臨床腫瘍学会)の年次集会というと、抗がん剤研究の話ばかりしている印象があります。実際、開発中の薬の治験や既存薬に関する更なる研究報告などが多数を占めているようですが、演目をよく見ると治療技術以外のトピックも少し混ざっています。例えば今年の卵巣がんカテゴリーでは、「卵巣がん患者が医師に期待するものは何か」というアンケート調査の結果が発表されました。

調査に参加されたのはドイツの卵巣がん患者さん608名。内76%は再発した方だそうです。

まず、「治療オプションに関して最も適切な情報元は?」という問いに対しては「担当医」と答えた人が全体の88%でした。ネットよりも本よりも自分のドクターの言うことの方が頼りになる、と感じる人が圧倒的に多いようですね。

また医師との面談や診察について10点満点で評価すると:
   説明等があらゆる点を網羅している→8
   個々の患者に対する理解度→8
   患者からの質問に対する返答→9
   医師としての能力→10
   医師と患者が共同で決断を下す→9
   親族を含めた治療方針決定→8
だそうです。さすがドイツのお医者様は有能ですね。10点満点で平均点が10点ということは、調査に参加した人全員が10点つけたってことですよね。(医師としての能力の項目)西洋人はイエスとノーがはっきりしているとは言え少し驚きました。日本人の感覚では、かなり満足していても9点とかつけてしまいそうです。ドイツにはヤブ医者って存在しないのでしょうか。すごいなぁ。

また最後の項目(親族を含めた治療方針決定)に関してですが、欧米では何でも直接本人に話すのが普通なので、家族だけ別室に呼ばれてコショコショというのは基本的にありません。(患者が小さい子供の場合は除きます。)私のかかりつけの病院では、患者本人が家族を連れて来た場合は、家族も診察室へ同行するのを許されているようです。(でも何人もゾロゾロというのは見かけません。)

改善の余地がある点については:
   もっと説明に時間をとってほしい→46%
   脱毛をなくしてほしい→35%
   治療の効果を上げてほしい→31%
う〜ん、こうした患者の意見は国境、言語を越えてユニバーサルなんですね。アンケート回答者に再発患者が多いことを考えると、「治療の効果を上げてほしい」は切実だと思います。その割には31%って…7割の人は治療が効いているのか、それとも効かなくても仕方ないと思っているのか、どうなんでしょう。ちょっと考え込んでしまいます。

「治療が成功したかどうか何を基準に判断するか」という質問には:
   現在の体調→55%
   CA125値→45%
   医師の意見→38%
この回答も再発患者の現実をよく反映してますね。腫瘍マーカーの値以上に、自分が今元気かどうかが重要という結果。納得です。痛いところ、苦しいところがない。ご飯が美味しい。日常生活に支障が無い。というのが3本柱のような気がします。

最後にセカンドオピニオンについては、70%の人がセカンドオピニオンを希望すると答えましたが、実際にセカンドオピニオンを貰える場所を知っている人は20%だけでした。この点については首を傾げる人もいるかもしれませんね。日本やアメリカはセカンドオピニオンを貰いやすいのだと思います。多分ドイツでは国か州が医療システム全般を管理していて、患者が医師や病院を比較、選択するような状況ではないのでは… カナダも同様なので想像がつきます。専門医には紹介状がなければ会えないし、他の病院に患者が直接電話してセカンドオピニオンの予約を取るなんてとても無理です。(そういう風にシステムが出来ていないのです。)どこの国も一長一短ということなのでしょう。

私は個人的にこの調査が気に入っています。なんだか和めるじゃないですか。結果を天下のASCO年次総会で発表したというのもいいですね。この薬で○ヶ月癌の進行を止めた、あの薬で○ヶ月延命した、という研究も勿論大事です。でもそういう殺伐とした思考ばかりでは臨床現場は温かみに欠けてしまいます。臨床医師は試験管の中の癌細胞ではなく生きた人間を扱っている以上、患者が人として納得し、満足できる治療を施す努力をしていただきたいと感じます。その為に円滑な人間関係、固い信頼関係は不可欠です。この調査を実施したドイツの医師チームは、癌治療の人間的側面に注目し、それが新薬の開発と同じくらい重要なのだということを示してくれたような気がします。

調査結論としては、「この研究は、卵巣がん患者が治療オプションと臨床上の処置について細部まで話し合うことを非常に必要としている、という点を明らかにしている」とあります。 医師の世界ではコモンセンスもエビデンスがないと取り合ってもらえないのかしら、と思わず苦笑してしまいました。
posted by leo at 18:21| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月09日

患者の声を届けたい

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市販薬を含め、薬品には程度の違いこそあれ副作用が付き物のように思います。副作用は服用した本人にしかわからない症状も含みます。この薬を飲んだらこういう症状が出た…という患者の生の声が、新薬の開発、承認、使用ガイドラインの作成過程などにおいてどれだけ反映されているのでしょうか?といった疑問を鋭くついた新聞記事(NYタイムス)を読みました。

その記事の中で紹介されていたのが、スローンケタリング癌センターのEthan Basch医師です。Dr. Baschは腫瘍内科医として前立腺がんの治療に携わる一方で、抗がん剤の副作用について、患者と医師、両方の意見の調べており、そのギャップについて指摘しています。副作用の中でも骨髄抑制や肝機能、腎機能の低下などは、血液検査の結果に表れますから医師の判断に間違いはないと考えていいでしょう。その一方、数値に表れにくい副作用もあります。例えば、吐き気や疲労感、痛みの度合いなどは第三者にはわかりにくいことです。しかし現在行われている薬の治験では、ほとんどが医師(またはナース)が全ての副作用を記録・報告する仕組みになっており、患者が直接フィードバックを残すことはありません。

Dr. Baschが先ごろThe New England Journal of Medicineに発表した小論(The Missing Voice of Patients in Drug-Safety Reporting)によると、臨床医の中には患者の副作用症状を軽視したり、割り引いて解釈したりする人も少なくないそうです。(と聞くと一瞬ムッとしますが、ありそうな話ですよね。)スローンケタリングの癌患者さん467人を対象に、疲労感、食欲の低下、吐き気、嘔吐、下痢、便秘の副作用6項目について、患者の自己申告と医師の記録を比較したところ、いずれの項目でも自己申告の方が症状の始まる時期が早く、症状の出る頻度も高いという結果でした。(リンク先のNEJMの記事の一番目のグラフです。オレンジ色の曲線が患者の自己申告、ブルーが臨床医の記録によります。)

Dr. Baschは、臨床医やナースが患者の訴えを割り引いて聞く理由を幾つかあげています。まず彼らとて人間ですから、患者と話す際に多少の先入観があっても不思議ではありません。「○○さんはいつもオーバーだから、疲労度は9点(10点満点で10が一番重症)だって言ってるけど6点につけておこう」という具合です。(西洋社会では物事を誇張する人が多いのも事実です。)また、医師はその病気についての専門家であるが故に、この先副作用がもっと重くなる可能性や、他に副作用がもっと重篤な患者さんを知っていたりします。その知識に基づき、この人の症状はまだそんなに重くないだろうと解釈する場合もあります。さらに、医師の治療効果への希望的観測や治療続行への意欲の表れとして、この程度の副作用ならまだ行けると肯定的に判断することもあり得ます。訴訟社会のアメリカでは、副作用の訴えを逐一カルテに残すと、後々「どうして措置を怠ったのか」などと問題になりかねないので、自己防衛的にあまり細かい記録を取らない医師の方もいるそうです。なるほど。クレーマー対策とは興味深いですね。

治験の結果に至っては、患者談→臨床医の記録→研究者@集計→研究者Aさらなる集計→研究者B情報分析→研究者Cさらなる分析、等々人から人へと伝達されていくうちに、情報が脱落したり誤って解釈されたりすることも起こってきます。副作用の情報が一部欠けたまま承認審査が行われたり、製薬会社が取扱い説明書を作成してしまったら安全性の上で重大な問題となります。

Dr. Baschは、薬の副作用を知り安全性を確認する上で、患者の自己申告と医師のプロ視点からの報告のどちらも欠かせないと述べています。医師の査定は、患者が重篤な病状に陥る可能性を予想する指標となります。患者の生の声は、彼らの日常の健康状態を直接反映しています。映画評で批評家と一般人のレビューを読み比べるのが役立つのと同様に、新薬の開発においても臨床医と患者、両方の意見が参考にされるべきだというのです。驚くなかれ製薬会社もこうしたアプローチを歓迎している様子です。患者から直接フィードバックを受けることで、開発チームが予測していなかった副作用を迅速に発見することができれば対策を練ることも可能です。一度市場に出してから販売中止や製品回収という事態が起これば巨額な損失となることを考えれば、開発時に多少の手間が増えても割に合うのかもしれません。

現在Dr. Baschはアメリカの国立がん研究所(NCI)から委託されて、患者が自ら副作用を報告するシステムの開発プロジェクト(PRO-CTCAE)に取り組んでいます。CTCAE(Common Terminology Criteria for Adverse Events)は、NCIが作った治療に伴う有害事象(副作用や合併症)の一覧及び重症度(グレード)の基準表のようなもので、治験の際に医師が有害事象を記録するのに用いられています。その患者バージョンを作成して自己申告の際に使えば、素人の患者でも主観に走りすぎたり脱線したりせずに、臨床上有意義な意見を出しやすくなるのではないかという試みです。NCIは患者の生の声を取り入れることで、新薬の副作用をより正確に把握することを目指しています。

余談ですが、CTCAEの基準によるとグレード0→全く症状なし、グレード5→死です。(怖〜い!)グレード4は平たく言うと死の一歩手前。グレード3は非常に重い副作用を指すようです。抗がん剤の治験でグレード3以上の副作用が続出するようだと中止になりますが、グレード1や2の副作用はあってもあまり問題にされていないようです。ただ、個人的にはグレード2だって結構辛いと思います。例えば嘔吐は24時間内に2〜5回だとグレード2。下痢は普段のお通じの回数プラス4〜6回だとグレード2。吐き気や食欲不振は著しい体重減少が伴わなければグレード2ですが、ここで言う「著しい」体重減少とは元の体重の20%以上の減少のようです。脱毛や味覚障害は生死に影響ないので最高がグレード2です。ね、グレード2だって2つ3つ重なればかなりQOLに影響がでるでしょ。しかも治療中は3〜4週間おきに繰り返して症状に見舞われるのですから、欲を言えばグレードの基準自体見直してほしいくらいです。PRO-CTCAEが、患者の視点を反映した新薬研究への第一歩となってくれることを願っています。
posted by leo at 15:25| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月05日

体内時計

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クロノセラピー(chronotherapy)という言葉をはじめて目にしたのは新聞のコラム欄でした。人間の身体にはサーカディアンリズム(circadian rhythms)と呼ばれる体内時計のようなものがあり、それに逆らった生活を続けていると健康上の問題を起こしかねない。不規則な生活を送りがちの現代人に、生体リズムにフィットしたエクササイズプラン、薬の服用プラン、ダイエット法など指導するクロノセラピストなる職業が現れるのも時間の問題、というような内容のコラムでした。不規則を絵に描いたような私はドキリとしました。確かに身体の機能は24時間一定というわけではなさそうで、例えば体温は午前中低く午後高くなり、血圧は朝高く夜低くなる、という事実はよく知られています。

体内時計が癌に及ぼす影響については既に乳がんとの関連が指摘されています。夜勤が多いと乳がんのリスクが若干上がるという調査結果は複数報告されており、デンマークでは長年夜勤をした末乳がんになった女性に対して労災が認定されたと聞きました。(ただし20〜30年にわたり週に1回以上夜勤をして、他にはっきりした理由もなく乳がんになった場合に限るそうです。)リスクが上がる理由についてはメラトニンというホルモンが関係しているのではないか、という仮説が有力です。体内のメラトニン量は夜暗くなると上昇し睡眠を促し、明るくなると減少します。マウスを使った実験によると、メラトニンは乳がん細胞も眠らせ進行を遅らせることがわかりました。確実ではありませんが、夜勤で一晩中光に当たりっぱなしだとメラトニンの合成が抑制されるので、メラトニンの持つ癌予防・遅延効果が減ってしまうらしいです。

化学治療にサーカディアンリズムを取り入れようという研究も行われています。別に新しい試みではなく、主にヨーロッパで20年以上前から細々と続けられているそうです。サーカディアンリズムは細胞分裂、細胞死、DNA修復のサイクルや薬品の代謝にも係わっています。であれば、サーカディアンリズムに治療スケジュールを合わせることで、抗がん剤の効き目を上げたり副作用を軽くしたりすることが可能なようにも思えますが、現実はそう簡単にはいかないみたいです。

癌治療のクロノセラピーで最もデータが豊富なのは大腸がんです。一例をあげると5-FU、ロイコボリン、オキサリプラチンのコンビネーション(FOLFOXでしたっけ?)を生体リズムに合わせて投与し、同じ薬を標準スケジュールで投与したグループと比較したトライアルがあります。クロノセラピー組は3種類の薬を4日間かけて投与。(標準では2日)その際5-FUとロイコボリンは投薬量のピークが朝の4時、オキサリプラチンはピークが夕方の4時になるようにしたそうです。参加したのは転移・進行した大腸がんの患者さん564名。結果は生存期間の中央値がクロノセラピー組19.6ヶ月、標準スケジュール組18.7ヶ月とあまり変わらず。副作用はクロノ組は下痢が多く、標準組は好中球減少が多かったということです。不思議なことに男性はクロノセラピーで治療効果が上がった(生存期間21.4ヶ月vs18.3ヶ月)のに対し、女性は裏目に出ました(16.3ヶ月vs19.1ヶ月)。男性と女性の生理の違いでしょうか。このトライアルにおけるクロノセラピーの設計が男性向けだったのか(男性中心主義の表れ?)、あるいはクロノセラピーという手法自体が男性向けなのか(女性の身体の方が複雑にできている?)、それとも単なる偶然か… 興味深いです。

5-FUやオキサリプラチン以外でも、シスプラチンとかサイクロフォスファミドなどはサーカディアンリズムによって毒性の強さが変わると聞いたことがあります。○○時に点滴すると副作用が少ない、とわかっているならその時間に点滴したいですよね。タイマー付きの点滴ポンプを支給してもらって家でできるなら朝の4時でも可能だし。ともあれ、時間調節した化学治療はまだ当分は研究段階みたいです。アイデア倒れに終わるのか画期的な発展につながるのか、期待しすぎない程度に見守りたいと思います。

現時点では、癌治療にクロノセラピーを取り入れているアメリカの病院は稀なようです。ミシガンのブロックセンターでやっていると聞いたくらいで。(ブロックは標準治療に先進治療や代替療法を組み合わせている癌専門病院です。)まあヨーロッパでのトライアル結果がボチボチだから仕方ないのですが。それと…こう言っては何ですが、アメリカの研究機関って新薬の開発にはすごく熱心ですが、既存の薬の有効な使い方(例:クロノセラピー)とか薬を使わない治療法(例:温熱療法)には冷たいような気がします。北米の治験が全て製薬会社の後ろ盾で行われているわけではありません。実際、癌の研究にはかなりの額の税金や寄付金が投入されています。それでも個々の研究者レベルでは、製薬会社の資金援助をあてにしている人が大勢いても不思議でありません。援助を受けやすい研究に人気が集まるのは当然なのかもしれません。製薬会社陰謀説はあり得ないとしても、癌研究の行方に影響を及ぼしていることは否めませんね。



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2010年03月10日

ドクターヤマモト

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前にも一度書いたような気がしますが、私はInspireという卵巣がんのオンラインコミュニティに参加しています。アメリカのOvarian Cancer National Allianceという団体が立ち上げたコミュニティですが、カナダやヨーロッパから参加している人も沢山います。というか、英語環境で構わなければ世界のどこに住んでいても登録できます。患者同士の情報/意見交換の場として役に立つサイトです。

さてこのInspireの掲示板に「Dr. Yamamoto and GcMAF」というトピックがあり、Dr. Yamamotoというからには日本人なんだろうな〜、どこの山本先生だろう、と興味をひかれちょっと調べてみました。

Dr. YamamotoのフルネームはNobuto Yamamotoさんで、実在する日本人の医師です。ただ50年くらい前からずっとアメリカ在住なので日本ではあまり知られていないと思います。(日本語でググってもでてきません。)専門はウィルス学、微生物学、遺伝子学、免疫学などで、ペンシルバニア州のテンプル大学とハーネマン大学で何十年も働き、退職後は個人で免疫療法研究所を開いて研究を続けていらっしゃるようです。Dr. Yamamotoが特に力を注いで研究してきたのがGcMAF(ジーシーマフ)。ビタミンD3結合タンパク(Gcタンパク)に由来するマクロファージ活性化因子(Macrophage Activating Factor)です。

人間の体内にはもともとGcタンパクというマクロファージ活性化因子の前駆物質があります。ところが癌はNagalaseという酵素を分泌してGcタンパクを駄目にしてしまい、それが癌患者の免疫抑制と一因となっているようなのです。そして、GcMAFを投与すればマクロファージの抗腫瘍力は大幅に増加し癌の治癒につながる、というのがDr. Yamamotoの学説です。研究は試験管、マウスの他、少数の癌患者(大腸がん乳がん前立腺がん)に対しても行われました。結果は:
大腸がん(転移あり)→100ngのGcMAFを32〜50週投与→7年後も対象者全員再発なし
乳がん(転移あり)→100ngのGcMAFを16〜22週投与→4年後も対象者全員再発なし
前立腺がん(転移有無不明)→100ngのGcMAFを14〜25週投与→7年後も対象者全員再発なし
とインプレッシブです。しかし、メインストリームの癌研究としてはあまり認められておらず、標準治療には程遠く、補完/代替医療の範疇に入るらしいです。確かに免疫療法自体が未だ実験段階で、しかも自己リンパ球や樹状細胞を用いた療法ともGcMAFは異なっています。

日本では保険の適応外で様々な(エビデンスに乏しいものも含め)免疫療法が行われているのでしょうか?パブリックヘルスケアのカナダでは標準治療以外は皆無と言っていいのですが、個人の健康保険に依存しているアメリカでさえ、メインストリームから外れる治療というのは少ないように見受けられます。補完医療(鍼など)はあくまでも補完。標準治療の副作用軽減のために用いられているにすぎません。よほどの変わり者でもない限り厳格な食事療法(マクロバイオティックなど)を試すこともありません。(普通のベジタリアンは結構いますし、肥満防止を含め健康的な食生活の指導はありますが。)

そういう状況下でも、有効な代替療法を内心期待している人はいます。そういう人達の間でDr. YamamotoのGcMAFは「副作用がなく全ての癌に効く夢の薬」という噂が流れたようです。

その噂は海を越えてイギリスでも流れたらしく、それに対してメインストリームのドクターが書いたやんわりと釘をさす記事も読みました。要するにGcMAFを夢の癌治療薬と見なすには科学的証拠が弱すぎるということです。例えば、大腸がん、乳がん、前立腺がんの患者を対象に行われたトライアルは小さすぎる(対象者は各16名)。対象者は平行して標準治療も受けているので、再発しないのが標準治療によるのかGcMAFによるのか判断できない。対象者の癌のステージや組織型についての情報が欠けている。GcMAF投与後の効果測定としてはNagalaseの値を計っただけで、腫瘍マーカー値も血液中のサイトカインレベルも記録されていない。GcMAFの投与グループと非投与グループとの比較がない。等、いずれももっともな批判ばかりです。

私も「夢の特効薬」というのは誇張だと思います。その反面GcMAFに効果がないと決め付けるのもどうかと感じます。Dr. Yamamotoの肩を持つわけではないのですが、トライアルが不十分だという点についてはDr. Yamamotoのせいではないような気がします。NCIなどで行っているクリニカルトライアルにはフェーズ1、2、3とあって、フェーズ1だと対象は20名以下のことはよくあり、それで良い結果がでたら、もっと大掛かりなフェーズ2(研究薬の投与組vs非投与組)、フェーズ3(研究薬vs既存薬)と駒が進みます。Dr. Yamamotoのトライアルは(おそらく)日本で行われており、その後フェーズ2、3とアメリカで続けたくとも資金援助が得られなかったのかもしれません。製薬会社のバックアップもないようですし。主流から離れたところで働く研究者は不利を蒙るというようなことがないのか… ちょっと考えてしまいました。

また、GcMAFの投与には副作用が伴わないそうなので、効き目があろうがなかろうがダメもとで試してみたいという人もいるかもしれません。丸山ワクチンだって「あれはただの水」と蔑む医者もいる中、投与を継続して何年も健康を保っている患者もいるではないですか。

といってもこのGcMAF、そう簡単に手には入らないようです。標準治療の枠外だというだけでなく、GcMAFは現在パテントの申請中でDr. Yamamoto 以外の医者から投与してもらうことは多分無理。しかもDr. Yamamotoはご高齢(80歳以上)のせいか(?)、メールを出しても連絡がつきにくいとか。直接フィラデルフィアの研究所の門をたたくしかないのかもしれません。過去に発表された論文の幾つかは長崎大学との共同研究とされているので、長崎大学に問い合わせたら何かわかる可能性もありますが。費用はどのくらいかかるのか?ノーアイデアです。
posted by leo at 16:15| Comment(9) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年03月03日

ワンダードラッグ

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アスピリンという薬はワンダードラッグ(驚異的な薬)と形容されることがよくあります。もともとは鎮痛及び解熱剤。頭痛薬として広く服用されているだけでなく、関節炎の痛み止めとして処方されたりもしています。

アスピリン(非ステロイド性抗炎症薬)には鎮痛効果のほかに抗血小板作用があります。その働きにより血栓や塞栓が形成されるのを抑制することから、心臓疾患の予防/治療薬としても効果があるとされており、それがワンダードラッグと呼ばれる所以です。健康な人が動脈硬化や狭心症を予防するために毎日アスピリンを飲むことに関しては賛否両論ですが、2次予防効果(既に一度発作を起こした人が再度発作を起こすのを予防する)があるのは確からしく、欧米では(日本でも?)心臓および循環器疾患の標準治療の一部となっています。かくいう私も一回目の腹腔鏡手術の直後に心臓の調子がおかしくなった際、心臓病専門医からアスピリンを処方されたのですが、癌が見つかってしまったためそちらが優先となりアスピリンのことなど忘れていました。(5年先まで元気に生存できるかどうかが問題になり、20年先の心臓の健康状態を心配する余裕がなくなってしまったのです…)

ちなみにアスピリンの循環器への効果は年齢、性別によって違いがあり、男性の間では2次予防だけでなく1次予防(初めての心臓発作を防ぐ)効果もみられるそうです。女性の場合、65歳以下の方には心臓発作の再発防止および脳梗塞などの脳血管障害の予防、65歳以上の方には心臓発作の1次、2次予防および脳血管障害の予防に役立つと言われています。心臓/循環器疾患予防の為にアスピリンを服用するか否かは、血圧、コレステロール値、喫煙するかどうか、糖尿病かどうか、など全てのリスク要因を考慮した上で医師の指示に従うのが一番のようです。量は1日81mgから325mg。人によって違いますが、微量(81mg)でも十分効果があると聞きました。(情報ソース:Mayo Clinic

アスピリンの癌に対する予防、抑制効果については未だ研究段階ですが、再発予防に貢献する可能性を示唆する結果も複数発表されています。一番よく知られているのは大腸がんへの効果です。アスピリン服用が大腸ポリープの発生や再発するリスクを下げるのでは、という仮説は1970年代からありました。昨年発表されたアメリカの観察調査(対象1279人)の分析結果によると、大腸がんと診断された後アスピリンを定期的(週に2回以上)に飲み始めた人は、アスピリンを飲まない人に比べて大腸がんで亡くなる確率が47%低かったそうです。さらにアスピリンの大腸がん再発予防効果は、腫瘍がCOX−2(シクロオキシゲナーゼ)という酵素を過剰発現しているかどうかにより異なることもわかりました。アスピリン服用組の中でCOX−2発現が認められた人は、アスピリンを飲まない人より大腸がんで亡くなる割合が61%も低かったのに対し、COX−2過剰発現のない人の間ではアスピリン服用による生存率の差は見られなかったということです。(大腸がんの大多数はCOX−2の発現があるらしいです。)また少し古いですが、2002年に発表されたランダムコントロールされたトライアルでも、微量のアスピリン(1日80mg)を服用することにより癌化する可能性のある大腸ポリープ(腺腫)の再発が19%、大腸がんの再発が40%減少した、という結果が出ています。興味深いことに、このトライアルでは1日の服用量が80mgのグループの方が325mgのグループより再発減少が顕著に見られたそうです。(情報ソース:WebMDNCI

アスピリンの乳がん再発予防効果についても最近話題になっています。ステージI、II、IIIの乳がん患者4164人(30〜55歳)対象の観察調査によると、アスピリンを週に2〜5日飲むと答えた人は全く飲まない人に比べて71%、週に6〜7日飲むと答えた人は64%も乳がんで亡くなる確率が低いという分析結果がでました。同様に癌が遠隔転移、再発する確率もアスピリンを週に2〜5日飲む人は60%、週に6〜7日飲む人は43%低かったそうです。

この数字だけ聞くとアスピリンの効き目は非常に大きいかのように思えますが、別の研究ではアスピリンに癌予防効果はないという結果も出ています。後者は大規模なランダムコントロールのトライアルで、対象者(45歳以上の健康な女性)はアスピリン、ビタミンE、両方、プラセボの4グループに分けられ、本人も医師も何を服用しているかわからない状態で調査しました。服用量は100mgを1日おきで10年間続けましたが、アスピリン服用グループ(約2万人)とプラセボグループ(約2万人)に発がん率の差はでませんでした。(ビタミンEグループとプラセボグループの間にも発がん率の差はありませんでした。)

アスピリンが健康な人の心臓疾患を予防する力はクエスチョンマーク付きだけれど、一度心臓発作を起こした人の再発作防止には効果があるのと同様に、健康な人が癌になるのを止めることはできないけれど、既に癌になった人の再発や転移を抑制する力はあるということなのでしょうか。仮に癌の再発予防に効果があるとして、最も適した量はどのくらいなのでしょうか。再発予防のメカニズムはどうなっているのでしょうか。アスピリンのシクロオキシゲナーゼを抑制する力が大腸がん以外の癌にも有効なのでしょうか。それともアスピリンの炎症緩和効果が癌に対しても何らかの働きをするのでしょうか。まだまだ不明なことが多いため、独断で再発予防にアスピリンを服用することはリスクが伴います。(情報ソース:JCONCIACS

私の場合、上にも書いた通り、心臓病専門医から微量(81mg)のアスピリン服用を薦められた経緯があるので、一石二鳥を狙ってアスピリンを飲み始めてもいいかなぁと思ったりもしています。問題はアスピリンは胃に悪いということ。十二指腸が腫れて胃カメラを飲んだとき、消化器専門医から「アスピリンは飲んでないでしょうね」なんて釘をさされちゃったし。もちろん消化器専門医に「血管攣縮性の心臓発作を2回起こしているから」と説明してPPI薬を処方してもらいアスピリンと併用するという手はあります。でもそれだと何だか薬漬けって感じですよね。

日本で売っているバファリンはアスピリンを緩衝制酸剤でくるんで胃にやさしくしてあるのですが、バファリンってカナダの薬局では見かけないのです。カナダ人ってしつこい物を食べてもあまり胃がもたれることもないみたいで、基本的に日本人より胃が丈夫にできているよう見受けられます。それに頭痛や解熱にはタイラノルの方が人気があるのでバファリンの出番はないのかもしれません。腸溶性のコーティングがしてあるアスピリンは売っているので、それなら大丈夫なのかな〜なんて頭を捻っている今日この頃です。
posted by leo at 17:39| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年02月25日

ごめんなさいではすまない場合

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2007年にMRGというアメリカの調査会社が医療データベースを分析した結果によると、医療ミスで命を失うアメリカ人の数は年間9万8千人で、国民の死因の第5位にあたるそうです。同様の調査は2000年にもジョンズホプキンズ病院のドクターによって実施され、当時は医療ミスの数がもっと多くて年間10万9千人が亡くなったいう記録が残っています。(病院内感染8万人、処方薬エラー7千人、不必要な手術2千人、その他のエラー2万人)後者の調査によると、医療ミスではないものの薬の副作用で亡くなった人(10万6千人)も含めると、合計で年間22万5千人のアメリカ人が病院で受けた治療のせいで命を失ったということになります。

恐ろしい話ですが、治療を受けなければ病気や怪我で死んでしまうので病院に行かないわけにもいきません。訴訟社会のアメリカで、上記の医療ミスのうちどのくらいが裁判沙汰になっているのかはわかりません。カナダは医療システムが違うのでアメリカに比べると医療関連の訴訟の数は少ないと言われていますが、医療ミスの起こる確率は大差ないのではないかと思います。個々の医療ミスに関しては、患者および患者の家族と病院、医師とのプライベートな問題なので、あまり報道されることもないのですが、それでも時折新聞に載っています。

最近耳にしたのは、オンタリオ州南部の小さな市に住む女性が乳がんと誤診され、片方の胸を全摘出されてしまった事件です。(ローカルニュースでさらっと流れただけで大騒ぎにはなりませんでしたが。)この女性は胸にしこりがあり主治医の見立てでは乳がんということでした。その後主治医から地元の専門医に紹介され、専門医は手術前の組織検査結果でしこりは良性とされていたのを読み落とし、主治医の診断をそのまま受け入れ手術に踏み切ってしまいました。30年近い経験を持つその専門医は、手術後間違いに気づき自ら患者に説明、謝罪を行ない、所属部の部長にもその旨報告したそうです。手術が行われたのは昨年11月で今年の2月現在、その女性は患者サポート団体とコンタクトを取ってはいるものの、医師も病院も訴えてはいないと伝えられています。癌に関する誤診では癌を見落とされて手遅れになってしまうケースが頭に浮かびますが、癌でないのに癌であると診断されて不必要な手術や化学療法を受けさせられてしまうのも同様に悲惨です。癌でなかったとわかって安堵する一方、間違いで片方の胸を失ってしまったショックや、癌と診断されてから誤診と告げられるまでの不安な日々の記憶。誤診されてしまったこの女性の心中はさぞ複雑かと思います。まさに悪夢のような経験といえるでしょう。

誤診はあってはならないことですが現実には起こります。また医療過誤イコール医師が責任を問われるというわけでもありません。医師を含む専門職というのは、専門知識や経験を基にそれぞれの状況に応じて最善の処置を判断することを求められます。人間の判断が100%正しいというのはあり得ない以上、医師の判断が間違っていたからといって即ち法で罰されるわけでもないのです。アメリカの医療訴訟の裁判員への指示によると、医師の過失は、診断や治療が認容されたスタンダードに沿っていない、且つその逸脱が損害の主な原因となっている場合にのみ認められるようです。ただ医療の認容されたスタンダード(accepted standards)というのは、医学協会などのガイドライン等はあるにしても細部は専門家で意見が分かれたりすることもあるでしょうし、スタンダードに沿っているかどうかを決めるのは容易ではないと思います。

近年カナダで問題になっているのは医師の誤診ではなくて、臨床検査のエラーです。例えばニューファウンドランド州では1997年から2005年にかけて、乳がんのエストロジェン受容体の検査が間違っていました。陽性の人が陰性と見なされホルモン療法を受けられなかったり、その逆が起きたりして乳がんの治療に多大な混乱が出ました。この事件では患者の被害者グループが州を相手取り損害賠償請求を起こし勝訴しました。

- 本来の検査結果が陽性なのに間違いで陰性とされホルモン療法を受けられず10年以内に再発した人は7万5千ドル(約642万円)
- 本来の検査結果が陽性なのに間違いで陰性とされホルモン療法を受けられなかった人で、初めの検査時にステージIVだった人、または再発しなかった人は1万5千ドル(約128万円)
- 本来の検査結果が陰性なのに間違いで陽性とされ(不必要な)ホルモン療法を受けた人は1万ドル(約86万円)

という賠償金が支払われたそうですが、既に亡くなってしまった患者さんも多く、遺族の方はやりきれない気持ちだと思います。

やりきれなさに追い討ちをかけるのは、この訴訟で州が支払う賠償総額1750万ドルのうち500万ドル以上は原告側の弁護士への支払いとして消えるという事実です。

医療訴訟を起こす動機は人それぞれでしょう。お金が主目的ではなく、政府や病院、医師に責任を裁判を通じて明らかすること自体に意義を感じて立ち上がる人も少なくないのかと思います。裁判で勝ったところで、失った身体の一部が戻ってくるわけでも病気が治るわけでもありません。一番得をするのは弁護士ということを考えると医療訴訟は不毛だなぁという気がしてきます。だからと言って泣き寝入りというのも理にかなわないし… 意図的な手抜きや金銭目的のような悪質なケースはともかくとして、過労によるうっかり間違いや経験不足などの場合も責任を問うべきかどうか。どこでその線引きをするのか。本当に難しい問題ですね。
posted by leo at 12:04| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月27日

奇跡のサバイバー

年間最大のイベントといえるクリスマスとボクシングデーが無事終わりました。が、今年は振り替え休日で月曜日まで休みなので、クリスマス気分はまだ抜けそうにありません。私はターキーとかケーキ類とかクリスマスらしい料理は全く作らず(正確には料理全般に疎い)、会社のパーティや知人宅のディナーに招いていただきご馳走になるばかりです。普段はダイエットが気になるカナダ人も、この時期は思いっきり食べたり飲んだりしているようです。見ていてふと思ったのは、相当ふくよかで、高タンパク、高脂肪の典型的な西洋料理が大好きで、甘いものも沢山食べ、お酒もよく飲んで…でも病気にならない人も大勢いるのだなぁということです。癌のリスク要因なんて当てにならない、というか人間の身体は公式に当てはまらないことの方が多いのかもしれません。

癌という病気には未知数が多く、予想外の展開も起こり得ます。良い方に転がった時は「奇跡」という素敵な言葉で呼ばれたりもします。例えば、癌の自然消失という並外れた幸運を掴んだ人。生存率一桁の壁を破った人。他の人には効かない薬が爆発的に効いた人。期待された結果をはるかに上回る治療効果がでた人。病気を抱えながら余命を超えて何年も生き続ける人。そんな大小の奇跡が存在するのが癌の不思議さです。

starry night.jpg

以下の内容はというForbesという雑誌からの転載です。Forbesは基本的にビジネス雑誌なので医学情報的には少し弱いのですが、大手のきちんとしたメディアなので信憑性はあると思います。

6人の奇跡の癌サバイバー

Sharon Belvinさん
27歳、ノースキャロライナ州在住、メラノーマ
シャロンさんの肺にメラノーマが見つかったのは22歳の時、結婚式の1週間前のことでした。メラノーマは体内に転移すると化学療法が効きにくく予後が厳しくなります。シャロンさんの場合も標準治療の効き目はとぼしく、24歳の誕生日を迎えた頃には癌が両方の肺に広がっていました。シャロンさんはあきらめることなく、NYのスローンケタリング病院でIpilimumabという薬を試すことにしました。すると治療開始4ヶ月で腫瘍が縮小し、2006年の終わりには癌が消えてしまったのです。現在シャロンさんは治療の必要もなく、夫と1歳の娘さんと暮らしています。

Ipilimumabは新しいモノクローナル抗体薬で、癌に対する免疫の働きを強化する働きを持っています。ただ残念ながら、2007年の治験(対象はメラノーマ)では、効き目を発揮したのは参加者の10%にすぎないという結果に終わりました。効果にばらつきがでる理由については未だに研究中だそうです。

Joseph Rickさん
48歳、カリフォルニア州在住、メラノーマ
ジョセフさんが背中に紫色のにきびを見つけたのは2002年のことでした。癌は大腸に転移し、その後2年間に手術を9回、キモを40回受けたものの、病気の進行をくい止めることはできませんでした。2004年の秋には癌は身体中に広がっていました。医師から余命4ヶ月と告げられたジョセフさんは、自分のために墓地を買い自宅で死を待つ身となりました。12月にはかつて240パウンド(109kg)あった体重が90パウンド(41kg)にまで落ち、歩くこともままならない程でした。そんな時、UCLAで免疫を強化する薬の治験があると聞き参加することにしました。最初の点滴の一週間後には、首と腿の茶色い腫瘍が薄れ始め食欲も戻りました。2005年3月までに癌は25%縮小、2006年初頭には全て消失しました。

ジョセフさんが使った薬の名前は明記されていませんでしたが、Ipilimumabと似たような薬だということなので、別のモノクローナル抗体薬かもしれません。この薬も治験最終段階で従来の抗がん剤より優れていることを証明できなかったため、承認されるかどうかはわからないそうです。

Jamie C. Spencerさん
57歳、ワシントン州在住、すい臓がん
ジェイミーさんがすい臓がんと診断されたのは2001年のことでした。腫瘍が門脈に巻きついている状態で手術は不可能、生き延びる確率はたったの2%と言われました。唯一の手段は、抗がん剤を使って手術ができるレベルまで腫瘍を小さくすることです。ヴァージニアメイソン医療センターのPicozzi医師の元で、ジェイミーさんは極めてヘビーな化学療法を始めました。2種類の抗がん剤を3ヶ月、続いて放射線と別の薬との組み合わせを4ヶ月。厳しい治療の甲斐あって癌は縮小し、2002年3月には9時間に及ぶ手術で全ての腫瘍を切除することができました。術後、再発を予防するために更なるキモを受けたジェイミーさんは、その後7年間もキャンサーフリーです。

Picozzi医師が使った抗がん剤の名前は明記されていませんでしたが、同医師は、2008年のASCO(アメリカ腫瘍学会)で結果発表された、5-FU+シスプラチン+インターフェロンαに放射線を組み合わせた治験(フェーズ2)の主任研究者でした。ただこの治療法は副作用が強すぎたためフェーズ3には進めなかったそうです。

Jan Lesserさん
55歳、カリフォルニア州在住、肺がん
ジャンさんが肺がんであるとわかったのは2000年2月のことでした。癌はすでに進行しており、右肺に2つ、肝臓に2つ、脳に1つの腫瘍が見つかりました。手術は不可能な状態です。その後10ヶ月にキモのレジュメンを3種類試しましたがどれも奏功せず、当時新薬であったイレッサを使い始めたのは2000年の終わりでした。それから5ヶ月でジャンさんの癌は消えうせ、彼女は現在も毎日イレッサを服用しています。

イレッサはその後の治験で効果を証明できず、2005年以降はアメリカでの新患者への販売を中止しました。何故ジャンさんには寛解を導くほどの効き目がでたのか?可能性としては、ジャンさんの癌幹細胞に、たまたまイレッサに対する感受性の高い遺伝子変異が含まれたということが挙げられるそうです。

Barbara Bradfieldさん
66歳、ワシントン州在住、乳がん
バーバラさんの乳がんが再発したのは1992年。両胸の全摘手術からたった2年しか経っていませんでした。首にマシュマロ大の腫瘍があらわれ肺にもパラパラと16箇所。バーバラさんは副作用のきつい化学治療の再開を拒み、いったんは死を受け入れる覚悟をしました。しかしハーセプチンという新薬の治験のことを知り、試してみることにしました。バーバラさんはハーセプチンを使った最初の患者の一人だったのです。5ヶ月程度の延命が期待されていた治療でしたが、バーバラさんの癌は治療開始6ヶ月後には消えてしまいました。その後現在まで無再発だそうです。

Charles Burrowsさん
59歳、アリゾナ州在住、肝臓がん
チャールズさんが腹部のしこりに気づいたのは2005年夏のことでした。11月にはナイフで刺されるような激しい痛みを伴うようになりました。組織検査の結果は肝臓がん。すでに野球ボール大となった腫瘍は門脈を押しつぶすような勢いでした。手術は不可能、余命1〜2ヶ月と診断されたチャールズさん。ところが2006年2月に不思議なことが起こったのです。膨張感、震え、寒気、吐き気といった症状がしばらく続いた後、大きかった腹部のしこりが無くなっていました。病院で撮ってもらったCTとMRIにも癌は写っていません。医者はビックリ仰天。チャールズさん自身は「おれは宝くじに当たった。何故だかはわからない。」と言っています。チャールズさんのケースは、非常に稀な癌の自然消失にあたります。どうしてそういう現象が起こるのか、さまざまな推測が飛び交っていますが、免疫力が関与しているという見方が最も有力です。

こういう話を読むと人間の命の神秘を感じます。と同時に、奇跡は説明がつかないから奇跡と呼ばれているだけであって、本当は解明されていないメカニズムがあるのだと思います。もっともっと医学がすすんで、誰もが奇跡を分かち合えるようになるといいですね。
posted by leo at 19:13| Comment(6) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年12月19日

善意のクリスマスカード

ネット上に投稿された話が、口コミでまたたく間に広まることはよくあります。
良く出来た作り話も多いと聞きますが、以下は本当の話のようです。

holly.jpg

脳腫瘍の子供を持つお母さんが、親しい人向けにインターネットを通じて病状を報告していたのですが、その中で「クリスマスカードを送ってもらえたら息子が喜ぶ」と綴ったのが始まりでした。

Nate Elfrinkという名前の、この男の子は現在7歳。オハイオ州の田舎町ウェストジェファーソンに住んでいます。生後20ヶ月にして悪性脳腫瘍であることがわかり、以後3回の手術と放射線、化学療法を受けてきました。それでも再発を続ける癌。抗がん剤は一応効いているものの腫瘍の勢いが強すぎて抑えきれない状態で、また腫瘍の位置が脳幹に近すぎるため4回目の手術は不可能である、と医師に告げられたのは今月初めのことでした。ご両親は、その時点で治療中止を選び、残る日々を大事に、出来る限り楽しく過ごすことに決めました。

7歳の男の子の最後のクリスマスのためにカードを送ってほしい、というのは何ともつつましい呼びかけです。それを読み胸を打たれた人達は知人にメールで知らせ、メールを受け取った人はまた他の人達に送り、とネイト君の願いはさざ波のように広がりました。ブログに情報を転載する人やTwitterにツイートとして書き込む人も数多くあらわれ、Facebookにも支援コミュニティが作られました。

お母さんがアドレスを公開してから一週間もすると、世界中から何千通ものクリスマスカードが毎日のように届くようになりました。アフガニスタンに駐留中の兵士からお見舞いの電話も来ました。山のように配達されるカードと見知らぬ人達からの溢れる善意に、ご両親は驚き恐縮しているようです。家中に飾られた色とりどりのカードを見てネイト君はどう感じているでしょうか。

とても心温まるお話ですが同時に切なさも感じました。子供の癌は残酷すぎます。年を取った人なら癌になってもいいというわけではありません。しかし人の命が永遠に続かない以上、いつかは何かの病気になるのも寿命のうちのように思います。私自身まだ死ぬには早すぎますが四捨五入すれば50。昔は人生50年と言いましたし、これから何が起こるかわかりませんが、何があっても焦ったり悲しんだりせずにマイペースで受け入れていこう、という覚悟はあります。これが10代、20代だったら全く感じ方が違っただろうと思います。子供や若い人が病気で命を落とすなんて、本来あってはならないことなのです。

本当に聞きたいのは、クリスマスの朝ネイト君が目覚めたら癌が縮小しはじめていた、年が明けたら癌で死ぬ子供の数が半分になった、というような話です。そんな奇跡を起こす力を持たない人間にとって出来ることは、人の痛みを感じ、人の幸せを願う心でこの世を少しでも住みやすくすることぐらいなのでしょうか。それすら簡単なことではないけれど、皆がその気になれば実現可能だと思います。


ネイト君の話はオハイオの地方紙にも取り上げられていたのでリンクを付けておきます。(その1その2
posted by leo at 18:24| Comment(2) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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