2011年07月07日

しんどかった手術、いつまでも続く抗がん剤(penmachineその4)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。今回は第4部です。)

術前抗がん剤と放射線治療の効果が残念ながら上がらなかったDerekさんでしたが、それでも手術は決行されました。直腸にできた癌を取り去るため、直腸は全て、加えて大腸下部も切除する大きな手術です。良い執刀医に恵まれ肛門や腎臓は切らずに済みましたが、大腸の傷が癒えるまでの間はストーマ(イレオストミー)に頼る生活となりました。

話は遡りますが、2006年にDerekさんの体調が悪くなり始めた頃、主治医が癌と疑わなかった理由の一つはDerekさんの体重に変化が無かったからでした。ところが癌と診断されてからDerekさんはみるみる痩せ始めました。何度も繰り返される検査。その度に絶食したり下剤を飲んだり。そして抗がん剤と放射線。手術前の6ヶ月で11キロ、手術前後の絶食でさらに7キロ近く体重が落ちました。さらに手術後しばらくして閉塞が起きてしまい食事を取ることが出来ず、ますます痩せてトータルで7ヶ月間に23.5キロ減!と骨と皮状態になってしまいました。元凶はもちろん癌ですが、直接の原因は検査や治療でここまで痩せてしまわれたのがとても切ないです。

そんな状態でも前向きな態度を失わないDerekさんは、一日も早く回復して化学療法を再開することを望んでおられました。

今日は娘と犬を連れて4区画散歩できた。杖も車椅子も使わずにだ。家に帰ってきた時は疲れたけど、僕は歩けた。痛みは少しずつ減っている。次のキモを始められる日も近いかもしれない。7キロ近く太って、元の体重には程遠いけどまあ安心した… でも重い疲労感は変わらない。昨日は車を運転して病院に行き、ついでに外食してきたのだが、その後疲れ果てて4時間も眠ってしまった。今日は子供をマクドナルドに連れて行った後1時間横にならなければならなかった… 小さな角ながら角を曲がっているなぁと感じる。2〜3週間後には娘達を学校に連れて行けるようになるだろう。それがゴールだ。
(2007年8月23日投稿「Turning the corner」より)

化学療法は2007年10月に再開しました。Derekさんの場合、再発予防のキモではありません。直腸の癌は手術で切除したものの、肺に転移した分は手付かずです。肺の癌が縮小してなくならない限り化学療法は続く見込みでした。その第一弾はFOLFIRI(5-FU+ロイコボリン+イリノテカン)にアバスチンを加えたレジメンです。Derekさんはポートと希望を胸に埋め込んで治療を始めました。

往々にしてあることですが、初めの頃はそれ程強い副作用は出なかったようです。投薬後2〜3日は若干吐き気を感じる。しゃっくりやくしゃみが頻発する。常に鼻水が出る。また温度に対して普段より敏感になり、熱いシャワーはより熱く、冷たい飲み物はより冷たく感じるようになったくらいでした。3ヶ月後のCT検査によると肺の癌は安定状態(SD)。なくなってはくれませんが少なくとも大きくなっていませんでした。しかしアバスチンの副作用か肺に凝血が見つかりました。

そしてFOLFIRI開始から6ヶ月経った2008年3月。目安として6ヶ月続く予定だったFOLFIRIを延長すると医師から告げられました。

がっかりしたけどすごくビックリしたわけではない。CTの結果で肺の凝血はなくなったし、腫瘍も大きくなっていないことがわかったから。でもキモをしてると足止めされる。早く終わらせて身体を休め、再手術して大腸と肛門を繋いでもらってストーマ生活を終わらせたい。でもそうすることで癌が勢いづいてしまう危険がある。勿論そうなっては欲しくない。

ということは今年の予定を修正しなくてはならない。パートや在宅でもいいから何時仕事を再開できるのか?わからない。夏に家族で旅行に行けるのか?多分。キモが効果を上げて癌が最後には縮小してくれるのか?祈るのみ。

この5ヶ月間のどっちつかずの状態が終わってくれるのを待っていた。投薬とその後数日間のうんざりする副作用。普通に近い暮らしを2週間してまた投薬。髪は薄くなってきてめっきり白髪が増えた。指は乾いて変色している。鼻をかむと鼻水がピンクがかっている。でも終わってくれない。まぁいいや、としか言いようがない。

(2008年3月13日投稿「Chemotherapy will last longer than I expected」より)

ついに記念すべき日が来た。抗がん剤について誰もが語ることだ。

昨日12回目のFOLFIRIをやった後、夕食を全部吐いてしまった。癌の治療を始めてから嘔吐したことはこれまでにもあったが、キモのせいで吐いたのはこれが初めてだ。

全体的にみると抗がん剤の副作用は思ったほど重くないけれど、キモというのはゆっくりと杭で打ちつけられるのに似ている。数週間に一遍打ち付けられる。自分は割とすぐ回復している方だろうが、打ち付けられるたびに徐々に沈んでいく気がする。

だけど今、妻が夕食の準備をしている。子供達のためにカップケーキを焼いている。今日は吐かないぞと思う。これは進歩だ。

(2008年3月28日投稿「Dubious milestones」より)

腫瘍内科医に会う時は期待しすぎないようにしている。現実的に考えて、肺の腫瘍が少し大きくなったか、少し小さくなったか、同じ大きさか…そんなものだと思って行く。奇跡的になくなったとか劇的に大きくなったとかは考えないようにしている。

そしてそれが僕の実際の状況だ…キモは肺の腫瘍を消去することはないものの増大を食い止めているようだ。FOLFIRIはあと2回、15回と16回目をやったら終了だ。やっと治療が休みになる。6月いっぱい休んでその後運が良ければ新しい治験に参加する。アバスチンよりもっと新しい分子標的薬だ。抗がん剤の効き目を増幅してくれるかもしれない。

キモの副作用から解放されるのはうれしい。週末に家族とビクトリアにでも行こうか。楽しいことがあったら何でもやろう。

(2008年5月6日投稿「More of the same」より)

抗がん剤で治療をして、しばらく休薬して、その後また化学療法。それがDerekさんの日常となりつつありました。

(次回に続く)
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2011年06月30日

頑張った甲斐も無く(penmachineその3)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。さぼっていたために間があいてしまいましたが今回は第3部です。フラッと立ち寄っていただき話が見えない方は1部2部からお願いいたします。)

思ったより癌が進行していたことにショックを受けながらも、少なくともステージ4ではないんだと自分を慰めるDerekさん。直腸下部にできた小さな癌は経肛門的内視鏡下小手術(TEM)で切除済みですが、S字結腸の腫瘍は手付かずです。

治療方針は、まず抗がん剤と放射線で残った腫瘍を小さくしてからメインの開腹手術を行う方向で決定しました。Derekさん(当時37歳)のように若い患者の場合は、治療が成功すれば長い人生が残っており、逆に言えば癌が再発可能な期間も長い。よって治療は極めて積極的に行うべき、というのが医師からの説明でした。抗がん剤は標準的なレジメンに加えて治験も3件参加することになり、Derekさん自身もやる気満々だったようです。術前のキモは、まずアバスチンを単剤で2週間、続けてアバスチン+Oxaliplatin(どちらも週1点滴)+Capecitabine(経口)の組み合わせで投与。これに平行して週5日の放射線治療を5週間続けます。Capecitabineは放射線を受ける数時間前に服用するよう指示されました。

化学治療を開始する前の心境は、治療効果への期待と早く治療を終わらせて普通の生活に戻りたいという希望が混ざり合っていたようです。

抗体(アバスチン)を2週間、キモと放射線を5週間、PET/CT検査に組織検査、5〜7週間休んで開腹手術、1ヶ月の回復期間のあと術後化学療法を4ヶ月。治験に入ろうが入るまいが治療が全て終わるのは年末だ。
(2007年3月22日投稿「All guns blazing」より)

この薬(アバスチン)と4月に始まる他の薬が(癌を)連打してくれるだろう。放射線で更に攻撃して、それから手術だ。バンバンバ〜ン!いい調子だ。
(2007年3月29日投稿「Daffodils and IVs」より)

極めて前向きに治療に取り組むDerekさんですが、不安な気持ちを吐露されることもありました。

バンクーバーにも春が来た。草木は伸び、今日は17℃、明日は22℃まで気温が上がるらしい。あと何回春を見ることができるのだろう。避けて通れない考えだ。医師は僕の治療をcurative(治癒を目指した治療)と呼んでいる。化学療法、放射線、治験中の新薬、手術が僕の身体から全ての癌細胞を取り除くということだ。

確かにそうあって欲しいと思う。医師団と僕はあらゆる手を尽くして癌を破壊し、取り除き、全滅させようとしている。でもそれが起きない可能性だって決して小さくはない。癌細胞が僕の体内に居残り増殖して、更なる治療を必要とするようになる。そして治療が効かなくなる可能性もある。現時点で僕が5年以内に死んでしまう確率はかなり高い。数ヶ月前には考えてもみなかったことだ。

今は自分が死ぬ気はしない。でも無視することもできない。だから春が来て花が咲き始めたりすると、もう少しよく見ていよう、写真も取っておこう、なんて思ったりする。

(2007年4月5日投稿「How many springs?」より)

さて、抗がん剤と放射線の平行治療による副作用の重さは想像に難くありません。Derekさんが最も苦労されたのは、お通じ絡みの副作用でした。

下痢、便秘、腹痛。便は硬すぎるか水みたいになるかどちらか。多すぎる、少なすぎる、早すぎる、遅すぎる、全く出ないか手に負えないほど出るか。ガスが溜まって詰まってしまうか、ゆるゆるでコントロールできなくなるか。
(2007年5月13日投稿「Adventures in toileting」より)

そんな辛い思いをされたにもかかわらず、CT検査の結果、直腸の癌は縮小どころか大きくなっていることがわかったのです。さらに肺にも転移が見つかり、診断はステージ4に変わってしまいました。

今や僕の目標は、2010年にバンクーバーで開催される冬季オリンピックを見ることになった… 疲れる一日だった。泣いたり、笑ったり、友達と一杯飲んだり、妻や子供や両親をハグしたり… でも僕は闘い続ける。これから起こるであろうことを認め、受け入れるのと否定することの間にはっきりした境界線はない。僕は生まれつき楽天的な奴だが、全てうまく行くかの如く装うことはできない。既にうまく行っていないのだから。
(2007年6月26日投稿「Dead man walking?」より)

期待された術前の化学療法と放射線療法の効果を得られぬまま、粛々と開腹手術へ向かうことになったDerekさんでした。

(次回に続く)
posted by leo at 05:33| Comment(2) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月11日

駆け足のASCO

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先週末(6月3〜7日)にシカゴでASCO(米臨床腫瘍学会)年次総会が開かれました。そこでDerek K. Millerさんのブログについての記事をお休みして、今年のASCOで発表された期待の星(?)を幾つか紹介します。と言っても、実際にシカゴに行ったわけでもなく、仕事の合間にアブストラクトを斜め読みした一患者にすぎない人間の配信ですので、それなりの情報精度とご理解いただけると助かります。当方素人のため医学的な意味がよくわかっていないこともあるかもしれませんが、出来る限り原文には忠実にしますのでご容赦下さい。

さて、昨年の総会で主役だったbevacizumab(アバスチン)ですが今年も人気ナンバー1の座を守っております。

カーボプラチン+タキソール+アバスチン(フェーズIII、ファーストライン、アバスチンの維持療法付き)

この新レジメンはGOG0218とICON7という2つの大きな治験で好成績を出しましたが、昨年の時点ではPFS(無進行期間)の比較までしか出ていませんでした。ちなみにアバスチンを加えたPFSはGOG0218では4ヶ月、アバスチンの用量が半分のICON7では2ヶ月弱の延長という結果でした。今年はICON7の方からOS(全生存期間)の比較の中間発表がありました。集計済みなのは377名。治療終了後の約28ヶ月間にお亡くなりになった方の数は、カーボ+タキのみの組で200人、アバスチンを加えた組では177人。後者において亡くなった人が少ない傾向が出ているものの統計的に有意な差ではありません。予後の厳しい方(手術で癌を切除しきれなかったステージIIIとステージIV)だけに絞って分析すると、アバスチン無しが109名、アバスチン有りが79名と、やはりアバスチンを加えたグループの方が亡くなられた人が少なく、こちらは統計的に有意な差だとか。最終結果が待たれるところです。

アバスチンを他の抗がん剤と組み合わせた治験の結果も多数発表されています。

カーボプラチン+ジェムザール+アバスチン(フェーズIII、再発、白金感受性有り、アバスチンの維持療法付き)

この治験(OCEANS)はアバスチンとプラセボで比較しました。
PFS中央値→カーボ+ジェム+プラ:8.4ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:12.4ヶ月
OS中央値→カーボ+ジェム+プラ:29.9ヶ月、カーボ+ジェム+アバ:35.5ヶ月
奏効率→カーボ+ジェム+プラ:57.4%、カーボ+ジェム+アバ:78.5%
参加人数は両グループとも242名。
アバスチンを加えたグループでは高血圧、タンパク尿といった副作用が増加しましたが、腸穿孔を起こした方はゼロでした。

@カーボプラチン+PLD(ドキシル)+アバスチン(フェーズII、再発、白金感受性有り)
APLD+アバスチン(再発、白金感受性無し)


@ではカーボ+PLDは4週に1回、アバスチンは2週に1回投与されました。PFSが14.1ヶ月、奏効率78.3%という結果が出ています。Aは日本で行われた臨床試験です。PLD+アバの週1回投与により75%の参加者が奏効もしくは腫瘍が大きくなるのが止まったという恩恵を受けました。こちらのPFSは8ヶ月でした。どちらも規模が小さく(前者の参加者数54人、後者38人)、比較対象なしの試験デザインでしたが今後が期待されます。

アバスチンその他

アバスチンとsorafenib(ネクサバール)やアバスチンとtemsirolimus(トリセル)の併用も研究中のようです。現時点では実験的な組み合わせではありますが成績は悪くないようです。アバ+ネクサでは参加した25名中、腫瘍が縮小または増大が一時停止した人22名。アバ+トリでは25名中14名が治療開始から6ヶ月後も無進行の状態を保っているいるため、参加者をさらに募って研究を続行することが決まりました。

PARP阻害剤

アバスチン以外で有望視されているのはPARP阻害剤です。PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)は癌細胞のDNA修復に必要な酵素だそうで、それを阻害することで癌を細胞死に導くのが狙いらしいです。

olaparib(フェーズII、再発治療後の維持療法、白金感受性有り、漿液性のみ)

PARP阻害剤のひとつolaparibは遺伝性の卵巣がんに効果があることで知られていましたが、間口を広げた治験の結果、BRCA1やBRCA2遺伝子変異の無い人にも恩恵をもたらすことが確認されました。再発治療により部分もしくは完全寛解中の漿液性卵巣がんの方が対象。維持療法としてolaparibを服用したところolaparib組のPFS:8.4ヶ月、プラセボ組:4.8ヶ月とPFSの延長が見られました。主な副作用は吐き気(68%)、疲労(49%)、嘔吐(32%)でしたが、大部分は軽度の症状だったそうです。


カーボプラチン+ジェムザール+iniparib(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

別のPARP阻害剤iniparibの治験も始まりました。白金感受性ありのグループでは最初に参加した17名中12名に奏効。白金感受性なしのグループでは最初に参加した19名中6名に奏効。どちらのグループも見込み有りとしてフェーズIIへ突入する模様です。このiniparibという薬は、トリプルネガティブで転移した乳がんのファーストライン治療薬として過去に治験を進めていました。フェーズIIまでは好成績で大きな期待を集めたもののフェーズIIIでこけてしまったという経緯があります。しかしアバスチンのように、乳がんよりも卵巣がんに効果を発揮する可能性は大いにあります。そうであって欲しいと思います。

新生血管阻害薬

aflibercept+ドセタキセル(フェーズII、再発、白金感受性有りと無し)

アバスチンと同じ新生血管阻害薬で注目されているのがafliberceptです。標的はVEGF(血管内皮増殖因子)とPLGF(胎盤増殖因子)で、どちらも癌の血管新生に必要な因子だそうです。ドセタキセルとの併用で再発治療に用いたところ、白金感受性のある参加者13名中10名、白金感受性のない参加者33名中15名に奏効。両グループ合わせてPFSの中央値が6.2ヶ月、OSが24.3ヶ月でした。主な副作用は好中球減少(72%)、疲労(50%)、呼吸困難(22%)で重い症状も含まれます。高血圧は11%の人に起こりましたが軽度でした。

その他

PLD(ドキシル)+EC145(フェーズII、再発、白金感受性無し)

EC145(新薬なので名前がまだ無い!)は、上皮性卵巣がんの多くに発現が見られる葉酸受容体を狙い撃ちします。治験ではPLDとEC145の併用 vs PLDのみで比較し、参加者は149名でした。PFSはPLD+EC145:21.7週(5.1ヶ月)、PLDのみ:11.7週(2.7ヶ月)という結果がでています。PFSが短めなのは白金感受性の無い方、失ってしまった方、難治性の方が対象だからだと思います。興味深いことに、薬とセットでEC20という分子造影剤も開発中だそうです。EC20を用いた検査で葉酸受容体の発現が認められた人のみでPFSを比べると、PLD+EC145:24週(5.6ヶ月)、PLDのみ:6.6週(1.5ヶ月)でした。癌の治療薬は、「どのくらい効くか」だけでなく「誰に効くのか」を調べるのも重要です。そういう意味ではセットで開発というのはツボかもしれません。

以上、駆け足のASCO2011でした〜!
posted by leo at 15:34| Comment(19) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月05日

坂道を転がるように(penmachineその2)

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(カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんのブログ「penmachine」を紹介させていただいています。今回は第2部です。)

Derekさんはファミリードクターから癌であることを告げられました。ファミリードクターは強いて言うなら日本の内科に近い印象を受けますが、内科だけではなくちょっとした外傷や皮膚の疾患、目や耳の不調などでも最初はファミリードクターに診ていただくのがカナダやアメリカの医療システムです。実際にファミリードクターとどんな会話があったのかはわかりませんが、Derekさんは自分の癌は初期であると受け取られたようです。

僕は多分ステージゼロではないかと思う。だとしたら必要なのは内視鏡による手術だけかもしれない。それで癌を切除してもらったら治るのではないか…
(2007年1月8日投稿「Please excuse the salty language」より)

しかしそう簡単には行かないことが徐々にわかってきました。大腸内視鏡検査にCT検査、内視鏡超音波検査が次々と追加され、腫瘍の切除には開腹手術が必要であると判明したのです。

(追加の検査や開腹手術のことを)誰も前もって教えてくれなかったのがイラつく…治療は継続中。僕はまだ楽観的に捉えているが、ベストのシナリオで事が運ぶのをもはや期待しないようになってきた。
(2007年1月24日投稿「Still in the woods」より)

内視鏡検査によるとDerekさんの腫瘍は大きさが3〜4cm。切除手術は大掛かりになるので2ヶ月は休職が必要というのが医師の話でした。

今のところ状況は非常に悪くもないが良くもない…転移しているようには見えないが、腫瘍を切除して組織やリンパ節を検査してみないと確かなことはわからないらしい。腸のほかの部分には何もないし肝臓も大丈夫だ…術後に化学療法や放射線治療をするのか、再手術が必要になるかどうかは未定だ。春中旬までにはほぼ正常に戻って今年の夏を謳歌できることを期待、希望している…精神的に押しつぶされそうだが、それが僕の治療計画だ。というわけで、今日1月31日を僕の癌治療のゼロ日目と呼ぼう。
(2007年1月31日投稿「I’ll be calling this Day Zero」より)

ところが治療はなかなか始まりません。直腸にできた良性らしき小さな瘤をまず切除し、それを検査してからメインの開腹手術をする予定までは決まったものの、最初の手術の前に再度S字結腸鏡検査を受けるよう言われました。Derekさんは苛立ちを感じ始めます。

もう検査には疲れてきた。同じ検査を3回も4回も繰り返すと余計に疲れる。去年の11月下旬から面談やら検査やら何度もやってきて、その間も癌は大きくなっていって、なのに誰も直接癌に手を下していない。僕は癌を取って欲しいんだ。
(2007年2月6日投稿「I’m confused」より)

そして癌であることの重圧が耐え難い日もあったようです。

午前1時なのにまだ起きている。眠れない…今日は怒りっぽくイライラしていた。その後、子供達の前で泣いてしまった。娘達は泣きたい時には泣いてもいいことを分かっていて、泣いてもいいんだよと言ってくれたけれど、父親が癌になって泣く姿なんて見せるべきではなかった。でも僕は怖い。若くして死ぬのが怖い。僕は怖い。
(2007年2月7日投稿「Miracle cures, and being afraind」より

2007年2月20日、ようやく1回目の手術が行われました。経肛門的内視鏡下小手術(TEM)という手術による小瘤の切除です。この程度の手術は欧米では日帰りで行われます。Derekさんは朝8時に手術室に入り9時半には麻酔から覚め、午後3時半には無事帰宅しました。この小粒については恐らく良性であろうというのが医師の見立てでした。Derekさんもそのつもりで手術を受けたのですが…

2〜3週間前に切除した小さな瘤は結局癌だった。おまけに一緒に切除したリンパ節からも癌が見つかった。執刀医のDr. Brownは組織検査の結果にショックを受けたと言っていた…癌は直腸の下部と上部の2箇所でリンパ節にも転移している。とするとステージ3ということだろう。ステージ0、1、2であって欲しかったのに。(でも少なくともステージ4ではない。)
(2007年3月5日「Let’s reset that timeline again」より)

日に日に深刻度を増す病状にもかかわらず、Derekさんが前向きに考えようと努力されている様子が伝わってきます。

(次回に続く)
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2011年05月29日

晴天の霹靂(penmachineその1)

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前回の投稿でふれたカナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんについて、これから何回かに分けて詳しく取り上げたいと思います。個人のブログで他の方のブログの記事を引用するのはルール違反なのかもしれませんが、内容の素晴らしさ及び原文が英語であることから、日本語で紹介させていただくことに意義があるのではと考えました。

Derekさんは2007年に37歳の若さで大腸がんと診断されました。ブログ(penmachine.com)は癌になるずっと前(2000年)から続けておられました。そのため、体調の変化に気づき、癌と診断され、癌が当初の見込みよりもずっと進行していたことがわかり…といった癌になった人の多くに共通する経験が実に正確に綴られているのです。

癌が発見されるまでの経緯は次の通りでした。

1. 2006年の春先からトイレに行く回数が増えガスも溜まりやすくなった。が、単なる下痢の症状と変わらず、食べあわせが悪かったか何かの細菌の仕業だろうと思った。
2. その状態は春から夏にかけて続き、時には作業を中断してトイレに駆け込むようなことも起きたがさほど気にしていなかった。
3. 秋には便に鮮紅色の血が混ざるようになった。これはマズイとファミリードクターのDr. Hassamに診てもらった。10月のことだった。(注:カナダやアメリカでは、まずファミリードクターと呼ばれる医療全般について広く浅く知識のある医師の診察を受け、ファミリードクターが必要と判断したら専門医に紹介される仕組みになっています。)
4.  Dr. Hassamは、こうした症状を起こす原因は沢山あり、重い病気とは限らないのであまり心配しなくてよいが、一応消化器科の医師に診てもらうよう勧めた。
5. 11月になっても症状の改善がみられないので再度Dr. Hassamに会いに行き地元の消化器科医Dr. Ennsへの紹介状を貰った。
6.  Dr. Ennsの診察は12月だった。Dr. Ennsは直腸炎ではないかと疑っていたが次の週に受けたS字結腸鏡検査でポリープが見つかった。
7. 1月初めにDr. Hassamと面談があり組織検査の結果を知らされた。癌だった。
8. 1月下旬、Dr. Ennsに大腸内視鏡検査とCT検査、内視鏡超音波検査をしてもらった。内視鏡超音波が付け加えられたのは、大腸内視鏡検査で、前に見つかったポリープの他にも小さな瘤が見つかったからだった。しかしその瘤は見た感じ癌ではなさそうだと言われた。

(2007年1月26日投稿「Why I’m getting cancer treatment now」より)

癌の告知から数週間後、Derekさんは少し落ち着いてから経過を振り返って上のように整理されました。

それ以前の投稿を読むと、いかに癌が青天の霹靂であったかがはっきりわかります。

診断は直腸炎。別に重い病気ではない。でも…検査を受けなきゃならないんだ…
(2006年12月18日投稿「The diagnosis」より)

直腸炎ではないそうだ。1月の下旬に大腸内視鏡でポリープを切除しなければならなくなった。調べてみたら大腸ポリープはよくある疾患みたいだ。60歳以上の人の60%はポリープができるらしい。僕のように40歳以下の人には多くないけどびっくりするほどのこともない…
(2006年12月21日投稿「Scoperrific」より)

大腸内視鏡検査を前に、明日は医師からポリープの組織検査の結果を聞くことになっている。統計的に(年齢的に)癌のリスクは小さいから楽観的に考えている。組織検査の結果に係わらず、ポリープは切除して大腸内をよく検査する必要はあるそうだ。同じ検査をした人に聞いてみたら、前日に下剤を飲むのが一番しんどいと言っていた…
(2007年1月7日投稿「In preparation for the colonoscopy I’ll be having…」より)

と、癌であるかどうか心配するより、S字結腸鏡や大腸内視鏡といった検査を受けるのが嫌だな〜という心境が伺われます。まだ癌になるには若い年代で、まさか癌になるだろうとは思っていない人にとっては検査の方が憂鬱なのです。その気持ちはよくわかります。

そして癌の告知をを受けたショックは以下の3行で表現されています。

Fuck.
Fucking hell.
I have fucking cancer.

(2007年1月8日「Please excuse the salty language」より)

しかし、この時点ではまだ医師もDerekさんも初期の癌であろうと楽観視していました。

(次回に続く)
posted by leo at 17:08| Comment(0) | 本やブログなど | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月13日

癌ブログ考

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また更新が途切れてしまいました。

最近なかなか書く気になれないのは:
@ネタが見つからない(新しい治療法も出てこないし…)
A面倒くさい(アメリカ癌研のツイッターですら最近チェックを怠ってるし…)
の他に
B癌ブログというもの自体に疑問を感じてきた
という理由もあります。

自分が癌になった時、覚書のようなつもりで深く考えずにブログを始めたものの、癌という深刻な病を題材にしたブログには様々な問題があるような気がしてきたのです。

同じ病気になった方の参考にしてほしい、というのがブログの一番の狙いですが、癌患者と言っても十人十色。標準治療(抗がん剤)派、代替療法派、無治療派など人それぞれです。他の病気であれば医師の言う事に従っていれば治ることが多いので、患者もあまり悩まないのかもしれません。しかし
@癌は転移、再発していると現代医学の粋を集めても治すことができない
A他の病気と比べて治療が荒っぽく、放射線や抗がん剤といった健康な人間には明らかに害となるようなことでも、癌を殺す為に耐え忍ばなければならない
といった厳しい現実から、患者、家族、外野と素人が入り混じって、ああでもない、こうでもないと意見を戦わせるような(不毛な)事態も起きてしまうようです。

そんなわけで、私は自分自身のことにはなるべく触れずに癌の一般情報のような記事中心へ方向転換して続けてきました。自分のことを詳しく書いてあれこれ意見されるのは、正直「うざい」と感じたからです。それでも他の人の治療経過が気になり、ほかの癌ブログを読むことはありました。そして一般的に癌の闘病ブログには:
@ブログ主が元気になっても続けていると外野がしらける
Aブログ主の病状が悪くなると盛り上がり、閲覧数やコメント数が上がる
Bクライマックスはブログ主の死
という何かやりきれないパターンが存在することに遅ればせながら気付いたのです。

一度ブログとしてインターネット上に載せてしまうと誰が読むか選ぶことはできません。ブログの人気が上がれば上がるほど、癌になったことのない健康な読者が小説やドラマを楽しむのと同じ調子で読む可能性は高くなります。なにしろ事実は小説より奇なりです。さらに、主人公が死ぬお話は昔から不思議と人気を集める傾向があります。

ブログ主が癌で亡くなるとブログの人気が急上昇する現象は、日本ばかりでなく海外でも見られます。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州のDerek K. Millerさんは、2007年に大腸がんステージIVと診断されました。もともと執筆や編集の分野で活躍されていた方で、ブログも自分のホームページを立ち上げた2000年から続けており、特に闘病ブログという趣旨ではありませんでした。癌になってからの経緯や治療生活については時おり言及される程度だったようです。

悲しいことに、Derekさんは5月3日、41歳の若さで世を去られました。亡くなる前にブログの最後の記事を用意し、自分の死後に投稿するよう友人に託しました。その記事は大きな反響を呼び、公開後Derekさんのブログの閲覧数は爆発的に伸び、アクセスが300万を超えてサイトが一時パンク状態になった程でした。(英語だと世界中の人が読みますからね。)

“Here it is. I'm dead, and this is my last post to my blog.”
で始まり
“I loved you deeply, I loved you, I loved you, I loved you.”
という妻への言葉で締めくくられる最後の投稿は、確かに非常に胸を打つ内容でした。

文を書くのが大好きだったDerekさんにとって、最後の思いを文章にして発表し人生の締めくくりとするのは自然な成り行きだったのかもしれません。また思春期の子供さんが2人いらっしゃるので、その子達のために父親の形見として残してあげたいという気持ちもあったのかもしれません。

ただ世間の受け止め方が…何と言うか…こういう美談を求めていた…みたいな感じで。それがちょっと引っかからないこともないです。

私は物書きではありませんし、次世代に送る適当な言葉も思いつきそうにないので、自分の死はプライベートのままにしておきたいなぁと思います。(あっこんなこと書いたら病気がすごく悪化しているのではないかと心配される人もいるかもしれませんね。そうではないです。調子が良いとは言いませんがそこまで悪くもないです。まだしばらく人生を謳歌できる筈と期待しています。)

PS: 過去ログを読んだところ、Derekさんのブログは実に素晴らしい内容だったので来週あたりからボチボチ紹介させていただこうかと思っています。
posted by leo at 13:13| Comment(6) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月26日

誰が治療するのか

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癌になった人にとって誰に治療をお願いするかは重要な問題です。個々のお医者様の腕や人柄、評判も気になりますが、何を専門、得意とする先生が担当医になるかによってその後の治療生活に影響がでるのではないか…と感じる患者も少なくないでしょう。

アメリカやカナダでは:
Gynecologic Oncologist(婦人科腫瘍医)
Gynecologist(婦人科医)
Surgeon(外科医)
Medical Oncologist(内科腫瘍医)
といった異なる専門分野のドクターが卵巣がんの治療に係わります。

Gynecologic Oncologistは婦人科悪性腫瘍が専門で、婦人科であれば手術からキモセラピーまで一貫した治療を与える資格と経験を身につけています。つまり外科処置を施すことができて且つ抗がん剤の知識もあるドクターです。
Gynecologist(婦人科医)は婦人科が専門で、良性腫瘍であれば普通この方達のお世話になります。良性の見込みでGynecologistに手術をしていただき、組織検査の結果悪性とわかるケースも少なくないようです。
Surgeon(外科医)は手術の専門家。婦人科に限らずどこの部位であっても手術なら任せておけというドクターです。
Medical Oncologist(内科腫瘍医)はキモセラピーの専門家。抗がん剤についての知識は誰よりも深く、どんな癌にでも化学療法を施すことができます。
言い換えると上の二つは特定の部位を専門とし、下の二つは特定の治療法を専門としているようです。

アメリカで1992年から1999年までの間に上皮性卵巣がんの手術を受けた3067名の患者データを研究した結果によると:
執刀医の内訳は
Gynecologic Oncologist 33%
Gynecologist 45%
Surgeon 22%
だそうです。そしてGynecologic Oncologistが手術した場合
@ステージを見極めるために綿密に検索する
A初期であってもリンパ節郭清を行う
B進行している癌は腫瘍減量術が施される
傾向が大きいという結果でした。(あくまでも統計です。個人差がありますから、Gynecologic Oncologistと同じくらいきめ細かい手術を行うSurgeonだっていることをお忘れなく。)

術後の経過もGynecologic Oncologistの方がSurgeonよりも若干良く、術後30日以内に亡くなる方の率は2.1% vs 4.0%、術後60日以内に亡くなる方の率は5.4% vs 12.3%でした。Gynecologic Oncologistに手術していただくと閉塞や合併症をおこす可能性がほんの少しだけ低くなるようです。生存期間については、執刀医のバックグラウンドよりも癌の進行度の方が影響大と言われています。しかし、明らかに悪性とわかる進行した症例を扱うことの多いGynecologic Oncologistと初期の症例を多く含むGynecologistの間で、患者の生存期間に大きな差はありませんでした(中央値32.5ヶ月 vs 35.6ヶ月)。ちなみにSurgeonが手術したケースの生存期間中央値は24.3ヶ月でした。Surgeonは救急外来で手術することも多いというファクターを加味しても、初期手術から婦人科癌の専門家にお願いするメリットはあるように思えます。むろん住んでいる地域や癌発見までの経緯によって制限がありますから、どこまで患者の側でコントロールできるかは難しいところです。

さて術後、或いは再発した場合の化学療法は誰にお願いすべきなのでしょうか?GynecologistやSurgeonが手術した場合は、その後Medical Oncologistにバトンタッチするのが普通です。Gynecologic Oncologistが手術した場合は、そのまま化学治療もGynecologic Oncologistが指揮をとるかMedical Oncologistに引き継ぐかまちまちのようです。化学治療をGynecologic Oncologistの下で受けるのと Medical Oncologistの下で受けるのとで、治療成績やQOLに違いがでるのかどうか気になるところです。

Gynecologic Oncologistは基本的には外科医で、抗がん剤の効果や有害事象についての知識は婦人科がんに用いられる化学療法の範囲内に限られています。対するMedical Oncologistは化学療法のみを専門とするキモのプロであり、他の癌に用いられる抗がん剤についても熟知しており、それを婦人科がんの治療に応用できる強みはあります。(未承認薬をオフレーベルで使えるアメリカにおいては特にそうだと思います。)故に化学療法はMedical Oncologistに任せた方が患者が長生きできるのではという見方があります。

ところが、アメリカで1991年から2001年までの間に卵巣がんと診断された人のデータを基に、Gynecologic Oncologist からキモを受けた患者群344名とMedical Oncologistからキモを受けた患者群344名を比較した調査では意外な結果が出ました。5年生存率はGynecologic Oncologist組が35%、Medical Oncologist組が34%とほぼ同じ。化学療法を受けた期間はGynecologic Oncologist組がトータルで12.1週間、Medical Oncologist組が16.5週間。当然のことながら腫瘍内科医の方が抗がん剤投与により積極的な傾向が見られました。これに伴い、患者が抗がん剤の副作用に悩まされた期間もGynecologic Oncologist組がトータルで8.9週間、Medical Oncologist組が16.2週間、と後者の方が長期間でした。こうした治療ボリュームの違いは術後のファーストラインと再発治療の両方で見られたそうです。

複雑な問題をあえて単純化して「Medical Oncologistにかかると沢山化学療法を受けるはめになるが、生存期間が長くなるわけではない」(苦しみ損)とサクッと言い切ることもできます。ただこれも統計、傾向のお話。たった1つの研究結果から全てを決め付けるのは非常に危険でもあります。この調査を行った研究者は、Medical Oncologistはキモの専門家として抗がん剤の有効性をより深く信じているのではないかと分析しています。一方、婦人科の癌を最初から最後まで全部診るGynecologic Oncologistは、癌の進行を食い止めるよう努力しながらも、どこで患者のQOLを優先させるべきなかの判断がうまいのではないかとも推察しています。

皆さんの担当医は何を専門にされていますか?私は救急外来での手術(1回目の手術)はGynecologist、それ以降(2回目の手術とキモ)はGynecologic Oncologistのドクターにお世話になっています。最初からGynecologic Oncologistだったら良かったのになぁと思うことはありますが、ERで即手術が必要な状況だったから仕方ないです。私のドクターはGynecologic Oncologistだからなのかもしれませんが、必要な化学療法は行うけど無理はさせない方針です。がっつり抗がん剤をやりたい患者さんには物足りないかもしれませんが、QOL重視の私には合ったドクターだと一応満足しています。
posted by leo at 15:32| Comment(0) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月11日

トリセルって何?

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日本では今も震災の傷跡が生々しく、原発問題や頻発する余震(にあたるのかな?)で不安な毎日を過ごされている方も多いかと思います。心よりお見舞い申し上げます。私の方はブログを放置気味ですが一応元気でやっております。カナダにもようやく春の兆しが見え始めましたが桜が咲くのは例年5月の初旬です。4月でも雪が降ることがあるので油断できません。

さて本題です。

トリセルという名前の薬を聞いたことがありますか?Toriselは商品名で、一般名はTemsirolimusです。2007年にアメリカのFDA(食品医薬品局)が、腎細胞がん(腎がん)の治療用に承認した薬です。見つかった時に既に進行しており、予後が厳しいと見なされた腎がんの患者さんを対象にした治験では、TemsirolimusのOS(全生存期間)が10.9ヶ月、既存治療薬のインターフェロンαのOSが7.3ヶ月と統計的に有意な差をつけて薬効を示しました。

腎細胞には幾つか組織型がありますが一番多いのは明細胞だそうです。そんなことから明細胞の卵巣がんにも効果があるのではないかと期待されています。と言ってもまだ研究データ不足で確かなことは不明です。それどころか、腎がん以外の何の癌に効くのかさえ未だ特定できておらず、卵巣がんを含めた複数の固形癌をひとまとめにした治験が行われていたりするほどです。私の病院では、卵巣がん、子宮内膜がん、肝臓がんなどの患者さんを対象に、トリセル+アバスチン併用の治験が進行中です。

昨年のASCO(米臨床腫瘍学会)の総会で、日本の医師グループが明細胞の卵巣がん患者にTemsirolimusを投与した結果を発表しました。しかし対象となったのはたったの6名。残念ながら数が少なすぎて、エビデンスのレベルとしては代替療法などと大差ないような気がします。ともあれ6名のうち3名は部分奏効。2名は腫瘍の成長が一時ストップ。残る1名は効果なしでした。PFS(無進行期間)の中央値は6ヶ月。興味深いのは、薬の効果が高かった人ほど副作用が軽めだったということです。

TemsirolimusはmTORキナーゼの細胞内シグナル伝達を阻害します。と書いてみましたが詳しい仕組みは文系の私には難解すぎます。このシグナルがないと細胞が成長、増殖しにくくなるんです…よね?とうっすら理解できる程度です。いわゆる分子標的薬とは異なる範疇となり、免疫抑制など副作用も決して少なくはないようです。

カナダ、ブリティッシュコロンビア州の癌センター資料によると、主な副作用は以下の通りです。

貧血(赤血球減少)45〜94%(幅があるのは治験によって差があったため)
血小板減少 14〜40%
体力衰弱 51%
吐き気 37%
食欲不振 32%
口内炎 20〜41%
発疹 47%
免疫低下による感染 20〜27%
ポッタシウム減少 21%
中性脂肪増加 27〜83%
コレステロール増加 24〜87%
血糖値の上昇 16〜89%
クレアチニン値の上昇 3〜57%

その他、下痢や発熱、肝機能障害、呼吸困難なども報告されています。またアレルギー反応を起こす人が多いので、事前に抗ヒスタミン剤を投与することが勧められています。

見た感じ、お馴染みの殺細胞系の抗がん剤といい勝負の副作用ですね。この薬の方が代謝異常は多いみたい。でも代謝異常は薬で抑えればいいのだから、髪が抜けるよりいいのかしら???海外の掲示板など読む限りでは、「3年もお世話になってます」と言う人から「全然効きませんでした」と言う人まで様々です。まぁそんなもんでしょうね。

治験の枠外でトリセルが卵巣がん治療の選択枝の一つに加わるのかどうか…それがわかるのはまだ大分先のことだと思います。それが待てない人は治験の有無を調べたり、日本の場合は個人輸入もできるのかな?いずれにせよリスクも大きいことを考慮の上決めて下さいね。
posted by leo at 20:57| Comment(4) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月27日

CTスキャン考

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大地震に伴う原発事故については、在カナダ日本人の間からも不安の声が上がっています。住み慣れた我が家を離れて不自由な避難生活を送っている周辺住民の方々、危険と知りつつ復旧作業にあたる現場作業員の方々、せっかく育てた農産物を処分しなければならない農家の方々… さぞ苦労されているでしょう。一日も早く問題解決に向かうよう祈っています。

放射能の危険性について語る際に、しばしば引き合いに出されるのが医療現場での被爆です。放射線は癌の治療に用いられるばかりでなく、様々な検査にも使用されています。特にCTスキャンは普通のレントゲン等と比較して浴びる放射線の量が多いので、恩恵とリスクをよく考えた上で撮るかどうかを決めるべきと言われています。

アメリカのRadiologyInfo.org(患者向けの放射線情報サイト)によると、被爆量は以下の通りです。単位はミリシーベルトで、括弧内は自然に浴びる放射線量との比較と発がんリスク増加度です。

歯医者さんで撮るレントゲン:0.005 mSv (自然放射線1日分、発がんリスク増加→ほとんど無し)
胸部レントゲン:0.1 mSv (10日分、リスク→最小限)
マンモグラフィー:0.4 mSv (7週間分、リスク→とても低い)
頭部CT:2 mSv (8ヶ月分、リスク→とても低い)
胸部CT:7 mSv (2年分、リスク→低い)
腹部CT:15 mSv (5年分、リスク→低い)

そして、私たちがよく撮る造影剤なしでピピピっと1回、造影剤を入れてピピピっともう1回する腹部CTスキャンでは、被爆量も倍となり30 mSv (10年分、リスク→中くらい)です。

随分多いのねと思う方もいらっしゃるでしょう。でも喫煙に比べたらささやかな発がんリスク増加だそうです。また医療被曝の結果がんになって死ぬ確率は、高速道路の自動車事故で死ぬ確率と比べても低いと聞いたことがあります。

つまるところ、CTスキャンが本当に診断に必要であれば恩恵の方がリスクより大きく、多少被爆してもCTを撮る価値があるのだと思います。問題はあまり必要ないのに(レントゲンやエコーで十分なのに)CTスキャンを撮ってしまう「CT乱用傾向」が一部の医療現場で見られる点にあります。昨年発表されたアメリカの癌研究所(NCI)の試算によると、2007年の1年間にアメリカ国内で行われたCT検査が、将来29,000件のがん罹患に繋がるであろうという結果が出ています。一人ひとりのリスク増加度は少なくても、国民全体を合わせるとけっこうな数になるわけです。

また、強い腹痛のため救急医療科で診察を受けCTスキャンを撮った患者1168名へのアンケート調査では:
- CT検査や組織検査が含まれることで診断への信頼感が大幅増(20%→90%)
- 普通のレントゲンと比較してCTの被爆量が多いことに気付いていない(70%)
- 参加者の多くは医療現場での被爆と発がんリスクとの関係について知らない
という結果でした。

確かに体の不調を訴えているのにレントゲンを撮っただけで帰されたら面白くない人は多いでしょう。医師の側からすれば患者を満足させたいという気持ちがあるのかもしれません。それに検査しないで万が一にも重病の発見が遅れたら訴えられる可能性だってあります。一番困るのは、保険でカバーされてるからとりあえず撮っちゃおうと安易に検査を行うことで、これは健康保険が個人単位(国の財政を圧迫しない)のアメリカで多そうです。

さて、癌の患者がCT検査をするのは、10年先の発がんリスクより今ある癌をどうにかすることの方が先決なので、当然必要な処置だと言えます。完全寛解している人が定期的にCTを撮った方が良いのかどうかについては意見が分かれます。患者によっては心配性で、異常がないことをしょっちゅう確かめないと気が気でない人もいるでしょう。寛解中のCT撮影頻度については、マーカーが上昇するなり怪しい症状が出るなりするまで待った方がいいのか、何もなくても1年に1度くらいは撮った方がいいのか、いやいや癌は成長が早いんだから6ヶ月に1度は撮った方がいいのか… 医師によって様々な見方があるでしょう。患者としては、自分の価値観に合った方針を担当医とよく相談して決めていくしかないような気がします。

ちなみに私は癌と診断されてから今までに撮ったCTスキャン(頭部、胸部、腹部)の合計で292 mSvくらいは被爆しているようです。また来月撮らなくっちゃ〜。 

posted by leo at 20:35| Comment(2) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月17日

忘れられぬ朝

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カナダで暮らすようになって、ニュースで「earthquake」という言葉を耳にする度に、どこで起きたの?日本?といつも緊張します。日本でないとわかると正直ホッとします。(被害にあわれた国の方には申し訳ありませんが。)日本で地震があったというニュースを聞いた時は、まずインターネットで日本のサイトを開き被害がなかったかどうか確かめます。カナダやアメリカでは地震の大きさをマグニチュードのみで判断し、震度という測定方法は知られておらず、震源地の深さや震源地からの距離といった詳細にもあまり注意を払っていないような感じがするからです。

3月11日の朝6時(日本の夜8時にあたる)、目が覚めていつものようにラジオのニュースをつけました。日本で巨大地震発生の報に眠気がふっとびました。すぐにPCを起動し日本のニュースサイトで情報確認。私の家族は群馬県に住んでおり、親戚も埼玉、神奈川と震源地からは離れています。この距離なら大丈夫だろうと思いながらも一応電話をしてみました。が、電話は繋がりませんでした。

その日は一日中職場で日本の動画サイトが配信しているNHKのニュースを音声を消して見ていました。気仙沼の火事の映像を見て息を呑みました。夜通し余震が続いており、誘発された地震が長野あたりでも何度か起きた様子なので、帰宅後(日本で12日の午前中にあたる)再び実家に電話すると、3回目くらいでやっと繋がり母の元気な声を聞くことができました。

日本にいた頃(今から20〜30年前の話です)、東海地震や首都圏直下型地震は何時起きてもおかしくないなどと言われ、私が生きている間に必ず起きるだろうと自分でも考えていました。その後1995年に阪神・淡路大震災が起き、今度は東北地方太平洋沖です。どんなに科学が進んでも地球の奥底での動きについて正確に把握することは難しいのでしょう。

冬は寒いものの地震の心配の無いカナダ東岸に移り住み、癌になり、別に今すぐどうこうなる訳ではありませんが、これから先20年も30年も生きるかどうかについては大きなクエスチョンマークが付いてしまいました。日本で大災害が起きたという悲しい知らせを聞くのは、もうこれで最後なのかなぁという思いがふと胸をよぎりました。

人の命とは儚いものですね。沢山の沢山の健康な人の命が一瞬にして失われた事実をどう受け止めていいものか…言葉ではうまく言い表せません。

犠牲になった方のご冥福をお祈りするとともに、これ以上被害が広がらないこと、被災地に一日も早く平和が戻ることを願ってやみません。
posted by leo at 19:46| Comment(2) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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