2011年03月11日

そっと底上げ

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Bで終わる薬の第2弾はFarletuzumabです。もともとこの薬の開発をしたのはMorphotekというアメリカの会社ですが、Morphotekがエーザイに買収されたので一応日本の薬ということになるのかもしれません。(日本の大手製薬会社が海外で新薬開発をしている中堅企業を買収することが増えてきました。)

Farletuzumabはヒト化モノクローナルなんたらかんたらという、例によって難しい能書きの分子標的薬です。要は葉酸受容体αなるものの抗体だそうです。葉酸受容体αは、正常な細胞には少ないが大部分の上皮性卵巣がんにおいて過剰発現が見られる代物です。Farletuzumabが葉酸受容体αと結合すると細胞増殖が抑制されたり細胞死が促進されたりする、とマウスを使った実験で確認されています。

Farletuzumabのフェーズ2治験結果は昨年のASCO(米臨床腫瘍学会)の総会で発表されました。ファーストラインのカーボ+タキソールの治療終了後6ヶ月以上経って再発した「白金感受性有り」の患者さん54名が参加しました。54名のうち症状のでている方26名はカーボ+タキソール+Farletuzumabの治療を、症状なし(CA125値の上昇のみ?)の患者さん28名はFarletuzumab単剤の治療を受けました。後者のうち21名は単剤治療に引き続き抗がん剤との併用治療を受けました。(単剤では効かなかったのかな?)併用投与6回が済んだ患者さんはさらにFarletuzumab単剤で地固めをしました。

併用投与を受けた参加者のうち治療効果の測定ができたのは44名。その89%(39名)は治療終了後CA125が正常値の範囲内に下がったそうです。また21%(9名)の参加者は、Farletuzumabを含む療法後の2度目の寛解期間が1度目の寛解期間と同じか、1度目よりも長いという結果も出ています。これは偶然でないとすれば画期的なのかもしれません。再発癌の場合、2度目の寛解は1度目より、3度目の寛解は2度目より…と癌が大人しくなる期間は回を重ねるほど短くなっていくことが多いからです。2度目、3度目の寛解まで行き着かない人だっているのです。

もう一つ、Farletuzumabを加えたことで効果が高かったと見られているのは6ヶ月以上12ヶ月未満に再発した患者群(12名)です。12ヶ月未満に再発だと一応「白金感受性有り」の部類には入るものの、1年以上経って再発したケースよりは厳しい状況となりがちです。にもかかわらず全員に何らかの効き目(癌の縮小もしくは進行停止)が見られました。

てなわけで、有望視されたFarletuzumabは現在フェーズ3の治験中です。参加者は白金感受性のある再発卵巣がん患者900名。
カーボプラチン+タキソール+Farletuzumab(1.25mg/kg)
カーボプラチン+タキソール+Farletuzumab(2.5mg/kg)
カーボプラチン+タキソール+プラセボ
の3組に分かれて効果の違いを比較しています。6回の治療後はFarletuzumab(またはプラセボ)のみで維持療法を続行。(癌が進行するまでず〜っと続くらしいです。)投与方法は週1回の点滴です。

さて、Farletuzumabの長所のひとつは副作用が軽いことだと言われています。(無いとは言いません。)もちろん予期せぬ重篤な副作用が何時なんどき浮上するかもしれませんが、少なくともフェーズI、II治験では重い有害事象は報告されませんでした。グレード1〜2の比較的マイルドな疲労感、発熱が主な副作用のようです。そのためカーボ+タキソールに付け加えても、2種併用の場合と比べ副作用が重くなるという心配はありません。(希望的観測にすぎませんが。)

Farletuzumabという薬を最初に耳にした時、何かパワーに欠けるな〜という印象を受けました。しかし治験の結果をよく読むと、その控えめで穏やかなキャラに好感が持てるような気もしてきました。血管新生をいじくらないから高血圧とかの心配もないし、ひょっとしたらアバスチンよりいいかも…と少し浮気心を出している今日この頃です。

(まあお値段にもよりますけどね。エーザイさん、安くしといてね♪)
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2011年02月27日

Bで終わる薬

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北米での治験のリストを見ると、…ニブとか…リブとか…マブとか末尾がBの薬のオンパレードです。これらはみな分子標的薬のようです。一攫千金を狙う製薬会社と新薬に興味しんしんの研究者。よくわからないけど希望を託してトライする患者。私は競馬が好きなので、製薬会社が馬主、医師が調教師、薬が馬で患者がジョッキーなどとくだらない想像をして楽しんでいます。フェーズIIIの治験はさしずめGIレースです。ただこのレースのお馬さん達は、途中で立ち止まって動かなくなったり、爆走してジョッキーを振り落としたり、善戦しても古馬にかなわなかったりすることが多く残念です。

ともあれ、治験をしている薬がどんな代物なのか多少情報を仕入れておいて害にはなりません。もし治験に参加する機会があったとしても、全く未知の薬だと不安倍増ですからね。

まずは、アバスチン(Bevacizumab)に続いてフェーズIIIの治験に漕ぎついたCediranibについてです。Cediranibは血管内皮細胞成長因子(VEGF)の受容体を阻害する薬だそうです。VEGFの発現は卵巣がんにしばしば見られ、発現過剰だと予後を厳しくすると言われています。働きとしてはVEGF受容体の阻害を通じて癌の血管新生を抑えるらしいので、アバスチンと少し似てる…かな?

フェーズIIの治験結果は2008年にASCO(米臨床腫瘍学会)で発表されています。対象は再発卵巣がん患者60名、内26名は白金感受性あり、34名は白金感受性なしでした。Cediranib単剤での治療の結果、奏効率は白金感受性ありのグループで41%、なしのグループで29%。成績が良さそうに聞こえますが、ここで言う奏効率は癌の成長を一時的に止めたことを意味するようで、癌の縮小が見られたのは参加者中数名だったようです。無進行期間は4.1ヶ月、全生存期間は11.9ヶ月でした。この数字自体は従来の殺細胞系の抗がん剤と比べて劣りますが、少なくとも恩恵(らしきもの)があったということで、王道のカーボ+タキソールにCediranibを加えたフェーズIIIの治験が実施されています。

フェーズIIIの治験は通称ICON6(諜報機関みたい)。ファーストラインで治療後6ヶ月以上経って再発した白金感受性有りの人、2000名が参加しています。
- カーボ+タキ+プラセボ(6サイクル)
- カーボ+タキ+Cediranib(6サイクル)
- カーボ+タキ+Cediranib(6サイクル)+Cediranibのみで維持療法(60週)
の3組に分かれて効果を比較という割とよくある治験デザインです。

Cediranibは経口で毎日服用する薬です。その点は点滴よりいいなぁと思います。しかし副作用が結構あるみたいで世の中甘くありません。フェーズIIの治験結果によると、よくある副作用は疲労(85%)、下痢(80%)、高血圧(72%)、食欲減少(57%)で、疲労と高血圧はグレードIII以上の重い症状が出た人も2〜3割いました。高血圧については服用後3日以内に急激に血圧上昇が見られるケースが多いので、特に高齢でもともと血圧が高い人は要注意です。

Cediranibは卵巣がん以外にも大腸がん、非小細胞肺がん、脳腫瘍などで治験をしたのですが結果はいまひとつでした。悲しいかな副作用の割りに恩恵が少なめだった模様です。だからと言って、卵巣がんでも失敗すると決めつけるわけにはいかず、こればっかりは試してみないとわかりません。Cediranib号、本命というより穴馬って感じかしら。でも頑張ってほしいです。
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2011年02月16日

非現実的な楽観主義

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治験に参加している癌患者は非現実的な楽観主義(Unrealistic Optimism)に陥っていることが多い、という調査結果が発表されました。ずいぶん野暮な研究をする人もいるものです。

調査対象はフェーズIまたはIIの新薬/試験薬の治験参加者72名で、肺がん、乳がん、白血病などの患者さんが含まれます。リスクの高いフェーズIやIIの治験参加ですから、既存の治療法が効かなかった人が一縷の望みに賭けて、という状況ではないかと推察されます。標準治療で完治/寛解が十分期待される病状なら、そんな治験に参加しないのが普通です。

治験には当然の事ながらインフォームド・コンセントの上で参加します。治験のリスクや恩恵を説明され理解して参加に同意しているのです。にもかかわらず、アンケートの結果によると:

- 60%の参加者は、試験薬が自分に効くだろうと非現実的なほど楽観視している。
- 39%の参加者は、試験薬の有害事象が自分には起こらないだろうと非現実的なほど楽観視している。

のだそうです。現実離れした期待は、治験の内容をよく理解している人の間でも見られました。

調査を行ったのは医学倫理、精神医学、心理学、行動心理学などの学者さん達です。癌患者の非現実的な楽観主義を、いわゆる前向きな姿勢の域を超えた現実逃避の心理的バイアスと分析しています。そして心理的バイアスが判断力を鈍らせインフォームド・コンセントを不十分にしているのでは、と疑問を投げかけています。

こう言っては何ですが、この学者さん達は全然わかってないですよね。治験だけでなく一部の標準治療だって、奏効率は低く副作用は重いことなんて珍しくありません。それが客観的な事実だとしても、その事実にこだわるっていたら進行/転移/再発した癌患者はやってられません。「成功する確率が10%もあるから絶望する必要なんてないわよね〜」と笑っていられる人がどれだけいるでしょうか。効くか効かないかわからない。どんな副作用が起きるかわからない。という状況と知りながら、きっと効く、副作用だって何とかなる、と思って治療に臨むのが普通でしょう。例え非現実的だろうと、その方が精神衛生上いいのです。

その反面、確かに癌治療に対して非現実的な期待を持っている人も存在します。患者自身より周りの人間にそういうタイプが多い気がします。私の友人、知人に「奇跡の薬など存在しない」と何回説明したかわかりません。新しい薬や治療法が報道されると、それを小耳にはさんで深い部分までは考えもせずに「凄い薬があるんだってね〜」と無邪気に喜んでいる人をよく見かけます。どうすれば癌を予防できるか、どうすれば癌を早期発見できるかについても、テレビや雑誌で紹介された内容を額面どおりに受け取りすぎて、実際はそう単純ではないことをわかっていない人が結構多いです。

治験の話に戻りますが、例えば治験のインフォームド・コンセントを取る際に、口頭でリスクについてはサラッと流し、恩恵(の可能性)を中心に説明する医師もいるのではないでしょうか。でもそれは必ずしも患者を騙そうとしているのではなくて、患者を力づけようという善意から…と私は考えたいです。恐らくそういうアプローチの方が患者受けも良いという気がします。非現実的な楽観主義は、癌という厳しい現実に押しつぶされない為に人の心が生んだ防衛メカニズムなのかもしれません。


(引用元はLAタイムス学術誌のアブストラクトです。)
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2011年02月10日

麻薬と薬

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癌が進行するにつれ痛みの管理は深刻な問題になっていくようです。いつものんびり構えていて、まぁ癌も身体の一部だからね〜などと寝ぼけたことを言っている私も、この点について考えるとしょぼ〜んとしてしまいます。まっ今から悩んでも仕方ないんですが。

疼痛緩和の代表的なお薬はオピオイド系の鎮痛薬です。麻薬の取締りが厳しい日本では「医療用麻薬」などと呼ばれ、使用を躊躇する人もいるかもしれません。しかし、医師の監督下で癌の痛み止めとして使うオピオイドで麻薬中毒になることはありません。痛みは我慢せず積極的に緩和処置を受けることをお勧めします。欧米では癌だけでなく、関節炎や線維筋痛症、腰痛などにオピオイド系の鎮痛薬が処方されることも少なくないそうです。ただ、このカテゴリーでは時おり薬物乱用のケースも見られるため、各国で医師向けのガイドラインを作成し、オピオイド薬が必要な患者の絞込みやオピオイド処方後の経過観察の強化など、薬が正しく使われるよう慎重な取扱いを呼びかけています。

で、ここから先は癌とは関係なくなってしまうのですが、オピオイド薬を単に麻薬として使うオピオイド中毒者も残念ながら増加の一歩を辿っています。もちろん欧米での話です。仮病を使ったり、処方箋を改ざんしたり、闇ルートで売人から買ったり…あの手この手でオピオイドを入手しているようです。もっと恐ろしいのは、オピオイド欲しさに薬局に強盗に入る若者がアメリカで続出していることです。(国柄の違うカナダはではさすがに強盗事件は起きていません。)

アメリカの薬局強盗は過去3年間に1800件以上発生しました。州別に比較すると、件数が多いワースト5はフロリダ、インディアナ、カリフォルニア、オハイオ、ワシントン。昨年1年間に最も件数が増加したのはメイン、オクラホマ、オレゴンでした。強盗の目当てはオキシコンチン。銃、鉈、ナイフ、電気ドリルなどの武器を手に襲撃してくるのですから薬局だってたまったものではありません。オキシコンチンの取り扱いを一切止めてしまった薬局もあり、近所の薬局で痛み止めを買えなくなってしまった癌患者はいい迷惑です。

オキシコンチンを販売している製薬会社(Purdue Pharma)は、薬屋さんを対象に強盗防止策や強盗にあった際の心得の講習を開いています。不運にも強盗にあってしまったら逆らわずに言うとおりにするのが一番。防止策としては:

- より高度な防犯カメラを設置する。
- 強盗が飛び乗れないようにカウンターを高くする。
- ショーウィンドウを防弾ガラスにする。
- 客がブザーを押さないとドアが開かないようにする。
- 店内ではフードやサングラスを着用しないよう客に求める。
- 保管庫にタイマー付きロックを取り付け、一度に少量しか出せないようにする。
などが挙げられます。

麻薬としてのオキシコンチンの相場は1ドルで1mg。80mg入りの錠剤なら1錠が80ドル。いいお値段です。そのため強盗に入るのは中毒者本人だけでなく、一儲けしようと目論む売人も含まれるそうです。オピオイド薬は、鎮痛効果は高いですが眠気や便秘といった副作用を伴うので、服用せずにすむなら服用したくない…と考えるのが普通なんですけどね〜。痛みのない人が飲んだ場合にどんな薬効が現れるのか想像もつきません。

最後に「医療用麻薬」の話に戻りますが、実はカナダでは医療目的に大麻を使用することが許されています。「医療用大麻」です。癌、エイズの他、多発性硬化症、脊椎損傷、癲癇などの症状を緩和するのが目的で、これらの疾患を持ち大麻の使用を希望する人は国に申請書を出して許可を貰います。許可が下りたら、自分で大麻を栽培するか(笑)、国から大麻を購入するか(爆笑)のチョイスがあります。国からの大麻購入費用は州の健康保険の適応外ですが、種を買って自分で栽培する場合は、栽培にかかる費用が税金控除の医療費枠に含まれます。カナダって変な国でしょ。
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2011年01月31日

抗がん剤が足りない

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抗がん剤が不足しているそうです。種類が…でなくて供給不足という意味です。アメリカで問題になっているのですが、流通の面でアメリカに依存しているカナダでも同様だと思います。

不足しているのは抗がん剤に限った話ではなく、麻酔薬のプロポフォール、抗凝固薬のヘパリン、鎮痛薬のモルヒネなど臨床で不可欠の薬が多く含まれます。抗がん剤ではシスプラチン、ドキソルビシン、ロイコボリン、エトポシド等が品薄だそうです。不足している薬は押しなべてパテントの切れたジェネリックで、中小の製薬会社が地味に製造・販売しています。しかし製品の質に問題が出たり、もっと利益の上がる製品に切り替えられたりすることが後を絶たず、供給が需要に追いつかない状況が続いています。どれ程深刻な問題かと言うと、米臨床腫瘍学会(ASCO)が麻酔科医協会や薬剤師協会と合同で、昨年11月に『薬不足サミット』を開催したくらいです。仰々しいネーミングが少し笑いを誘いますが、笑い事ではありません。

サミットの目的は、薬不足の問題を法の規制、原材料の調達、市場、流通といった側面から分析し、問題解決に向けた勧告を作成することでした。例を挙げると:

- 製造元が販売を中止する場合は9〜12ヶ月前に国に届出を出すよう義務付ける。
- 特に製造元が唯一の供給ソースである場合は、製造中止だけでなく原材料不足による製造の遅れについても国に届出を出すよう義務付ける。
- 不足を防止するために多少の過剰製造を義務付ける。
- ジェネリック薬の製造を奨励するために税制の優遇処置を検討する。

などの案が出されました。ビジネスの観点から考えると、儲からない製品は作らないという理論は間違っていませんが、こと医薬品となるとそう単純に切り捨てられては困ります。文字通り死活問題ですから。資本主義の自由経済は時として仇になることがあるのですね。

薬不足の影響は臨床現場にも影を落としています。Institute for Safe Medication Practices (ISMP)という団体が、1800名の医療従事者(主に薬剤師さん)対象に行ったアンケート結果を一部紹介します。

- 品不足がいつまで続くのか情報が入ってこない(85%)
- 代わりの薬品が手に入りにくい(80%)
- 患者に有害な結果をもたらすリスクがある(64%)
- 医師の苛立ちが薬剤師やナースに向けられる(55%)←これは可笑しい

さらに、薬不足が端を発して医療ミスが起きそうになったと答えた人が約1/3、実際に医療ミスが起きたと答えた人が約1/4いました。恐ろしいですね。

医療ミスの実例も多数報告されています。抗がん剤にまつわる例を幾つかピックアップしてみました。

- ビンブラスチンが不足していたのでビンクリスチンに変えたら用量を間違えた。
- 点滴用のエトポシドが不足していたので経口エトポシドに変えたら用量を間違えた。
- ロイコボリン不足のためレボロイコボリンで代用し、併せる薬も5−FUからゼローダに変更したら副作用が増加し患者のQOLが落ちた。
- 抗がん剤不足で化学療法の開始が遅れた。寛解の可能性が大きい患者も待たされた。(←薬不足のせいで治る人も治らなくなったという意味。)

用量間違えについては担当者のうっかりミス。注意力不足のような気がしますがそれは日本人の発想。西洋人は「うっかりミスが起きたのは薬不足のせい。だから悪いのは自分じゃなくて薬不足。」などと(屁)理屈をこねるんですよ。もう頭が痛いです。

何にせよ薬不足のあおりで最も不利を蒙るのは患者。早く何とかして欲しいものですが品不足は当分続きそうです。


抗がん剤不足の問題を扱ったその他の記事:@NCI Bulletin、AMedScape
posted by leo at 18:53| Comment(0) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月24日

未知との遭遇

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新薬の治験の目的は治療効果と副作用の両方を調べることです。副作用が軽くても効き目が乏しければ使う意味がありません。逆に薬効が証明されてもあまり重篤な副作用が出るようなら危険性が高すぎます。薬の恩恵とリスクを量りにかけて恩恵の方が大きければ承認されます。どの程度の副作用なら許容範囲に入るのかは治療しようとする病気によって異なるようです。例えば風邪薬だったら副作用はごく僅か、たま〜に起こる程度でなければ問題になると思います。癌の治療薬の場合は他の種類の薬とは比較にならないくらい副作用が大きくても容認されます。何もしなければやがて癌で死んでしまう。それを例え一時的でも食い止めるためにはリスクを受け入れてチャンスに賭ける必要があるのでしょう。

抗がん剤の主な副作用は治験をフェーズ1、2、3と重ねるうちに概ね把握することが可能です。しかし全ての副作用が治験で報告されるとは限りません。稀にしか起こらないが命に係わるような副作用が薬の承認後に浮上することも有り得ます。カナダのトロント大学を中心としたグループが、分子標的薬の重篤な有害事象が「後日」判明する頻度について調査した結果が、先ごろ米臨床腫瘍学会の機関誌「Journal of Clinical Oncology」に掲載されました。

研究対象は12種類の分子標的薬。最新の薬品説明書によると合計76の重篤な副作用が記載されていました。これは生命に危険を及ぼす可能性のある副作用38を含みます。さて、この76の重い副作用の内、薬の承認の決め手となった治験のレポートに報告されていなかったものが30。認可が下りた直後の一番最初の説明書に含まれていなかったの37もありました。

何故こういうことが起こるのでしょうか。理由は製薬会社の策略でも政府の怠慢でもなさそうです。まず癌治療薬の治験はフェーズ3でも比較的規模が小さいこと。乳がんや大腸がんなど欧米で多い癌なら参加者が1000人以上の治験も少なくありませんが、罹患率の低い癌でそれをやるのは無理です。例えば再発卵巣がんで白金感受性を失った人だけを対象に試験薬Aと既存薬Bを比べようとして、それぞれの組に1000人ずつ参加者を集めようとしたら一体何年かかるでしょうか。資金も嵩みますが、信頼できるデータを集めるための条件を満たし、かつ自ら参加を希望する人を多数集めるのは容易ではありません。しかも一方では出来るだけ早急に白黒を判明させて、効果があるようならスピーディに承認して欲しいという患者からの切実な願いもあります。100人のうち50人に現れるような副作用なら治験の規模が小さめでも絶対見逃されませんが、1000人に1人に現れるような副作用だったら見つからないことだってあります。また普通に臨床で用いられるようになれば、治験参加者よりも幅広い病歴、治療歴、全身状況の患者さんが投与を受けます。このことも予期せぬ有害事象の背景と考えられています。

アメリカのFDA(食品医薬品局)では薬の有害反応を報告するシステムがあります。医師からの報告を含みますが、医師以外の人でも匿名で報告できるため、報告された事例の全てに信憑性があるわけではないようです。ともあれ、こうした公のデータ及び製薬会社自体がフォローアップで行う副作用の調査などを通じて、承認時には知られていなかった副作用がポツリポツリと(&コッソリと)薬の説明書に付け加えられていくのが現状です。

問題は(@アメリカ&カナダ)、医師が治療方針を決める際、大抵は治験結果を参考にしており最新の薬品説明書までいちいちチェックしていないこと。(忙しいですしね…)確かにドクターは奏効率や全生存期間、無進行期間などを考慮してどの薬を使うか決定するのが仕事で、もちろん副作用の知識もあるのでしょうが、副作用についての説明はナースさんの役割だったりします。そして縦社会の病院でナースさんはドクターの指示通りに業務を遂行するのが勤め。病院で配布する「化学療法のしおり」的なものの内容は熟知していても、薬品説明書を毎回読んでいるとは思えません。(日本の看護師さんは勤勉だから読んでいるかもしれませんが…)

従来の殺細胞系の抗がん剤は残念ながら不快な副作用が付きものです。が、臨床での歴史が長いのでどんな副作用が出るのか、どうやって対処するのかについても研究済みです。分子標的薬は全体的に副作用が軽めですが、新しいだけに未知の副作用が現れる可能性があるようです。非常に稀な…しかし重篤な。それをあまり警戒しすぎても前に進めませんが、承認されているから絶対安全だと考えるのも甘いような気がします。自衛策としては、製薬会社のホームページを通じて最新の薬品説明書、有害事象の事例などを予習しておき、気がかりな項目については医師に食い下がって質問する…くらいですかね〜。本当に癌の治療にはガッツが必要ですね〜。

(元にさせていただいたのはロイターの記事JCOオンライン版です。)
posted by leo at 19:04| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月15日

励ますつもりが逆効果

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家族や親戚、友人、知人。身近な人が重い病気にかかったと聞いて、何か少しでも自分にできることはないかと考えるのはごく普通の心理です。しかし善意が空回りして、肝心の病人は「気持ちは嬉しいんだけど…」と内心疲れてしまうことも時おり起こります。また心配してくれているとは言え、健康な一般人というのはその病気について大なり小なり誤解していることが少なくありません。意図せず病人をイラっとさせるような発言をしたり行動をとったりすることもあるようです。

Glenn Rockowitzさんはアメリカのコメディアンです。癌と診断され余命3ヶ月と宣告されたのは28歳の時でした。治療の甲斐あって奇跡の回復を遂げるも、その後次から次へと計4つ、原発の異なる癌になり担当医から「君の身体は癌の製造所みたいだ」と評されたそうです。しかし11年後たった現在もRockowitzさんは元気で暮らしています。治療のかたわらに癌との闘いを綴った本を出版したり、「Change It Back」という若年層(15〜39歳)の癌患者をサポートするNPOを立ち上げたり大活躍です。コメディアンならではの、人生のどんな厳しい局面でも笑いを見出す明るさがパワーの源なのかもしれません。

How not to cheer up a cancer patient」は、Rockowitzさんが地元シアトルの新聞に寄せたとても楽しい記事です。意訳すると「癌患者をガクっとさせる励まし方」とでも言いましょうか。ユーモアと皮肉たっぷりに患者の本音を明かしています。やってはいけないことは以下の通りです。

1.ベストセラーの闘病本を贈る
受け取る側にすると、その本ばかり何冊もたまってしまって困る。またどんなに心を動かす内容だったとしても所詮は他人の闘病。癌と診断された当人はショックや不安に押しつぶされそうになりながら、自分の癌について最低限の知識を得るのに必死。他の人の話に感動している精神的余裕は無い。その闘病本の作者が既に亡くなっている場合はさらに問題。本を贈る場合はその点までよ〜くチェックすべし。

2.誰々さんの癌が治ったという話
妹の友達のお母さんが20年前に癌になったが完治した…という類の話を延々と聞かされるとうんざりする。その方が完治されたのは素晴らしいことだが、癌の部位もステージも、治療法だって違うのに自分に当てはめて考えろと期待されても困る。その手の話をするなとは言わないが、こちらの話にも耳を傾け状況の違いを理解すべし。

3.メールとネット情報
患者の力になろうとしてネットで集めた癌の情報をメールしてくる人が多い。しかしネットの情報は玉石混合であることを考慮に入れていない。代替療法を否定するつもりはさらさらないが、パンダの爪を煎じて飲んで膵臓がんが治った人には未だ会ったことがない。癌の治療は時間との闘いでもあり、風変わりな療法を2ヶ月試してみる暇がないこともわかってほしい。

4.正直になれ
誰かが癌になったと聞いて何と言葉をかけてよいかわからない…と感じるのは当たり前の反応。取って着けたような励ましの言葉をかけたり、知ったかぶりの知識で癌についてああだのこうだの語るのは止めた方がいい。癌患者は正直な会話の方を好む。「何もわからないし上手い言葉も見つからないけど心配してるよ。自分に出来ることがあったら何でも言ってくれ。」くらいが適当。癌については何も知らないと素直に認めるだけでも感心する。

5.涙はほどほどに
自分の愛する人間が苦しむのを見るのはとても辛いことだ。自分も父親を看取った経験がありよくわかる。しかし…涙は本当に事態が深刻になった時まで取っておいて欲しい。患者にとって自らの死と向き合うのはかなりのストレス。その上さらに家族や恋人の精神状態まで気遣わなければならないのは荷が重過ぎる。誰かの肩で何時間も泣きたい場合は相応しい相手を見つけるべき。患者本人に慰め役をさせるべからず。

6.面会マナー
こんなことは誰でも知っていると思いきや首を傾げるような人も意外と多い。まず入院している患者は身体的に心地よい状態ではないことを忘れないように。5時間に及ぶ腎臓の手術後、麻酔から覚め最初に目に入ったのは、ベッドの足元に腰掛けてスタバのパンプキンスパイスラッテを片手にくつろいでいる家族の姿だった。おいおい、こっちは48時間も絶食状態なんだぞ。少しは時と場合を考えてくれ。手術から日の浅い頃ケンタッキーフライドチキンを手土産に見舞いに来た友人もいた。一体どういうつもりなんだろう。

7.カンパと礼状
癌治療のために病気休暇をとった時、ありがたいことに職場の仲間がカンパしてくれた。ところが回復して仕事に復帰したら「いや〜あの時のカンパ、税金控除の対象にもならなかったよ」と言った奴がいる。癌患者への寄付、カンパと一般的な投資や貯蓄プランを一緒にしないで欲しい。患者が元気になることが利益に相当しているのがわからないのか。それから闘病中に世話になった人に礼状を送らないとヒンシュクを買うのではと心配している患者もいる。本来親切とは見返りを期待しないもの。礼状が来ないと相手が感謝していないと考えるのは間違ってないか?

8.実際にあった失言集
「もっとリラックスしろ。」
「もっと身体に気をつけていればよかったのに。」
「どうして兆候に気づかなかったの?」
「これを機会に生き方を変えろ。」

…何か落ち度があったから癌になった…とでも…?こんなこと言われたらムッとしますよね。
悪気は全くなくても、ちょっとした言動で患者がイラついたり傷ついたりすることはあります。日本は欧米に比べると無神経な人が少なく周囲の人も精一杯気を使っているのだとは思いますが、患者にとって本当にプラスとなる励まし方をするのは結構難しそうです。
posted by leo at 17:49| Comment(0) | 日々の生活 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年01月05日

彷徨える癌細胞

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新しい年、新しい技術、と縁起を担いでいるのかどうかは定かでありませんが、ニュータイプの癌の血液検査が話題を呼んでいます。血液中のCirculating Tumor Cell (CTC)を調べる検査だそうです。CTCは直訳すると「循環する腫瘍細胞」、つまり大元の腫瘍から剥がれ落ちて血液に乗り身体中を旅して回る逸れ癌細胞のことです。ふらふら彷徨いながら気が向くと癌の種をまきちらして転移を引き起こしかねないトラブルメーカーと考えられています。

CTC検査は全く新しい技術という訳ではありません。アメリカでは2004年にFDA(食品医薬品局)から承認されています。CTCの研究も以前から行われており、昨年12月にテキサス州サンアントニオで開かれた乳がんシンポジウムでは、CTCの数値と転移性乳がんの予後に関する臨床試験の結果が発表されました。参加者(267名)の2/3は化学療法前のCTCの数値が1以上。44%は5以上でした。2年以内に癌が進行したのは5以上の人→95%、5未満の人→70%だったそうです。さらに抗がん剤を1回やった後のCTC値が5以上の人の内、過半数は2年以内に亡くなられたのに対し、5以下の人の90%以上は2年後も生存されていました。また、早期乳がん患者(2000名)を対象にした別の調査では、3年間の再発率がCTC値が1以上の人→85%、ゼロの人→5%と大きな違いが出ており、血液中のCTCの存在と予後との間には関係がありそうです。

ところで、CTCの数値は採血したサンプル中で見つかった逸れ癌細胞の数を意味します。50〜100億個の血液細胞に紛れ込んだ数個の癌細胞をキャッチする技術なんてちょっと想像がつきません。そして今回騒がれているのは、大手製薬会社ジョンソンエンドジョンソン(正確には系列会社のVeridexとOrtho Biotech)とマサチューセッツ総合病院の研究所が手を結び、既存のCTC検査をより高度にしたプレミアムバージョンの開発に着手したからです。CTCの有無や何個あるかを調べるのに加え、個々のCTCを遺伝子レベルで解析して癌治療のテーラーメイド化を進めようという試み。マサチューセッツ総合病院は既に基になるマイクロチップ技術を持っているそうですが、それを早く手軽に低コストで行えるよう改良するには、製品開発に慣れた企業の参入が不可欠なのかもしれません。開発には少なくとも5年かかる見込みです。実用化されれば、癌の動向を察知する新たな手段となるばかりか、現在は組織検査をしなければ判らない腫瘍の詳しい情報を血液検査から得られ、患者にとって負担が少なくなることを期待されています。印象としては、腫瘍マーカーと感受性試験の一石二鳥を狙っているのかな〜という感じですが、さてどうなることやら。腫瘍マーカーと違い、CTC検査は全ての固形癌に用いることができるという利点が有り製薬会社からしたら投資の価値十分でしょう。

メディアはあたかも夢のテクノロジーであるかの如く報じていましたが、アメリカの癌協会は「この検査が臨床上、癌の治療にどんな影響を与えるのか、まだまだ研究が必要です」と冷めたコメントを出しています。確かに現実問題として考えると、患者の一喜一憂の種を増すだけに終わる可能性だってあるのです。それに例えば検査の結果CTCが沢山見つかってしまったとします。すると予後が思わしくない、というのが単なる医師の見立てではなく科学的な数字として突きつけられる形になります。で、どうしろって言うんでしょうね。「じゃあ後は旅行したり猫と遊んだり好きな事して過ごしま〜す。無駄な治療で残り少ない人生のQOLを下げなくて良かった〜!」などというふざけた反応をするのは私のような変わり者だけで、まともな人は「先生、どうにかして下さい!」と食い下がるんじゃないかしら…?

それとテーラーメードの癌治療って言うのも何だか言葉だけ一人歩きしている感があります。テーラーメードにほんの僅かでも近いのは、乳がんのホルモン療法、ハーセプチン、非小細胞肺がんのタルセバとか… 卵巣がんには関係ないじゃん。私たちは皆一緒に古臭い殺細胞系の抗がん剤を使って、それも白金系が効かなくなったら後はどれを試しても申し訳程度にしか効果が出なくなってしまうのが現実。限られた選択肢しかないのです。アバスチンの先行きもはっきりせず、どういう人に効果が高いかも判っていない。他にも分子標的薬の治験は盛んに行われているけれど、今のところ薬効はボチボチでスター不在。検査技術だけ向上しても、それに釣り合う治療技術がなかったらあまり意味ないような気もするんだけど… な〜んて年明け早々ブツブツ言ってるのはへそ曲がりの証拠ですね。
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2010年12月30日

外野の意見

病気らしい病気をしたことのない人生から一転して、口にしただけで周囲がドン引きする病気持ちになって2年半以上経ちましたが、今年も無事に楽しいクリスマスを過ごすことができました。お腹も痛まず食欲も有りお通じも快調。ありがたいことです。しかし私より数倍進行した癌でありながら3年、4年と元気な方も沢山いらっしゃるので、この程度は普通なのかもしれません。よく考えてみると、5年生存率などの統計には歳を取られてから癌になった人も多く含まれているので、比較的若くて体力のある人はその分数字に上乗せしていいような気もします。少なくともその位脳天気な方が毎日をエンジョイできるのではないでしょうか。

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ところで9月24日の「アバスチンと乳がん」という投稿の中で、アメリカに於けるアバスチンの乳がんへの適応認可に係わる問題を取り上げました。皆様ご存知と思いますが、FDA(米国食品医薬品局)は12月16日に認可の取り消しを発表しました。う〜ん、やっぱり中間選挙が終わるまで待ってたのかな〜と勘ぐっている私です。この決定の影響を直接受け、言いたい事が山積みなのはアメリカの乳がん患者さんとその家族だと思います。が、今日は当事者の意見ではなく、ニューヨークタイムス紙に寄せられたコメントを通じて一般社会の反応を紹介させていただきます。何しろ一度癌になると、癌になったことのないラッキーな人達の感覚を忘れがちですからね。

ニューヨークタイムスの記事自体はアバスチン認可取り消しの背景を実に淡々と伝えています。全生存期間の延長が治験で示されなかったこと。患者の間ではFDAの決定に対して賛否両論があること。未承認でもオフレーベル(適応外)で乳がんへの使用を継続できるが、保険会社が支払いに応じるかはわからないこと。オバマ大統領のヘルスケア改革に反対する保守右派が、この件を政治的に利用しようとしていること。製薬会社(ロシュ/ジェネンテック)は、認可取り消しで5〜10億ドルの減収が見込まれ既に人員整理に着手していること。(早っ!)等、様々な側面から客観的に論じています。

興味深いのは、時期を同じくしてヨーロッパのEMA(EU内での薬の販売認可を審査する機関)が、アバスチンの転移性乳がんに対する使用はパクリタキセルとの併用に限り可という決定をしたことです。同じ治験データに基づいています。つまりFDAは「無進行期間(PFS)は3ヶ月延びたが全生存期間(OS)は変わらずQOLも向上しなかった→NG」と判断したのに対し、EMAは「OSを縮めたりQOLを低下することなくPFSを3ヶ月延ばした→OK」と解釈したようなのです。物の見方というのは医学の分野でもこんなに正反対になるのですね。尚、EMAは欧州での販売認可を下すだけで、保険の適応になるかどうかは各国が独自に検討します。従って承認イコール保険でカバーではありません。

以下、上記の新聞記事(オンライン版)に対するアメリカ人のコメントです。

BD(サンディエゴ):ヨーロッパは承認して癌患者は使いたがっている…FDAは何故流れに逆らうのか?患者、医師、保険会社に決めさせよう。

yoandel(ボストン):誤解があるようだが…保険の適応か否かを決めるのは個々の保険会社でFDAではない。オフレーベル薬でもカバーする保険は沢山あるし、FDAが承認したから保険を適応しなければならない訳でもない。

Erin(ワシントンD.C.):アバスチンが迅速承認されたのは確か癌の進行を5ヶ月以上遅らせたという治験データがあったから。認可が取り消されたのは無進行期間の延長は1〜3ヶ月という結果がでたから。まるで3ヶ月は意味が無いけど5ヶ月なら価値があると言わんばかり。FDAは、効き目が全く無かったり身体に大きな害のある薬を取り締まることを仕事にすべき。政府や医師は、患者が知識を増して自ら選択できるよう手助けして欲しい。

Dan A.(ヴァージニア):たった数ヶ月の延命(しかも副作用あり)のための費用を社会が負担するのは正当化できないように思う。最後の手段として何かしたいのなら代替療法で免疫強化を狙ったり食事療法でもしたらどうだろうか。

Xyz(カリフォルニア):FDAの決定を支持している人は冷徹すぎる。末期の癌患者にどの薬は試せてどの薬は試せないなんて誰が言えるのか?思いやりに欠けていてぎょっとする。それに選択の自由はどうなるのか。末期の癌患者ならことさら必要な筈。

MusaMayer(ニューヨーク):感情に流されている人は、進行癌の治療薬に規制が無くなったらどんなことが起きるか考えていない。製薬会社が費用のかさむフェーズ3の治験をするのはFDAが薬効と安全性の証明を義務付けているからこそ。でなければ、小規模なフェーズ1の治験で数人に効いただけで販売に踏み切る。そうなったら医師と患者が治療方針を決めようにも基にするエビデンスがなくなってしまう。

そして読者からの賛同票を最も集めたのは次のコメントです。アバスチンに対してと言うより、進行癌の治療の在り方全体に疑問を投げかける内容です。

Clotdoc(アトランタ):認可されている抗がん剤の多くは治験でほんの僅かの効果しか示していない。生存期間を3ヶ月延長できればFDAの承認が下る。予後の難しい癌の化学療法は、通常無駄に終わることが予測されていながら患者に希望を与えるために行われている。こうした努力が医療費高騰の一因となっているようだ。

厳しい指摘ですよね。皆が皆そうではありませんが、やはり西洋ではドライで合理的な考え方をする人の割合が高いような気がします。ちなみに上記のコメントに対しては、熱意を込めて反論されている方もいました。

vonbek9(カリフォルニア):末期の病にとって3ヶ月の延命は一生のようなものだ。確かに無駄と嘲笑されるような療法も沢山ある。しかし医師と患者にとって一番の武器は理性と知識に基づいた希望ではないだろうか。成功する確率が低くても患者が絶望より希望を選んでいけないという事はない。

oncology(ミズーリ):3ヶ月の生存期間延長というのは全員が3ヶ月長く生きたことを意味しているのではない。ほとんど延命効果がなかった人もいれば、3ヶ月よりずっと長く生き延びた人もいるということなのだ。

色々な意見がありますね。病気になっても社会のお荷物にはなりたくありません。その一方、こっちは好き好んで癌になったわけではないのに厄介者であるかのように言われるとさすがにムッとします。本題のアバスチンについては、特に乳がんの場合、大部分の患者さんには効き目がいまいちらしく残念です。しかし少数ながら大ヒットして進行が何年も止まるケースもあるので、どういう人に効果が上がるのかを特定できれば米国での再承認もあり得るそうです。

それでは良い年をお迎え下さい。
posted by leo at 19:09| Comment(2) | 抗がん剤(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月21日

癌と糖尿病(後編)

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肩を並べるように現代人を蝕む癌と糖尿病。もちろん全く性質の異なる病気ですが、果たして無関係なのでしょうか?それを探るために開かれたコンファレンスのレポートを、素人の私がわかる範囲で紹介しようという無謀な試みの続編です。

(注:以下の文中の糖尿病は2型糖尿病を指します。)

3.癌と糖尿病の生物学的リンク

この点に関してはかなり盛り沢山の研究発表があったようですが…文系の私は3回読み直してもちんぷんかんぷんでした。うっすらと理解できたのは、2つの病気の間に生物学的な結びつきがあるとしたら最も怪しいのはインスリンだということです。比較的軽度の糖尿病と予備軍ではインスリンに対する感受性を失いインスリン抵抗性となるケースが多いそうです。インスリンを分泌しているのに反応がないので変だな〜と思った膵臓は、ますますインスリンを分泌してインスリン過多(高インスリン血症)になります。糖尿病の人が全員そうだというのではありませんが、肥満で糖尿気味という人によく見られる傾向です。

で、インスリンの主な役割というと血糖値のコントロール。「糖尿病→血糖値が高い→癌は糖分が好き」という図式なのかと思いきや、実際はそれ程単純ではないようです。なぜなら癌細胞の代謝は嫌気的解糖が中心、つまりインスリンに依存しない形で糖をエネルギーに変えられるからです。発がんとの関係でより疑いが濃いのはインスリンの細胞分裂への影響です。インスリン及び同じ系列のインスリン様成長因子は、細胞分裂における有糸分裂というプロセスを誘発します。そして、これらインスリン関連受容体の発現が癌に見られることも珍しくないらしいのです。よって正常よりインスリンが多い状態は癌の成長にとって好ましいのかもしれません。

と言っても、この辺りのメカニズムは未だ研究途上で、例えば乳がんの予後をインスリン/インスリン様成長因子受容体の発現有無で比較した研究では、インスリン受容体の有る方が遠隔転移しにくいという結果としやすいという結果と両方出ています。血清中のインスリンレベルと組織のインスリン受容体レベルとは比例するのか?インスリン抵抗性が、インスリンの血糖調節とあまり関係ない臓器(乳房、大腸、前立腺など)にも及ぶのか?他、今後の研究課題は山積みのようですが、インスリン/インスリン様成長因子受容体をターゲットにした薬の開発も進んでいることから、インスリンと癌とは無関係ではないように思えます。

4.癌と糖尿病治療薬との関係

メトホルミン(Metformin)は欧米で糖尿病の治療によく使用されるお薬です。インスリン抵抗性の人に処方され、インスリンやブドウ糖が筋肉などに取り込まれやすくする作用があります。この薬がどういうわけか癌の成長も抑制する…かもしれないと考えられています。試験管では癌細胞の増殖を抑える効果が確認されており、マウスを用いた実験では特に高カロリーのエサを与えられたマウスの間で効き目が顕著でした。このことからメタボでもインスリン過多でもない人には効果が薄いのではないかという意見もあります。幾つかの疫学調査では、糖尿病でメトホルミンを服用している人は、他の薬物治療を受けている人より癌になるリスクや癌で亡くなるリスクが低いという結果が出たそうです。しかし全ての癌ひっくるめのデータなので個々の癌に対する効果の有無については不明です。

さて2型糖尿病も病気が進むにつれ、膵臓のインスリンを分泌する細胞がパンクしてインスリン不足状態になります。従ってインスリン注射が必要になるのですが、インスリン注射にも色々な種類があるそうです。その内の持続型と呼ばれるインスリンアナログ製剤グラルギン(Glargine)が発がんリスクを増加させると懸念する声があります。他のタイプのインスリン注射に比べ、グラルギンを使っていた人は癌になる割合が高いという統計が複数発表されたことによります。この疫学調査結果は賛否両論で、学者さんたちが学術誌を舞台にネチネチやりあったらしいですが結論はでていません。グラルギンとNPHインスリン(中間型ヒトインスリン製剤)の使用者を直接比較した臨床試験では、癌の罹患率に違いは見られませんでした。ただ参加者の中で癌になられた人の数が少なくエビデンスとしては弱いので、分母を大きくした別の臨床試験(グラルギンvsプラセボ)が行われている最中です。

インスリンアナログ製剤はヒトインスリン製剤よりもインスリン様成長因子1(IGF-1)の受容体と結合しやすい→IGF-1は細胞成長と特に深いつながりがある→発がんを促進?と分析されていますが仮説の段階です。その他にも、自然な状態で体内のインスリン量が上下するのと注射で大量のインスリンが流れ込むのでは違いがある点や、持続型インスリンは高濃度のインスリンが長時間体内に留まるようできている点などが係わっている可能性もあります。その反面、インスリン療法を受けている人は2型糖尿病歴の長い人が多く、糖尿病以外の疾患を併発しているケースも少なくありません。またインスリン注射を始める前に何年もインスリン抵抗性で高インスリン血症だったことも有り得ます。これらの条件を考慮すると一足飛びにインスリン療法を危険視するのはフライングのようです。

アメリカの癌協会(American Cancer Society)と糖尿病協会(American Diabetes Association)の共同開催によるコンファレンス。癌と糖尿病の相互関係について、既に研究されたことを整理することで今後の課題を明確にしたのが一番の収穫だったようです。まどろっこしい印象も受けますが正しいアプローチなのだと思います。自分の考え方に合った2〜3つの研究結果や仮説だけ拾い出し、あたかもそれが全てであるかのように主張するのは科学的ではありません。自分や家族が糖尿病でかつ癌になってしまった方のご苦労、、癌になっていないけれど家系的になりやすい方のご心配、お察しします。糖尿病とてしっかり治療しなければ命にかかわる病気。自分なりに知識をつけた上、疑問点や迷っている点は担当医とよく相談して最善の選択をして下さい。
posted by leo at 17:53| Comment(0) | 海外がん情報(一般) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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